「出力の数値を疑った」と語るほど驚異的な走りでステージ優勝に輝いたヨナス・ヴィンゲゴー。大差で敗れ「明日のステージでベストを尽くす」と意気込むポガチャルなど、ツール第16ステージの個人TTを終えた選手たちの言葉を紹介します。



区間優勝&マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)

第1計測地点からポガチャルを上回る、驚異的なタイムで駆けたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:So Isobe

レース直後インタビュー

人生で最も良い走りができたタイムトライアル。自分の走りやこの勝利を誇りに思う。正直、ここまでの走りができるとは思っておらず、自分自身驚いている。

―これで総合優勝の決着がついたと思うか?

いいや、そうは思わない。この後も厳しいステージが待ち受けているし、チーム一丸となり戦わなければならない。だが、同時に楽しみでもあるよ。

―今日のタイムトライアルを振り返ってくれ。

今日のコースは3つ、いや4つに分けることができる。最初の平坦と登りを全力で踏み、下りでリカバリーに努めた。その後の平坦で再び踏み込み、最後の登りはフルガス(全力)。だがフィニッシュ手前の平坦区間のために少し脚を残していた。この結果が本当に嬉しいし、ツールのタイムトライアルで飾る初めての勝利。とても誇りに思っているよ。

ベルナール・イノーのサムズアップを受けるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

表彰式後インタビュー

今日は競技生活で最良の日となった。調子が良すぎて途中ガーミン(サイクルコンピュータ)の故障を疑ったぐらい(高い出力値を表していた)。(コース中盤の)平坦区間で大体360ワットで踏んでいると思ったら最終的に380ワットも出ていたんだ。このステージのために長く準備を進め、その努力が報われた結果だろう。

区間2位&総合2位&マイヨブラン(ヤングライダー賞) タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)

ヴィンゲゴーとのタイム差を拡大されてしまったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

この結果には多少なりとも驚いている。正直、コース後半は調子が良くなかったのだが、そんな中でも悪くない走りができた。しかし、それでも大きなタイム差がついてしまった。今日はタイム差を縮め、マイヨジョーヌを着用することすら考えていた。だがこの結果はしょうがない。だから今日が(第5ステージで遅れた)マリーブランク峠で、明日には(復調して勝利した第6ステージのように)良い脚が戻っていることを願っている。

最初の登りの頂上(第1計測地点)でワウト(ファンアールト)よりも20秒上回っていると聞き、とても嬉しかった。その後も彼を上回るタイムで進んだものの、反対にヨナス(ヴィンゲゴー)からはタイムを失っていった。少しショックを受けたものの、フィニッシュラインまでにそのタイム差を最小限にしようと懸命に踏み込んだ。その願いは叶わなかったものの、全力は尽くしたよ。

1分38秒差の2位に沈んだタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:A.S.O.

ツールはまだ終わっていないし、もし明日雨が降れば面白いレースになると約束できる。今大会で最も厳しいステージがあと2つ残っており、何が起きても不思議ではない。それに誰にだってバッドデイが訪れる可能性もある。先程も言った通り、明日は僕の日となる。2分差を縮めることは容易ではないが、戦略を立ててベストを尽くす。

区間3位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)

座り込んだワウト・ファンアールトとそれを遠くで見守るトム・デュムラン photo:CorVos

今日、ヨナス(ヴィンゲゴー)は凄まじい走りを披露した。僕自身、自分の走りには満足しており、最後のトリッキーな部分に向けてもう少し力を残したかった。登りでは先に走っていた選手たちよりもタイムで上回ることができて満足している。だが、2人の選手が僕の上を行った。

僕らチームにとってヨナスの勝利は素晴らしい。だがタフなステージは残っているので、これで気を抜くことはしてはいけない。何が起きても不思議じゃないし、勝負はパリまで分からないからね。

区間6位 レミ・カヴァニャ(フランス、スーダル・クイックステップ)

今日のコースは僕に適していなかったものの、ベストを尽くすことができた。だから落ち込んでいないし、このフランス王者ジャージで走る良いタイムトライアルだった。最後の登りのために力を残しながらも、スタートから踏み込んだ。それでもラスト4kmは辛く、そこでタイムを失ってしまった。明日、僕はレースにはいないだろう(笑)。でも最善を尽くすよ。

区間24位&総合5位 ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)

1時間以上に渡りホットシートを温めたレミ・カヴァニャ(フランス、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

望み通りのステージとはならなかった。落車で負傷した箇所が痛み、ペダルに力を込めることができない。前日の休息日はトレーニングを抑え、回復と治療に努めた。回復には重要だったが、その結果今日リズムに乗ることに苦労した。前を向き、回復することができれば脚に力が戻ってくるはずだ。

UAEチームエミレーツのマウロ・ジャネッテGM

素早いバイク交換を経て、登坂に入ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:So Isobe

ここまでタイム差がつくとは思っていなかった。タデイ(ポガチャル)自身は良いタイムトライアルができたと思っている。なぜならワウト・ファンアールトに対し1分以上の差をつける2位だからね。でも、ヨナスがそれ以上の走りをしたということだ。本当に凄い。

まず第1計測地点でヨナスがタデイの通過タイムを16秒上回ったことに驚いた。選手全員が自分の出すことができる数字を把握しており、ヴィンゲゴーのタイムは我々の予測を遥かに上回っていたんだ。

―ポガチャルは登りの直前にノーマルバイクに乗り換えたが、TTバイクのままいく選択肢はなかったのか?

バイクチェンジは我々のバイクや(交換)技術、選手(の特性)を合わせた計算に基づいている。我々は可能な限りのテストを行い、ノーマルバイクに交換したほうがアドバンテージが大きいという結論に至った。だからタデイはバイク交換を行った方が速く、アダム・イェーツはTTバイクのまま登った方が速いという結論が出たんだ。

バイク交換に10秒かかったものの、ヴィンゲゴーとタデイの差は1分38秒。つまりその差はバイク交換によるものではなく、出力だったということだ。

text:Sotaro.Arakawa
photo: So Isobe, CorVos, A.S.O.