日本最南端のチームとしてJプロツアーに参戦する「シエルブルー鹿屋」。昨年までのトラック競技メインのチームから一新し、ロードレースチームとして今年再スタートした。集団内でも存在感を増してきているチームの拠点を訪問し、チーム設立の経緯や鹿屋を拠点に目指すことなどを、ゼネラルマネージャーの黒川剛氏(以下黒川GM)と、シエルブルー株式会社代表の若藤英二氏(以下若藤代表)に聞いた。



青空が広がった鹿児島湾に沿って走るシエルブルー鹿屋のメンバー青空が広がった鹿児島湾に沿って走るシエルブルー鹿屋のメンバー photo:Satoru Kato
廃校となった小学校の跡地を利用した「ユクサおおすみ海の学校」 この一角がシエルブルー鹿屋の拠点廃校となった小学校の跡地を利用した「ユクサおおすみ海の学校」 この一角がシエルブルー鹿屋の拠点 photo:Satoru Kato鹿児島県南部の大隅半島、鹿児島湾に面した海岸沿いに、鹿屋市立菅原小学校の跡地を利用した「ユクサおおすみ海の学校」がある。その一角にあるショップ「鹿児島FunRide鹿屋店」が、シエルブルー鹿屋の拠点となっている。お邪魔したのは8月上旬。台風の影響で雨の日が続いていたが、この日は青空の下鹿児島湾の青い海が広がっていた。「今日はちょっと濁ってますけどね」と、案内してくれた黒川GMが話す。それでも、南国らしさを十分に感じられる絶景だ。

シエルブルー鹿屋は、2016年にトラック競技のチームとして発足。2015年トラック世界選手権銀メダルの上野みなみ、2016年リオデジャネイロ五輪代表の山本さくら(旧姓・塚越)の2名を柱に活動してきたが、上野、山本共に引退を発表。今年からロードレースチームとして再スタートし、Jプロツアーを主戦場として活動している。7月に広島中央森林公園で開催された第8戦では、冨尾大地がチーム初となる3位表彰台を獲得し、集団内でも存在感を増してきている。

「そもそもトラックチームは2020年の鹿児島国体までで、そのあとロードチームを作ろうという計画だったんです」と、シエルブルー鹿屋の若藤代表はチームの経緯を話す。



チームを2年間休止するつもりだった

2020年JBCF東日本トラックに出場した上野みなみ(写真右)と山本さくら2020年JBCF東日本トラックに出場した上野みなみ(写真右)と山本さくら photo:Satoru Kato若藤代表
「(上野)みなみも(山本)さくらも、国体を最後にという想いがあったので、2020年の鹿児島国体で有終の美を飾って、その勢いでロードチームにという計画だったんです。でも国体が2023年に延期になってしまい、みなみとさくらはそこまで選手は続かないとなりました。黒川監督からは、2年休止した方が良いのでは?と提案いただきました。確かに、選手もいないし、財政的にも厳しい。でも僕は、ここで空白期間を作ったら再スタートさせるのは無理だと思ったので、勝負をかけますと言いました」

昨年から続くコロナ禍で、目標としていた鹿児島国体も東京五輪も流れ、スポンサーも離れてしまった状況では、慎重にならざるを得なかったと黒川GMも話す。

レース中の補給も担当する若藤代表レース中の補給も担当する若藤代表 photo:Midori SHIMIZU黒川GM
「チームがスタートした6年前に若藤代表にお願いして面倒見てもらって、今年からロードチームを始めると最初から決めてはいました。でもコロナが収まって2023年の鹿児島国体が終わるまで活動を休止して、体力温存した方が良いという話をしました。ロードチームを作るなら僕もどこかで合流して手伝うので、体制が整うまで待って欲しいと。でも元々体育会系の若藤代表は判断が早いから、言い出したら聞かない(笑)。やるんだったらやろうと」

若藤代表も鹿屋体育大学のOBで、陸上部で棒高跳びをしていた経緯をもつ。「黒川監督に騙されて代表を引き受けた」と冗談混じりに話すが、畑違いの自転車競技を学び、取れる資格は全て取り、チーム運営から選手のサポートまでこなしている。今年3月まで鹿屋体育大学の自転車部監督を続けていた黒川氏に代わってチームを運営してきた若藤代表を、「体育会系で根性の時代の人。言い出したらとにかく行動が早い」と、黒川GMは言う。



