テクノロジーを結集したTTバイクの神髄

リドレー DEANリドレー DEAN ここ数年、各メーカーで熾烈な開発競争が繰り広げられるTTバイク。マスドロードに比べると需要は低く、開発コストを考えると採算は取りがたい。それでも各社が意欲的な製品を展開するのは、自社の開発力の高さを示すアイコンであるからにほかならない。

そんなTTバイクシーンにおいて存在感を示しているのが「ディーン」だ。エアロロードのノアと同じく09年モデルで登場したこのバイクは、ノアとの技術共用により究極のエアロダイナミクスが追求される。

その柱となっているのは、オーバルコンセプト社と共同で開発される「R-Flowジェットフォイル」テクノロジー。今やリドレーの代名詞の1つでもあるエアロダイナミクス技術だ。フロントフォークとシートステーにスリットを設けることで、ホイール付近で起こる空気の乱流を抑え、約7.5%の空気抵抗削減を実現している。

そしてもう1つが「R-Surface」と呼ばれる加工。ヘッドチューブ、シートチューブ、ダウンチューブに表面を粒子状にした細いテープ状の加工を施すことで空気の流れが整流され、空気抵抗が約4%抑えられている。

もちろんエアロダイナミクスの追求はこれだけにとどまらず、その圧倒的なフォルムを見ても分かるが、フレーム形状の各部に工夫を凝らすことで高いレベルを実現している。フレーム形状のポイントを挙げればきりがないほど凝った作りだが、ディーンにおいて最も象徴的なのは、やはりフロントまわりだ。

ヘッドチューブ先端は新幹線のように尖った形状で空気を切り裂く。フォーククラウン部とのつながりも意識されたデザインだヘッドチューブ先端は新幹線のように尖った形状で空気を切り裂く。フォーククラウン部とのつながりも意識されたデザインだ リドレーの象徴の1つともいえる「R-Flowジェットフォイル」テクノロジー。圧倒的な幅のフォークブレードも注目だリドレーの象徴の1つともいえる「R-Flowジェットフォイル」テクノロジー。圧倒的な幅のフォークブレードも注目だ センタープル構造のブレーキは、フォーククラウンの後ろ側に装備される。空気抵抗を削減するための仕様だセンタープル構造のブレーキは、フォーククラウンの後ろ側に装備される。空気抵抗を削減するための仕様だ

「R-Flowジェットフォイル」テクノロジーを搭載するフォークは、圧倒的な幅を持った翼断面形状に仕上げられる。全長を短く設計したヘッドチューブは、空気を切り裂くように先端部分を鋭角に仕上げ、さらにフォークと一体化するようデザインされる。

そして、極めつけは逆付けされるセンタープル式のブレーキだろう。こうして、エアロダイナミクス性能において最重視される前衛投影面積を小型化されている。

フレームのリヤセクションに目を向けると、リヤタイヤの外郭に完全に沿うように形どられたシートチューブが印象的だ。シートステーとタイヤとのクリアランスは、正爪タイプのリヤエンドにハブ軸を奥まで押し込めば、タイヤとのクリヤランスは1㎜程しかないきわどい設計だ。加えてリヤブレーキはチェーンステーの裏側に装備するなど、とにかく推進力を妨げる空気の乱流は起こさないという徹底ぶりを見て取れる。

インテグラルタイプのシート部。マウント部分はしっかりスライド量が確保され、前乗り、後乗り共に対応できるインテグラルタイプのシート部。マウント部分はしっかりスライド量が確保され、前乗り、後乗り共に対応できる スリット加工が施されるシートステー。その上部はリヤホイールに迫るほど内側に絞り込まれ空気抵抗を削減するスリット加工が施されるシートステー。その上部はリヤホイールに迫るほど内側に絞り込まれ空気抵抗を削減する リヤタイヤに密着するかのごとく美しいアールを描くシートチューブ。ホイールまわりの空気の乱流を徹底的に防ぐリヤタイヤに密着するかのごとく美しいアールを描くシートチューブ。ホイールまわりの空気の乱流を徹底的に防ぐ

こうして出来上がったディーンのフォルムは、前後700Cサイズのホイールを装備しながらも、90年代前半までタイムトライアルモデルの常識だった前後異形のホイールを履いた、ファニーバイクを思わせるほど前衛的スタイルに仕上げられている。

一般的にタイムTTバイクはエアロダイナミクスという特化した性能を追求しているため、特に振動吸収性をはじめとする快適性を確保するのが難しいとされる。しかし、この点も犠牲にしていないのがディーンのもう1つの特徴といえるだろう。

ワイヤ類はすべてトップチューブからフレームに内に収納。徹底的な空力へのこだわりだ。ワイヤの引きも重くないワイヤ類はすべてトップチューブからフレームに内に収納。徹底的な空力へのこだわりだ。ワイヤの引きも重くない リヤブレーキはBBシェルの下側にマウントされる。ブレーキはフロント同じようにセンタープルタイプを装備するリヤブレーキはBBシェルの下側にマウントされる。ブレーキはフロント同じようにセンタープルタイプを装備する

50T、40T、30Tのカーボン素材を、フレーム各部の求められる要素に対して細かく使い分けるのがその1つ。そして、トップチューブはダウンチューブに比べて外径を落として快適性が高められる。さらに、インテグラルシートの部分は、シートチューブに対してオフセットさせたレイアウトにより、路面からの振動をライダーにダイレクトに伝えないようにするなどの工夫が見られる。

こうして最新の技術を余すことなく盛り込み、まさに現在のTTバイクの神髄ともいえるモデルがディーンである。

インプレッション

カッチリとしたペダリングフィールで踏み出しは非常に鋭い(吉本司)カッチリとしたペダリングフィールで踏み出しは非常に鋭い(吉本司)

速さに繋がる自然なライディングフィール

特徴的な外観から扱いにくさを想像するが、それに反して実に乗りやすい。エアロダイナミクスを高めるために、前傾の強いライディングポジションを確保するように設計するTTバイクは、その性格上、どうしても荷重が前方に偏りがちになる。高出力の走りを行なうにはメリットもあるが、コーナリングをはじめ操作性で考えるとそれはデメリットとなる。このディーンにはそうした部分を感じない。自然とバイクの中心に乗ることができるので前後に荷重がしっかり分散され、コーナリングをはじめ横の動きに対して安定感が得られる。

ハンドリングも軽いが節度のあるレベルで、急に切れ込んでゆく感覚はなく扱いやすい。特にTTバイクでは、DHポジションでコーナーに突っ込むことも必要とされるため、ハンドル操作に不安がないのは、大きなメリットと言えるだろう。

高出力で走り続けるTT用、しかもトッププロが乗るクラスのバイクだけあってフレーム剛性は高く、カッチリとしたペダリングフィールで踏み出しは非常に鋭い。ノアと同じように、グングンと加速したくなるフレームだ。大きな出力で踏むほどに魅力が増すフレームと言えるだろう。

ある程度のペダリングスキルとフィジカルレベルを持つライダーなら、自然と体の軸を意識できるライディング感覚を武器に、体幹部をバイクに据えて高出力のペダリングをしやすく速さに繋げられるはずだ。こうしてはまった時の高速巡航性の力強さは実に気持ちいい。ホイールとの相乗効果もあるが、時速40㎞以上での巡航走行は流れるようなスムーズさを体感できる。これがディーンの優れたエアロダイナミクスであり、TTバイクならではの快感だ。

そして、全体的に自然なライディングフィールなので、コーナーでの立ち上がりや、平地から緩斜面に入った時のダンシングへの切り替えなど、体勢を変えて加速するシーンでもスムーズに体が動き、加速に繋げられるのがいい。

コーナーでの立ち上がりや、ダンシングへの切り替え時など、体勢を変えて加速するシーンでもスムーズに体が動き、加速に繋げられる(吉本司)コーナーでの立ち上がりや、ダンシングへの切り替え時など、体勢を変えて加速するシーンでもスムーズに体が動き、加速に繋げられる(吉本司) 写真では確認しにくいが、指を差す部分に幅5mmほどのテープが貼られる。これが空気抵抗を削減する「R-Surface」写真では確認しにくいが、指を差す部分に幅5mmほどのテープが貼られる。これが空気抵抗を削減する「R-Surface」

乗り心地については、フレーム剛性が高いのでそれなりの突き上げ感はあるが、TTバイクとしては十二分に許容できる範囲に収まっている。それよりもトータルでの乗りやすさが追求されている点が、このディーンの最大の魅力と言えるだろう。リドレーの技術力の高さを存分に体感できる1台だ。

リドレー DEAN

リドレー DEANリドレー DEAN
PRICE¥378,000(税込) フレームセット
FRAME50ton,40ton,30tonハイモジュラスカーボンファイバー
WEIGHT1370g
COLOR1113A
SIZEXS
提供:JPスポーツグループ 企画/制作:シクロワイアード