フランス自転車競技界への逆風が止まらない。ロードレースの警備を担当する憲兵の賃金引き上げにより、フランスのレースが危機的状況に陥っているとフランスのエキップ紙が伝えた。影響はヨーロッパで闘う日本人選手にも及ぶ可能性も。

国家自転車連盟(LNC)の総裁を務めるフランセーズデジューのマーク・マディオ監督国家自転車連盟(LNC)の総裁を務めるフランセーズデジューのマーク・マディオ監督 photo:Makoto Ayanoフランスの自転車競技界に暗雲が立ちこめている。先日発表されたプロツアーのチームリストにはフランスのチームはわずか1チームだけと、伝統の自転車大国が揺らぎ始めている。

今回の問題の焦点は、フランスにおける憲兵(ジャンダルム)の一時間あたりの賃金引き上げに端を発する。これによりロードレース開催時の治安維持や立哨のコストが増大し、レース運営費を圧迫するという。

これまで1時間あたり2.4ユーロ(日本円換算およそ266円)だった憲兵の時給が、今後は12ユーロ(約1332円)へと約5倍にまで跳ね上がる。200kmにおよぶ距離の公道を走るロードレースの運営に、憲兵の存在は必要不可欠であるが、このコスト増大はレースの開催の可否そのものまでゆるがす問題だ。

この問題を受けて、つい先日中止を発表していたパリ〜ルーベ・エスポワールがA.S.O.の援助により開催を決めたことは以前お伝えした通り。しかし問題は当然ながらフランスの全てのレースに重くのしかかっている。

国家自転車連盟(LNC)の総裁を務めるフランセーズデジュー監督のマーク・マディオ監督は、「オーガナイザーや多数のボランティアには対抗することができないだろう。この予算問題によってレースのキャンセルの恐れが顕在化している。サッカーで問題が起きた時にスタジアムに配備されることを想定して採られたのが今回の措置だが、まったくムチ打ちに遭っているのは自転車競技だ。これは自転車競技の全てのカレンダーに関わってくる。そしてその帰結として、選手とチームの未来にも。もし解決策が見出せなければ、そこに待つのは失業だ。」

この問題に即刻に対処しなくてはならないのはシーズン最初のフランスのレースだ。「開幕戦」とも呼ばれるGPマルセイユやエトワール・ド・ベセージュ、地中海一周など2月上旬のレースが無事に開催されるか、今後のフランス自転車競技界をみる上でも大きなポイントとなる。

フランスのレースでシーズンイン予定の土井雪広(スキル・シマノ)問題は日本人選手にもフランスのレースでシーズンイン予定の土井雪広(スキル・シマノ)問題は日本人選手にも photo:Sonoko Tanakaスキル・シマノの土井雪広はこれらのレースからシーズンインとしていたが、レース自体が開催されないとなるとプログラムの見直しを強制されることになる。また、フランスは新城幸也(Bboxブイグテレコム)や別府史之(レディオシャック)の居住地でもある。過去にはエキップアサダがフランスを中心に活動を行ったりと、日本の自転車競技の発展にもフランスの果たした役割は小さくない。

もしこうした伝統のレースが開催中止に追い込まれれば、フランスに限らずヨーロッパの自転車競技全体のあり方にも影響を及ぼすだろう。ツール・ド・フランスを主催するA.S.O.のような巨大組織だけがレースを開催できたとしても、ピラミッドの下部を支えるカテゴリーの地域レースが無くなればそのヒエラルキー自体が無意味なものとなる。

ツール・ド・フランスの国として、自転車の国というイメージを国策としてもアピールするフランス。伝統の自転車大国が今、揺れている。


text:Yufta Omata
photo:Makoto Ayano,Sonoko Tanaka

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