青柳が、西薗が、そして鈴木真理が逃げていても、チームメイトが後続を引き連れ合流。そして力勝負のぶつかり合いの末にできた5人の先頭集団は全員がシマノレーシングの選手たち。出場した6人が上位6位までを独占した。

A-E 5周目、逃げるシマノ5人A-E 5周目、逃げるシマノ5人 photo:Hideaki.TAKAGI

会場にいた誰もが考えていたこと、それは各々の立場での東日本大震災への想いだ。犠牲者へ哀悼の意を表し、被災者と地域に復興への支援を考える。それを形にしたのが全員での黙祷や募金箱の設置。そしてトップ選手たちは全力でレースをすることによって、夢や希望が与えられることを願って走った。多くの選手達が目標としてきたこのレースを全力で走ることで、人に感動や活力を与える。それがひいては支援になる。参加者全員がそれぞれの想いで走った。


A-E スタート前に黙祷をささげるA-E スタート前に黙祷をささげる photo:Hideaki.TAKAGI3月13日(日)、第16回西日本チャレンジサイクルロードレースが広島県中央森林公園で行われた。国内シーズンの幕開けを告げるレースとしてすっかり定着した大会。各チームの今年のメンバーの様子や、新人選手たちの活躍が注目される、シーズンの初戦だ。

アンダー
登録クラスの1レース目は3周のアンダー23(A-U)だ。スタート前には全員で東日本大震災の犠牲者へ黙祷がささげられた。その後も各クラスごとにスタート前に黙祷がささげられた。
有力どころは今年移籍した澤田賢匠(CIERVO NARA PRO CYCLINGTEAM)、昨年の覇者・吉浦満(京都大学)、昨年の東西ジュニア覇者で今年ブリヂストン・エスポワール加入の六峰亘らだ。
A-U ゴールA-U ゴール photo:Hideaki.TAKAGI序盤から彼らに加え環太平洋大学勢らが加わってアタックの応酬に。2周目に5人の逃げができ、3周目の上りで各選手がアタックを仕掛けてふるい落としにかかるがどれも決まらず4人でゴールへ。
ゴールスプリントは六峰が制してアンダー1年目で優勝。小黒祐也(環太平洋大学)が続き、最も動いた澤田は3位に。牽制のほとんどない終始前へ出ていく好レース。

エリート
5周で行われたエリートクラス(A-E)。注目どころはほぼフルメンバーのコンチネンタルチームの、シマノレーシングと、マトリックスパワータグ。
A-E 1周目、抜け出す池部壮太(津末サイクルスポーツクラブ)A-E 1周目、抜け出す池部壮太(津末サイクルスポーツクラブ) photo:Hideaki.TAKAGIそして単騎参戦の辻善光(宇都宮ブリッツェン)らだ。
スタート前に黙祷がささげられる。
1周目、序盤の下り区間はハイペースなものの決定的なアタックなく進む。マトリックス、シマノ、マッサあたりが積極的に。上り区間で白石真悟(シマノドリンキング)、秋山尚徳(岩井商会GANWELL RACING)、池部壮太(津末サイクルスポーツクラブ)らが単独で抜け出すが吸収され一列棒状で2周目へ。ラップタイムは18分10秒と速め。

2周目上り、青柳憲輝(シマノレーシング)と永良大誠(マトリックスパワータグ・コラテック)が抜け出す。それに西薗良太(シマノレーシング)が追いつき、メイン集団もシマノ・マトリックス勢が追い上げていったん吸収。
A-E 2周目、アタックする村上純平(シマノレーシング)A-E 2周目、アタックする村上純平(シマノレーシング) photo:Hideaki.TAKAGIさらに鈴木真理(シマノレーシング)が加速して鈴木譲(シマノレーシング)、西薗の3人が差をつける。がふたたびシマノ・マトリックス勢が追い上げて吸収。ここから最後の上り区間で村上純平(シマノレーシング)が抜け出し単独で半周強逃げる。

3周目、村上を吸収した集団はひとつのまま。上り区間で鈴木真理が仕掛け、吸収後に西薗が加速。その西薗らを追った畑中勇介(シマノレーシング)、鈴木譲、村上、白石が合流して先頭は5人に。ここまでの逃げは集団との差が10秒からせいぜい20秒と小さい。

4周目、先頭は畑中、村上、西薗の3人に。15秒差の第2集団には鈴木真理、鈴木譲、青柳、真鍋和幸(マトリックスA-E 5周目へ、逃げの3人に2人が追いつき、先頭はシマノ勢5人にA-E 5周目へ、逃げの3人に2人が追いつき、先頭はシマノ勢5人に photo:Hideaki.TAKAGIパワータグ)、永良、辻善光(宇都宮ブリッツェン)、池部の7人。ここから鈴木真理と鈴木譲が追い上げて最終周回へ入ると同時に合流、先頭はシマノ勢5人に。

5周目、最終周回を同じチーム5人で走る先頭はチームTTのよう。だが上りでは車間が1~2車身ほど空く場面も何度か。そのたびに必死に車間を詰める。5人全員がギリギリの走り。そして鈴木真理先頭で現れたゴール前の直線。村上が抜け出し優勝。1分20秒差で入った第2集団の先頭は青柳。シマノが1位から6位までを独占した。



A-E 村上純平(シマノレーシング)が優勝A-E 村上純平(シマノレーシング)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI前へ出て行くレース
終わってみればシマノの圧勝だった。だが力と力のぶつかり合いの末にできた先頭集団が、たまたまシマノのメンバーだったという展開だ。特に目を引いたのは、チームメイトが逃げている状況でもそれを追走する場面が多かったこと。普通ならば後続を抑えるはずが、引き連れて合流する場面が何度も。そして決定的な動きにはシマノ勢だけが抜け出して前へ合流。自在な走りを見せた。このことを「5周目に5人になるまではチームプレーはなかった」と畑中は言い切る。シマノレーシングの選手たちは、それぞれが前へ出て行く力づくのレースで圧倒した。

池部壮太が驚きの10位入賞
A-E シマノ勢6人らコンチネンタルチームに加え池部壮太(右端、津末サイクルスポーツクラブ)が入賞A-E シマノ勢6人らコンチネンタルチームに加え池部壮太(右端、津末サイクルスポーツクラブ)が入賞 photo:Hideaki.TAKAGI驚きは10位入賞、18歳の池部壮太(津末サイクルスポーツクラブ)だ。序盤から先頭でレースを引っ張る見慣れない黄色いジャージの選手がいた。それが池部だ。この3月に別府市立別府商業高校を卒業し、4月からブリヂストン・エスポワールへ加入する2010年ジュニア全日本ロードチャンピオン。先輩達と全く互角の勝負を繰りひろげた池部は、「実業団の人たちの強さに驚きました。入賞できて良かったです。今年は後半にフランスへ渡る予定です」と期待に胸を膨らます。アタックを身上とする池部の今シーズンの走りに注目したい。

マトリックスも真鍋が入賞、そして昨年は故障に泣いた永良が復活の入賞。序盤の主導権争いはマトリックスが上だった。中盤以降でシマノが繰り出す波状攻撃に耐えたのは2人。序盤に温存する走りをしていたら、もう少し結果は違っていただろう。序盤からアタックを仕掛け続けたマトリックスメンバーも潔い走りだった。同じく序盤に動いたMASSA-FOCUS-SUPER Bらも含め、おおむね動いた選手たちが上位で完走した積極的なレースだった。

シマノレーシングの選手たちのコメント
「きつい展開に持ち込んだ」 優勝の村上純平
「チームプレーは考えず、作戦も考えず、きつい展開に持ち込んでいこうと臨んだ。そのとおりの展開で残った5人だった。07年の全日本選手権U23以来の勝利。この調子で続く台湾でも勝利を狙いたいし、今年は結果を出したい」

「力をアピールできた」 畑中勇介
「今日はうちのチームからベテラン・若手関係なく強い選手が前へ行くよう、力を出し切るよう、そういう考えで臨んだ。自分たちがアタックしているとき、後ろに誰がついてきているとか気にしなかった。それがチームメイトなのか敵なのか。チーム全員かなりいい状態だと思う。ここまで強いとは思わなかった。力をアピールできたことは良かった。(震災について)今は僕らがやれることをやっていかないと、と思う」。

