ブエルタ第2週目の山岳連戦がスタート。リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)が大逃げで区間2勝目を挙げ、総合バトルではレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)が脱落するも、タイム差を削りながら首位を守っている。



9月3日(土)第14ステージ
モントロ〜シエラ・デ・ラ・パンデラ 160.3km(山岳)


シエラ・デ・ラ・パンデラを見据える第14ステージがスタートシエラ・デ・ラ・パンデラを見据える第14ステージがスタート photo:Unipublic
9月3日(土)第14ステージ モントロ〜シエラ・デ・ラ・パンデラ 160.3km9月3日(土)第14ステージ モントロ〜シエラ・デ・ラ・パンデラ 160.3km photo:Unipublic9月3日(土)第14ステージ モントロ〜シエラ・デ・ラ・パンデラ 160.3km9月3日(土)第14ステージ モントロ〜シエラ・デ・ラ・パンデラ 160.3km image:Unipublic


スペイン南部に向けて南下を続ける第77回ブエルタ・ア・エスパーニャ。スプリントステージを挟み、いよいよ総合優勝争いが左右される山岳2連戦が始まった。

第14ステージの最後に控えるのは、シエラスールデハエン山脈の最高点(標高1820m)である1級山岳シエラ・デ・ラ・パンデラ。勾配標が10%を指す激坂登坂であり、前回登場した2002年大会では区間優勝したロベルト・エラス(スペイン)が翌年からの3年連続総合優勝を決めている。

アルボラン海にほど近いモントロの街を出発。今季限りの引退を決めているヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ・カザフスタン)が逃げを打ったものの、メイン集団から次々と追っ手が現れて引き戻される。総合争いの場はつまり大逃げのチャンスでもある(=総合上位勢がステージ優勝ではなく互いの勝負に集中する可能性がある)ため、この日は逃げができては吸収され、カウンターアタックで別グループが先行...という激しい展開で序盤戦を消化することとなった。

マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)を含む10名が逃げるマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)を含む10名が逃げる photo:Unipublic
平坦区間でリードを広げるエスケープグループ平坦区間でリードを広げるエスケープグループ photo:Unipublic
80km以上に及ぶアタック合戦の末に生まれたのは、2日前に逃げ切ったリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)を含む強力な逃げグループ。メイン集団を振り切って、アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・カザフスタン)やルイスレオン・サンチェス(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)、マイヨプントスの前日勝者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)といった10名がリードを築いた。

逃げグループを形成した10名
クレマン・シャンプッサン(フランス、AG2Rシトロエン)
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・カザフスタン)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)
ブルーノ・アルミライル(フランス、グルパマFDJ)
リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)
フィリッポ・コンカ(イタリア、ロット・スーダル)
マルコ・ブレンナー(ドイツ、チームDSM)
ケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード)
マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)
カルロス・ガルシア(スペイン、エキポ・ケルンファルマ)

「80kmを過ぎても逃げグループがなく、それに飽きたマッズが"行こう!"と左側から猛加速して全てが木っ端微塵になった」とエリッソンドは逃げ決定の瞬間を振り返る。逃げグループ内の総合成績最上位は14分52秒遅れのカラパスで、メイン集団はタイム差の広がりを4分半程度でストップさせる。しかしステージ優勝に向けて突き進む逃げグループはレース中盤を過ぎて始まる緩斜面の3級山岳でもリードを維持。そのままなだれ込んだ127.5km地点の中間スプリントポイントでは狙い通りピーダスンが先頭通過を果たした。

オリーブ畑が広がる山岳地帯に分け入るオリーブ畑が広がる山岳地帯に分け入る photo:Unipublic
大声援を受けて登るルイスレオン・サンチェス(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)大声援を受けて登るルイスレオン・サンチェス(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Unipublic
最終山岳でペースアップするリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)最終山岳でペースアップするリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
目的を達成したピーダスンがスピードを緩め、残る9名は3分半リードで1級山岳シエラ・デ・ラ・パンデラ手前の2級山岳プエルト・デ・ロス・ビラレス(登坂距離10km/平均5.5%)に突入。サンチェスが積極的にペースメイクする一方、カラパスは他選手に脚を使わせながら追走。2分後方まで迫ったメイン集団ではクイックステップ・アルファヴィニルに代わったユンボ・ヴィスマの加速によって、逃げで総合9位まで上げたヤン・ポランツ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が早々に脱落を喫した。

