BMC SLR01BMC SLR01 歴史に残る激闘の末、2011年のツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを獲得したのは、BMCレーシングのカデル・エヴァンスだった。ツール史上最年長の34歳、南半球出身選手として初のツール個人総合優勝者となったエヴァンスを支えたのが、IMPECと双璧をなすBMCのもうひとつのフラッグシップモデル・SLR01だった。

BMCレーシングにはSLR01とともにIMPECも供給されており、選手たちはステージや好みに応じて両者を使い分けていた。例えば、石畳の悪路を走るパリ‐ルーベでは、SLR01が投入され、ツール・ド・フランスではIMPECを選ぶ選手もいた。

しかしエヴァンスは2011年のツール・ド・フランスにおいて、TTステージを除くすべてのステージでSLR01を駆った。そのことがこのバイクがレーシングバイクに求められる軽さ、剛性の高さ、快適性といった性能をバランスよく高次元で兼ね備えていることの証明といえるだろう。

2012年モデルのSLR01は、フレームセットと完成車を販売。フレームセットは、Di2専用(カラー:レッド)と、非Di2仕様(カラー:ホワイト)がある。完成車のメインコンポーネントには、スラム・レッド仕様とアルテグラDi2仕様があり、フレームカラーはスラムレッド仕様がブルー、アルテグラDi2仕様がチームレッドとなる。Di2モデルのフレームは、ケーブルハンガーを持たないDi2専用仕様となる。

次にSLR01に採用されているテクノロジーを見ていこう。

TCCとiSCでパヴェを走る選手が求める快適性を実現

SLRとIMPECの大きな違いは、TCCテクノロジーを採用しているか否かにある。

TCCテクノロジーとは、シートステー、シートポスト、フロントフォークのそれぞれ後ろ側に振動吸収性に優れたマルチディレクショナルカーボンを配置し、その他の部分に剛性に優れたユニディレクショナルカーボンを配することで、軽さと剛性、振動吸収性を高いレベルで両立しようというもの。シートステー、シートポスト、フロントフォークが適度にしなることで、荒れた路面での快適性を高めている。

フロントフォークはショルダー付近が太く、ブレードの中ほどからエンド付近にかけて前後の幅が細くなっている。フォークが細くなっている部分の後ろ側には振動吸収性の高いカーボンを用いるTCCテクノロジーが採用されているフロントフォークはショルダー付近が太く、ブレードの中ほどからエンド付近にかけて前後の幅が細くなっている。フォークが細くなっている部分の後ろ側には振動吸収性の高いカーボンを用いるTCCテクノロジーが採用されている シートステーはかなり細身で、縦方向につぶす扁平加工が施されている。振動吸収性に優れたカーボンを用いるTCCテクノロジーを採用し、荒れた路面での快適性を高めているシートステーはかなり細身で、縦方向につぶす扁平加工が施されている。振動吸収性に優れたカーボンを用いるTCCテクノロジーを採用し、荒れた路面での快適性を高めている シートチューブ回りにはBMCの象徴とも言えるiSCを採用。トップチューブとの接合部とシートステートの接合部を意図的にずらすことで、衝撃を分散させ、乗り心地を向上させるシートチューブ回りにはBMCの象徴とも言えるiSCを採用。トップチューブとの接合部とシートステートの接合部を意図的にずらすことで、衝撃を分散させ、乗り心地を向上させる

もうひとつ、快適性向上に貢献しているのが、iSCだ。これはインテグレーテッド・スケルトン・コンセプトの頭文字から来ており、コンピューターシミュレーションによって軽さと剛性の高さ、快適性を高い次元で兼ね備えたフレームを設計するテクノロジー。その象徴がシートチューブ回りで、トップチューブとシートチューブの接合部にかかる衝撃を分散し、快適性を高めることに貢献している。

実はこれらのテクノロジーによってもたらされる快適性こそ、BMCレーシングチームが「北の地獄」と呼ばれる石畳の過酷なパリ‐ルーベでSLR01を選んだ理由に他ならない。

トップチューブ〜ヘッドチューブ〜ダウンチューブ〜BBに至る各チューブは、接合部も左右の面が滑らかにつながっている。剛性を高めるための工夫だトップチューブ〜ヘッドチューブ〜ダウンチューブ〜BBに至る各チューブは、接合部も左右の面が滑らかにつながっている。剛性を高めるための工夫だ

