ツール・ド・フランスを始め、世界中の様々なロードレースでニュートラルサポートを行うMAVIC(マヴィック)。マヴィックイエローにペイントされた車やバイクが選手たちと一緒にコースを駆け抜ける姿は、レースの一部として、おなじみの光景だ。

マヴィックイエローのスバル・レガシィ ニュートラルサポートカーマヴィックイエローのスバル・レガシィ ニュートラルサポートカー (c)Makoto.AYANO

10月23日に行われたジャパンカップにて、マヴィックブランドを展開するアメアスポーツジャパンおよびマヴィックカーを提供するスバルの「富士重工業」の両社のご厚意により、ジャパンカップに随行するマヴィックカーに同乗する貴重な機会を頂くことができた。新人CW編集スタッフの磯部聡(いそべ・そう)が、その体験をレポートします。

国内外のトッププロがしのぎを削るこのレース。どれだけのスピードで駆け抜けるのか、またレース中どのような役割を担っているのか。そして何より、プロの下りに合わせて走るクルマのGに耐えられるのか? マヴィックカーに同乗という、めったに無い機会を前に、不安と期待が入り混じった気持ちで当日を迎えた。

ジャパンカップでのマヴィック・ニュートラルサポートはスバル・レガシィ、モト2台、関係スタッフ8人体制ジャパンカップでのマヴィック・ニュートラルサポートはスバル・レガシィ、モト2台、関係スタッフ8人体制 (c)Makoto.AYANO

ウェットコンディションで行われたレース

朝、慌ただしく、しかし手際よくホイールを積み込んでいくマヴィックのスタッフたち朝、慌ただしく、しかし手際よくホイールを積み込んでいくマヴィックのスタッフたち 10月23日。迎えた日曜日は曇りながら、金曜日の夜から降り続いた雨により路面はウェット。
基本的にホイール交換は各チームカーが担当するが、レース展開においてチームカーが近くにいない場合、ニュートラルサポートの出番となる。濡れた路面はスリップやパンクを誘発しやすく、スタートに向けておのずとスタッフの間にも緊張感が高まっているように感じられた。

スタート前、マヴィックに車両のスバル・レガシィを提供している富士重工業・広報部の渡邉聡夫さんにお話を伺った。ジャパンカップの冠に「スバル・レガシィ プレゼンツ」がつくとおり、富士重工業はジャパンカップのオフィシャルスポンサーでもある。

心配いっぱいに乗りこんだ磯部聡(CW編集部)だったが...心配いっぱいに乗りこんだ磯部聡(CW編集部)だったが... 渡邉さん「純粋なモータースポーツと違い、ロードレースに随行する車にはホイールやバイクを乗せるための積載性、長時間乗車のための快適性、また激しいレースの展開に対応できる高い基本性能が必要とされます。これはまさにスバルが追い求めている事であり、絶対に譲れないポイントでもあります。
また、自転車をクルマに載せて遠くへ出かけるといった"旅"のイメージもスバルの得意とするところであり、自転車ユーザーとスバルが求めるものが合致すると考え、ロードレースのサポートを行っています。私たちのクルマの乗り心地を楽しんでください」。

にっこりと笑う渡邉さんの表情に、たっぷりの自信が感じられた。

ジャパンカップでのマヴィック・ニュートラルサポートは、スバル・レガシィ1台と、モト2台、関係スタッフ8人体制だという。思った以上の大所帯に驚きつつ、集まったスタッフたちの凛々しい姿に、なんとも言えない頼もしさを感じた。なお、そのなかで実際に車両に乗り込むSSC(スペシャルサービスコース)メンバーは6名。地上のディレクターの村上さんを含めた8名となっている。マヴィックカーは他にスバル・エクシーガが1台(今回はゲストカーとなる)走る。

合図を交わしてコースへと出ていく清水裕輔さん。真剣な表情、張り詰めた空気が流れる合図を交わしてコースへと出ていく清水裕輔さん。真剣な表情、張り詰めた空気が流れる そしていよいよレースがスタート。激戦の火ぶたが切って落とされた。
猛然とスタートアタックをかける選手と、アクセル全開で発進していくサポートカー。その先頭で黄色いマヴィックカーが一足先にスタートした。
今回ドライブを担当するのはマヴィックの清水裕輔さん。かつてブリヂストン・アンカーなどに所属し、国内外のレースで活躍した輝かしい実績を持つ元選手だ。ジャパンカップでも2003年のオープンレースで勝利している。そして後部座席にはメカニックの園田賢さんが座る。園田さんはホイールを手にすぐに飛び出せる体制で備えるのだ。

清水さんが言う。
―「昨日も言いましたけど、酔い止め飲みましたか?」
「わ、忘れました・・・。」

乗車してまず驚いたのが、ラジオツール、つまり無線でのやり取りの多さ。もう一台のマヴィックカーやモトなどと、絶えずレース展開や逃げとメイン集団とのタイム差などをやり取りしている。
オフィシャルの情報だけではカバーしきれないこともあるため、独自の情報収集を欠かさない。
「釣り堀通過。3・2・1・チェック!」「チェック!」

古賀志林道の頂上へ。「マヴィックカー頑張れ!」の声援を浴びて、嬉しくなってしまう古賀志林道の頂上へ。「マヴィックカー頑張れ!」の声援を浴びて、嬉しくなってしまう

大観衆をかきわけるかのような古賀志林道の上り。後ろからやって来る選手との間隔を計りながら、観客の声援に応えるようにクラクションを鳴らし、手を振る。レースの盛り上げにも一役買っているのだ。
「レースの風物詩のようなものですから。これも重要な役目です。」とは清水さん。

