斬新なエアロデザインで自転車用ヘルメットに新風を吹き込むスウェーデンブランドがPOC(ポック)だ。EFエデュケーション・イージーポストやトラックナショナルチームを支える、妥協なき空力設計をフル投入したロードヘルメット3選を紹介したい。



EFエデュケーション・イージーポストもPOCヘルメットのエアロダイナミクス開発に携わっている (c)CorVos

スタイリッシュなデザインをもって1990年代にイケアの再構築に携ったステファン・イッターボーン氏が、2005年に立ち上げたスウェーデンブランドがPOC(ポック)だ。革新的で美しいスタイルとパフォーマンス、カラーリング、そして医学的知見による高いプロテクション性能を注ぎ込んだ製品群は北欧を震源地として世界各地に広まり、今やヨーロッパ全土はもちろん、北米や日本を含むアジアまで、特に尖った感性を持つ人々から特に愛されてきた。

ウインタースポーツと並ぶPOCのスポーツサイクル用製品だが、中でも最も工夫が凝らされているのがヘルメットだ。特にロード用ヘルメットの全てには現代レースで必要不可欠となったエアロダイナミクスがフル投入されているが、この"エアロ"こそ、他ブランドに先んじてPOCが知見を深めてきたもの。特に2013年頃からレース投入されたタイムトライアルヘルメット「Tempor(テンパー)」は見る人の度肝を抜き、POCの先進エアロ思想を深く印象付けたのだった。

こうした背景には、プロテクション性能を高めたことと同様に、POCは自社内で徹底的にエアロを煮詰める体制を構築したことがある。空力のエキスパートやEFエデュケーション・イージーポストといったサポートチームからの意見を結集し、トップアスリートのパフォーマンスを最大限発揮できるよう、POCらしい斬新なデザイン視点も含めて研究を尽くしてきたのだ。

POCがEFエデュケーション・イージーポストと協力して行った空力開発 (c)POC

コンピューターで圧力がかかる部分を解析した (c)POC
ヘルメット内部でのエアフローも解析する (c)POC



空力開発の基盤となるのはCFD解析だ。ヘルメットのシェル形状、通気口、チャネルの幅などがどのように影響を与えるかを細かくシミュレーションし、ヘルメット後方に生じる乱流のコントロールや、ヘルメット内部の通気性改善を改善してきた。

また、ヘルメット単体のみならずヘルメットとライダーを一つの塊として考え、実際にライダーがヘルメット着用した状態での3Dスキャンのデータも解析に活かすことで、1ワット分の空気抵抗低減を追求。同時に風洞実験、トラックでのテスト、EFエデュケーション・イージーポストとともに実戦テスト。ロード用ヘルメットの「Ventral(ヴェントラル)」シリーズは初期モデルの「Octal(オクタル)」から、先述した「Tempor」はデビュー時から今日に至るまで基本形状を大きく変えておらず、いかにその先進デザインが優れていたかを裏付けている。



ロード用主力モデル「Ventral」。日本の夏にマッチする、通気性を高めたVentral Air

POC Ventral Air Mips WF

現在、EFエデュケーション・イージーポストなどサポートチームを支えるPOCの主力ロードヘルメットが「Ventral」シリーズだ。これにも当然POCの空力ノウハウが詰め込まれ、風向き、ポジションなどが変わり続けるロードレースにおいて快適性とエアロ、安全性を高次元で兼ね備えるよう研究し尽くされたという。

10年前、世を驚かせたOctalの基本設計を引き継ぎつつ、シェル後部は乱流を防ぐ角度22°に設定された「トレーリングエッジ」を採用したことがポイント。厚いインナーシェルは安全性と内部の通気性を両立し、MIPSを投入するなど、POCらしい機能性・安全性が投入されているのだ。

効果的に開口部を設けることでエアロと通気性の両立を実現している

ヘルメット後端部の形状まで作り込み、エアロ向上を狙っている

「Ventral Air」はその基本を守り、空気抵抗の低減を追求しながらも、ヘルメット内の快適性を高めた日本の夏にも適したモデルだ。単にベンチレーションホールを増やしたのみならず、どの角度からの風をもヘルメット内に取り込み、中の熱気を強制的に排出するよう独自設計が取られている。ベースモデルと比較してヘルメット上部のベンチレーションが追加されているため、低速のヒルクライムでも威力を発揮してくれる(インプレッション記事はこちらから)。



POCの最新TTヘルメット「PROCEN」

POCがエアロダイナミクスのリソースをフル投入した最新のタイムトライアルヘルメットが「PROCEN(プロセン)」だ。昨年の女子ブエルタ・ア・エスパーニャで実戦投入されたPROCENは、空力はもちろんヘルメット内の冷却を最適化し、結果的にスピードとプロテクション性能、そしてライダーパフォーマンスを向上させることに重点を置いている。

「Procenは強化された熱管理によって、スピードを冷却に利用し、最高の努力をより長く維持できるようにすることを目標にした(要約)」と言うのはPOCのディレクターを務めるマグナス・グスタフソン氏。ツール・ド・フランスを筆頭にする夏場のレースでは1時間近いタイムトライアルも考えられることから、ライダーが最後までパフォーマンスを発揮できるよう快適性が求められたのだ。

POC Procen

圧力がかかる部分に開口部を設けることで、ヘルメット内部に効率よく風を導く

熱がこもりがちなTTヘルメットの内部環境を改善するため、POCはヘルメット前方にベンチレーションホールを設け、そのまま深いチャネルを通りヘルメットから排出されるエアフローを構築。流体の流れを絞ることによって流速を増加させるベンチュリー効果を使い通気性向上を実現したと言う。

マグネット脱着式のレンズには他ブランドにはないテンプルが備えられているが、これはレンズをヘルメットから約10mm離した場所で保持し、走り出す前の状態を少しでも快適な状態に保つための配慮。極限の集中力が求められる場面のストレス排除が果たす役割は大きいと言えるだろう。

ヘルメット内側に入った風はそのまま後方へと流れる

シェルの後方はポリカーボネートではなく生地が用いられている

もちろんエアロダイナミクスの設計にも抜かりはなく、ヘルメット外側を流れる風と内部を通り抜けた風が淀みなく混ざり合い、乱流が生まれづらいようコントロールされている。ヘルメット後部のエアフローを整えることは、ライダーとバイクをセットとして見た際のドラッグを減少させることでもある。



世界を驚かせたTTヘルメット、Tempor

衝撃をもって、POCのエアロデザインを世界中に知らしめたタイムトライアルヘルメットがTemporだ。従来の常識を覆すヒレのついたデザインは、ヘルメット単体ではなく、ライダーとヘルメットをセットとして捉えて空気抵抗減を狙ったことによるものだ。つまりTTポジションをとった際、ヘルメットから首回り、肩に至るの空気の流れをコントロールすることで乱流を抑える狙いがある。

POC Tempor

POCはオリンピック銀メダルなどタイムトライアルスペシャリストとして名を馳せたグスタフエリック・ラーション(スウェーデン)やSemcon社の空気力学スペシャリストを招聘してTemporを開発。CDF解析と風洞実験でシミュレーションを繰り返したという。

ヘルメットのサイド部分が張り出した造形が特徴だ

ヘルメットサイド部分が意図的に張り出ている

奇抜なエアロデザインはもちろんのこと、フロントに設けられた2つの空気取入口から空気を取り入れ、ヘルメットを通して肩へと流すことで全体的な空気抵抗減も達成。これはヘルメット着用時の快適性にも寄与する部分だ。

Temporは開発当時ガーミン・シャープに供給され、EFエデュケーション・イージーポストと名前を変えて今に至るトップロードチームの走りを支え、2020年にはデンマークナショナルチームによるトラック・パーシュートによる世界記録樹立にも貢献。ここ近年TTヘルメットは大型化の一途を辿っているが、その先鞭を10年も前につけたのはこのTemporだったことを記しておきたい。

開口部から入った風はヘルメット側方に導かれる

サイドシェルの内側はクッションで保護されている


ヘルメットとしての安全性はもちろんのこと、エアロダイナミクスや軽量性といった高機能を北欧らしいプロダクトデザインで包んだのがPOCのヘルメットだ。売れ筋のVENTRAL AIRとセカンドモデルのOMNE AIRには日本人の頭に合わせたアジアンフィットモデルが展開されてるのも嬉しいポイント。「POCのヘルメットは日本人に合わない」は、もうすでに過去のものになっているのだ。



POC Ventral Air Mips WF
サイズ:S 55-58cm、M 59-61cm
カラー:Hydrogen White、Uranium Black Matt、Lead Blue Matt、Fluorescent Orange AVIP
価格:37,400円(税込)

POC Procen
サイズ:M 54-60cm
カラー:Hydrogen White、Uranium Black Matt
価格:57,200円(税込)

POC Tempor
サイズ:M 54-60cm
カラー:Hydrogen White、Fluorescent Orange、Uranium Black Matt
価格:59,400円(税込)

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