ピレネーの難関山岳が連なるクイーンステージ。総合の逆転をかけた闘いのステージで、逃げて輝いたのはステージ2勝目のヴォクレール。ユキヤも山岳でアシストし、その仕事っぷりを大いに披露した。

ポーの街には事件が待っている

昨夜フランク・シュレクの利尿促進剤検出というショッキングなニュースが入ったことで、休息日の緩んだ空気は再び張り詰めたものになった。フランクはBサンプルの再検査を要求。もしそれで陽性が確定するようなら、「誰かに禁止薬物の成分を盛られた」という”陰謀説”を主張する。

騒ぎを抑えるために警察が出動騒ぎを抑えるために警察が出動 (c)CorVosレディオシャック・ニッサンの宿泊するホテルを取り囲む報道陣レディオシャック・ニッサンの宿泊するホテルを取り囲む報道陣 (c)CorVos


フランクは過去にオペラシオン・プエルトの中心人物であるフエンテス医師に多額の送金をした事実があり、疑われたが「悪い関係」の立証はされなかったグレーな過去がある。イメージどおりのクリーンな選手とは言えない。スタートを迎えた朝、引き続きメディアはレディオシャックのバスと選手を囲む。有名選手のツール退去。選手たちの動揺も続いている。

思い起こせば今までドーピング関連のショックが襲うのは決まってポーの街だった。昨夜泊まっていた隣のホテルは、ミカエル・ラスムッセンがマイヨジョーヌを着たまま除外された騒動があったそのホテル。向かいの徒歩1分ホテルではアレクサンドル・ヴィノクロフの陽性が発覚した時の騒ぎが。つい夕方まで訪れていたユーロップカーのホテルは、クリスティアン・モレーニの陽性が発覚した時にコフィディスが泊まっていたホテルだった。

第11ステージ 山岳を上るフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)第11ステージ 山岳を上るフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン) photo:Makoto.Ayano利尿剤が検出されたフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン、写真は第1ステージ)利尿剤が検出されたフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン、写真は第1ステージ) photo:Makoto.Ayano


そのすべての騒動のときに現場に居合わせたが、今回のフランクの件もクルマで3分の距離のホテル。昨夜は遅くまでレディオシャックのホテルに報道陣が大勢つめかけているという話だったが、そこに行っても何も言えないプレス担当者を大勢でラッシュのごとく取り囲む写真を撮るだけ。公式発表以上のことはないので今回はスルーさせていただいた。それにしてもなぜ同じ街で同じことが繰り返すのか?それが知りたい。


苦手なはずの山岳でアシスト! ヴォクレールの2勝目に貢献したユキヤ

今日もバスの中で長に長いミーティングを行ったユーロップカー。バスから出てこず、スタート15分前に出発しなければならないプレスたちも話は聞けず。休養日のインタビューで「山は登れない」と話していたユキヤが、エースのヴォクレールとともに逃げグループに入って超級オービスク峠へと向かってるというラジオツールの第1報はサプライズだった。

今大会のクイーンステージに挑む選手たち今大会のクイーンステージに挑む選手たち photo:Makoto Ayano

エースのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)のため、山岳で逃げ集団を率いる新城幸也(ユーロップカー)エースのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)のため、山岳で逃げ集団を率いる新城幸也(ユーロップカー) (c)CorVosツールの勝負所として不可欠なピレネー山脈。難易度の高い数々の峠を擁する山脈にあって、畏怖の対象となる悪名高き4つの峠、オービスク、ツールマレー、アスパン、ペイルスルドをつなぐルート“Circle of Death”。このステージのすべて峠を、ヴォクレールは19歳のときから走り、下見が必要ないほど知り尽くしていたという。

逃げグループ内で登りをこなす新城幸也(ユーロップカー)逃げグループ内で登りをこなす新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoオービスク頂上手前2km、ヴォクレールが「誰の飛び出しも許さない」という意志を表しながら、集中した表情で逃げ集団の先頭に位置して登ってきた。ユキヤは勾配の厳しい区間で苦しい表情を浮かべながら走る。いつもなら路肩のカメラに必ずする合図も、この時はなかった。集中していて気づかなかったのかもしれない(いつもはこちらがどこにいても見つける)。

暑くなったこの日。頂上付近にいても真夏の下界と変わらない熱気だ。ユキヤの顔からも汗が滴り落ちるのが分かる。

オービスク頂上手前ではユキヤがヴォクレールをアシストして牽引。ポイント獲得につなげた。山を登れないユキヤが難関山岳のクイーンステージで仕事をしている。そして下界へと下ってからも、逃げ集団からアタックがかかると、ヴォクレールの指示でユキヤがそれを捕まえに行く役割を果たしたという。


パンチャー以上のグランペール ヴォクレール「4つの頂上それぞれがレースだった」

逃げグループを率いるトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)逃げグループを率いるトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoスペインはバスクに近いピレネー山脈。スペイン人の活躍は少ないが、多くの観客でごった返した。とくに最後のペイルスルド峠は人垣が何重にもできた。しかし各国応援団もそれぞれの旗を翻して主張する。日本人にも2組会った。ユキヤの働きとヴォクレールの逃げをラジオで聞いて、ユーロップカー応援団もごきげんだ。

3つの頂上でポイントを獲得し、ブリース・フェイユ(フランス、ソール・ソジャサン)を振り切って、鬼気迫る表情で独走したヴォイクレール。ルションに下る前に十分なタイム差をもって先頭通過し、結果山岳ジャージ”マイヨ・アポア”とステージ優勝の両方を手に入れた。もはやパンチャー以上のグランペール(クライマー)。近年のツールで魅せる連続パフォーマンスはファンのハートを虜にする。

独走で1級山岳ペイルスルド峠を駆け上がるトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)独走で1級山岳ペイルスルド峠を駆け上がるトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayano

ユキヤは苦手な山岳で働いても大きくは遅れず、グルペットの前の集団で22分遅れでゴールした。それはちょうどヴォクレールが表彰を受けているとき。ヴォクレールは表彰の途中で壇上から降り、ユキヤに向かって親指を立てて「ユキ!」と叫んだという。ゴール後すぐのインタビューでもユキヤの働きに真っ先に触れた。

ヴォクレールは言う「今朝の目標は山岳賞のためのポイントを取ることだった。フェイユには『僕は山岳賞ポイントを狙う』と言ったけど、それはステージ優勝を狙わないという意味ではないよ。4つの峠はそれぞれ4つのレースのように走った。第1週にタイム差がついていたことで集団は逃げを容認してくれたんだろう」

独走でゴールするトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)独走でゴールするトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Cor Vosマイヨアポワに袖を通すトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)マイヨアポワに袖を通すトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Cor Vos


「今日成し遂げたことはとても誇りに思う。小さな頃からテレビで観ていたような、まさに僕の好きなタイプの自転車レースだった。今日はできる限り回復に努めるよ。とっても長いマッサージが必要だね。そして、明日も全力を尽くしてやるだけ」。

ゴール後すぐに小さめのワゴンに分乗して、国境の峠を越えてスペインの宿へと急行するユーロップカー。ユキヤのコメントをもらう時間はなかった。


ウィギンズ「ニーバリのアタックは予想していた」

集団をコントロールするチームスカイ。ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)は常に集団前方に集団をコントロールするチームスカイ。ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)は常に集団前方に photo:Makoto.Ayanoリクイガス・キャノンデール、とりわけイヴァン・バッソの引きによって多くの有力選手が次々と遅れていった。そのなかにはカデル・エヴァンスの姿も。エヴァンスの脱落によってもはやポディウム争いは3人に絞られた。峠手前でのニーバリの数度のアタック。しかしウィギンズとフルームの追走はこれを許さなかった。

1級山岳ペイルスルド峠で攻撃に出たヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)1級山岳ペイルスルド峠で攻撃に出たヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto Ayano予想されたニーバリのダウンヒルのアタックもなく、ライバルたちのアタックを完全に封じ込めた。これで難関山岳の2つのうちのひとつは終わった。チームスカイにとってシャンゼリゼは大きく近づいた。

ニーバリは言う「3、4回も加速したけど、ふたりはついてきた。下りはアタックに適していると思えなかったのでアタックはやめたんだ。今日のスカイは強すぎた。僕はポディウムを目指す。そして明日はステージ優勝を狙いたい。でもそのドアをあけることは難しそうだ」。

ヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)の動きを封じるブラドレー・ウィギンズヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)の動きを封じるブラドレー・ウィギンズ photo:Cor Vosウィギンズは言う「ニーバリのアタックは予想していたものだったから、フルームと僕のふたりはまったく問題なく対処した。彼はポディウムを本当に欲しがっているようだ。最後のタイムトライアルの前にカデルにタイムをつけられる。そのために集中していて、カデルをできるだけ離しておきたかったんだろう」。

フルームは言う「心配はしなかった。ニーバリのアタックは長い日の最後にきつかったことは確か。でも僕とブラッドは、彼が何処へも行けないことを知っていた。僕らはとても楽だったよ。ニーバリはこれで3位を確実にした。彼にとってはライバルたちの脱落は良かったね。彼はそのままポディウムが欲しいだろう。後は僕らと協力して最後までそのままいけるようにするのがいいと、僕らは思うよ」。

完璧な防衛を果たしたチームスカイ。ウィギンズはこの日に備えた準備について話す。「今日の走りこそ、これまで準備し、トレーニングしてきたものだった。この第3週に必要とする走りに備えてきたんだ。それこそが僕らをツールのベストライダーにしている。一年中、この日のための用意をしてきたんだ。支えるスタッフも、ゴール後に受け取る補給ひとつにも、細かなことさえ、この3週間のためには疎かにしていないんだ」。

「やり遂げた」。クイーンステージを乗り越えたことで勝利を確信しているショーン・イェーツ監督は大きく息をついて続ける。「今日は誰もが大きな痛みを感じていたと思う。しかし我々にとっては思いどおりことが運んだ。たぶんこれがもっともタフなステージだったろう。予定通り乗り切ったことがチームにとっては今日の大きな業績だ」。


「僕のツールは終わり」スタート前に胃の不調に陥ったエヴァンス

メイン集団から遅れるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)メイン集団から遅れるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Makoto.Ayanoフルームとウィギンズに約4分の差をつけられてしまったエヴァンス。総合は8分6秒遅れで、マイヨジョーヌどころかポディウムさえ遠のいてしまった。ゴール後、失意のままに「僕のツールは終わった」と打ち明けた。エヴァンスはこの日、スタート2時間前になって急に胃の調子が悪くなり、その影響が走りに出たという。「スタート2時間前にそうなって、2時間でできることは多くなかった。レースに影響はないと思っていたのに、走り出したらそうじゃなかった」。

チームメイトに囲まれてゴールを切るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)チームメイトに囲まれてゴールを切るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:CorVos明日からは総合を諦め、ステージ優勝狙いに転じる?
「今の遅れが、自由に逃がしてくれるほどのタイム差なのかはわからない。楽観的にいきたいけど、現実的にもならなきゃいけない。今年はうまく行かなかった。シーズンはまだ終わりじゃ無いけど、ジョージ(ヒンカピー)へあげたかったリタイアのプレゼントは無理になったね」。

BMCの次なる希望はティージェイ・ヴァンガーデレンだ。遅れたエヴァンスを見切った監督からは自由が与えられた。ルランゲ監督は言う。「悪い日だった。チームで対処しようとしたが難しかった。2人の選手を逃げに乗せ、カデルが追いついた時にサポートして勝利を目指すシナリオだった...。アスパン峠で早くもカデルが苦しんでいるのをみて、ティージェイにはトップ10とホワイトジャージを目指す走りをさせることにした。」

マイヨ・ブランを着るティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)マイヨ・ブランを着るティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム) photo:Makoto.Ayanoチームとしての敗北宣言だ。

「これで終わりだ。今日のステージはカデルが何かできる最後の大きな山岳だった」。

ヴァンガーデレンは言う「カデルにとってはもう表彰台を狙うのが無理なタイム差がついてしまったけれど、僕自身にとっては今日は思っていたよりもいい走りができたから、満足しているんだ。これからは他の目標、逃げてのステージ優勝を狙うことが目標になるね。ホワイトジャージを守ることと、総合トップ10に2人がいることも絶対に守ることが必要だ。カデルはまだ僕の11秒遅れにいるから、共同リーダーになると思う。明日ひっくり返すことも容易いし、予想したくないけど僕が急に”悪い日”になる可能性もあるんだ」。


シャンゼリゼを待つカヴとグライペルの根競べ
グルペットで峠をクリアするマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)グルペットで峠をクリアするマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto.Ayano
シャンゼリゼが待つ最終ステージに向けて闘っているのがカヴェンデュッシュとグライペルだ。チームスカイは最終ステージをカヴを勝たせるために走ることを表明している。グライペルももちろん4勝目を飾りたい。

オービスクで遅れ最終走者になったグライペルは、この日一日中をこの定位置で走り続けた。カヴはアイゼルがペースを作るグルペットでルションを目指した。厳しい山岳の連続に加え、今大会で最も暑い日がふたりを苦しめた。カヴはツィッターで「今日のステージは眺めが良かったけど、最後の方はただ吐くだけだった。”山+暑さ=苦しさ”だ」。とつぶやいている。


photo&text:Makoto.AYANO
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著者: セルジュ ラジェ, ルーク・エドワード エヴァンス
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