従来の26インチに対して圧倒的な走破性を引っさげて登場し、今やXCレーシングの世界においてスタンダードとなった29インチ。しかしジャイアントは今年、主力モデルを全て27.5インチに切り替えるという大きな変革を遂げ、ラインナップを一新した。その理由は如何に?。

ジャイアントが考える27.5インチとは

TRANCEの開発ストーリーを明かすケビン・ダナ氏TRANCEの開発ストーリーを明かすケビン・ダナ氏
「単純な重量や走りの軽さ、剛性、コントロール性、効率、耐久性・・・。MTBの性能を測るには多くの要素があって、我々はその一つ一つを徹底的に検証して総合的に考えた上で27.5インチがベストだと判断した。そして、27.5インチというホイールサイズのもつ特性がどうなのか?ということを根本的に考えて、白紙の状態からデザインを開始した」とは、グローバルマーケティング担当のアンドリュー・ジャスカイティス氏。

ジャイアントは軽さと効率、コントロール性、ジオメトリーの4つの要素からホイールサイズを比較。27.5インチは、バイク全体の静的重量で29インチに対して約1kg軽量である一方で、回転しているホイールの動的重量は26インチに対して5%の増加に留まっていることをつきとめた。しかし、注目すべきは単純な重量ではなく、ライディング中の動的性能だ。27.5インチは26インチ同様の加速性と、29インチに迫る障害物乗り越え性能を両立しているのだ。

図が示す加速性能や、静的重量は26インチに近い図が示す加速性能や、静的重量は26インチに近い (c)ジャイアント3種類のホイールサイズを比較した1例、障害乗り越え性は29インチに近いと結論付けている3種類のホイールサイズを比較した1例、障害乗り越え性は29インチに近いと結論付けている (c)ジャイアント


伝達効率や運動性能を左右するフレーム剛性は26インチに同等だ伝達効率や運動性能を左右するフレーム剛性は26インチに同等だ (c)ジャイアント
コントロール性能はタイヤの接地面積とフレーム剛性の2つの観点から検証を行い、27.5インチは29インチに近いトラクションと26インチに近いフレーム剛性を獲得。さらに小柄なライダーでは29インチの場合、最適なポジションが出しにくいことも27.5インチはクリアしている。つまり27.5インチは「軽くて機敏な26インチに近く、効率とコントロール性では29インチを凌駕している規格」を有しているのである。

また、グローバルマーケティング担当のジェブ・シュナイダー氏は次のように付け加えた。「私は自宅から10マイル離れたホームトレイルへ行くのだが、行きの上りは29インチが1分差で速い。しかし、帰りの下りは27.5インチが5分差で速い。効率だけで考えたら、辛い上りを速く走れるほうがいい。しかし、27.5インチは楽しく、速く走れるんだ。それにMTBはタイムを競うだけのものじゃない。操って楽しいかどうかも重要なんだ」

各モデルで採用した新たなジオメトリー

身長173cmのエミル・リンドグレン(スウェーデン)は27.5インチを歓迎する1人身長173cmのエミル・リンドグレン(スウェーデン)は27.5インチを歓迎する1人 (c)ジャイアントジャイアントが考える27.5インチの優位性は ”総合的なバランス” にある。一方で26インチと比較した際の重量や反応性、29インチに比較して走破性やトラクションなど劣っている性能があることもまた確かだ。しかし、今回発表された新たなラインナップでは、徹底的に煮詰められジオメトリーを採用し、27.5インチのマイナス要素を徹底的に排除しているのだ。
ここからはTRANCEとANTHEM、XTCの3車種について、それぞれの26インチモデルや29インチモデルと比較してみよう。

女子選手としても小柄なマリアンヌ・フォスの活躍が27.5インチのメリットを証明している女子選手としても小柄なマリアンヌ・フォスの活躍が27.5インチのメリットを証明している (c)ジャイアント4インチトラベルとなったフルサスXCバイクのANTHEM 27.5インチは、29インチに迫るハンガー下がりが特徴的だ。重心を大幅に下げることで26インチとほぼ同等の旋回性能やコーナリング特性を狙っている。ホイールベースは29インチと26インチの中間として、ヘッド角はTRANCE同様に29インチと26インチよりも寝かせている。トラクションと俊敏さ、安定感を高い次元で両立させることを狙った。

リアリジッドXCバイクのXTCは、比較的短時間のレースでの使用や、軽さを活かしたライディングシーンが想定されるバイクだ。27.5インチでは寝気味のヘッド角と長めのホイールベース、29インチに迫るハンガー下がりによってより安定感を高めている。専用設計したジオメトリーと27.5インチという大径ホイールによって走破性を高め、レーシングバイクでありながらも幅広いシーンに対応する味付けとしている。

そして3車種共に共通している事柄が、29インチが不得意としていたライディングポジションが改善されていることだ。各モデルともヘッド角が29と26インチに対しても寝たことでステムがより手前に位置し、短いステムを使うこと無く適切なハンドル位置を実現出来る。加えてヘッドチューブも短くなっているため、幅広い選択肢の中からハンドルやステムを選ぶことが可能になった。

27.5インチをバックアップするオリジナルホイール群

ジャイアントが27.5インチを推し進める理由は性能の他に、現在市販されている豊富なMTBパーツを流用出来ることにある。しかしホイールに関しては、ジャイアントの考えるレベルに達したものが無かった。ここからジャイアントの27.5インチホイール開発はスタートを切った。

ジャイアントがフレーム同様に高い技術力で製造するXC向けオリジナルホイールP-XCR0ジャイアントがフレーム同様に高い技術力で製造するXC向けオリジナルホイールP-XCR0 (c)ジャイアント
左は幅27mmのP-TRX0、右は幅25mmのP-XCR0のリム。共に専用リムフラップ/バルブとシーラントを使用することでチューブレスに対応する左は幅27mmのP-TRX0、右は幅25mmのP-XCR0のリム。共に専用リムフラップ/バルブとシーラントを使用することでチューブレスに対応する オプションでスラムXX1の11速スプロケットにも対応するフリーボディを用意オプションでスラムXX1の11速スプロケットにも対応するフリーボディを用意

ジャイアントが2014年ラインナップとしてデビューさせた27.5規格のホイール群は、XCレース向きのP-XCRシリーズとオールマウンテン向きのP-TRXシリーズに大別され、それぞれにカーボンリムとアルミリムモデルが用意される。P-XCRとP-TRXの違いはリム幅にあり、強度や剛性、重量、装着が想定されるタイヤの太さなどによって差別化されている。

回転軸の接線方向に伸びるスポークパターンによって駆動ロスを低減回転軸の接線方向に伸びるスポークパターンによって駆動ロスを低減 (c)ジャイアントハブやスポークは様々なホイールメーカーが採用する信頼のDTスイス製とし、ワイドギヤによるハブフランジの狭小化と、それに起因する横剛性の低下を防ぐため、ドライブサイド側のフランジを従来モデルと比較して2mm外側に移動した。

カーボンリムモデルでは36T、アルミリムモデルでは18Tのスターラチェット式フリーを採用し、高いレスポンスを実現。スポークパターンは回転軸の接線方向とすることで、ペダリング時のパワーを逃がさない設計となっている。

標準ではフロント100×15mmスルーアクスル、リア135×5mmクイックレリーズ仕様となっているが、各社の多種多様な規格に対応するため、フロント100×5mmクイックレリーズ、リア142×12mmスルーアクスルにも互換性を持たせている。カセットスプロケットはシマノ10速に対応し、オプションでスラムXX1を装着することも可能。全てのモデルがチューブレスレディだ。

27.5インチのポテンシャルを引き出す数々のテクノロジー

27.5インチの走行性能を支えるのは、ジャイアントが創業以来蓄積してきた高度な素材加工技術や、度重なる研究によって生み出された独自規格の数々だ。

今回インプレッションを行ったトップグレードの3モデルには、軽さと剛性を高い次元で両立した「ADVANCED」グレードのカーボン、コーナリングやブレーキングでの安定性を向上させる独自規格のフォークコラム「OverDrive 2」、ライダーからの入力を余すこと無く推進力に変換するプレスフィット式の「POWER CORE」ボトムブラケットなど、ジャイアントのテクノロジーが総動員されている。

ピボットボルトのキャップ形状を変更し整備性を向上ピボットボルトのキャップ形状を変更し整備性を向上 XTCアドバンスドシリーズは軽量なシートポスト固定方式を採用XTCアドバンスドシリーズは軽量なシートポスト固定方式を採用


「27.5 IS the future of Off-Road」という言葉で、プレゼンテーションは締めくくられた「27.5 IS the future of Off-Road」という言葉で、プレゼンテーションは締めくくられた
低価格帯のモデルを特に充実させるジャイアントだけに、カーボンモデルと同時に手頃なアルミモデルも登場させ、幅広い選択肢のラインナップとしていることもユーザーフレンドリーな点だ。

次ページでは、ADVANCEDカーボンを採用した最上級グレードのTRANCE、ANTHEM、XTCという2014主要3モデルのインプレッションをお届けする。

提供:ジャイアント text:シクロワイアード編集部