残り10km付近から独走となった兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)。スプリント勝負と予想したライバルをよそに、20秒のリードを守って逃げ切り、2023年シーズン最後のレースを締めくくる勝利を挙げた。



元スピードスケート代表の高木菜那さん、安田大サーカス・団長、今中大介さんらがスタートを盛り上げた photo:Satoru Kato
早朝から多くの観客がスタートに集まった photo:Satoru Kato


スタートサインのステージに観客が集まった photo:GCT実行委員会

「THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2023」男子のレースは、72.6km。八王子市で約20kmの周回区間を走行したのち、多摩市、稲城市、府中市を経て調布市の味の素スタジアムにフィニッシュする。明確な勝負どころになるような険しい登りは無く、短い登りと下りが繰り返されるもののフィニッシュに向けて下り基調となるため、距離の短さと相まって先行する集団が出来たとしても最後は一つにまとまることが予想された。

ゲストライダーを先頭に多くの観客に見送られてパレードスタート photo:Satoru Kato

この日の八王子市は、スタート時間の午前9時になっても10℃を切る寒さ。ゲストライダーとしてパレード走行を先導した元冬季五輪スピードスケート代表の高木菜那さんは「北海道出身だけれど、八王子の寒さをナメていた」と、スタート前のステージで話すほどだった。そんな早朝の寒さにもかかわらず、富士森公園には多くの観客が集まってスタートを見送った。

リアルスタートと同時にペースが一気に上がる photo:Satoru Kato

八王子市街を見下ろす丘陵地を登る集団 photo:Satoru Kato

金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)が先行した集団を牽引 photo:Satoru Kato

約6kmのパレード走行を経てリアルスタートが切られると、山本元喜(キナンレーシングチーム)のペースアップにより集団が一気に長く伸ばされ、アタック合戦が始まっていく。周回区間の終盤には10名ほどの集団が先行しかけるもうまくローテーションが回らず、ハイスピードを維持するメイン集団が吸収する。周回区間を出てからもアタック合戦が続き、逃げが容認されない状況が続く。

コース中盤、安全確保のために設けられたニュートラル区間 photo:Satoru Kato

残り40kmを切っても集団はアタックが繰り返される photo:Satoru Kato

残り30kmを前に飛び出した2名 photo:Satoru Kato

約30kmほど行ったところで、レースは一旦ニュートラル区間に入る。中央分離帯の無い区間で片側車線のみ通行規制となるため、安全確保のため時速30kmで走行する区間が設けられた。ニュートラル区間を終えてレースが再開されると、再びアタック合戦が始まる。多摩市に差し掛かったあたりで、兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)と山本大喜(JCLチーム右京)の2名が抜け出して先行。メイン集団とは10秒から15秒の差がつくも、お互いの姿を視認できる距離で進行していく。

うねるようなアップダウンが繰り返されるコース後半 photo:Satoru Kato

コース終盤、多摩川にかかる是政橋を渡る集団 photo:Satoru Kato

先行する2人は、「言葉はかわさなかったけれど、走りから山本選手も逃げ切るつもりだと伝わってきた」と兒島が言うように、牽制することなく先頭交代しながら進む。しかし残り14kmを切り、多摩川を渡る是政橋に向かう直前のコーナーでアクシデントが発生。コーナーのフェンスに接触した山本大喜が落車して遅れてしまう。「イン側のフェンスが急に視界に入って、左肩をフェンスに当てながら何とか転ばないように耐えていたが、アウト側が狭くなっていてもう無理だった。兒島も避けるのはギリギリでしたね」と言う山本。集団には復帰したものの、兒島の単独先行を許すことになる。

残り7km 単独先行する兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

残り7km メイン集団から増田成幸(JCLチーム右京)が追走に出る photo:Satoru Kato

残り10kmを切り、メイン集団と兒島の差は20秒。メイン集団はチームブリヂストンサイクリングが抑えにかかるも、スプリント勝負に持ち込みたいチームがペースを上げて兒島を追う。残り7kmを切り、増田成幸(JCLチーム右京)が単独追走に出るも時すでに遅く、兒島は残り1kmのストレートに単独で姿を現す。後方で始まったスプリントを確認すると、200mを残して兒島は勝利を確信。何度も両腕を突き上げながらフィニッシュラインを越えた。

残り200m、後ろを振りかえる兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)が逃げ切り勝ち photo:Satoru Kato

その直後、メイン集団は岡本隼を先頭にフィニッシュ。3位に佐藤健が入り、愛三工業レーシングチームが2位と3位を占めた。遅れてしまった山本大喜は敢闘賞を獲得した。

男子ロードレース表彰式 左から、2位岡本隼(愛三工業レーシングチーム)優勝兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)3位佐藤健(愛三工業レーシングチーム) photo:Satoru Kato

優勝 兒島直樹 コメント
「僕か今村駿介さんが最初に抜け出すプランで、それが出来なければ集団スプリントというチームの作戦だった。僕が抜け出すことが出来たので最後まで行くつもりだった。チームブリヂストンサイクリングはスプリント勝負を狙ってくると思われていたかもしれないが、それを裏切るように自分達から逃げをつくる作戦を立てて実行できたことは良かったと思う。

是政橋の直前のコーナーでフェンスが出っ張っているのに気づかず、前で走っていた僕は避けられたけれど後ろにいた山本選手がぶつかってしまった。その後は1人になって、20秒という時間差がどのくらいの距離なのか分からなかったのでひたすら踏み続けた。このまま耐えれば行けるかもと思い、沿道からの応援もたくさんあって最後まで踏み切ることが出来た。普段だったら10kmくらいすぐなのに、とにかく長く感じた。

優勝した兒島直樹とチームブリヂストンサイクリングのメンバー photo:Satoru Kato
地元賞も獲得した兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato


トラックナショナルチームでトレーニングは続けていてオフシーズンには入っていなかったので、ピークではないけれど調子は良かった。直前2週でトラックの大会ふたつを走っていたこともあり、序盤のアタック合戦にも対応出来たし、後半に向けて脚を残すことも出来ていた。それが結果につながったと思う。

クリスマスあたりにオフを取れる予定なので、そこでしっかり精神的にも休んで1月からの沖縄合宿に臨みたい。そしてネイションズカップに最初のピークを持っていきたい」



敢闘賞 山本大喜(JCLチーム右京)

敢闘賞は山本大喜(JCLチーム右京) photo:Satoru Kato

「最初からアタックを掛けて集団を絞って逃げ切りたいと思っていた。結局最後は兒島が逃げ切ることになったので自分のアタックは集団に対してダメージを与えることができていたんだと分かった。良い展開に持ち込めたぶん残念。もったいないですね。

調子そのものもかなり良くて、次のシーズンインを見据えてしっかり準備できていたことが大きいと思う。だからこそなおさら悔しい。気持ちを切り替えて来シーズンを目指していきたい」



2位 岡本隼(愛三工業レーシングチーム)

メイン集団の先頭は岡本隼(愛三工業レーシングチーム、写真左端) photo:Satoru Kato

「チームとしては僕と佐藤健の2人でのスプリントを考えていた。でも、スプリント狙いだと思っていたブリヂストンが単独逃げの展開に持ち込むとは意外だったし、集団の足並みも揃っていなかったけれど、チームとして追い上げきれなかった。今シーズンは逃げ切りを許したことがいくつかあったので来年への反省材料にしたい。

2位と3位を手堅く抑えることができたのは収穫だったと思うし、個人的にはたくさんの観客の前で、集団スプリントの、しかもトップスピードに乗った状態の速さを披露できたので良かったと思う」
THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2023 男子エリート 結果(72.6km)
1位 兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) 1時間29分13秒
2位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) +3秒
3位 佐藤 健(愛三工業レーシングチーム)
4位 松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)
5位 岡 篤志(JCLチーム右京)
6位 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)
7位 中島 渉(JBCF JET選抜B)
8位 大前 翔(慶応義塾大学体育会自転車競技部)
9位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
10位 柚木伸元(日本大学自転車部)
敢闘賞 山本大喜(JCLチーム右京)
地元賞 兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)


text:Satoru Kato, So Isobe
photo:Satoru Kato, GCT実行委員会