114年の歴史を有するパリ〜トゥール(UCI1.HC)が今年もフランス中部のロワール渓谷を舞台に開催される。注目は大会初の3連覇が懸かったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。日本からは新城幸也(Bboxブイグテレコム)と別府史之(レディオシャック)が出場する。

逃げとスプリントの接戦を演出する絶妙なコース

パリ〜トゥール2010コースマップパリ〜トゥール2010コースマップ image:A.S.O.今年で開催104回目を迎える伝統のワンデークラシック、パリ〜トゥール。2005年に発足したUCIプロツアーカレンダーに組み込まれていたが、UCIとレース主催者ASOの確執の影響で2008年にHC(超級)クラスに格下げされた。しかしその格式は依然として高い。

「パリからトゥールまで」という名を冠しているが、実際のスタート地点はパリではない。昨年までスタート地点はシャルトルだったが、今年からラ・ループに変更された。

世界遺産のロワール渓谷を南に向かい、最後はトゥール中心部のグラモン大通りにゴールする。一見完全なるスプリンター向きのクラシックだが、過去には何度も逃げ切りが決まっている。その秘密はラスト15kmを切ってから連続する細かなアップダウンにある。

ラスト12km地点で今年新たに採用された「ボーソレイユ」の上りを越えると、立て続けにラスト9km地点で「レパン」(長さ500m・最大勾配8%)が登場。ラスト4km地点で「プティ・パ・ド・アーヌ」(長さ500m・最大勾配7%)を連続してクリアする。スプリンターがパワーで乗り切れる短い上りだが、毎年ここで堰を切ったようにアタックが掛かる。

パリ〜トゥール2010 終盤のコースプロフィールパリ〜トゥール2010 終盤のコースプロフィール image:A.S.O.短い上りでどれだけ集団を引き離したとしても、1分差のような決定的なリードは奪えない。しかしトゥール郊外特有の曲がりくねった細いコースが少人数の逃げグループに味方する。大集団はどうしても縦に長く伸びてしまい、追撃モードに入りにくい。そのため少人数で逃げる選手にもチャンスがあるのだ。

「レース終盤に連続する上り」「細く曲がりくねったコース」「ゴールまでの距離」という3つの要素が絶妙に絡み合い、逃げ切りと集団スプリントの際どいマッチレースが繰り広げられる。3kmに渡って直線路が続くグラモン大通りで、牽制しながらも逃げる選手と、猛烈な勢いで追い上げる大集団という構図はお馴染み。今年もドラマチックな展開が期待出来そうだ。


世界選手権で活躍したアタッカーとスプリンターが出場

昨年ボーネンをスプリントで下したフィリップ・ジルベール(ベルギー)が優勝昨年ボーネンをスプリントで下したフィリップ・ジルベール(ベルギー)が優勝 photo:Cor Vosプロツアーレースではないため、地元のコンチネンタルチームも参加可能。今年はプロツアー15チームとプロコンチネンタル7チーム、さらにコンチネンタル3チームを加えた合計25チームが出場する。

劇的なエンディングを演出するのが、終盤の上りで攻撃を仕掛けるアタッカーたち。その中でも優勝候補の筆頭は、もちろん、114年の長い歴史の中で初となる大会3連覇が懸かったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)だ。仮にジルベールが勝てば、過去に4名しか達成していない大会3勝メンバーに仲間入りする。

世界選手権で果敢にアタックしたフィリップ・ジルベール(ベルギー)世界選手権で果敢にアタックしたフィリップ・ジルベール(ベルギー) photo:Kei Tsuji毎年レース終盤の上りでアタックを仕掛け、逃げグループ内でのスプリントを制して優勝している。ジルベールにとって超お得意のコース。フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)がジルベールをバックアップする。