随所に見られるレーシングマシンとしての素性の良さ

フロントフォークはテーパードコラムを採用。コラム径は上1-1/8インチ、下1-1/4インチとなっているフロントフォークはテーパードコラムを採用。コラム径は上1-1/8インチ、下1-1/4インチとなっている カーボンフレーム全盛の今、レースバイクにも軽さ、剛性の高さに加えて快適性の高さもうたうものが増えてきた。フレームをしならせ、衝撃吸収をすることで、快適性が高まっても、それが行きすぎると駆動効率の悪いバイクになってしまう。快適性と駆動効率の高さは相容れない部分もあるが、SLR01はそのあたりのチューニングも絶妙だ。

たとえば、駆動効率を左右するチェーンステーは縦方向に太く、長さも短めになっている。さらにヘッドチューブからダウンチューブ、BB回りにかけては、ボリュームを持たせたたくましい外観から想像されるように、剛性がしっかり保たれている。

特にBB回りはダウンチューブ、シートチューブとの接合部をBB幅いっぱいまで拡大し、いわゆるプレスフィットBBと呼ばれるBB86を採用することで、最大限に剛性を保ちつつ、軽量化にも成功している。重量面ではIMPECより軽く、切れ味鋭い加速と上りの切れ味がSLR01の最大の武器だ。

さらにフロントフォークはコラム径が上下で異なるテーパードタイプになっている点にも注目したい。ヘッド回りの剛性を高めることで、SLR01は正確かつ安定したハンドリングだけでなく、スプリント時やハードブレーキング時の安定感も実現している。

このことからも分かるように、SLR01はあくまでレースマシーンである。軽さを生かした切れ味鋭い走りこそこのバイクの本当のキャラクターなのであって、快適性はツールのような長いステージレースやパリ‐ルーベのような荒れたパヴェ(石畳)を走るレースで、ライダーへのダメージを最小限にとどめ、最高のパフォーマンスを発揮させるためのものにすぎない。

BB規格はプレスフィット方式といわれるBB86 。ベアリングをフレームに直接はめ込むことで、BBシェル幅を拡大し剛性を高める。クランクシャフト径は24mmに対応。シマノの純正クランク等多くのメーカーのクランクを使えるだけでなく、その良さを最大限に引き出せるBB規格はプレスフィット方式といわれるBB86 。ベアリングをフレームに直接はめ込むことで、BBシェル幅を拡大し剛性を高める。クランクシャフト径は24mmに対応。シマノの純正クランク等多くのメーカーのクランクを使えるだけでなく、その良さを最大限に引き出せる 細身のシートステーに対し、チェーンステーは横方向をつぶした縦長の扁平形状。駆動ロスを最小限に抑える細身のシートステーに対し、チェーンステーは横方向をつぶした縦長の扁平形状。駆動ロスを最小限に抑える
シートポストはカーボン製の専用品。快適性を高めるTCCテクノロジーが後ろ側のくぼみになっている部分に採用され、シートポストが後ろ側にだけしなるようになっている。オフセットは標準で15mmだが、0mmと30mmもオプションで用意されるシートポストはカーボン製の専用品。快適性を高めるTCCテクノロジーが後ろ側のくぼみになっている部分に採用され、シートポストが後ろ側にだけしなるようになっている。オフセットは標準で15mmだが、0mmと30mmもオプションで用意される


BMC SLR01

スペック

BMC SLR01BMC SLR01
フレームiSCフルカーボン+TCC+カーボンドロップアウト+BB86
フォークSLRオリジナル TCCフルカーボン
メインコンポシマノ・アルテグラDi2、スラム・レッドから選択可能
カラー完成車:チームレッド(シマノ・アルテグラDi2仕様)、ブルー(スラム・レッド仕様)
フレームセット:チームレッド(Di2専用)、ホワイト(非Di2 メカニカル仕様)
価格完成車:525,000円(シマノ・アルテグラDi2仕様、スラム・レッド仕様)
フレームセット:357,000円(Di2専用、非Di2 メカニカル仕様)
※写真の仕様は国内仕様とは異なります


インプレッション

「ダンシングが軽快で、上りが楽しくなるバイク」 岩島啓太

CW:フレームの第一印象はいかがでしたか?

