キャノンデールが追い求める走りの質。それはペダル入力に対する俊敏なレスポンスや素早いハンドリング、そしてタイヤと路面が接している場所で何が起きているかを伝える能力、そしてライダーが不快に思うことなく、これら全てを叶えることにある。

「A WHOLE NEW BALANCE OF POWER」の各要素、つまり剛性、路面追従性、快適性、空力、軽量性の全てが新型SUPERSIX EVO Hi-MODのターゲットであり、さらにどれか一つの要素が突出して優れるのではなく、相反するこれらの要素がバランス良く調和し、それぞれの働きが最高のパフォーマンスを発揮することが重要だ。これこそが新型SUPERSIX EVO Hi-MODが目指した「A WHOLE NEW BALANCE OF POWER」であり、キャノンデールが追い求める走りの質である。

より高剛性に Increased Stiffness - Where it Counts

先代モデルでは、バランスを取る上での最優先事項は軽量化だった。しかし前頁で記したように、キャノンデールにとって軽量性は必要充分なレベルまで達していた。純然たるレーシングバイクであるSUPERSIX EVO Hi-MODにとって、ここで触れる剛性強化こそが最も求められていたことだったと言う。

チェーンステー〜リアドロップアウト〜シートステーまでがフルカーボンの一体構造チェーンステー〜リアドロップアウト〜シートステーまでがフルカーボンの一体構造 末広がりの形状をもつデルタシートチューブはよりワイド化された末広がりの形状をもつデルタシートチューブはよりワイド化された ヘッドチューブは新形状となり、12%の剛性向上に貢献しているヘッドチューブは新形状となり、12%の剛性向上に貢献している photo:So.Isobe


チェーンステーのBB寄り部分は一回り太く、更に応力バランスを計算した左右非対称設計に生まれ変わったチェーンステーのBB寄り部分は一回り太く、更に応力バランスを計算した左右非対称設計に生まれ変わった (c)cannondale左右チェーンステー形状の差異を見る。駆動効率を最適化するための工夫だ。左右チェーンステー形状の差異を見る。駆動効率を最適化するための工夫だ。 (c)cannondaleキャノンデールご自慢のバリステックカーボン構造を継続するフレーム。構造上では、チェーンステー〜リアドロップアウト〜シートステーまでをフルカーボンの一体構造としていることが大きな変更点だ。

一般的には別パーツで成形→接着されていることが多いリアドロップアウトを一体化(ディレイラー取付ブラケットを除く。全体的にはトップ〜ヘッド〜ダウンチューブ、BB〜シートチューブ、左右リアステーの4ピース構造だ)することで、更なる剛性アップと軽量化に繋げ、しかも競合他社が一つのチェーンステーに複数のシートステーを組み合わせる事でサイズ違いを作るのに対し、SUPERSIX EVO Hi-MODでは各サイズ毎に形状や積層をコントロールしているのだ。

性能の要である、ボトムブラケットとヘッドチューブも大きく工夫が凝らされた部分だ。ボトムブラケットはシナプスで採用実績のある、従来のBB30と比較してシェル幅が反駆動側に5mm拡張されたキャノンデール独自のBB30Aを導入。これによって末広がりの形状をもつデルタシートチューブはよりワイド化され、更にチェーンステーのBB寄り部分は一回り太く、更に応力バランスを計算した左右非対称設計に生まれ変わった。

ヘッドチューブも微妙に中央部分がくびれた「アワーグラス形状」を取り入れ、強度を増したBBやフロントフォークとのマッチングを図るべくカーボン積層を緻密にチューニングしているのだという。

結果的にSUPERSIX EVO Hi-MODはBBで11%(63N/mm)、ヘッドチューブで12%(103N/deg)という剛性強化を達成。後述するフォークに関しても横剛性を6.1%向上させているが、特筆すべきはこれらが全てスリムなフォルムのままに成し遂げられていること。「剛性アップのためにフレームを大口径化する」という一般的な設計思想とは異なる、キャノンデールイズムを色濃く感じる部分と言える。

より路面追従性、快適性を Smoother - More Give for More Go

タイトなコーナーを素早く抜けるために、荒れた舗装で飛ぶように走るために必要なこと。それが路面追従性と快適性だ。SUPERSIX EVO Hi-MODでは、登場と共に衝撃をもたらした「SPEED SAVEマイクロサスペンション」がより一段進化を遂げ、2つの目的を同時に実現できるようファインチューニングが施された。

「SPEED SAVEマイクロサスペンション」がより一段進化を遂げた「SPEED SAVEマイクロサスペンション」がより一段進化を遂げた (c)cannondale
いかなる路面においてもトラクションを稼ぐため、チェーンステーとシートステーは曲線を多用したフォルムに一新。シートステーはより薄く、チェーンステーの内側への張り出しはよりアグレッシブな形状となったことで、縦方向に15%(142N/mm)もの柔軟性を生み出した。

