数年に一度の大寒波が日本列島を襲う今日この頃。皆さんいかがお過ごしでしょうか。自転車、乗りたくないですよね。わかります。でも、冬には冬の楽しみ方があるはず。出不精になりがちな皆さんのために、冬にしか楽しめないスペシャルスポットを巡るツーリングレポートをお届けしましょう!



白く雪化粧が施された奥多摩へと出かけました白く雪化粧が施された奥多摩へと出かけました
東京の端っこで4年ぶりに降り積もった雪に閉ざされたシクロワイアード編集部。自転車にも乗れず(乗らず?)鬱々とした日々を過ごしていたある日、編集部に異変が起きた。「つめたっ!」いきなり叫んだ磯部に残る5人の視線が集まる。いったい何事だ?訝しむ私たちの視線の先で磯部が天井を見上げている。ポツッ……と落ちてくる水滴。どうやら水漏れのようである。

ぽつりぽつりと落ちてくる水滴は一向に止む気配が無い。屋内に居ながらにして雨に襲われる(外は晴れている)という嘘のような現実に、隣で営業する不動産管理会社さんを呼ぼうとして、さらに不幸な事実に気付く。「今日って日曜日だから、お休みじゃない?」なにゆえ管理会社もお休みの日曜日に私たちは雁首揃えているのかという、日本経済のデフレ脱却並みに解決不可能かつ考えたくない問題は置いておいて、目の前の問題に対処しなければならない。

突然の水漏れを修理してくださった業者さんたち、ありがとうございます。突然の水漏れを修理してくださった業者さんたち、ありがとうございます。 とりあえず養生された水漏れ個所はまるで滝のよう。はっ!?とりあえず養生された水漏れ個所はまるで滝のよう。はっ!?


幸い、シクロワイアード編集部が属するアテックスホールディングスの本業は、いわゆる設備屋。こういう時は頼りになるメタボ会長にかくかくしかじかと事情を説明すると、任せろ!とばかりの勢いで資材と工具、脚立を持って編集部へとやってきた。天板を外すと溜まっていた水が流れ出す。その様子はまるで滝……滝?そうだ、それだ!「滝を見に行きましょう!」「……は?」

天啓のごとき閃きに、どうやら周囲はついてこれなかったらしい。おそらく読者の皆さんもついてこれないだろう。実は私には、かなり間が空いてしまったツーリング企画の行先に悩んでいたという隠れた悩みがあったのだ。とはいえ、冬だし、寒いし、凍ってるし、一体どこへ行けばいいんだよう、大体こんな時期に自転車乗ってる人はいないだろ……と、ここ数日間頭を悩ませた難題を解決する閃きを与えてくれた水漏れには感謝の念が尽きない。磯部が濡れているのはこの際どうでもいい。かわいそうだけど、それはそれ、これはこれ、だ。

さて、そんなわけで今回向かうことにしたのは東京都あきる野市。奥多摩への玄関口として、週末はサイクリストだけでなく、ハイカーや登山客、モトツーリストなどなど、多くのアウトドアを楽しむ人が集まるエリアである。

今回はオフロードバイクでの出動です今回はオフロードバイクでの出動です なんでパンクしとるんやー!と怨嗟の声を吐きながらポンピングするヤスオカなんでパンクしとるんやー!と怨嗟の声を吐きながらポンピングするヤスオカ


それでは奥多摩ライドスタートなんだ!それでは奥多摩ライドスタートなんだ!
ただ、それも春から秋にかけての話。ここまで冷え込むと、夏場には赤信号の度に列を成していたサイクリストも、駅に電車が到着する度に集団で降りてくるハイカーもめっきり少なくなってしまう。落葉とともに寂しくなった山々のように、訪れる人の数もすっかり減ってしまっている。

だけど、逆に考えればそれは人が少なくストレスフリーで楽しめるということ。多少の寒さはハイテクウエアを着込めばいい。雪中登山というわけでもなし、すこしの寒さを我慢すればいつもより楽しいひと時が待っている。しかも、冬にしか見ることの出来ない景色だってある。月に4万円の暖房費をかける編集部から飛び出して、自転車に乗るには十分すぎる理由だろう。

武蔵五日市の駅前に車をデポし、いそいそと自転車を準備。ところどころ雪が積もっている可能性も考慮して、今回はMTBとシクロクロスバイクでの出動だ。べ、別に、ちょっとトレイルに寄り道して遊ぼうなんて思ってないんだからね!!

こちらは駅前にある「裏山ベース東京」こちらは駅前にある「裏山ベース東京」
白く雪に覆われた斜面に期待が広がる「絶対凍ってますって!滝!」白く雪に覆われた斜面に期待が広がる「絶対凍ってますって!滝!」
空気を入れようとしたところで、さっそく事件発生。苦楽を共にした(主に四国の山奥で)わが愛車、ジャイアントのXTC君のリアタイヤがペシャンコになっている。とりあえず空気を入れてみるも、サイドからエアがどんどん抜けていく。どうやらシーラントが目減りしたせいか、密着度が足りなくなってしまいエア漏れに至ったよう。仕方なしにチューブを入れてスタートするがいきなり出鼻を挫かれた感は否めない。

今回は車に積んできたフロアポンプで対応したため、特にお世話になることはなかったけれど、武蔵五日市駅前には「東京裏山ベース」というアウトドアセンターがあり、無料でフロアポンプを貸してくれたり、チューブの販売なども行っている。トラブルが起きがちな輪行でも、駅前にこういった施設があるというだけで安心の度合いは違うはず。

いきなり寄り道した黒茶屋「竹庵」いきなり寄り道した黒茶屋「竹庵」
さて、それでは気を取り直して出発。白く雪化粧が施された山々へと続く道を走っていく。私たちが目指すのは、秋川に点在するいくつかの滝、その中でも冬季にしか見ることの出来ない「氷瀑」となる払沢(ほっさわ)の滝だ。

大通りとなる檜原街道は除雪作業も進んでいるようだけれど、少し外れる裏道は積もっているところがたくさん。そろりそろりと走りつつ、裏道を繋いでいく。休耕中の田園地帯を秋川が貫いていく風景は、普段目にするコンクリートジャングルと同じ東京であると思えない情緒に満ちた眺望だ。

焼きたてのおやきが並べられています焼きたてのおやきが並べられています
せっかくだから小豆と白味噌の2種類をチョイス!せっかくだから小豆と白味噌の2種類をチョイス!
そんな景色を味わうのもつかの間、走り始めてもののの数分でピットイン。「もう休憩ですか?ちょっと早すぎません?」と不満げな表情をする藤原。だが、君はそのパワーメーターを装着するだけで強くなれると勘違いした機材マニア並みの浅い考えを5分以内に覆すことになるだろう。確信めいた予感を胸に足を向けたのは、あきる野市にこの店ありと言われた「黒茶屋」。その敷地内にあるおやき屋さん「竹庵」の開店時間を見計らった取材スケジュールを組んでいたのだ。

メカトラブルで遅れが発生していたにも関わらず、どうやらこの日最初のお客さんとなることに成功した様子。毎日このお店で焼き上げられていると言うおやきは全部で3種類。自分は一番オーソドックスな小豆を、藤原は白味噌餡をそれぞれチョイス。ちなみにもう一つはさつまいも餡。「取材なんだから、3つとも頼むべきでは?」という悪魔の囁きを振り払い、一人一つに収めた自制心を誰か褒めてはくれないか。今度さつまいも餡も食べにこよ。

水車の水しぶきでカチコチにコーティングされた木々が幻想的水車の水しぶきでカチコチにコーティングされた木々が幻想的
黒茶屋のおやきは長野などで食されるものとは少し趣が違い、平べったい薄皮饅頭のよう。薄い皮の中には餡子がぎゅっと詰まっている。「いや、これは止まる価値がありますよ!」と力説する藤原には5分前のセリフを聞かせてやりたい。

冷え込む朝の空気に包まれながら、あったかくてあまーいおやきを頬張っているだけで、なんともいえない幸せな気分がいっぱいだ。いつまでも浸っていたいところだけれど、そうそうのんびりもしていられない。ということで再び自転車へまたがることに。

森の中の裏道を走っていきます。交通量も少ないしいい感じ。森の中の裏道を走っていきます。交通量も少ないしいい感じ。 と思っていたら、微妙に道に迷うヤスオカ。ここがバス停だから……。と思っていたら、微妙に道に迷うヤスオカ。ここがバス停だから……。

林業用の作業トロッコを発見!林業用の作業トロッコを発見! 檜原街道の一本裏道をテレテレと走っていきます檜原街道の一本裏道をテレテレと走っていきます

この中にヤスオカがいます。浮かれた感じで。この中にヤスオカがいます。浮かれた感じで。 「うわ、滑ったー!」と楽しそうなフジワラ「うわ、滑ったー!」と楽しそうなフジワラ

青木平橋を渡って檜原街道へと戻る青木平橋を渡って檜原街道へと戻る 檜原街道へと戻るポイントは結構アドベンチャー感のある個所檜原街道へと戻るポイントは結構アドベンチャー感のある個所


檜原街道を渡り、一本山側のルートを辿る。適度なアップダウンが冷える身体に火を入れてくれる。白い息を吐きつつ、一路西へ。途中、雪が残っている箇所も登場し、スリップしたりするところもあるけれど、オフロードバイクでゆっくり走っているので、そんなに怖いわけではない。「おお、滑った!」なんて笑い合いつつ、秋川と絡み合うような細道を満喫する。

あきる野市の一番奥にかかっているという西青木平橋を渡り、檜原街道へ合流。少し走ると今日一つ目の滝となる「中山の滝」は近い。この辺りは何度も通っているけれど、こんなところに滝があるとは知らなかったという人も多いだろう。ちなみに私もその一人。「ここに滝なんてありましたっけ?」と心配そうなフジワラも同じ様子。

わずかな徴も見逃すまいぞとアンテナを張りつつ走っていると、道路脇に「中山の滝」と書かれた札が立てられているのを発見、無事に目的地を見つけられて一安心。滝までは遊歩道が整備されており、アプローチも良好のはずだが、この日ばかりは勝手が違った。一面雪に覆われており、気分はちょっとした雪山登山。

戦争で亡くなった兵隊さんの魂を祀る忠魂碑 中山の滝入り口の目印にもなっています戦争で亡くなった兵隊さんの魂を祀る忠魂碑 中山の滝入り口の目印にもなっています
完全にプチ雪山登山となっている中山の滝へのアプローチ完全にプチ雪山登山となっている中山の滝へのアプローチ
幸い、雪が積もってから幾人か先行者がいたようで、雪原の中に一本の踏み跡がついている。その通りに進んでいくが、トレッキングシューズの自分はともかく、ビンディングシューズを履く藤原はかなり苦戦している様子。50メートルほどの遊歩道の先に現れたのは滝と呼ぶには少しつつましやかな流れだ。

「ちょっと拍子抜けですね」とがっかりした様子の藤原。確かにここに至るまでの道のりに比べると少し肩透かし感があるのは否めない。数値的にも落差1mということで、実際そんなに大きな滝ではないのは事前に知っていたのだが、木材を秋川の流れに乗せて搬出していた時代では、この滝が最大の難所だったというのだから侮れない流れであることは間違いない。

大体、このライドのきっかけになった水漏れに比べれば圧倒的迫力である。文句を言える筋合いではまったくないし、この流れが天井から落ちてきたら編集部は壊滅すること必至だ。恐ろしい想像である一方、そんなことになったら、何年ぶりかの長期休暇となるのではないかだろうか?などと下らない妄想に浸りつつ、再び雪道を登り、檜原街道へと戻る。

右に見えるのが中山の滝 冬は寒そうだけど、夏は飛び込みたくなりそうな深みに注いでいました右に見えるのが中山の滝 冬は寒そうだけど、夏は飛び込みたくなりそうな深みに注いでいました
一歩足を滑らせればビショビショという危険を冒す、仕事だからね。一歩足を滑らせればビショビショという危険を冒す、仕事だからね。
「いつもこの辺りを走る時って、檜原街道を必死に走ってたので、こんなに色々あるとは思ってなかったですよ」なんて、既に満足気な藤原だが一番の大物はまだまだこれから。今回のメインディッシュである払沢の滝はもうすぐだ。この程度で満足していたら卒倒してしまうほど衝撃的な絶景が待ち受けているはず。白目をむいて気絶する後輩の姿を想像し失笑する自分に向けられる不審な目線に気づかないまま、目的地へと向かうのだった。

text:Naoki.Yasuoka
photo:Naoki.Yasuoka、Gakuto.Fujiwara