スタート地点で「40度まで上がるらしい」とアスタナの中野喜文マッサーに告げられてビックリしたが「アデレードは36度ね」というお天気お姉さんの言葉が正しかった。とは言え暑い。路面からゆらゆらと立ち上る陽炎を切り裂いて、奇怪なポーズで踊るマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)が飛び込んで来た。

会長(リーダージャージ)のお通りだ会長(リーダージャージ)のお通りだ photo:Kei Tsuji今日は朝起きた時点から暑かった。ヒルトンホテルの近くのカフェでカプチーノを注文していると、リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)が偶然やってきて「選手とかプレスでごった返しているヒルトンで朝ご飯を食べたくなくて」と言う。

自分は安宿に素泊まりなので「じゃあ代わりにヒルトンで朝ご飯を食べさせてくれ」と思ったが、その言葉は心の中にしまっておいた。

ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の登場に沿道から歓声が上がるランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の登場に沿道から歓声が上がる photo:Kei Tsujiスタート地点アンレーはヒルトンホテルから3kmしか離れていない。スタート時間は11時なので、朝までぐっすり寝ることができ、選手やプレスには好評だ。

市街地から近いこともあり、大勢のサイクリストがスタート地点に集っていた。レース会場で多くのサイクリストを見る環境は日本よりもヨーロッパに近い。しかもみんな速そうに見える。

カンガルーにキスされるロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)カンガルーにキスされるロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ) photo:Kei Tsuji昨日落車したクリストファー・サットン(オーストラリア、チームスカイ)とバーナード・サルツバーガー(オーストラリア、UniSAオーストラリア)はスタートしなかった。CJ(サットン)は「最終ステージで優勝した昨年以上の結果を残したい。スカイの作戦がはまれば、それは可能だ」と話していただけに残念な結果に。サルツバーガーは鎖骨骨折の修復手術に成功したらしい。

会場に連れてこられた2匹のカンガルーの赤ちゃんに選手たちは興味津々。大抵の選手は頭をなでただけで去っていくが、オーストラリア人選手たちは慣れた手つきで抱え上げ、記念写真におさまる。イタリア人選手もノリが良い。意外にもロシア人選手もノリが良い。

最もカンガルーがヒットしていたのはロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)。昨日のスプリントで4位に入ったフレンチスプリンターは、赤ちゃんカンガルーとフレンチキスをしていた。

ハイウェイを駆け抜けるメイン集団ハイウェイを駆け抜けるメイン集団 photo:Kei Tsuji

あまりの暑さに牛が木陰に逃げ込むあまりの暑さに牛が木陰に逃げ込む photo:Kei Tsuji数カ所で撮影し、ゴール地点に着く頃には気温はマックスに。空には雲一つ浮かんでおらず、太陽光線は強烈だ。朝方ヒルトンホテルの雑踏から逃げていたポルトは、ゴール前でも逃げていた。小声で「期待されているけど、まだ1月で、しかもシーズン初戦。集団の中に身を隠しておくさ」と言っていたのに、張り切って集団を引き離している。

結局ポルトは吸収され、スプリンターたちの闘いに持ち込まれた。ポルトは「アタックしてみた(笑)結果的にタイム(46秒)を失ってしまったけど、チャレンジは悪くない」と満足げだ。

ゴール前で早くも両手を挙げるマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)ゴール前で早くも両手を挙げるマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク) photo:Kei Tsuji昨年9月のロード世界選手権U23ロードレースでも思ったのだが、マシューズのガッツポーズはどこか変わっている。人差し指を立て、肘を曲げて両腕を左右を振る動きはなんとも言えない印象を残す。

プレスセンターに戻ってラボバンクの公式サイトをチェックすると、早速マシューズを賛美する記事が並んでいた。その中にレース後の興味深いインタビュービデオを見つけたのでYoutubeのリンクを貼っておく。

ゴール後、アスタナのチームメイトに水を渡し、チームカーの場所を教える中野喜文マッサーゴール後、アスタナのチームメイトに水を渡し、チームカーの場所を教える中野喜文マッサー photo:Kei Tsujiやたらと「Yeah」が多いインタビューの最後に「今朝、独特の準備運動を見たけど、あれは毎日やってるの?」という質問が飛んだ。何のことかと思ったら、そこ(ムービーの1分10秒あたりから)に映し出されたのは、スタート地点で踊るマシューズの姿。どうもダンスが好きらしい。その動きがゴールでのガッツポーズに通じるところがあって、妙に納得してしまった。

マシューズのあだ名はブリング。「アクセサリーを過剰につけるきらびやかな奴」という意味だ。耳と眉にはピアスの穴が開き、背中には生年月日である「26-09-1990」という文字と、翼を広げた天使のタトゥーが刻まれている。いかにもノリノリの若者といった感じ。

ステージ優勝を飾ったマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)ステージ優勝を飾ったマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク) photo:Kei Tsujiでもその力は本物だ。上りスプリントで後続を一気に突き放した加速は目を見張るものがあった。日本的に言うと、マシューズは平成2年生まれの20歳。昨日のベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)といい、このマシューズといい、有望な若者がどんどん出てくる。

逃げに乗って敢闘賞に輝いたルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)はもっと若い。1991年生まれでまだ19歳だ。ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の半分も生きていない。

質問に笑顔で答えるマシューズはメディア受けが良い。チームリーダーのグレーム・ブラウン(オーストラリア)のメディア受けが少々悪い分、余計にフレッシュで勢いがあるように感じる。これからの10年で、ダンシングマシューズの姿を度々見ることになると思う。

いよいよレースも折り返し。明日の第4ステージは前半にチェッカーヒルというKOM(山岳ポイント)が設定されている。地元のサイクリストが「あそこは勾配がきつくて上れねえ!蛇行してしまうし、一旦止まったら再スタートも難しい」と恐れる上りだ。でもゴールまで距離があるので勝負には関係しない。再び集団スプリントに持ち込まれる可能性が高い。

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia