メーカーの“中の人”たちは富士ヒルで何に乗った?ガチの人も、初参加の人も、それぞれのこだわりと愛が詰まったリアルバイクを紹介!「あなたの自転車見せてください」富士ヒル編・メーカー代表特集です。



どんなに熱心なホビーレーサーでも、彼らの自転車愛には敵わないかもしれない。だって、今回登場するのは、「自転車を仕事にしちゃった人たち」。そう、バイクブランドを背負って立つメーカーの「中の人」たちだから。

あっ、本気の人だ!ヒルクライムでTTメットだなんて、本気の中の人に違いない!(友情出演:ジャイアント・ジャパンの山本雄哉さん) photo:So Isobe

実はこの中の人たちがちゃんと走っているのも富士ヒルの面白いところ。会場にたくさん並んだメーカーブースには、本気の機材と覚悟を持ってヒルクライムに挑むスタッフたちの姿もある。

ゴールド達成を目指すガチ勢もいれば、初出場でイベントの楽しさに目覚めた人もいる。けれど共通しているのは、「このバイクが好きなんだ」という真っ直ぐな気持ち。中の人だからこそ知っているベストセッティング。中の人だからこそ語れるブランドへの想い。そして“中の人”であっても、やっぱりヒルクライムはつらい──けど、楽しい!

そんな6人のリアルバイク&リアルストーリーをお届けします。



塩田響さん(インターテック)/キャノンデール SuperSix EVO 2

塩田響さん(インターテック)とキャノンデール SuperSix EVO 2 photo:So Isobe

「また来年も出たいな、って思ったくらい楽しかったです」。爽やかな笑顔でそう語るのは、キャノンデールやワフーを取り扱うインターテックの塩田響さん。スポーツバイク歴1年で、富士ヒルクライムに初挑戦した“フレッシュ代表”だ。高校まではサッカーに没頭していたが、スポーツバイクは「なんとなく所有していた程度」。インターテックへの入社をきっかけに本格的に乗り始めたという。

そんな塩田さんが自費購入したバイクはキャノンデールのSuperSix EVO 2。「見た目が好きで選びました。もともと乗っているオートバイが青なので、色を揃えるのもアリかなと思って。前に持っていたバイクよりずっと速く走れますね」という。基本的に完成車のままだが、ハンドルは登場時に話題をさらったMOMO製に変え、他にもワフーのサイクルコンピューターに、ワフー/スピードプレイのAEROペダルなど、“弊社仕様”で固めている。

フレームカラーは所有しているオートバイと同じ青に photo:So Isobe
ハンドルはmomoデザイン製に変更。「見た目が格好良くて」とのこと photo:So Isobe


きちんとロードに乗るのは初めてだと言う塩田さん。愛車にぞっこんのご様子 photo:So Isobe

「営業職としてお客様に自らの言葉で使用感を説明できるように、まずは自分自身で試して使っています。ワフーはEFの選手が使っているのを見て、キャノンデールとの相性も良いということで気に入って取り入れています。ハンドルを交換した性能の違いは正直まだわからないですが、見た目が締まって所有欲が満たされるんです」と、語るあたりに素直な視点が光る。

「自転車ってめちゃくちゃ楽しいんだな、って思いました。特にグループライドで仲間と走る楽しさは格別です」と言う塩田さんは、「レースはまだ敷居が高いですけど、こういうヒルクライムイベントならまた出てみたいです」と、どんどん自転車の面白さにハマっている様子。地元・新潟ではスノーボードを楽しんできたといい、マウンテンバイクやオフロードへの興味も。「キャノンデールってオフロードも強いブランドですし、いつか挑戦してみたいですね」と、視線はすでに次のフィールドへ向いている。



高橋和大さん(ジャイアント・ジャパン)/TCR ADVANCED SL

高橋和大さん(ジャイアント・ジャパン)のTCR ADVANCED SL photo:So Isobe

ジャイアント・ジャパンに勤め、企画課メンバーとしてパーツやアパレル、CADEXといったGEAR製品を担当する高橋和大(RIDELIFE GIANT)さんは、熱心なホビーレーサーとして毎年富士ヒルクライムに挑戦し、冬場はシクロクロスのエリートカテゴリーを走る「走れる人」。今年の富士ヒルでは、自社の軽量フラッグシップモデル「TCR ADVANCED SL」を駆って、65分切り(ゴールドリング)を狙った。

「TCRの最上位グレードって、もう言い訳できない機材なんですよね」と高橋さんは笑う。昨冬に導入したバイクで乗り込みを重ね、富士ヒルに向けて着実に準備を進めてきた。最新パーツを自費購入した「いっぱいお金をつぎ込んだ(笑)」仕様だ。

ホイールはカデックス。前Max 40 Disc、後50 Ultraで空力と軽さを両立した仕様に photo:So Isobe

僅か256gのRACE INTEGRATEDハンドルバー photo:So Isobe
スラムのクランクセットでフロントシングルに。46Tでゴールドを狙った photo:So Isobe