「前へ行く走りを」 鈴木真理
「各自が追い込んだ走りができれば、その結果で優勝できればという考えで臨んだ。今日のレースは今後につながる内容だったと思う。それから今日という日にレースを走るに当たって考えたのは、ゴールラインまでとにかくもがききろうということ、そして普段もしているが抑えるのでなく、前へ行く走りをしようということ」。

A-M 入木大輔(ち~む☆のざき)が優勝A-M 入木大輔(ち~む☆のざき)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGIA-U 六峰亘(ブリヂストン・エスポワール)が優勝A-U 六峰亘(ブリヂストン・エスポワール)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI

A-F 独走する豊岡英子(パナソニックレディース)A-F 独走する豊岡英子(パナソニックレディース) photo:Hideaki.TAKAGIA-J 石居周二(bicinoko.com)が優勝A-J 石居周二(bicinoko.com)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI


震災直後に大会を開催した意図 「走ることで気持ちを寄せたい」

この時期での大会開催にあたってはたくさんの意見があった。開催を自粛することもひとつの意見だ。選手たちの走りが、誰かに夢と希望として伝わるならば、あえて開催することも同じくだ。熟慮のうえ開催を決定した広島県自転車競技連盟の高橋真理事長はこう語る。
「よく考えて、そしていろいろな人たちから意見をいただき、今回の開催に至りました。自分たちとしてはレースを開催する、そして出場についての判断は、個人やチームにしてもらうということです」
「今、物理的に大会の開催が可能な状況において中止することにメリットがあるのか? それが亡くなられた方への追悼になるのか? 葛藤はありました。ならば開催しながらできることをすれば良いのでは、と。義援金を募ったことや、黙祷を行ったことがそうです。震災に遭われた方たちへ、レースに参加する人たちが気持ちを寄せることができます」。

この日、レースを走った選手たちは、それぞれの思いを胸に、精一杯の走りで被災者への支援の気持ちを表現したように思えた。

結果
A-E 61.5km
1位 村上純平(シマノレーシング)1時間30分52秒31
2位 西薗良太(シマノレーシング)+01秒
3位 畑中勇介(シマノレーシング)+02秒
4位 鈴木真理(シマノレーシング)+03秒
5位 鈴木譲(シマノレーシング)+09秒
6位 青柳憲輝(シマノレーシング)+1分30秒
7位 辻善光(宇都宮ブリッツェン)
8位 永良大誠(マトリックスパワータグ)
9位 真鍋和幸(マトリックスパワータグ)+1分37秒
10位 池部壮太(津末サイクルスポーツクラブ)+2分05秒

A-F 24.2km
1位 豊岡英子(パナソニックレディース)43分38秒13
2位 三宅玲奈(岡山県荘内中学校)+1分49秒
3位 星川恵利奈(湘南ベルマーレ)+2分27秒

A-U 36.9km
1位 六峰亘(ブリヂストン・エスポワール)56分58秒43
2位 小黒祐也(環太平洋大学)
3位 澤田賢匠(CIERVO NARA PRO CYCLINGTEAM)
4位 奥村将徳(京都大学)+09秒
5位 河賀雄大(立命館大学)+49秒
6位 福留康介(環太平洋大学)+2分17秒
7位 梅原快斗(同志社大学)+2分25秒
8位 伊勢洋人(大阪産業大学)

A-J 36.9km
1位 石居周二(bicinoko.com)57分00秒04
2位 相本祥政(防府高校)
3位 沼口竜馬(日出暘谷高校)
4位 小林和希(祐誠高校)
5位 中野雄喜(北桑田高校)
6位 安原大生(榛生昇陽高校)

A-M 36.9km
1位 入木大輔(ち~む☆のざき)59分29秒79
2位 苗村徹(クラブシルベスト)
3位 中田尚志(Tacurino.net)
4位 岩尾伸一(クラブシルベスト)
5位 景山昭宏(クラブシルベスト)
6位 中村誠(チーム岡山)

photo&text:高木秀彰

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