2009年にデビューしたSUPERSIX Hi-Mod、そして2011年のジロ・デ・イタリア直前にデビューしたSUPERSIX EVO。それから丸4年を経て、キャノンデールは全く新しいフラッグシップモデル、第2世代目となるSUPERSIX EVO Hi-MODをデビューさせた。オーストリアのスキーリゾート地、キッツビュールで開催されたプレゼンテーションの模様やインプレッションを通し、期待のニューモデルについて掘り下げようと思う。

輝かしい戦歴に裏打ちされた「A BALANCE OF POWER」

2010年のイヴァン・バッソによるジロ・デ・イタリア総合優勝2010年のイヴァン・バッソによるジロ・デ・イタリア総合優勝 photo:Kei Tsujiツール・ド・フランスにおいて3年連続でペーター・サガンがマイヨヴェールを獲得ツール・ド・フランスにおいて3年連続でペーター・サガンがマイヨヴェールを獲得 photo:Makoto Ayano新型SUPERSIX EVO Hi-MODに触れる前に、まずは歴代「SUPERSIX」の歴史を振り返りたいと思う。キャノンデールの歴史に「SUPERSIX」が登場したのは2007年のこと。キャノンデール初のフルカーボンエリートロードとして、元素記号6番(C=炭素)から名付けられたそのバイクは一世を風靡し、2009年にはSUPERSIX Hi-Modとしてリニューアル。2010年にはイヴァン・バッソがジロ・デ・イタリアを、ヴィンツェンツォ・ニーバリがブエルタ・ア・エスパーニャを制覇し、同チームによる1年に2度のグランツール制覇という偉業を成し遂げた。

更に2011年の5月には、飛躍的な進化を果たし「エボリューション」の名を与えられたSUPERSIX EVOがお披露目され、直後のジロ・デ・イタリアで早速ステージ優勝を獲得しデビューウィン。その後のニーバリによる2012年のツール・ド・フランス総合3位、ペーター・サガンによる2012からの3年連続マイヨヴェール獲得などは記憶に新しい。

また、レース外でも数千にも及ぶバイクの中から「優れたロードバイク」としてドイツのツアーマガジンに評価され、ユーロバイクゴールドアワードも受賞するなど、各性能をバランス良く、かつ高いレベルでまとめ上げるという設計思想は世界中で高く評されることに。エアロ、エンデュランス、軽量と数種類のバイクをラインナップするメーカーが増えた昨今、逆説的にオーソドックスなスタイルを貫くSUPERSIX EVOは、唯一無二の存在としてプロレーサーはもちろん、ホビーレーサーからも高い信頼を得てきたのだ。

オーストリアで開催されたグローバルメディアローンチ

今回筆者が参加機会を与えられたのは、ウィンタースポーツのメッカであるオーストリア、キッツビュールにて開催されたプレスローンチ。急峻なワインディングが無限に続き、緑豊かな山岳と雪解け水に恵まれたこの地が新型「SUPERSIX EVO」披露の場として選ばれたのだった。

プレゼンテーションの舞台はオーストリア、キッツビュールの4星ホテルプレゼンテーションの舞台はオーストリア、キッツビュールの4星ホテル (c)cannondale世界各国から代表的サイクリングメディアのジャーナリスト40名が出席した世界各国から代表的サイクリングメディアのジャーナリスト40名が出席した (c)cannondale

ジャーナリストの前でプレゼンを進めるマレー・ウォッシュバーン氏ジャーナリストの前でプレゼンを進めるマレー・ウォッシュバーン氏 (c)cannondaleSUPERSIX EVO Hi-MODについて次々と語られていくSUPERSIX EVO Hi-MODについて次々と語られていく (c)cannondale

プレゼンテーションは、世界各国から代表的サイクリングメディアのジャーナリスト40名が出席するなかで催された。その幕開けと同時に発表されたキーワードは、「A WHOLE NEW BALANCE OF POWER」である。

前作でも既に「バランス」はメインキーワードとして扱われていたが、その軸は軽量化を推し進めることだった。しかし「600g台のフレームなら今や簡単に作れる。でも今回はそうじゃない」と開発陣の一人は自信たっぷりにそう言う。既に軽量化は十二分なレベルまで達していた。剛性、路面追従性、快適性、空力、そして最後に軽量化。それらを包括し、究極レベルまで昇華させることが新型SUPERSIX EVO Hi-MODの宿命だった。

"キャノンデールイズム"を包み込む、オースドックスなスタイリング

デビューを飾ったSUPERSIX EVO Hi-MOD。キャノンデールの伝統を受け継ぐスタイルデビューを飾ったSUPERSIX EVO Hi-MOD。キャノンデールの伝統を受け継ぐスタイル
伝統的なロードバイクのカタチから外れない、「キャノンデールらしい」オーソドックスなスタイルを持つ新型SUPERSIX EVO Hi-MOD。一目見ただけでは前作と変わり映えしないと思うかもしれないが、ぐっと細身になったフロントフォーク、フォルムを一新した各チューブなど、ゼロから設計をやり直した完全なる別物だ。

