北京パラリンピックでは、石井雅史の男子1kmTT(障害クラスCP4)の金をはじめとする6つのメダルを獲得したパラサイクリング日本チーム。その実質的なチームマネージャーとして、チームを長年裏から支え、牽引してきたのが、JCAD(日本障害者自転車協会)で強化・国際担当を務める栗原朗理事(43)だ。

栗原朗JCAD理事栗原朗JCAD理事 photo: Yuko SATOIPC(国際パラリンピック委員会)からUCI(国際自転車競技連盟)へ、その統括権が移管され、高い競技性を持つシビアな戦いへと、急激に変貌しつつあるパラサイクリングの世界。「我々のチームは、障害者スポーツではなく自転車競技をやっていると考えています。単純に『障害者なのにすごいね』と賞賛するだけでは、世界のトップを目指すアスリートのプラスにはならない。強化にはもはや我々“一般人”だけでの対応は無理。健常者ナショナルチームレベルの、自転車競技のプロが必要と考えます。」

 09年シーズンを前にJPC(日本パラリンピック委員会)が行った、選手強化研修会などでの講演内容をベースに、「パラサイクリング日本チームのマネジメント」という、もうひとつの北京までの戦いの歩みとチームのこれからを、栗原理事に聞いた。
(記事中敬称略)

インタビュアー:佐藤有子/フォトジャーナリスト。2006、07年のパラサイクリング世界選手権及び08年北京パラリンピックにて、UCIオフィシャルフォトグラファーを務める



【1】チームの目的は「世界で勝つこと」



■目的意識を徹底

――北京パラリンピックでは、日本選手団のメダル獲得数27のうち、自転車で獲得したメダルは6。JPC(日本パラリンピック委員会)が昨年11月に大阪、今年1月に東京で行った「選手強化についての合同研修会」で、栗原さんは自転車チームの金メダルへの取り組みについて、講演者の一人を務められました。JCADでは普及なども計画されておられると思いますが、今日は「パラサイクリング日本代表チームの強化」という内容に絞って、お話をお伺いします。

栗原「私などがこんなところでお話してよろしいのかどうか…。初めに、パラサイクリングに興味を持ってくださる皆様に、お礼申し上げたいと思います。強化についてですが、普及やレクリエーションの場では別にいいのですが、パラリンピックや世界選手権クラスの国際大会での『強い日本』『強化』という視点の話であれば、それなりの姿勢で挑まないと何をしに行くのかわからなくなります。他の障害者競技団体はどうかわかりませんが、戦っていい成果をあげることがチームの目的だと、我々は、非常にシビアな考えを持っています。国際大会が、誰でも参加できる『国際交流の場』というような時代ではもうなく、現在のパラサイクリングの厳しい国際競争の中で、目的に合う選手しか代表になれないということは、理解していただかなければ、と思います。」

――まず結果、ということですね。

栗原「障害者なんだから頑張ることが大切で結果は二の次…とは全く思っていません。必死に努力するのは、障害があってもなくても、福祉関係者だろうとビジネスマンだろうと、当り前のことなんじゃないか、と思っています。障害者だけでなく健常者だって、みんな努力してやってきているんです。障害者は何でも人にしてもらって当然ということではなく、できることは自分たちでやり、本当にできない部分を、プロに助けていただく。ということです。」

――やってもらって当然、ではないと。

栗原「結果を出して、サポートしてくださった方に恩返しすることが大事。五輪選手像と同じように、自転車界に貢献していくという姿を目指しています。それが我々パラサイクリング日本チームのスタンスです。」


 

【2】チームの柱は「選手、スタッフ、理解と支援」



■個人競技だからこそチームが重要

――パラリンピック北京大会での自転車日本チームは、チームとしてきちんと機能していて素晴らしかった、チームの勝利、と高く評価されていますが。

栗原「アテネ大会では反省ばかりでした。日本チームが、チームとして全く機能していませんでした。ばらばらで、規律もチームスピリットも欠如し、選手同士の影響がマイナスに働いてしまった面も多くありました。結果がいまひとつなのも明らかです。その反省から、北京、ロンドンに向けて、いい日本チームを作りたいと、2005年の暮れ頃から準備を始めました。個人競技だからこそ、チームとしての結束が必要になってきます。」

――厳しい反省ですね。チームづくりの基本の考え方は、どんなことでしょうか。

栗原「アテネの反省から、チームの強化では、3つを柱に置きました。1つ目は選手。それも強くて立派な選手です。選手は宝で、大切なものです。そして、一つのクラブチームや障害者施設、一つの障害カテゴリーや、一つの種目だけに偏らないようにと考えました。」

――バランス良くということですね。

「それから、選手に大事なのは、チームスピリットの浸透です。国のチームとして参加するのに、ジャパンとしての規律やチームスピリットが欠如していては勝てない。全体に貢献する、他の選手にプラスになるようにという意識がないと成り立っていかない。
 早稲田大学の原田宗彦先生が『個人競技だからこそ、チームスピリットが必要』という話をされていて感銘を受けたのですが、その通り、いいチームでは選手の相乗効果で、選ばれた選手の多くを強くすることができます。」

――過去のいわば「個人の集まり」的なチームでは、それぞれが譲れない気持ちで競技に取り組んでいく中で、さまざまな人間関係の難しさもあったと思います。そういった部分での消耗を避け、競技に集中できるということは大きそうですね。

栗原「そして、経済面でも、選手が練習や競技に集中できる環境を心がけました。お金の心配はできるだけ軽くして、競技に集中してもらいたいですから。」

――具体的にはどんなことを?

栗原「JPCの補助金や、支援のお願いにお送りいただいたものを原資に、JCADで代表強化合宿費用を可能な限り負担しています。また、物品のサポートもいただいています。OGK KABUTOさんからヘルメット、Vittoria Japanさんからタイヤ、ダイナソアさんからウオームアップ・スタート・リカバリオイルなどなどです。非常に助かっており、感謝しています。
 選手のほとんどは他に仕事を持つアマチュアです。また、よく誤解されるのですが、多くの日本の障害者スポーツ競技団体同様、JCADにも有給や専従のスタッフはいません。」

――強化、国際を担当される栗原さんも、本業は技術職のフルタイムワーカーで、時間とお金をやりくりして活動しておられますね。私費の投入も相当あるようにうかがっています。アテネの後は、体調を崩して入院されていましたし…。

栗原「そういうこともあり、少々お休みさせていただいた時期もありました。」

――この頃は、心身ともに、また経済的にも大変だったこととご推察します。
 シドニー大会終了以降は、IPC、そしてパラリンピック大会自体のスタンスが、五輪同様のエリートアスリートの大会へと方向転換してゆき、自転車だけでなくそれぞれの障害者スポーツ競技団体が、より高い競技性への対応や、目標の再構築を迫られていた時期だったと思います。
 サポートも徐々に、選手の家族や知人の余暇や無償で対応できるレベルではなくなっていった。結果を問わずチームの選手すべてに公平な善意を求めることも、徐々に難しくなっていった。必死の頑張りが必ずしも思うような結果に結びつかない…そんなアテネ大会の頃の厳しい現実を経て、チームのありかたは大きく変わっていきましたね。

男子1kmTT[障害クラスCP4]で世界新をマークした石井雅史(2008.9.9、北京、老山ベロドローム)男子1kmTT[障害クラスCP4]で世界新をマークした石井雅史(2008.9.9、北京、老山ベロドローム) photo: Yuko SATO/UCI栗原「チームには、日の丸を背負うにふさわしい選手、メダルを獲れそう、悪くてもベスト8に行けそうな選手、チームとして公正円滑な運営を尊重できるチームスピリットのある選手を、と考えます。選手もスタッフも、日本代表にふさわしい方以外は選ばないというスタンスです。我々は競技専業ではなく仕事を別に持っていますので、本来すべきこと以外の問題に時間をとられるのは避けたいのです。そのあたりは割り切っていかないといけないと思っています。
 我々は、障害者スポーツという意識ではなく、健常者のエリートチーム、五輪チームをモデルとして見習い、我々の意識、価値を高めることを目指しています。」

――チーム作りの柱の一つ目は選手ですね。そして柱の二つ目は。
<vol.2に続く>

text:佐藤有子/Yuko SATO