ジルベールは直前のロード世界選手権エリートロードで果敢にアタックしながらも苦汁をなめた。このパリ〜トゥールではリベンジに燃えていることだろう。ただ気になるのはオーストラリアとの時差。世界選手権終了後1週間で時差ボケを解消出来ているかが唯一の懸念材料だ。

世界選手権でイタリアチームのエースを担ったフィリッポ・ポッツァート世界選手権でイタリアチームのエースを担ったフィリッポ・ポッツァート photo:Cor Vosジルベールと同様に、世界選手権で悔しい思いをしたフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)やマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)と言った選手もモチヴェーションは高いはず(優勝したフースホフトは欠場)。

集団スプリントではなく、逃げの展開に持ち込みたいアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)やペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)、フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)らの動きからも目が離せない。

ヨーロッパ最終戦に挑むロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)ヨーロッパ最終戦に挑むロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ) photo:Cor Vosクラシックハンターと称される上記の選手たちは、得意の独走力を武器に攻撃を仕掛けてくる。仮に攻撃が失敗しても、エーススプリンターの手助けになるはずだ。

グラモン大通りで逃げが捕まった場合は、スプリンターによる本格バトルに持ち込まれる。昨年ジルベールと逃げながらもスプリントで敗れたトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)は、膝の故障により3ヶ月間戦線を離脱していた。何とかパリ〜トゥールまでに復帰したが、そのコンディションはあまり期待出来ない。

今年ミラノ〜サンレモを制しているオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)今年ミラノ〜サンレモを制しているオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク) photo:Cor Vosオーストラリア代表メンバーから外れ、世界選手権を欠場したロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)にとって、このパリ〜トゥールがヨーロッパ最終戦。コース的にマキュアン向きだと思われるが、まだ表彰台に上ったことが無い。

世界選手権で6位という悔しい結果を残したオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)はこれまで3回表彰台に上っているが、未だに勝利は手にしていない。スペイン人選手初のパリ〜トゥール制覇を目指す。2005年大会2位のダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)やジミー・カスペール(フランス、ソール・ソジャサン)もスプリントに絡んでくるはずだ。

世界選手権で活躍した別府史之(レディオシャック)と新城幸也(Bboxブイグテレコム)が揃って出場世界選手権で活躍した別府史之(レディオシャック)と新城幸也(Bboxブイグテレコム)が揃って出場 photo:Kei Tsujiチームとして注目したいのが、オランダのヴァカンソレイユだ。チームには昨年大会3位のボルト・ボジッチ(スロベニア)が所属。同じくスプリンターのロメン・フェイユ(フランス)もいる。世界選手権でジルベールを援護したビョルン・ルークマンス(ベルギー)やマルコ・マルカート(イタリア)はアタックでレースをかき乱すだろう。プロコンチネンタルチームながらプロツアーチームに全く退けを取らない。

そして、世界選手権で9位の成績を残した新城幸也(Bboxブイグテレコム)と同大会30位の別府史之(レディオシャック)が揃ってスタートラインに並ぶ。世界選手権に調子の波を合わせた2人は、好調を維持したままフランスレースに挑むはず。同じく世界選手権に出場した土井雪広(スキル・シマノ)は、10月11日に中国で開幕するツアー・オブ・ハイナン(UCI2.HC)に出場する予定だ。

過去10年のパリ〜トゥール優勝者
2009年 フィリップ・ジルベール(ベルギー)逃げ切り
2008年 フィリップ・ジルベール(ベルギー)逃げ切り
2007年 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)スプリント
2006年 フレデリック・ゲドン(フランス)逃げ切り
2005年 エリック・ツァベル(ドイツ)スプリント
2004年 エリック・デッケル(オランダ)逃げ切り
2003年 エリック・ツァベル(ドイツ)スプリント
2002年 ヤコブ・ピール(デンマーク)逃げ切り
2001年 リシャール・ヴィランク(フランス)逃げ切り
2000年 アンドレア・タフィ(イタリア)逃げ切り

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Kei Tsuji