8人の逃げ集団の後方に着く。もちろん選手ごとのスプロケットの違いを把握しながら8人の逃げ集団の後方に着く。もちろん選手ごとのスプロケットの違いを把握しながら 古賀志林道のつづら折れの激坂もパワフルに登っていく古賀志林道のつづら折れの激坂もパワフルに登っていく

息もつかせぬ急勾配の続く上りでも、ペースは20km/hほど。速い。さすがは世界トップクラスのメンバーである。

山頂を通過しコースは下りに転じる。古賀志の下りは立ち入り禁止エリアであるため、観客の姿はない。先程までの光景とは一変し、静かな林と曲がりくねったコーナーだけが続く。
そのダウンヒルを、後続の選手たちから逃げるように猛然と下る。

どれだけ揺さぶられてしまうかと覚悟したが、いたってスムーズである。スリッピーな路面を相当なスピードで下っているのだが、スキール音の一つも聞こえない。清水さんの運転も上手いのに加え、路面に食いつくようなレガシィの性能の高さに驚いた。

昨年ジャパンカップに参戦したデニス・ガリムジャノフ(ロシア・カチューシャ)が、「スバルは僕のドリームカーだ」と言っていたのが何となく分かったような気がした。ガリムジャノフはインプレッサSTIを乗り回す、スバルマニアだそうだ。

下りでは100km/h出ている。しかしレガシィの運動性能に不安感はない下りでは100km/h出ている。しかしレガシィの運動性能に不安感はない 後部座席ではいつでも選手にあったホイールが選び出せるように用意している後部座席ではいつでも選手にあったホイールが選び出せるように用意している

逃げ集団は順調にメイン集団とのタイム差を拡大していく。同乗したマヴィックカーは、逃げ集団のサポートへとつく。他のチームカーやモトとコミュニケーションをとりながら隊列を縫っていく。常に状況が変わるレースにおいて、ニュートラルカーは臨機応変に対応しなければならない。

ところで、スバル・レガシィといえば衝突を回避する機能「アイサイト」が話題だが、隊列をなして走るチームカーには安心な機能のように思えた。ツール・ド・フランスなどでもチームカーがよく衝突しているが、もしレガシィだったらそんな事故もなくなるのでは?と思った。

チームカーの隊列もすべてスバル・レガシィだ チームカーの隊列もすべてスバル・レガシィだ  (c)Makoto.AYANOモト・マヴィックは自由に動きまわり、観客の盛り上げにも一役買っている!モト・マヴィックは自由に動きまわり、観客の盛り上げにも一役買っている! (c)Makoto.AYANO

その後レースは心配されたパンクや落車などもなく、順調に周回を重ねる。予定の3周回、レース展開が落ち着きを見せたところで約1時間の同乗走行はあっという間に終了した。
酔い止めを飲むのを忘れたのは、乗り物酔いには強いという自信があったからだが、乗りながらカメラでいろいろ撮っているとさすがに酔いかけた。しかし、普通の乗車なら心配したラフな運転とは感じなかった。もっと「ジェットコースター」的なものを心配しただけに、この点は助かった気がした。

ニュートラルカーの装備

乗車したマヴィックカーには、ルーフ上、後部座席、トランクルームにスペアバイクとホイールがところ狭しと搭載されていた。チームによって使っているメーカーが違うため、トラブルが発生した場合に備え、どのチームが何のコンポを使用しているか、またギアの枚数の違いも常に把握していなければならない。
特にチーム混成から成るナショナルチームはそれぞれの自転車を使っているため、選手一人ひとりの仕様を頭に入れておくそうだ。つまり「カンパ11、シマノ10、スラム10」を把握する。

ルーフキャリアは特製。スタート前にはホイール盗難防止のワイヤーロックがかかっていたルーフキャリアは特製。スタート前にはホイール盗難防止のワイヤーロックがかかっていた (c)Makoto.AYANO様々な情報がやりとりされるラジオツール (周波数は画像処理で伏せています)様々な情報がやりとりされるラジオツール (周波数は画像処理で伏せています)

無線機は雨が吹き込んでも使えるバイク用のもの。必要不可欠な機材であるため、信頼性重視で選んでいるようだ。

スタッフも、ジムカーナなどモータースポーツ経験者が多いそう。モトライダーは普段からライディングの練習をしているとのことだ。また「車間をギリギリまで詰めて走ったり、狭い道で追い抜いたり、現場でしか覚えていかなければならないこともたくさんあるんです」とはドライバーの清水さん。

声援を受けながら古賀志林道を登るマヴィック・レガシィ 観客にとっても人気者だ声援を受けながら古賀志林道を登るマヴィック・レガシィ 観客にとっても人気者だ (c)Makoto.AYANO

様々な装備、絶え間ない無線でのやり取りと手厚いサポート体制を整えるマヴィックのニュートラルサポート。今回の体験中には「残念ながら」サポートを必要とするようなアクシデントは起こらなかったが、このスタッフたちならもし何かあっても素早く対応できるだろうな、という強い信頼を感じた。
黄色いマヴィックのニュートラルサポートのあるレースは、絶対の安心といえるだろう。

ビデオレポート

周回したうちの約1周でビデオを撮影してみた。古賀志林道を上り、観客の声援を受け、周囲のチームカーとやり取りしながら先頭集団に追いつき、選手を確認したりといったニュートラルサポートの臨場感を味わっていただけると思う。マヴィックカー内部で交わされる会話も、レースならでは。あなたもぜひ同乗した気分に浸ってみてください。



photo&report:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO