大会を象徴するピンク色のジャージ、マリアローザを巡る争い。チーム3連覇を目指すリチャル・カラパスや、昨年のリベンジを狙うサイモン・イェーツやミケル・ランダ、総合リーダーとして戻ってきたトム・デュムランなど、第105回ジロ・デ・イタリアで総合優勝を争う選手たちを紹介します。



マリアローザ着たリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)マリアローザ着たリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター) photo:Kei Tsuji
第105回大会の開幕をハンガリー・ブダペストで迎えるジロ・デ・イタリア。その栄誉ある総合優勝者が着用するジャージが、ピンクに彩られたマリアローザだ。「バラ色ジャージ」と名付けられたマリアローザの由来は、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙の紙の色。今年で第105回目を迎える歴史深い大会を主催するのはガゼッタ紙と同じメディアグループのRCSスポルトで、ジャージスポンサーは引き続き元国営の電力会社であるエネル社が務める。

マリアローザはツール・ド・フランスのマイヨジョーヌと同様、各ステージの成績を積算し、そのタイムが最も少ない選手が翌日のステージで着用する。そして最終日を終えた時点でマリアローザを着ている選手がジロ・デ・イタリアの総合優勝の栄冠に輝く。

また各ステージにはボーナスタイムも設定されており、個人TTを除く各ステージの上位3名(1位-10秒、2位-6秒、3位-4秒)と、中間スプリントポイント上位3名(1位-3秒、2位-2秒、3位-1秒)に与えられる。そのため山岳フィニッシュの着順が大きく総合タイムに影響を及ぼすことになる。

チーム3連覇を狙う2019年覇者リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)チーム3連覇を狙う2019年覇者リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:RCS Sport
イネオス・グレナディアーズが3年連続のマリアローザを守るべくエースに選んだのは、2019年覇者リチャル・カラパス(エクアドル)。東京五輪の金メダリストは各国メディアによる優勝者予想でもダントツの支持を受けている。

その理由は例年に比べ個人タイムトライアルの距離が短いから。ハンガリー・ブタペストで行われる第2ステージは9.2km、そして最終日の第21ステージは17.4kmという距離に加え、コース中盤に距離4.1km/平均勾配5.4%の登り区間が登場する”クライマー向き”のレイアウトなのだ。

またその圧倒的なチーム戦力もカラパスをマリアローザに推したくなる要因だ。現役最後のグランツールとなるリッチー・ポート(オーストラリア)を筆頭に、ジョナタン・カストロビエホ(スペイン)やベン・スウィフト(イギリス)と歴戦のベテランたちが脇を固め、山岳終盤ではパヴェル・シヴァコフ(フランス)というチームの将来を担うクライマーがカラパスを支える。

昨年総合3位からより高みを目指すサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)昨年総合3位からより高みを目指すサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ・ジェイコ) photo:RCS Sport
6から4に頂上フィニッシュの数が減ったが過酷さは変わらず、むしろ増していると言えるのは総獲得標高差が増えたためだ。昨年の47,000mから51,000mに跳ね上がった登坂は、エースたちの体力はもちろんアシスト選手たちの数も削っていく。その点で不安視されるのは、カラパスの対抗として挙げられるサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)のチーム力だ。

イェーツが「素晴らしいチーム」と語る出場メンバーには、第4ステージに早速登場するエトナの山頂フィニッシュの終盤まで残れそうな選手は見当たらない。昨年限りでチームを去ったミケル・ニエベ(スペイン、現カハルラル・セグロスRGA)の穴を埋めるには、ダミアン・ホーゾンやルーカス・ハミルトン(共にオーストラリア)では厳しいか。

再びジロ・デ・イタリアに戻ってきたトム・デュムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)再びジロ・デ・イタリアに戻ってきたトム・デュムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) photo:Team Jumbo-Visma
昨年は総合6位、2020年は15日間に渡ってマリアローザを着用したジョアン・アルメイダ(ポルトガル)昨年は総合6位、2020年は15日間に渡ってマリアローザを着用したジョアン・アルメイダ(ポルトガル) photo:UAE Team Emiratesミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)と2年連続の出場とはならなかった新城幸也ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)と2年連続の出場とはならなかった新城幸也 (c)CorVos

トム・デュムラン(オランダ)の下馬評は2017年大会覇者の栄光が霞むほど低い。その理由は前述した個人TTが短いから。しかし大会2日目に築くであろうタイムマージンを合計4つある険しい山岳フィニッシュステージで守ることができれば、この前評判を覆すことができるだろう。

グランツール全制覇というUAEチームエミレーツの夢を託されたのはジョアン・アルメイダ(ポルトガル)。疑問視されていたチーム力も補強が進み、今大会にはジロ区間8勝を数えるディエゴ・ウリッシ(イタリア)や元世界王者ルイ・コスタ(ポルトガル)に加え、成長著しい23歳のアレッサンドロ・コーヴィ(イタリア)などイネオスにも見劣りしないメンバーが揃っている。

昨年は第5ステージで早々と去った悔しさをミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)は過去最強と呼び声高いメンバーとともに晴らせるか。昨年ダミアーノ・カルーゾ(イタリア)の総合2位に尽力したペリョ・ビルバオ(スペイン)が入ったチームでは、ワウト・プールス(オランダ)が最終日前日(クイーンステージ)に現れるマルモラーダ山頂にピークを合わせてくるだろう。

古巣アスタナに復帰しグランツール初制覇を目指すミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ・カザフスタン)古巣アスタナに復帰しグランツール初制覇を目指すミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ・カザフスタン) photo:Tour of the Alps
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン)は優勝経験者ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)ら、全員が登坂特性を持つ極端なまでの山岳メンバーで臨む。また2020年大会で総合3位に入り、翌年ボーラ・ハンスグローエに移籍したウィルコ・ケルデルマン(オランダ)と、それを追いかけるように今年加入したジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)による共闘が再び。そこにステージレースで抜群の安定感を見せるエマヌエル・ブッフマン(ドイツ)が加わるなど、大崩れしない粘り強さは出場チームで随一だ。

その他にもマリアローザに最も近いイタリア人選手と目されるジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)や、24歳のイバン・ソーサ(コロンビア、モビスター)、ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)、ロマン・バルデ(フランス、チームDSM)、ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)らの走りにも注目だ。

歴代マリアローザ獲得選手
2021年 エガン・ベルナル(コロンビア)
2020年 テイオ・ゲイガンハート(イギリス)
2019年 リチャル・カラパス(エクアドル )
2018年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2017年 トム・デュムラン(オランダ)
2016年 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)
2015年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2014年 ナイロ・キンタナ(コロンビア)
2013年 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)
2012年 ライダー・ヘシェダル(カナダ)
2011年 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア)
2010年 イヴァン・バッソ(イタリア)
2009年 デニス・メンショフ(ロシア)
2008年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2007年 ダニーロ・ディルーカ(イタリア)
2006年 イヴァン・バッソ(イタリア)
2005年 パオロ・サヴォルデッリ(イタリア)
2004年 ダミアーノ・クネゴ(イタリア)
2003年 ジルベルト・シモーニ(イタリア)
2002年 パオロ・サヴォルデッリ(イタリア)
text:Sotaro Arakawa