ホイールはフロントにCADEX Max 40 Discを、リアにCADEX 50 Ultraを入れて空力と軽さを両立。「ヤビツや椿ライン、箱根などで実走テストを繰り返して、この組み合わせが一番タイムが良かった」と語る。スポーク数やハブのフランジ径まで計算し、上りの後半で強風を受けやすい状況にも対応したという。

コンポーネントはDURA-ACEだが、クランクセットだけスラムに入れ替えてフロントシングル仕様に。「去年は50-39Tで出たけれど、そんなに大きなギアは要らないって分かってたので、今年は最初からシングルにしました」と言う。「エアロポジションを維持したまま登れるのも魅力」という僅か256gの「CADEX RACE INTEGRATEDハンドルバー」、5月に販売されたばかりの「CADEX AERO COTTONタイヤ」など、「本気の中の人のバイク」に相応しい仕上がりだ。

今年の富士ヒルでは社員中トップタイムを記録したものの、「実はアルバイトスタッフにプラチナリングの猛者がいて…(笑)」と少し悔しさも滲ませる。目標のゴールドにはわずかに届かず、「来年は絶対に取りに行きます。御社のみっちーと(笑)」とリベンジを誓った。



丸尾則之さん(スペシャライズド住之江)/スペシャライズド S-WORKS Tarmac SL8

丸尾則之さん(スペシャライズド住之江)のスペシャライズド S-WORKS Tarmac SL8 photo:So Isobe

「あと5秒だったんです。ブロンズに、ほんとにあと一歩届かなくて…富士山なめてました(笑)」と語るのは、スペシャライズドの住之江店でアシスタントストアマネージャー(副店長)を務める丸尾則之さん。今年の富士ヒルには、S-WORKS Tarmac SL8で挑んだ。

バイクはほぼ完成車ベースながら、要所にアップグレードを施している。サドルは3DプリントパッドのS-WORKS Rominで、タイヤはモデルチェンジしたばかりの新型コットンモデル。「タイヤは軽快でスムーズです。見た目も抜群に好き」と語る。チェーンリングは「自分の脚では踏み切れないなと思っていたので」とコンパクト仕様に交換。冷静にマシンを自分のレベルに合わせてカスタマイズした。

3DプリントパッドのS-WORKS Rominサドル photo:So Isobe
新型のCottonタイヤ。乗り味は非常にいいと太鼓判 photo:So Isobe


ホイールはロヴァールのRapide CLX。「ちょっと考えが甘かった...」と悔やむ photo:So Isobe

富士ヒルは“エアロ重視”。ホイールはロヴァールのRapide CLXにしてコース中盤以降の緩斜面区間でペースアップする作戦で挑んだ。「軽さより空力が活きるって聞いて。それで強気に行ったんですけど、前半で脚を使いすぎて、後半まで持たなかった」と悔しさをにじませる。それでも「後半は確かに速さを感じた。登りもぐいぐい突き進む感覚がありました」と、マシンのポテンシャルには太鼓判を押す。

ふだんはスペシャライズド住之江店で副店長として勤務する丸尾さん。「お客様の声をよく聞くこと」をモットーに、ブランドを超えた修理・相談にも柔軟に対応しているという。「スペシャライズドのバイクじゃなくても、ぜひお気軽に遊びに来てください」と笑顔で語ってくれた。



豊田勝徳さん(トレック・ジャパン)/トレック Madone SLR gen 8

豊田勝徳さん(トレック・ジャパン)のトレック Madone SLR gen 8 photo:So Isobe

「トヨカツ」で知られるトレック・ジャパンの敏腕営業マンの豊田勝徳さんは、関西圏では知られた強豪レーサー。今回の富士ヒルはシルバーのペーサー任務を担ってからゆっくりとスバルラインを登ったという。

愛車はもちろんトレックの最新モデルであるMadone SLR gen 8。深いグリーンのプロジェクトワン仕様で「Madone gen 8登場時の新色を人柱的に。グリーンが好きだったので即決でした」と笑う。

スラムの新型REDをフロントシングル運用する photo:So Isobe
Reve(レーブ)のシームレスバーテープ「MAKARES(マカレス)」 photo:So Isobe


「来年はプラチナ目指します(キリッ)」 photo:So Isobe

最大の特徴は、スラム RED AXSを使ったフロントシングル仕様であること。「今後もロードはこれでいきたいと思ってます。リアの段数が増えた今、軽量化とエアロ、そしてトラブルの少なさを考えれば、シングルが合理的なんですよ」ときっぱり。これまでチェーン落ちはゼロ。ブラケットの握り心地が良かったことも、スラムに切り替えた大きな理由だという。

