先月UCI(国際自転車競技連合)が発表した2011年度のプロチームリストを見たフランスの自転車ファンは驚いたはず。トップカテゴリーのフランスチームはなんと1チームだけ。今年のツール・ド・フランスではフランス人選手がステージ6勝を飾ったが、明らかにその存在感は薄れている。

唯一のプロチームとなるアージェードゥーゼル唯一のプロチームとなるアージェードゥーゼル photo:Makoto Ayano2011年、UCIプロチームとして登録を果たしたのはアージェードゥーゼルのみ。UCIの新たに取り入れた選考基準により、フランセーズデジューはセカンドカテゴリーのプロコンチネンタル登録に降格した。コフィディスとヨーロッパカー(現Bboxブイグテレコム)もプロチーム入りを目指していたが、その望みは断たれた。

自転車競技の伝統国であり、世界最大の自転車イベントを有する国、フランス。プロチーム入りを果たしたのが1チームだけと言うのは何とも寂しい事実だ。

プロチーム入りを逃したフランセーズデジュープロチーム入りを逃したフランセーズデジュー photo:Cor Vosその一方で、アメリカは4チーム(レディオシャック、BMC、サーヴェロ、HTC)を有している。イギリスはチームスカイ、ロシアはカチューシャという勢いのあるチームを輩出している。ほんの5年前まで、フランスの4チームがトップカテゴリー登録だったと言うのに。

90年代にグレッグ・レモンやクリス・ボードマンが所属していたGANチームでマネージャーを務めたロジェ・ルジェー氏は、2008年のクレディアグリコル解散時にある危機感を抱いていた。

現世界チャンピオンのトル・フースホフト(ノルウェー)を育てた名将は「2008年、世界的な財政危機の影響でスポンサーが見つからず、クレディアグリコルは解散に追い込まれた。世界トップ5に入るチームを築いていたとしても、世界経済には対抗出来ない。我々には為す術が無かった」と、当時を振り返る。

2011年のプロチームリストを見ると、様々な国のチームが入り乱れているのが分かる。来年から「プロツアーチーム」ではなく「プロチーム」と呼ばれるトップチームのリストは、自転車競技のグローバリゼーションを如実に表している。

アージェードゥーゼルでエースを担うニコラス・ロッシュ(アイルランド)アージェードゥーゼルでエースを担うニコラス・ロッシュ(アイルランド) photo:Makoto Ayanoヨーロッパ以外の国の選手が活躍し、ヨーロッパ以外の国でもトップカテゴリーのレースが開催される現状。中でもオーストラリアが良い例だ。今ではシーズン最初のメジャーレースが開催され、同国のペガサススポーツがトップチーム入りを争うまでになった。

アージェードゥーゼルのスター選手であるニコラス・ロッシュ(アイルランド)は、レース界の変化を敏感に感じ取る。「自転車競技は変わりつつ有る。以前よりもずっとグローバルになった。フランスのプロチームは僅かに1チーム。イタリアのプロチームは2チーム。数年前と比べると明らかに数が減っている」。

2008年に解散したクレディアグリコル2008年に解散したクレディアグリコル photo:Cor Vosルジェー氏はフランスの現状をこう言い表す。「他国のチームマネージャーは大企業を味方につけ、膨大な資金をチームにつぎ込んでいる。フランセーズデジューやコフィディス、アージェードゥーゼル、ヨーロッパカーも大きなスポンサーを味方につけているが、そのサポート規模は他国と比べ物にならない。現状、フランスで強大なチームを構築するのは、資金的に無理がある。その結果、国際的に名の売れたメジャー選手を獲得することが出来ない。かといってベルナール・イノーやローラン・フィニョンのようなフランス人選手はいない。今となっては、ツールでマイヨジョーヌやマイヨヴェールを狙えるフランス人選手はいない」。

多くのフランスチームがセカンドカテゴリーに降格したからと言って、すぐに大きな問題が発生するわけではない。しかし何か策を講じない限り、フランスがグローバリゼーションの流れに乗り遅れるのは目に見えている。ファーストカテゴリーのフランスチームがゼロ、なんてことも有り得る。

「今のランキングシステムでは、ヨーロッパ以外のレースで稼ぐUCIポイントが重要。フランスチームは、ツアー・ダウンアンダーやツアー・オブ・カリフォルニアのようなメジャーレースで活躍する必要がある」。ルジェー氏はそう分析する。「多くのフランスチームはワイルドカード枠でツール・ド・フランスに出場するだろう。それでスポンサーは満足してくれる。だが将来的に、ツールに出場するだけでは満足しなくなる。ツール出場も危うくなる」。

ロッシュはフランスチームの行く末を案じる。「フランス人選手にこだわるようなナショナリズムが残っている限り、フランスチームは伸びない。スポンサーやチームは、もっと広い視野を持つべきだ。国籍に関係なく、良い選手を獲得する必要がある。そう、アメリカやイギリスのチームのように。世界的なチームに成長したければ、世界的なライダーを獲得しなければならない。その事実を受け入れることで、フランスチームはトップカテゴリーに復帰することが出来るだろう」。

「選手の国籍がどこであれ、チームが活躍すれば、フランスのスポンサー企業は資金を提供してくれるはず」。そんなルジェー氏の言葉を体現するように、ロッシュはアージェードゥーゼルでエースを担っている。フランス唯一のプロチームのエースがアイルランド人というのは注目すべきポイントだ。

text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji