編集部を襲った水漏れにインスピレーションを受け、12年ぶりの完全結氷となった檜原村・払沢の滝へと旅立った編集部の安岡と藤原。あっちへふらふら、こっちへふらふらしつつ、目的地へと辿り着いた2人の目の前に現れたのは……。



奥多摩サイクリストにはおなじみの豆腐屋「ちとせや」さん奥多摩サイクリストにはおなじみの豆腐屋「ちとせや」さん
年季の入った品書き年季の入った品書き 冬の定番コンビ 豆乳とうのはなドーナツをゲット冬の定番コンビ 豆乳とうのはなドーナツをゲット あったまる~!と思わず顔がゆるんでしまうあったまる~!と思わず顔がゆるんでしまう
いつもはさっさと通り過ぎる檜原街道に点在する隠れたスポットを堪能した私たち2人は、檜原村役場を通り過ぎ、北秋川と南秋川の分岐点となる橘橋を渡って右へ。少し行くと、奥多摩サイクリストにはなじみ深い豆腐屋さん「ちとせ屋」がある。少し小腹も空いてきた、おからドーナツとあったかい豆乳お願いします!と注文したのは冬の定番の2品だ。

「すぐ食べるかい?」とおばちゃんが聞いてくれるので、はーい!と答えると揚げたてを渡してくれた。既に目的を達したかのような満足感が押し寄せてくる。ちとせやは初めてだというフジワラはやけに静かだと思ったら、2つ目のドーナツを注文しに行っている。美味しいもんね、わかります。しかも一つ100円だというのだから驚きだ。甘味をぱくつき、「さー帰るか!」と言いそうになるのをぐっとこらえて、口から出すのは「よし行くぞ!」の5文字。大体、払沢の滝はこのちとせやの脇に伸びる道を入ったところなのだ。

ここが払沢の滝入り口の目印だここが払沢の滝入り口の目印だ 払沢の滝までは整備された遊歩道が続いている払沢の滝までは整備された遊歩道が続いている


これ払沢の滝ですか?凍ってるぅ!と興奮するフジワラ 残念だがこれは人工的に作られたオブジェだこれ払沢の滝ですか?凍ってるぅ!と興奮するフジワラ 残念だがこれは人工的に作られたオブジェだ
30mほどの急勾配を登ると、払沢の滝駐車場に到着。ここから先は徒歩で滝まで向かっていくことになる。滑りやすい箇所もあるので、この時期に行くのであればMTB用のSPDシューズがいいだろう。今回はフラペにトレッキングシューズなので、ずんずんと進んでいく。真っ白な冬山を10分ほど歩けば払沢の滝へ到着する計算だ。

毎年、部分的には凍り付く払沢の滝だが、完全に水が流れなくなる全面結氷はなんと12年ぶりとなるのだとか。12年前といえば、ランス・アームストロングが一度目の引退を発表した年となるのだから、相当前である。自分なんて高校生の時分だし、高校生といえばきらめく青春とかありそうだけど正直そんなものは無かったし、そう考えると、人生で何度とないチャンスに遭遇しているのだという実感が湧いてくる。手にすることがなかった青春の煌めきの代わりに得たのが、幻の氷瀑なら悔いはない……ってそんなわけあるか!

めっちゃ凍ってますけど、水も流れてませんか……?と真顔のフジワラめっちゃ凍ってますけど、水も流れてませんか……?と真顔のフジワラ
プチ登山を経てたどり着いた私たちの目の前には、見事に結氷した払沢の滝が。日本の滝百選に都内で唯一名を連ねる全長60mの流れが、時を止めたかのように静まり返っている、ハズだった。「なんか水流れてません?」「なんか俺にもそう見えるんだよね……。」おかしい、12年前の青春の輝きを犠牲にして完全に凍り付いた滝の輝きという払戻しを得たのではなかったか?しかし目の前にあるのは、凍ってはいるものの、一部で水が流れ落ちる部分結氷の払沢の滝だった。いや、十分幻想的な光景なんですけどね?

「ま、まあきっと完全に凍ってたら動きもなくって、きっとそんなに面白くなかったと思いますよ?」と、藤原が慰めの言葉をかけてくる。どうやら、彼に心配されるほど落ち込んでいたようだ。確かに、12年ぶりの完全結氷という言葉に釣られてここまでやってきたけれど、その言葉のキャッチーさに惑わされて目の前の光景が持つ本当の美しさを見ていなかったこともまた事実。

轟々と降り注ぐ水流を覆い隠すように凍てつき静止した氷塊。時折、岩肌から氷が崩れ落ち、滝壺へと飛び込んでいく。完全に凍り付いた時にはきっと見ることが出来なかっただろう光景は、記録映像で見たことのある氷河の崩落にも似たスペクタクルな一幕。

完全結氷とはいかなくとも美しい姿を見せてくれた払沢の滝完全結氷とはいかなくとも美しい姿を見せてくれた払沢の滝 周りには雪だるまがたくさん周りには雪だるまがたくさん まるで流氷のような滝壺まるで流氷のような滝壺


「それにしても滝って凍るもんなんですね」と、もっともな疑問を口にするフジワラ。確かにそうだ。ちなみに今この記事を書きながら調べたところによると、つららが出来るのと同じ原理なんだとか。つまり、一気にカキーン!と凍り付くわけでなく、流れが緩やかな部分だとか岩の表面についた飛沫などが最初に凍りだし、その氷がどんどん成長していくことで全体が凍り付くのだという。ふむふむ。

氷瀑の威容にしばし見入っていた私たちだが、じっとしていると途端に寒さが染み入ってくる。ホット豆乳の効果も既に切れてしまっているので、名残を惜しみつつ再び自転車のもとへと戻ることとした。「これでもう帰るんですか?」「君はどうしたい?」「つまりノープランなんですね」

君のような勘の良い後輩は嫌いだよ。

払沢の滝駐車場を時坂峠へ向かって走り出した。ノープランっていうな払沢の滝駐車場を時坂峠へ向かって走り出した。ノープランっていうな 雪が残る時坂峠を登っていく雪が残る時坂峠を登っていく


ついに恐れていた完全圧雪路面が!ついに恐れていた完全圧雪路面が!
日陰の風景は完全に雪国のそれ日陰の風景は完全に雪国のそれ 一方日なたのエリアはとても気持ちよく走ることが出来た一方日なたのエリアはとても気持ちよく走ることが出来た


最近実写化で物議を醸した錬金術漫画のシーンをアリュージョンしつつ、まだ距離的には引き返すにはもったいない。どうしたものかと思いつつとりあえず登ってみますか、ということで払沢の滝駐車場の先にある時坂峠へと馬首を巡らせた。

とりあえず登るってなんだよ、と思うけれど、なんとかと煙は高いところへ登りたがるという。確か、そのなんとかというのは自転車乗り、それもこの冬でも自転車で出かけてしまうような人種を含んでいた言葉だったような気がするわけで、きっと仕方のないことなのだろう。

この雪の具合からどれくらいまで行けるかはわからないけれど、とりあえず行けるところまで行ってみようということで登りだす。ちなみに、MTBライドであれば、風張峠まで舗装路を使い浅間尾根を降りてくるとこの辺りへ出てくる。

どんどん標高を上げていくどんどん標高を上げていく
結構登ったよねー、あれって都心かなあ、と遠くを見るヤスオカ結構登ったよねー、あれって都心かなあ、と遠くを見るヤスオカ いやあ寒かったねー、とストーブでお湯を沸かしつつ暖を取るいやあ寒かったねー、とストーブでお湯を沸かしつつ暖を取る


こちらインスタントに本格コーヒーや紅茶が楽しめるGROWER'S CUPこちらインスタントに本格コーヒーや紅茶が楽しめるGROWER'S CUP 注ぎ口が付いているので、コップに入れるのも便利なのだ注ぎ口が付いているので、コップに入れるのも便利なのだ


登り切ったでー!と祝杯を挙げるフジワラ登り切ったでー!と祝杯を挙げるフジワラ
さて、途中までは人里もあるので除雪されているのだけれど、中間地点を過ぎたあたりでは本格的に凍り付いている。これはさすがに無理だろう、というかここで無理して怪我したら、どんなお小言を食らうかは目に見えているし、シクロワイアード読者の多くを占めるロードバイカーにとってはもはや参考にならない感じになってきた。途中の絶景ポイントまでは何とか辿り着こうということで、押し歩いたりしつつ何とか到着。

開けた視界の先には都心のビル群がくっきりと見える。空気の澄んだ冬ならではの光景をコーヒーと共に楽しみつつ再びの作戦会議と相成った。「このまま向こうに降りられるかな?」「この先は陽当たりも悪いし、路面は多分もっと悪いと思いますよ」「雪ライド、楽しそうなんだけど仕方ないかあ」「また休みの日に来ましょう」と名残を惜しみつつ、渋々コースを引き返すこととする。

下りの雪道は慎重に下りの雪道は慎重に これ、コケたら結構不味くない?と焦るヤスオカこれ、コケたら結構不味くない?と焦るヤスオカ


東京とは思えないロケーションを走っていく東京とは思えないロケーションを走っていく
登ってきた道なので積雪箇所も把握しているため、無事二人揃って払沢の滝駐車場へと帰還。そろそろ陽も中天に差し掛かるころとあって、お腹の虫も鳴いてきたところ。そろそろお昼ご飯と洒落こもうではないか。

「お、やっとお昼ですか?今日一番楽しみにしてたんですよ!だって、このサイクリング企画って経費で良いごはんを食べられるんですよね?カマタとムラタなんか5500円のハンバーガーを食べてましたし、会社での立場的に言えば、僕らだったら1万円のフレンチとかも有りなのでは?」と、完全に何かを履き違えたセリフを発するフジワラ。

やめろ、この記事は経理のお姉さんたちも読んでいるんだぞ!?

text:Naoki.Yasuoka
photo:Naoki.Yasuoka.Gakuto.Fujiwara