パリ五輪に出場した垣田真穂がEF・オートリー・キャノンデールに加入することが決まった。タレント発掘プログラムで自転車競技を始めて以降、破竹の勢いでタイトル奪取を続ける19歳が欧州ロードの舞台に挑戦する。



EF・オートリー・キャノンデールのジャージに身を包んだ垣田真穂 (c)EF Pro Cycling

パリ五輪出場も記憶に新しい垣田真穂は、2004年12月14日生まれ、福岡県出身の19歳。中学まではサッカー競技に打ち込んできたが、タレント発掘プログラムで自転車の才能を見出され2020年に松山学院高校に入学して自転車競技の道を志した。

2020年のジュニアオリンピックカップではU17個人パーシュートとポイントレース優勝したことを皮切りに、ロードレースではJBCF広島森林公園ロードレースで唐見実世子を破って優勝するなど頭角を現した。インターハイロードは2021年と2022年大会を連覇し、2022年は世界選手権の女子ジュニアロードで5位入賞。2023年に早稲田大学へ進学すると同時にナショナルチームへと加入している。

2024年はトラックでパリ五輪出場を果たし、インカレトラックで3冠達成、さらに今回の渡航直前の全日本選手権トラックでは個人パーシュートで日本記録を更新するなど快進撃は留まるところを知らない。

垣田真穂(パリ五輪代表選手記者発表にて) photo:Satoru Kato

そんな垣田が、EFエデュケーション・イージーポストの女子チームであるEF・オートリー・キャノンデールに加入することに。EFチームと協業体制を組むTeam NIPPOの大門宏監督によれば、5位に入った2022年の世界選手権後にジョナサン・ヴォーターズ代表から声が掛かったものの、大学進学が決まっていたためオファーを辞退。2023年にも女子チームGMからオファーを受けており、パリ五輪を終えた後、シーズン途中の移籍が認められる8月以降に登録をすることになったという。

今回の加入はロードへの完全移行を意味するのではなく、ヨーロッパでのトップレベルのロードレースで切磋琢磨することで、垣田自身の総合的な競技力を向上させるため、と大門氏は話している。

垣田はリリースの中で「まずはこのような機会を作っていただいた関係者の皆様に感謝しています。これまでトラック競技に専念していたので、ロードレースに対して不安な気持ちもありますが、レースが近づくにつれて、楽しみな気持ちが大きくなってきています。以前からロードレースが大好きなので、夢に見ていたヨーロッパのプロレースで走れることを本当に嬉しく思います。また、今回のレースにはトラック競技で活躍するトップ選手も出場するので、彼女たちと一緒に走れることも楽しみです。レースは厳しいと思いますが、全力を尽くして、多くのことを吸収して、次につなげていきたいです」とコメントする。

チームに合流した垣田真穂 photo:Sonoko Tanaka

垣田が駆るキャノンデール Super SIX Evo photo:Sonoko Tanaka

垣田は今週末9月15日にフランスで開催される「GP・インターナショナル・イスベルグ(UCI1.1)」と、18日にベルギーで開催される「GP・ド・ワロニー(UCI1.1)」に参戦する予定だ。

以下は大門監督のコメント全文。



彼女がヨーロッパで戦う資格があることを意識したのは2年前、2022年10月に開催された世界選手権だった。そこで5位という快挙を成し遂げた直後、EFプロサイクリングのトップであるヴォーターズ氏から「世界選手権を見た。マホはEFの女子チームに相応しい選手だと思うが、君の意見はどうだ?」と、直々にメールをもらったときだった。その頃、彼女は早稲田大学への進学がほぼ確定していたため、ヴォーターズ氏には丁寧に断るしかなかった経緯がある。