各所に新規格を導入しているものの、現行SUPERSIX EVOと全体的なボリューム感は、フロントフォークを除いてほぼ同じと言って良い。いかにもロードバイク然としたフォルムを堅持してきたことは、歴代のキャノンデールファンにとっては喜ばしいニュースだろう。

前作のフォルムを色濃く残すが、フレームは完全新設計である。3年以上にも渡る開発期間を経てデビューした前作のフォルムを色濃く残すが、フレームは完全新設計である。3年以上にも渡る開発期間を経てデビューした photo:So.Isobe
機械式コンポーネントの場合、シフトワイヤーはダウンチューブ下側中央部に寄り添うようにして配置される機械式コンポーネントの場合、シフトワイヤーはダウンチューブ下側中央部に寄り添うようにして配置される
ぐっとシェイプされたフロントフォーク。重量は280gと非常に軽量だぐっとシェイプされたフロントフォーク。重量は280gと非常に軽量だ photo:So.Isobe

従来はコンポーネント別(Di2(カンパニョーロEPSは非対応)/機械式)に2タイプのフレームが用意されていたが、今回より一つのフレームで両対応するようになったことも、一般ユーザーにとっては嬉しいポイント。整備性を優先してシフトワイヤーはダウンチューブ下側に沿わせる外装式であり、リアブレーキケーブルのみがトップチューブに内蔵される方式を受け継いでいる。ちなみにリアブレーキの出し口はタッチの軽さを向上させるため、フレームサイズによって変えている。52サイズ以上はシートチューブ後ろから、50サイズ以下はトップチューブ後方から引き出している。

更にキャノンデールが行った風洞実験によれば、ケーブルの内装式と外装式ではほとんどエアロ効果に差は見られなかった。また、内装式の場合はフレーム内部にボルトや余分な素材が必要となり重量増になるだけだったという。

快適性に大きく貢献する25.4mm径のシートポスト快適性に大きく貢献する25.4mm径のシートポスト photo:So.Isobeボトムブラケットの規格はBB30Aとなるボトムブラケットの規格はBB30Aとなる photo:So.Isobe

シートポストは快適性を高めるために25.4mm径を採用。ボトムブラケットは非駆動側を5mmワイドにしたBB30Aを採用し、軽量性と剛性を両立したキャノンデールオリジナルのHollowGram SiSL2クランクと組み合わせることで最軽量の駆動系が実現できる。これらは既にエンデュランスロードのシナプスで実績をもっており、信頼性に関する心配は一切無用だ。

独自の新規格を導入しつつ、全体としてはやみくもに流行を追い求めず、使い勝手を求める。いかにもキャノンデールらしいそのスタイルは、あくまでレース現場や一般ユーザーの声を踏まえながら、性能を引き上げた結果なのだという。



引き継がれたバリステックカーボン構造 軽量・高剛性を実現する緻密な積層技術

補強のためのカーボンシートを側面に増し貼りすることで強度アップを図る「バリステックカーボン構造」補強のためのカーボンシートを側面に増し貼りすることで強度アップを図る「バリステックカーボン構造」 各フレームサイズごとに乗り味が変わらないよう工夫する「Size-Specific Construction」各フレームサイズごとに乗り味が変わらないよう工夫する「Size-Specific Construction」 SUPERSIX EVO Hi-MODを形作るのは、前作から引き継がれた「バリステックカーボン構造」だ。これは補強のためのカーボンシートを側面に増し貼りすることで強度アップを図るという方法で、フレーム側面を中心に、補強カーボン材を連続的に配位すること。

ハイモジュラスファイバーとウルトラハイモジュラスファイバーを緻密に重ね、それらを固めるレジンもハイ-インパクトな素材を使っている。このために軽量・高剛性はもとより、機材としての性能はもちろんのこと、長期にわたって安心して使い倒せるタフネスを手にしているのだ。

SUPERSIX EVO Hi-MODのカーボンについて語る上で「Size-Specific Construction」も忘れてはならない。これは各フレームサイズごとに乗り味が変わらないよう、チューブの形状や肉厚、もちろんカーボン積層もコントロールする技術のこと。つまり一つ一つが別のフレームであり、開発に掛ける手間も倍増する。

「これはキャノンデールが最初に取り入れた手法。今では幾つのもブランドが取り入れているが、我々としては今更自慢するものではないほどに、ごく当たり前のものとして捉えているよ」と技術者の一人は自信満々に言う。キャノンデールが誇る技術をより進化させ、緻密な設計や理念をオースドックスなスタイルに包み込んだのが、新型SUPERSIX EVO Hi-MODなのである。



次ページでは図解と共に「A BALANCE OF POWER」の各要素を紹介。さらにキャノンデールスタッフへのインタビューを通し、SUPERSIX EVO Hi-MODをより深く掘り下げていきたいと思う。

提供:キャノンデール・ジャパン 製作:シクロワイアード編集部