岩島:上りでダンシングをしたときに軽快だったのがすごく印象的でしたね。登っていて楽しくなりますね。上りでダンシングを多用する人なら特にその恩恵を受けられるのではないでしょうか。
それでいてハンドリングは自然な感じ。持ち前の軽さもあって細かなコーナーの切り返しがしやすかったですね。フォークのオフセットがちょうどいいのと、ジオメトリーが煮詰められていると感じました。

SLR01のダンシングでの上りは軽快そのもの。上りが楽しくなる(岩島)SLR01のダンシングでの上りは軽快そのもの。上りが楽しくなる(岩島) 三宅:僕も同感です。走りが軽くて、すごくスムーズに進むと感じました。ペダリングまで軽くなったようでした。特に上りの走りと中速域から高速域でのバネ感のある加速が痛快でしたね。でも、軽量バイクにありがちな芯がないような頼りなさはみじんも感じませんでした。

CW:お二人とも軽快な走りが印象に残ったようですが、どのあたりがポイントなのでしょうか?

岩島:重量が軽いというのは大きいでしょうね。フレームも軽いですが、今回の試乗車に関して言うならメインコンポに軽さに定評のあるスラム・レッドを採用しているのがポイントだと思います。重量を量ったわけではないですが、おそらく6kg台前半にまとめているはずです。軽量なカーボンホイールを履いたら、もっと軽くできますね。

三宅:パーツアッセンブルも気が利いていますよね。ブレーキに関しては、レッドのキャリパーではなく、サードパーティー製の軽量キャリパーを使っていますが、ここは純正品の方がよかったような気がします。軽量バイクとして、ヒルクライム中心に考えるならこのアッセンブルでよいと思うのですが、体重がある人や絶対的なストッピングパワーを求める人にはちょっと不満が残ると思うんですよね。ただ、効きやコントロール性自体は良いのでまったく問題はありません。

CW:BMCレーシングの選手たちは、パリ‐ルーベではIMPECではなくSLR01を投入しています。快適性が高いのもこのバイクの特徴のようですが、いかがでしたか?

岩島:レースバイクにしては乗り心地はいい方だと思いますね。シートステーが適度にしなるためか、路面追従性が高く、舗装が荒れたでこぼこの路面でも身体にやさしいとかんじました。でも、決して柔らかすぎるということではなく、剛性はしっかりと出ていますし、下位モデルと比べて格段に振動吸収性が高いわけでもありません。

三宅:レーシングバイクとしての剛性感はあるのですが、必要以上の硬さを感じさせないという点で乗り味は非常に洗練されていると思います。路面の荒れた場所では特に良さが感じられました。

「しっかり芯の感じられる軽量レースバイク」 三宅和真

CW:IMPECやほかのモデルと比べて違いは感じられましたか?

岩島:RM01は剛性感が高く、シッティングで乗るとすごくよかったのに対し、SLR01はダンシングが軽快でした。IMPECはさらに剛性が高く、よりレーシーな味付けだと感じました。どれがよいかは好みでしょうね。

CW:ショップスタッフとしての目線で気になったポイントは?

三宅:最上級コンポのひとつであるスラム・レッド仕様でこの価格なので、かなり割安感がありますね。アッセンブルされているパーツもレースでそのまま使えるハイスペックなものばかりなので、決戦用バイクとしてかなりおすすめできます。

フラッグシップにふさわしい洗練された乗り味が印象的だった(三宅)フラッグシップにふさわしい洗練された乗り味が印象的だった(三宅)
岩島:シートポストが通常のクランプ締めタイプに変更され、誰でも簡単にサドル高の調整ができるようになったのは歓迎ですね。IMPECで採用されているBB30ではなく、シマノ純正クランクが使えるBB86のプレスフィットBBなのも、おすすめできるポイントです。完成車にはスラム・レッド仕様とシマノ・アルテグラDi2仕様がありますが、変速性能の高さを重視するならアルテグラDi2仕様がいいと思います。

CW:おすすめの用途は?

岩島:軽くてレースバイクにしては振動吸収性も高いので、上りの多いロードレースにぴったりですね。実業団レースで言えば、輪島とか石川のようなコースに向いていると思います。もちろんヒルクライムも守備範囲です。

三宅:守備範囲が非常に広いバイクだと思います。ツール・ド・おきなわ市民140kmや210kmのようなロードレース、エンデューロレース、ヒルクライムまでカバーします。脚がある人ならロングライドもこのバイクで行けますね。
編集:シクロワイアード 提供:フタバ商店