ワフーがリリースしたタイヤドライブ式のスマートトレーナーKICKR ROLLR。前輪を固定し、後輪を2本のローラーに乗せるハイブリッド式の新型は、準備の手間が少なく、自然な走行感を味わえるインドアトレーナーだった。実際に使用したインプレッションをお届けしよう。



ワフー KICKR ROLLRワフー KICKR ROLLR
現在のホームトレーナーの主流はダイレクトドライブ式の固定ローラーと言っても過言ではない。以前ポピュラーだったタイヤドライブ式の固定ローラーや3本ローラーに対して、ダイレクトドライブ式トレーナーはタイヤの消耗が少ない、セッティングによって負荷が変動しない、静粛性に優れる等といった様々なメリットを有しており、各ブランドがダイレクトドライブ式のローラー台を次から次へとリリースし続けてきた。

そんな状況下でワフーがタイヤドライブ式の新型KICKR ROLLRをローンチしたことに驚きがあったのは正直な感想だ。タイヤとローラー、ローラーを回すベルトの駆動音が小さくないタイヤドライブ式のメリットをKICKR ROLLRを通じて改めて感じとるべく、実機でテストを行った。

KICKR ROLLRは前側固定、後側フリーのいわゆるハイブリッド式をベースとした固定ローラーの一種だ。これまでのハイブリッド式は前輪を外し、フォークを固定する方式がポピュラーだったが、KICKR ROLLRでは前輪をクランプパーツで挟み込んで固定するという方式だ。

無段階調整できるホイールクランプのホールド力は非常に高い無段階調整できるホイールクランプのホールド力は非常に高い
最大2.1インチ幅のタイヤにも対応するタイヤホルダーが車輪を支える最大2.1インチ幅のタイヤにも対応するタイヤホルダーが車輪を支える
つまり自転車からパーツを外さずにローラー台を使用できるということであり、大きなメリットとなる。ダイレクトドライブが主流になったことで、後輪を外す作業が当たり前になったと感じていたが、わざわざ車輪を外す手間がなく、手が汚れないのはやはりストレスフリーだと改めて感じさせられた。

その点ではトラディショナルな後輪をクランプする固定ローラーや3本ローラーも同様にセッティングが簡単なローラー台と言えるだろう。しかし、KICKR ROLLRはそれぞれに対してもハイブリッド式ならではのアドバンテージがある。

リアアクスルクランプの固定ローラーは、クイックリリースのナットをクランプすることがポピュラーな方式だったが、ディスクブレーキのロードバイクの場合はクランプするナットが露出していないこともあり、トラディショナルな固定ローラー台に使いにくい。その面でもKICKR ROLLRはディスクブレーキが主流となりつつあるロードバイクのトレンドにフィットしていると言えそうだ。

横幅80cmのフロントレッグが安定感を生み出した横幅80cmのフロントレッグが安定感を生み出した
3本ローラーに対しては前輪クランプによる安定性が勝る。一見したところでは、ホイールを挟み込むという設計では不安があったが、実際に乗ってみるとクランプはガッチリとホイールを掴んで離さない。それだけではなく、ホイール下部を支えるベース部分の形状と備えられたグリッパーが安定性に貢献する。

ホビーサイクリストである筆者・藤原のパワーだけでは判断できないと思い、JCLで戦う高木にもスプリントで試してもらったところ、前輪周りについての不安感はないとのこと。側から見ていてもワイドスタンスの前脚のおかげで、ローラー台が不安定になることはない。

フライホイールと電磁式の自動負荷調節機能を搭載したローラー部分フライホイールと電磁式の自動負荷調節機能を搭載したローラー部分
車輪がずれないようにしっかりとホールドしているが、フォークを固定していないことがKICKR ROLLRの特徴だ。一般的なハイブリッドローラーはペダリングに合わせて左右にブレる車体の動きを妨げる一方で、KICKR ROLLRの場合はクランプされているホイールは左右にズレないが、リムブレーキバイクの場合はブレーキシューがタッチしそうになるほど車体が左右にブレる。このブレがインドアトレーナーにありがちな固定されている感を軽減しており、自然な走行感を演出していると感じる。

もちろん自然な走行感に大きな影響を与えているのは、ペダリングに合わせて左右に振られる車体の動きを妨げない3本ローラーのようなリア部分なのは間違いない。ダイレクトドライブに慣れきっていた体でKICKR ROLLRを試すとリアが固定されていないことによる自然なフィーリングを十二分に味わえるはずだ。

スピードプレイのPOWRLINKとペアリングしてKICKR ROLLRをテストしたスピードプレイのPOWRLINKとペアリングしてKICKR ROLLRをテストした
さらにローラーの幅が広く、ローラーを挟むサイドのケースが高いため、スプリントのようなガムシャラなペダリングでもタイヤは脱落せず。タイヤドライブ式の課題でもあるタイヤスリップもテストでは一切発生せず、バーチャルサイクリングを最初から最後まで楽しめるローラーという印象を得た。

フライホイールを搭載した自動負荷調整機能も魅力だ。リアルの世界では斜度1%をわかりやすく感じることは難しいが、斜度が4%以上になると上り坂を走っていることを実感するはずだ。KICKR ROLLRで感じる負荷のかかり方は、リアルの世界のそれに近い気がする。1%ごとにリニアに変化するダイレクトドライブ式の負荷が強く感じる場合は、KICKR ROLLRを試しても良さそうだ。

気になる静粛性はやはりダイレクトドライブ式に軍配が上がる。今回のテストで使用したバイクではタイヤの振動由来の騒音はなく、ローラーの駆動音のみという印象があるため、これまでの固定ローラーよりは周囲への影響は小さそう。とはいえ、KICKR ROLLRは静粛性を求めるタイプのトレーナーでは無いため、購入する際は検討を重ねてもらいたい。

フロントレッグは畳むことも可能だフロントレッグは畳むことも可能だ
また、KICKR ROLLRには出力計測装置が備えられておらず、スピードプレイのPOWRLINKペダルをはじめとした外部のパワーメーターとペアリングする必要がある。今回はKICKR ROLLRとバンドル販売されているワフーのペダル型パワーメーター"POWRLINK"と組み合わせてみた。

ペダルとローラー台のペアリング作業は非常に容易で、ローラー台に電源を入れて、ペダルを反応させるだけ。ズイフトとの連携も普通のスマートトレーナーと同じ。特別に何か作業を行う必要はないため、パワーメーター搭載ローラー台に引けを取ることはなさそうだ。

また、トレーナーが示すパワー値とパワーメーターが示すパワー値の乖離も起きることが無いため、パワートレーニングの精度も向上するはず。実際、既存のダイレクトドライブ式のスマートローラーもKIKCR ROLLR同様に外部ソースのパワー値に対応するものが多いが、それもそういったシリアスな需要に対応するためでもある。

ワフーからリリースされた新型スマートローラーのKICKR ROLLRワフーからリリースされた新型スマートローラーのKICKR ROLLR
また、KICKR ROLLRのフロントホイールをクランプするステーはロック機構が無いため、設置作業が非常に簡単に行える。ダイレクトドライブ式と比較するとローラー台自体は大きく、収納場所を確保する必要があるものの、ローラー台を都度片付ける方でも選びやすい。その上、車輪を外す手間もなく、準備からライド開始までスムースに作業をこなせるはずだ。

準備や後片付けの作業を素早く行えて、自然な走行感を演出するKICKR ROLLRは、ダイレクトドライブ式が主流の現在のトレンドに楔を打つ存在と感じる。

フラッグシップのKICKRと比較すると最大パワーや再現斜度の数値はKICKRに譲るため、本格的なパワートレーニングなどを行う場合はKICKRも候補に入れた方が良いが、気軽にインドアサイクリングを楽しむ方にはKICKR ROLLRは有力な候補となるだろう。




ワフー KICKR ROLLR
重量:22.6kg
幅:79.5cm
高さ:86.5cm
長さ:146 - 165cm(ホイールベース)
負荷装置:Magnetic
接続性:ANT+ FEC, Bluetooth, Direct Connect
最大ユーザー重量:113kg
フライホイール:4.8kg
最大パワー:1500W
最大斜度:10%
価格:110,000円(税込、本体のみ)、183,700円(税込、POWRLINK ZERO Single-sided)

インプレッション:Gakuto Fujiwara