ダウンヒルではなく、2級山頂からは平坦を挟んで1級山岳シエラ・デ・ラ・パンデラ登坂が始まった。先頭グループはシャンプッサンとサンチェス、カラパス、そしてコンカの4名だけに絞られ、総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)のリクエストを受けたクリス・ハーパー(オーストラリア、ユンボ・ヴィスマ)が猛烈に牽くメイン集団は1分後方まで足音を近づける。総合上位勢だけに絞られるとログリッチが真っ先にアタックした。

エヴェネプールを引き離したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)とミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン)がフィニッシュを目指すエヴェネプールを引き離したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)とミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン)がフィニッシュを目指す photo:Unipublic
パンクに見舞われ、ニュートラルバイクに乗り換えてフィニッシュを目指すフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ)パンクに見舞われ、ニュートラルバイクに乗り換えてフィニッシュを目指すフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ) photo:Unipublic
遅れつつもマイペースでフィニッシュを目指すレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)遅れつつもマイペースでフィニッシュを目指すレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) photo:Unipublic
ログリッチに対して2分41秒リードを持つ首位レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)は静観しているように見えたものの、総合3位エンリク・マス(スペイン、モビスター)や総合7位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ・カザフスタン)がアタックしても追わず、むしろ苦しいペダリングで息が上がってしまう。今大会初めてエヴェネプールが見せた弱みに対し、総合ライバル勢は一気呵成。千載一遇のチャンスを得たログリッチは、逃げグループを捉えんばかりのハイペースで登坂を続けた。

残り3km地点で、独走に持ち込んだ先頭カラパスと、一気に追い込むログリッチ&追いついたマスのタイム差は25秒。総合5位フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ)がパンクに見舞われてニュートラルサポートのスペアバイクに乗り換える中、エヴェネプールを40秒引き離したログリッチグループが猛然とヒルクライム。カラパスの逃げ切りに黄色信号が灯ったものの、フィニッシュ直前のダウンヒル区間は五輪王者に味方した。

独走に持ち込んだリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)独走に持ち込んだリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Unipublic
追い上げるログリッチを抑えて逃げ切ったリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)追い上げるログリッチを抑えて逃げ切ったリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Unipublic
何度も後ろを振り返って確認したカラパスがぎりぎり逃げ切り、ログリッチとマスに代わったロペスが8秒差でステージ2位&3位。総合上位カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)やジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)が次々とフィニッシュした一方、エヴェネプールは56秒遅れのステージ8位でフィニッシュ。総合首位は守ったものの、2位ログリッチとの差は2分41秒から1分49秒に縮まった。

「先日のステージ優勝をリピートできると思っていた。登りをよく知っていたし、望みを切らすことなくマイペースで登り続けたんだ」と、1週目の遅れを帳消しにする区間2勝目を挙げた東京オリンピック金メダリストは言う。また、遅れながらもマイヨロホを守ったエヴェネプールは「間違いなくベスト・デイではなかった。だから遅れた時もパニックにはならず落ち着いてペースを刻むことができた。何よりも大切なことは、明日の頂上フィニッシュに向けて少しでも身体を休めること」と話している。

今大会ステージ2勝目を喜ぶリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)今大会ステージ2勝目を喜ぶリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
グルペットが1級山岳シエラ・デ・ラ・パンデラを登るグルペットが1級山岳シエラ・デ・ラ・パンデラを登る photo:Unipublic
翌日は山頂フィニッシュ2連戦の2日目。エヴェネプールの失速によって、標高2,512mの超級山岳シエラ・ネバダ(距離19.3km/平均勾配7.9%)フィニッシュの行方が今まで以上に注目を集めることになった。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2022第14ステージ結果
1位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 4:9:27
2位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン) +0:08
3位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)
4位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +0:27
5位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +0:36
6位 エンリク・マス(スペイン、モビスター)
7位 テイメン・アレンスマン(オランダ、チームDSM) +0:51
8位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) +0:56
9位 フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ)
10位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) +1:24
マイヨロホ 個人総合成績
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) 52:21:33
2位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) +1:49
3位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) +2:43
4位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +4:46
5位 フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ) +4:53
6位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン) +6:02
7位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +6:49
8位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) +6:56
9位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +8:49
10位 ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) +9:12
マイヨプントス(ポイント賞ジャージ)
1位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) 267pts
2位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 96pts
3位 マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ) 96pts
マイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)
1位 ジェイ・ヴァイン(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 40pts
2位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 26pts
3位 ロバート・スタナード(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 21pts
マイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) 52:21:33
2位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +3:46
3位 フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ) +4:53
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 156:18:52
2位 イネオス・グレナディアーズ 4:46
3位 アスタナ・カザフスタン 34:23
text:So Isobe
photo:Unipublic, CorVos