そして昨年の夏、NIPPOとの2024年の提携の交渉段階で「シーズンを通してフル参戦できなくても構わないので、マホにチャンスを与えることはできないか?」と新設された女子チームのGMであるトロンプ氏から再び打診を受けた。だが、その時点ではパリ五輪のメンバーに選考される可能性を秘めつつ、日本の五輪出場枠獲得に向けて、トラックチームとともに重要な2024シーズンを控えていたので、「五輪出場枠の獲得が決まって、パリ五輪が終わるまではEFチームへの合流は不可能だが、それ以降なら合流させられると思う」と伝えたところ「たとえ8月までチームに合流しなくても、2024年1月から登録だけはしたほうが運営上、色々な意味で良い。パリ五輪までトラックナショナルチームでの活動に専念することに同意する」という理解に満ちた返答を得た。

早稲田大学やトラックナショナルチームのコーチ陣とも相談を重ねながら、具体的な契約を兼ねた渡欧の時期を模索。メーカーの意向もあり、2023年11月の時点ですでに彼女のサイズに合わせたロードバイクも用意されていたが、12月のEFチームの2024シーズンに向けたミーティングキャンプへの参加は、年明けのトラックナショナルチームのキャンプが近いと言う理由で見送ることになり、UCIルールで定められているシーズン途中の登録期限内(8月)に登録することを模索することになった。

いずれにせよ1月から登録したとしても、パリ五輪が終わるまでEFチームでのロードレース活動はできないことをトロンプ氏も了承していたのだが、8月からの契約となり、垣田選手自身にとってもオリンピックでのトラック競技に専念する意味で大変良かったと思う。

そのような経緯から、パリ五輪終了後にヨーロッパのハイレベルなロードレースに挑戦することは、あくまでも暫定ながら昨年末から垣田選手と家族、早稲田大学自転車部、トラックナショナルチームのコーチも同意の上で計画されていたことだった。ただパリ五輪直前に彼女からは「シーズン初めは、これほどロードトレーニングができないとは想像していなかった。期待して準備して頂いた関係者の皆さんに結果で応えることは難しいと思う。自信がないので、本当に行っても良いのか迷っている」と言うものだった。

昨年末から、パリ五輪が終わり次第、ロードレースのチームに合流することは頭の中では理解していたと思うが、U19の頃からトラック同様ロードレースでも結果を残してきた彼女にとって、今シーズンほどロード練習、競技から遠ざかったことは生まれて初めての経験だったいうことが良く理解できた。

「百聞は一見にしかず。近年、チームもレースの数も格段に増えた女子のロードレース界を自身の目で確かめて来るだけで良いから、結果は気にせず気軽に楽しんでくればいいのでは?」と本人に伝えたが、最後はトラックナショナルチームのギジガーコーチの判断に委ねることになった。彼は、彼女の将来を期待してやまない素晴らしい指導者の1人であり、来年以降の強化に向けて、今回の参戦の真意を本人に説明し後押ししてくれたのだと思う。ただ今の僕の正直な気持ちとしては、ようやく、高校時代から彼女の大好なロード競技のアスリートとしてヨーロッパの舞台に立つ準備が整いホッとしている。

今回のEF・オートリー・キャノンデールとのトラックスペシャリスト契約は、決して“ロード選手への転向”を意味するものではない。男女ともに世界の頂点を争うトラック中長距離選手にとって、ロードレースのトッププロチームに所属することはもはや常識化している。

トラック選手にとっての、近年のロードレースへの挑戦はトップスピードを強化するために走るのであり、決して持久力を養いにいくのではない。ギジガーコーチもヨーロッパのハイレベルのロードレースに挑戦することは日本の競輪選手にとってもメリットは多いと力説しているほど。かと言って、単にロードレースを走れば良いわけでなく、世界選手権で優勝争いするような選手がひしめき合うヨーロッパでの、ハイレベルなロードレースへの参戦に意味があると考えている。

学生と言う立場や、オリンピックの影響もあり日本ではトラック競技に専念、結果を出すことをひたすら求められていた垣田選手には、種目が一つ増えることで、全ての競技・種目において、パフォーマンスが向上することを期待している。積極的にヨーロッパでのトップレベルのロードレースで切磋琢磨しながら、トラックの中長距離種目でもさらに成長することを願っている。


text:So Isobe