スペシャライズドの誇るピュアレーシングマシンがこのターマックだ。2012年モデルとしてデビューを果たしたSL4は、それまでのターマックシリーズの血筋を受け継ぐ、全く新しいレーシングロードバイクへと進化した。今回のインプレッションでは、そのSL4の細部にまで迫っていく。

スペシャライズド S-Works ターマックSL4スペシャライズド S-Works ターマックSL4 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

近年のプロレース界における、スペシャライズド製バイクの存在感はもはや圧倒的と言って良いだろう。クラシックから世界選手権、グランツアーのタイトルに至るまであらゆるジャンルのレースで勝利を重ね、2012年シーズンは18チーム中3チームが同ブランドからバイクの供給を受ける。春先のレースでスペシャライズドを駆るトム・ボーネンらが大いに活躍したことも記憶に新しい。

その中ほぼ全ての勝利に貢献してきたバイクが、スペシャライズドが誇るピュアレーシングマシン"ターマック"である。レースて勝つことのみに着目したアルミ製の初代ターマックが誕生したのは2003年のこと。以来性能を煮詰め、素材を変更し、モデルチェンジを重ねてきた。そして2011年のツール・ド・フランスに合わせて発表されたのが、今回テストを行う「ターマック SL4」である。

BBに向かうにつれて太くなるシートチューブBBに向かうにつれて太くなるシートチューブ SL3よりも細くなったくびれを持つヘッドチューブSL3よりも細くなったくびれを持つヘッドチューブ 細身ながら高い剛性を持つストレート形状のフロントフォーク細身ながら高い剛性を持つストレート形状のフロントフォーク


SL4の開発テーマは、ねじれ剛性とBB剛性の向上、そして軽量化を追求しながらハンドリングと良質のライドフィールを求めること。VENGE(ヴェンジ)がスプリンター向きの味付けならば、ターマックSL4は上りをはじめとするオールラウンドな性能が与えられている。

そのテーマを達成するために採用されたカーボン素材は、スペシャライズドオリジナルのFACT IS 11R。これをヘッド/トップ/ダウンチューブ、シートチューブ、シートステー、BB一体型チェーンステーの4つのモジュールとして製造して接合する「FACT IS」プロセスをSL3より継承する。

SL3から進化した一番のポイントは、「テーパードヘッドチューブ」だろう。ヘッドに向けてワイドになるダウンチューブとトップチューブがヘッドチューブとなめらかに繋がることでジョイント部分の強度を高めることに成功。そのためクラウン径1-3/8”にまでにヘッドチューブを細くでき、大きな重量削減に成功したという。

ヘッド周りは全て滑かな曲線で構成されているヘッド周りは全て滑かな曲線で構成されている ヘッドチューブを包み込む形状のヘッド、ダウンチューブヘッドチューブを包み込む形状のヘッド、ダウンチューブ


チューブ集合部の造作チューブ集合部の造作 ボリューム感のある、チェーンステーと一体成型のBB周りボリューム感のある、チェーンステーと一体成型のBB周り


加えてヘッドチューブとBBの内部に設けられたリブ加工や、中空のカーボン製となったフロントとリアのドロップアウトなど、強大な剛性を確保しつつも軽量化に貢献し、機敏なハンドリングと効率性をも生み出すという。前後のドロップアウトに組み込まれたスチール製のインサートは、プロレースでよく見受けられる少々手荒なホイール交換に対しても耐久性を持たせるためだろう。

フロントフォークはフルモノコックのストレートデザイン。SL3ではベンド形状のフロントフォークが採用されていたが、これもやはりレーシング性能を向上させるための選択だ。

前三角に比べてスマートなリア周り前三角に比べてスマートなリア周り ケーブルは全て内蔵工作が施されるケーブルは全て内蔵工作が施される


FACT IS製法を用いて作られるSL4は、ボトムブラケットからリアドロップアウトに至るまで継ぎ目が存在しない。そのため極端なペダリング負荷がかかるシチュエーションにおいてもたわみを防ぎ、ロスの無いパワー伝達や加速性の向上が図られた。

ブレーキブリッジ部分をワイド化するトライアンギュレイテッド・シートステーを採用し、ブレーキングにおける性能を向上させ、フレーム後方全体の横方向に対する剛性もアップしている。その他細かい部分も見逃せない。SL3では外出しとなっていたケーブル類が全てフレーム内蔵処理となり、雨や汚れからガードすることでブレーキ、シフト性能を保証。ケーブルルーティングもコンポーネントの性能を損なわないよう配慮がされている。

ブレーキブリッジ部分をワイド化するトライアンギュレイテッド・シートステーブレーキブリッジ部分をワイド化するトライアンギュレイテッド・シートステー シートポストもSL3に比べて進化を遂げているシートポストもSL3に比べて進化を遂げている 比較的スッキリとした印象を持たせるリアトライアングル比較的スッキリとした印象を持たせるリアトライアングル


そうして各部に至るまでブラッシュアップが重ねられたSL4は、SL3から57gの軽量化を果たすことに成功。その重量剛性比はSL3を19%も上回り、他ブランドの市販バイクと比較しても最大値をマークしているという。

まさにレースに勝利することのみに焦点を当てて開発されたピュアレーシングマシンがこのSL4というわけだ。二名のインプレライダーはどのような感想を抱いたのだろうか。早速インプレッションをお届けしよう。





―インプレッション

「非常にタフで力強さを感じるレーシングバイク」鈴木祐一(Rise Ride)


「非常にタフで力強さを感じるレーシングバイク」鈴木祐一「非常にタフで力強さを感じるレーシングバイク」鈴木祐一 バイクの特徴を一言で表すならば、非常にタフで力強さを感じるマシンです。特にヘッドチューブを含めたフレームの前三角の部分に剛性の強さを感じ、その力強さがこの自転車を表現している感じを受けます。

ヘッド周りが非常に硬く、ハンドリングにおいても力強さを感じます。そのためスプリント中のヘッド〜ハンドルのよじれ感は限りなくゼロに近いと言って良いでしょう。サスペンションが付いているような安定感ではなく、ブレない剛性の強さから安定性を生み出しているため、下りの荒れたコーナーでもスッと曲がってくれます。こういった安定性の求め方もあるんだな、と私自身このバイクに乗って改めて感じました。

ロードバイクとしての設計そのものは安定志向に振られていると思いますが、その分フレーム自体の硬さだったり、軽量さで軽快感を出しているイメージです。トータルで上手にパワーを推進力へと変換していくバランスが取られていると思います。

全体的には硬くできているフレームですが、フォークや後ろ三角の先端部分で細かくショックを吸収してくれ、そこにスペシャライズドの設計やテーマ設定の上手さを感じることができます。路面からの突き上げによる嫌な振動は巧みにカットされています。

フレームに力強さがありますので、ヒルクライムでもクランクがロス無くクルクルと気持よく回ってくれる感覚があり、これが非常に面白い。単純に硬いだけだと踏み込んだ脚が弾かれてしまう感覚がありますが、それがありません。弾かれてロスになってしまう衝撃のみを吸収してくれるような感を受けました。

ターマックシリーズもモデルチェンジを重ねてきましたが、それに連れて剛性が上がってきていると思います。そして単に硬いだけでは無く、推進力へと繋げる技術にもフォーカスして進化を遂げてきていると思います。

一般的にはカタログ上の数値を軽くしたり、重量剛性比の数値を上げればアイキャッチとしても良いし、分かりやすいのですが、それを前に進める伝達能力が伴わなければいくらハイスペックなバイクでも無駄になってしまいますよね。「フレームの強・弱」の「弱」という力を逃がす部分を上手に設計することによって、「強」が生きてきます。そんな設計思想をイメージさせるバイクでした。

ターゲットユーザーは完全にレーサーですね。それもかなり頑張る人に向いているでしょう。剛性の高いフレームですので、やはり短・中距離系のレースで走らせると、よりフレームの味付けを活かすことができます。

もちろんコースに合わせたホイールを選択するのが前提ですが、バイク自体やハンドリングは安定していますので、外周部の軽いリムハイトの低いホイールを履かせれば、クイックに振りやすく、ヘッドを含めた前三角の剛性の高さをより活かすことができるでしょう。


「SL3から確実に進化したレーシング性能を味わえるマシン」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


「SL3から確実に進化したレーシング性能を味わえるマシン」戸津井俊介「SL3から確実に進化したレーシング性能を味わえるマシン」戸津井俊介 乗ってみてすぐ、全てが如何にして速く走るかを追求したレーサーバイクとして完成されたマシンという印象を受けました。具体的にポイントを挙げると、ペダリングしたパワーを余すこと無くスピードに変換する推進力と、思い通りの走行ラインを取るべく確保された剛性感でしょう。

スペシャライズドがレーシングモデルの頂点としてラインナップするターマックは、私自身良い印象があって何台か乗っているモデルです。プロ選手の使用率も非常に高く、レースを走らせるマシンという印象がありますよね。そのためレースを意識する一般ユーザーにとってチョイスしやすいと思います。

現在のバイク市場の中で見ればもの凄いボリューム感こそありませんが、細身のリアバックに対してダウンチューブやヘッドチューブは大口径化されているなど、ルックス上のメリハリもあって迫力を感じますね。

乗り味として、他ブランドのハイエンドモデルが薄皮な印象を受けるのに対して、SL4は芯がしっかりして、軽量マシンながら無駄なねじれやよじれは一切無く、どっしりとした雰囲気を感じます。フレーム先端で路面からの振動を収束させていて、必要以上の不快な衝撃が身体に伝わって来ませんでした。長距離のレースではいかに体力をセーブするかが問われますので、その点をしっかりと捉えて設計してある印象を持ちました。SL3に対して確実に進化していると感じることができますね。

ただ、ペダリングがしっかりとできていないとフレームに弾かれてしまうことがあると思います。そうすると疲れやすいですし、ロスも多く出てきてしまい、脚の売り切れ状態になるタイミングが早くなってしまうでしょう。このバイクを乗りこなすためには、ある程度の脚力とペダリングスキルが必要です。

剛性が高いため上りでもしっかりと進んでくれますが、インナーでクルクル回しているとバイクに「ギアをかけて高速で走りなさい」と言われているような感じがしますし、そうしたくなる衝動に駆られるバイクです。

下りに関しても同じことがいえます。高速でコーナーに突っ込んでいっても安定感があって、かなりの余裕を感じることができました。この性能をもし使い切ることがあれば、それは相当スキルのあるライダーと言えると思います。速く走ろうと思えば思うほど応えてくれるバイクですし、何台か乗り継いできた方でもレーシング性能に不満が出ることはないでしょう。

スペシャライズド S-Works ターマックSL4スペシャライズド S-Works ターマックSL4 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
スペシャライズド S-Works ターマックSL4完成車
フレーム:S-Works SL4 FACT 11r, FACT IS construction, compact race design, 1-3/8" lower bearing, carbon OSBB
フォーク:S-Works SL4 FACT 11r, FACT IS construction, compact race design, 1-3/8" lower bearing, carbon OSBB
ヘッドセット:1-1/8" upper and 1-3/8" lower Cr-Mo cartridge bearings, w/ 8mm carbon cone spacer and 20mm of carbon spacers
ステム・ハンドル:S-Works Tarmac carbon
コンポーネント:シマノ・デュラエース
クランクセット:S-Works FACT carbon
B B:OS integrated, ceramic bearings
ホイール:Roval Fusee SLX
タイヤ:S-Works Turbo
価 格:850,000円(税込)



インプレライダーのプロフィール


戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
OVER-DOバイカーズサポート


鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:PISSEI

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
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著者: スポーツ
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