ホイールは51mmハイトをチョイスした。「体重とパワーを考えると、これが最適かなと。もっと登坂が厳しいコースなら37mmにするかもしれません」組み合わせるタイヤはチューブレスではなくあえてチューブド仕様。「そこまで“チューブレス信者”ってわけじゃなくて。むしろ少しカッチリした乗り味が好きなんですよね」と言う。「次回はこいつ(Madone)でプラチナ獲って、気持ちよく走りたいですね」と笑う。サラッと「プラチナ」と言い切ってしまうあたり、流石のカッコ良さ。シビれました。



田上輝樹さん(ダイアテック)/エンヴィ MELEE

田上輝樹さん(ダイアテック)とエンヴィ MELEE photo:So Isobe

富士ヒル初挑戦でブロンズに挑戦──そんな“裏でがんばってた中の人”が、ダイアテックの田上さんだ。普段はWebやプロモーション関連を担当する裏方的ポジションだが、この日は試乗/展示車である「エンヴィ MELEE」で参戦した。

「実は登りが本当に嫌いで…ヒルクライムのレースなんて絶対出ないって思ってました。でも、実際に富士ヒルを走ってみたら、景色はきれいだし、勾配も緩くて意外と気持ちよく走れたんです」と田上さん。初出場ながら1時間27分でブロンズを達成したという。

ボトルとケージはアソス。土曜日のブースでは無料のアソスコーヒーが大人気でしたね! photo:So Isobe
組み合わせるのはSESオールロードハンドルバー photo:So Isobe


「SES4.5で走りましたが、軽量なSES3.4で登ってもよかったかな...」 photo:So Isobe

MELEEの印象については、「いい意味でクセがないですよね。ホイールと一緒に開発されたというのがすごく伝わってくるバイクです。SES4.5と6.7ホイールを入れても具合が良かった。クセがないからホイールによって性格がガラリと変わるのも面白かったです」と振り返る。「今回はSES4.5で走りましたが、軽量なSES3.4で登ってもよかったかなと思います。でも緩斜面区間でタイムを稼ぎたいと考えていたので、SES4.5で良かったのかな...こうやってハイトで悩めるのもSESの面白いところです」とも。

MELEEは35Cまで対応する設計でありながら、レースバイクとしてのシャープさも健在。「太いタイヤでも重たさはあまり目立ちません。むしろ振動吸収性が高くて、長時間走っても体がラク。安心感を持って下れるのも魅力でしたね。自分が使うなら30か32Cあたりがバランスいいと思います」と語るあたり、乗り込みはまだ浅くても“中の人”ならではの製品理解はバッチリ。

「MELEEで走って、ヒルクライムのイメージが変わりました。すごく楽しかったです」と語る田上さん。京都での普段のライドでは見られない景色と、自分の限界に挑んだ体験は、きっとダイアテックの記事を通じて発信される...はず(煽)!



海保直二さん(スコットジャパン)/スコット ADDICT RC ULTIMATE

海保直二さん。スコットジャパン代表にご登場いただいた photo:So Isobe

さりげなくスコットブースにいらっしゃったこちらの方は、昨年スコットジャパンの代表取締役に就任したばかりの海保直二さん。「もともと僕は自転車業界の人間じゃなくて、ずっとアウトドア畑にいたんです。登山やクライミング、スキーのほうが専門で、スコットのウインター部門でずっと働いてきたんです。だから自転車部門に移籍したのは、僕自身ちょっとびっくりというか」。そう語る海保代表は、自転車にも個人的に乗ってはいたものの、自転車業界の“中の人”としてはまだ1年目。けれどその視線はまっすぐ、そして熱い。

「スコットって、本当にいい商品が揃ってるんですよ。でも、それが日本で十分に伝えきれていなかったなと感じていて」そんな課題感のもと、昨年の就任以来、まずはブランドの“てっぺん”をしっかり見せることに注力してきたと言う。「トライアスロンやヒルクライムといった競技シーンで、“あ、スコットって速いんだ、かっこいいんだ”って思ってもらえることが大事。市場が小さくても、まずはイメージを築かないと広がっていかないから。」

試乗車のADDICT RC ULTIMATEで富士山を登り切った「もっとスコットのブランド力を訴求していきたい」と言う photo:So Isobe

実際、今シーズンは注目選手のサポートや、イベント会場での露出強化など、明確なブランド戦略を推し進めてきた。「どこかで“あれ、最近のスコットジャパン、ちょっと動いてない?”って気づかれるくらいには、変化を出せてきたと思ってます」サポートするアスリートに対しても、ただ実績だけでなく「スコットというブランドを本当に好きでいてくれるか」が最重要条件。「契約が切れたから乗り換える──じゃなくて、愛を持ってくれる人と一緒にやりたいと思っているんです」と、そのブランド愛はホンモノだ。

「スコットは本社も製品もすごく洗練されていて、ものづくりに妥協がないブランドなんです。日本でも、その魅力をもっともっと届けていきたいですね」。

text:So Isobe

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