クラウン部分の金属ベアリングレースを廃したSPEED SAVEフォーククラウン部分の金属ベアリングレースを廃したSPEED SAVEフォーク (c)cannondaleチェーンステーの内側への張り出しはよりアグレッシブな形状となったチェーンステーの内側への張り出しはよりアグレッシブな形状となった


従来の先曲げ形状に別れを告げ、ピンヒールのように細くシェイプアップされた「SPEED SAVEフォーク」も見どころの一つだ。クラウン部分の金属ベアリングレースを廃し、爪先からコラムまで一体成形とすることで強度と路面追従性を向上。従来比で21%(63N/mm)もしなる計算だ。このフォークとリアステーの動きがシンクロすることで、パワー伝達効率を損わずにトラクションとハンドリングを高めているのだ。

快適性に関してはシートチューブと一回り細い25.4mm径の「SAVEシートポスト」が大きく貢献する。大きな突き上げに対してシートチューブは前方向に、27.2mmポストよりも36%しなるシートポストは後ろ方向にしなり、シッティング時の負担軽減に繋げている。また、近年のトレンドにのっとって、タイヤクリアランスも25cを基準としながら28cまで対応させ、それに伴ってBBハイトも3.5mm下方修正。これは軽量バイクにありがちな腰高感を打ち消す目的でもあるのだ。

よりエアロダイナミクスを Aero. Dynamic.

各性能をバランスしたTAP(Truncated aero profile)チューブ各性能をバランスしたTAP(Truncated aero profile)チューブ TAP(Truncated aero profile)はダウンチューブ、シートチューブ、シートステーに採用TAP(Truncated aero profile)はダウンチューブ、シートチューブ、シートステーに採用 (c)cannondale高速化するプロレースの世界において、ロードバイクのエアロ化は必要不可欠と言えるだろう。アグレッシブなエアロロードバイクが次々とデビューを飾る中、キャノンデールは必要最小限にして最大限のエアロ化をSUPERSIX EVO Hi-MODに施した。それがTAP(Truncated aero profile)と呼ばれるチューブ形状だ。

重量、剛性、そして走り心地にも配慮されたTAP形状が使われるのはフォーク、ダウンチューブ、シートチューブ、そしてシートステーの4ヶ所。特に、最初に風を受けるフロントフォークの空力改善は大きく、この部分でも究極のスリム化が活きているのだという。

更にシートチューブ側のボトル搭載位置を下げ、機械式コンポーネントの場合は2本のシフトワイヤーをダウンチューブ下側中央部分に寄せるというマイナーチェンジも行われた。結果的に40km/h走行時に6W(うち1.5Wはボトル搭載位置変更分)のドラッグを低減してみせたという。「バランス」を考慮した上では必要にして十分な値であるだろう。

より軽量に Lighter Weight through System Integration

前作のSUPERSIX EVOが大きく取り上げられた一番の理由として、業界を揺るがすほどに衝撃的な軽量性があった。今回のSUPERSIX EVO Hi-MODでももちろん軽さは忘れ去られること無く、大きな存在感を保ったままだ。

リアドロップアウトも一体式で成形されているリアドロップアウトも一体式で成形されている SiSL2クランク+チェーンリングで最軽量のドライブトレインを構築できるSiSL2クランク+チェーンリングで最軽量のドライブトレインを構築できる


しかしこれまでに触れてきた「走りの質」を最優先事項に据えたため、フレーム重量だけで見れば従来の760g(56サイズ)から増加して777gに。しかしフロントフォークが280g(前作比-40g)と異次元の軽さを達成し、薄くなったヘッドセット(-14g)や、シェイプされたシートポスト(-30g)などが投入された。

これらを踏まえたトータル値(これがキャノンデールが提唱するSystem Integrationである)では、旧型EVOの1370gを67g上回る1303gを達成している。さらに10本のアームで構成されるチェーンリングとクランクのセット「SiSL2」を組み合わせれば、最軽量のドライブトレインを構築できる。SiSL2はチェーンホイールセットとBBスピンドルの合計重量で483gしかないのだ。SRAM RED、ENVEのホイールやハンドル/ステム/シートポスト、eeBrakeの軽量ブレーキを贅沢に搭載した最上級モデル「BLACK INC.」の完成車重量は5.8kgを達成している。



SUPERSIX EVO Hi-MODをテストするジャーナリスト。その「バランス力」に驚いたSUPERSIX EVO Hi-MODをテストするジャーナリスト。その「バランス力」に驚いた (c)cannondale
UCIルールギリギリのエアロフォルムも、ギミックを使った衝撃吸収機構も、SUPERSIX EVO Hi-MODには存在しない。しかしキャノンデールが求める理想型を、愚直なまでに正攻法で極めたオールラウンドレーサーが、このSUPERSIX EVO Hi-MODなのだ。

次号ではSUPERSIX EVO Hi-MODについてキャノンデールに聞いたインタビューと、オーストリア、キッツビュールで乗り倒したインプレッションを紹介しよう。

提供:キャノンデール・ジャパン 製作:シクロワイアード編集部