嬉しい誤算となった石橋学の加入

2020年はトラックはシエルブルー鹿屋、ロードはヴィクトワール広島で走った原田裕成2020年はトラックはシエルブルー鹿屋、ロードはヴィクトワール広島で走った原田裕成 photo:Satoru Kato7月の西日本ロードクラシックで3位に入った冨尾大地(写真左)7月の西日本ロードクラシックで3位に入った冨尾大地(写真左) photo:Satoru Kato

逆風の中、ロードチームをスタートさせたもう一つの理由が、ヴィクトワール広島にレンタルしていた冨尾大地と原田裕成の言葉だった。

黒川GM
「冨尾と原田は鹿屋から給料を貰っているのに鹿屋の宣伝が出来ないことにもどかしさを感じていたらしく、鹿屋に戻れる器を作って欲しいと言われました。でも1年待って欲しいと思ったのだけれど、今年のJプロツアーチームの申請締切が数日後に迫っている状況で、まず動かねばと。

それで、ひとまず申請を出して、幸か不幸かJプロツアーとJCLのふたつに別れたこともあって申請が通りました。それじゃ僕もゆっくり出来ないから、急遽3月で鹿屋体育大学を辞めて、こちらに合流することになったんです」

さらに嬉しい誤算もあった。石橋学と白川幸希の加入だ。特に石橋の加入が初年度のチームに絶大な効果をもたらしていると言う。

石橋学の加入がチームを良い方向に向けているという(JPT群馬CSCロードレース6月大会)石橋学の加入がチームを良い方向に向けているという(JPT群馬CSCロードレース6月大会) photo:Satoru Kato
黒川GM
「(石橋)学は来年からと思っていたのだけれど、本人の希望もあって今年の加入が実現しました。チーム練習は週1、2回しかやらないんだけれど、学は練習の虫なので、個人で学がやってるとみんなやらないわけにいかなくなる。昨年と見違えるほどみんな頑張れるようになってきました。やっぱり学だよね?」

若藤代表
「そうですね。冨尾は高校の頃から誰かに引っ張られないとダメなタイプで、原田は我が道を行くタイプだけれど、時たま自分に甘いところがある。それに冨尾も悪影響を受けてしまったところがあったのですが、石橋が来たことによって言い訳が出来なくなってしまったんです。先輩が行くから行かざるを得ないという、それがすごく良い方向に作用して走れるようになった。原田も今トラックではめちゃくちゃ走れているので、次の大会がとても楽しみです」

黒川GM
「学がいなかったら今年のチームがグダグダだったでしょうね。レースでも学と冨尾の2枚看板で勝負できるし。

白川は元々鹿屋体育大学に来たくて浪人したけれど叶わなくて、地元の大学を卒業したのを機に鹿屋に来たいと自ら手をあげてきました。ずっと想い続けてきた場所でやってみたいと」

7月の西日本ロードクラシックで入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)と逃げる白川幸希7月の西日本ロードクラシックで入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)と逃げる白川幸希 photo:Satoru Kato若藤代表
「白川は元々チーム構想に入ってませんでした。ほぼ体制が決まったところで、『実は白川が来たいと言ってます』と原田から聞かされました。でも予算がないから断ろうと思ったら、本人がどうしても鹿屋で走りたいと言ってきたので、加入させることにしました」

黒川GM
「広島のエースだし、ウチよりもっと良い条件も提示されてたらしいけれど、国内トップレベルに入れる力を持ってる選手だし、ここ1、2年でブレークすれば他のチームが引き抜きに来るほどの可能性を持っていると思います。でも白川も伊藤舜紀も1人でやってきた選手なので、今若藤代表が見ている高校生と一緒にトラックで基礎練習をさせてるんです」

若藤代表
「白川は我流でやってきたから、ロードでは強いけれどトラックのスピード領域では高校生に敵わない。トラックは休めないし、高強度の練習になるから、それがロードにも活かせるようになればと思っています」



夢は鹿屋ドリームチーム

チームの拠点前に集まったシエルブルー鹿屋のメンバーチームの拠点前に集まったシエルブルー鹿屋のメンバー photo:Satoru Kato
ロードチームをスタートさせるにあたり、シエルブルー鹿屋は明確な目標を掲げた。スポンサー収入の増額、外国人選手を含むUCIプロチーム規模にすること、鹿屋体育大学と連携しての選手育成、全国大会や国際大会の鹿児島誘致と地域創生などだ。特にスポンサー収入については、現状の1千万円前後から2億円まで増やすと明示している。

黒川監督退任後初のインカレとなった鹿屋体育大学。5年ぶりの女子総合優勝を決めた黒川監督退任後初のインカレとなった鹿屋体育大学。5年ぶりの女子総合優勝を決めた photo:Satoru Kato黒川GM
「鹿屋体育大学の自転車部を26年前に素人1人でスタートさせた時もそうだったけれど、理念とか計画とかが無ければ今の鹿屋体育大学は無かったと思うし、ここまでの結果は出せなかったと思います。資金の集め方とか、選手の強化とか、地域との関わりとか・・・誰もが無理と思っているかもしれないけれど、少なくともどうなりたいかを掲げなかったらそこには届かないし、イメージしながら活動しないとたどり着けないと思うんです。

自分でハードルあげてどうすると言われるけれど、それくらい上げておかないと僕らがやってることは実現しない。チャレンジしなければチャンスは生まれない・・・勝負と同じですね」

チームの母体となった鹿屋体育大学もふくめ、鹿屋市には選手を育てる環境が整っている。それもシエルブルー鹿屋の強みだと黒川GMは言う。

シエルブルー鹿屋の黒川剛GM 自ら書いているボードを前にシエルブルー鹿屋の黒川剛GM 自ら書いているボードを前に photo:Satoru Kato黒川GM
「近くに大学があって、南大隅高校という自転車が強い高校があるので、若い選手の情報が入ってきます。他の人が気づかない、力はあるのに評価されない選手でも、僕らは可能性があるとわかれば受け入れることが出来ます。コロナ禍で力を発揮する場がないが、伸びる可能性がある子達を何人も知っているので、地元の子供達を集めて世界を目指すチームを作ることも出来るのではないかという気がしています」

そうしたバックボーンを持つチームは、日本ではおそらくシエルブルー鹿屋だけだろう。「夢は鹿屋ドリームチーム」と若藤代表が明言するのもうなずける。その一方で、今後10年の目標としている「アジアのナンバー・ワンチーム」を目指すには、外国人選手を含め新たな風を吹かせる存在も必要だと、黒川GMは言う。

2018年の四日市ジュニアで優勝した大河内将泰は、南大隈高校から鹿屋体大へ進学し、今年は育成選手として所属する。2018年の四日市ジュニアで優勝した大河内将泰は、南大隈高校から鹿屋体大へ進学し、今年は育成選手として所属する。 photo:Satoru Kato
黒川GM
「今年のチームは白川や伊藤、真鍋諒太ら、鹿屋とは縁がなかった選手が加入して良い形が出来ています。でも、もっと強烈に強化していくには、もっと強い選手が必要です。まだネームバリューのあるチームでないから、レベルの高い海外レースに出るという計画を打ち出せないと強い選手は来てくれないと考えています。

逆に多額の給料を払えるとしても、レベルの高いレースに出られないチームに強い選手が集まるとも思えません。だからしっかりしたビジョンを明示して、良い選手に集まってもらい、上のレベルを目指していけるようにする。理想は半分くらいを鹿屋OBで固めて、育成の大学生を1/4くらい、残りを他チームからの移籍と外国人選手で構成・・・ですね」

2013年インカレで史上初の男女総合優勝を決めた鹿屋体育大学 この時のメンバーは現在も第一線で活躍している2013年インカレで史上初の男女総合優勝を決めた鹿屋体育大学 この時のメンバーは現在も第一線で活躍している photo:Hideaki TAKAGI
現在、国内トップチームで活躍する鹿屋体育大学のOBは、ざっと挙げただけでも10人以上いる。彼等を集めればすぐにでも実現しそうだが、「チームをスタートさせてわかったのは、OBを集めるにはめちゃめちゃ予算がかかるということです」と、黒川GMは笑って話す。

黒川GM
「本当に実現すればナショナルチーム並みに強い選手が集まることになります。でも選手のコネクションはいちばん持っていても、それ以上にお金がない(笑)。みんないい給料もらってるから、ウチに来てよとは気軽には言えません」

黒川GMのブレーキ役を自認する若藤代表もこう付け加える。

若藤代表
「いつか鹿屋ドリームチームを作るとしても、財布の中身と将来設計のバランスを見ながらうまくやっていかないといけないですからね」




後編では、拠点を置く鹿屋市と鹿児島県で目指していくこと、新たに立ち上げた会社「チャリン・コ・クリエイション」について話を聞く。

(後編に続く)


text:Satoru Kato
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