3月27、28日の宇都宮での2日間レースで開幕した新生ジャパンサイクルリーグ。新リーグ「JCL」が目指すものとは? レースの現場で関係者たちに話を訊いた。

真岡の井頭公園を選手たちがスタート。JCL ジャパンサイクルリーグが開幕真岡の井頭公園を選手たちがスタート。JCL ジャパンサイクルリーグが開幕 photo:Makoto.AYANO
通称「JCL」としてスタートを切ったロードレースの新シリーズ戦「ジャパンサイクルリーグ」。JBCF(実業団自転車競技連盟)から分裂した組織であり、これにより日本のトップレースシーンが2分割されてしまったことは周知のとおりだ。本記事はその是非を問うものではないが、新たなスタートを切ったJCLレースに取材に入り、現場の声を拾ってみた。

JCLについては発足時のリリースをもとにした記事があるのみで、シクロワイアードではその後の経緯等を追うことができてはいなかった。発表によればJCLの概要は「地域創生」をキーワードに、宇都宮ブリッツェン、那須ブラーゼン、ヴィクトワール広島、レバンテ静岡、VC福岡、さいたまディレーブ、チーム右京、キナンサイクリングチーム、そして発表以降に発足した大分県を拠点とするスパークルおおいたレーシングチームの計9チームが参戦。9チームともそれぞれが拠点とする自治体や地域に運営の礎を持つ「地域密着型」のチームとなっている。

デビュー&お披露目となったスパークルおおいたレーシングデビュー&お披露目となったスパークルおおいたレーシング photo:Nobumichi Komoriホームタウンの名をチーム名に含めた「チーム右京 相模原」ホームタウンの名をチーム名に含めた「チーム右京 相模原」 photo:MakotoAYANO


キナンの「K」ポーズを決めるKINANサイクリングチームキナンの「K」ポーズを決めるKINANサイクリングチーム photo:MakotoAYANO埼玉拠点のさいたまディレーブも埼玉のポーズを披露埼玉拠点のさいたまディレーブも埼玉のポーズを披露 photo:MakotoAYANO


シクロワイアードでは概要発表以降、JCL発足を主導した廣瀬佳正氏および片山右京氏に重ねて取材を申し入れてきたが、実現せず。状況がつかめない中で開幕当日を迎えた。廣瀬氏は各JCL加盟チームを裏方として支える立場へとポジションを変え、すでにJCLを去っている。片山氏にはレース初日に簡単ではあるが話を伺うことはできた(記事へ)。

宇都宮での第1戦、第2戦の2日間のレースの様子からは、ひとまず開幕2戦は成功裏に終わったと言って良いだろう。「成功裏」という曖昧な言葉を使わざるを得ないのは、コロナ禍における無観客開催など、イベントの「成功のカタチ」が見えにくい現況であること、加えてその後の分析や評価を待たねばならないという意味からだ。

五輪ロード代表の増田成幸(宇都宮ブリッツェン)の存在や注目度はやはり大きい五輪ロード代表の増田成幸(宇都宮ブリッツェン)の存在や注目度はやはり大きい photo:MakotoAYANO
宇都宮での2日間の同日程で、広島ではJBCFのJプロツアー第2・3戦 広島さくらロードレースが開催されていた。本来なら昨年まで同じレースを走っていたプロチームの半分がそちらを走り、JCL開幕戦には9プロチーム・53人の選手が参加。つまり両レースともプロカテゴリーのレースは従来の半分の人数での実施となった。

どちらに分かれたとしても同等レベルのプロチームであり、実力のうえで優劣はない。しいて言えばJCLに地域密着型チームが加盟し、JBCFには企業スポンサー型プロチームが残ったという傾向があるのみ。それぞれ約半数の選手たちによるレースとなったものの、だからといってそれぞれのレースの魅力が半減したかといえば、宇都宮でのレースを見る限りそうではなさそうだ。しかしこれも両方のレースを同時に実地で観ることはできないのだから、誰も比較はできない。しかし、元の倍の人数のレースのほうがより内容の濃いものになるであろうことは当然としてあるだろう。

真岡の風景の中を走るメイン集団。人数の少なさを実感するが真岡の風景の中を走るメイン集団。人数の少なさを実感するが photo:Nobumichi KomoriJCL初戦は増田成幸(宇都宮ブリッツェン)の鮮やかな逃げ切り勝利に沸いたJCL初戦は増田成幸(宇都宮ブリッツェン)の鮮やかな逃げ切り勝利に沸いた photo:MakotoAYANO


JCLの宇都宮の2日間レース。初日は152kmと距離も長く、五輪代表選手にも選ばれているブリッツェンの増田成幸が最終盤に独走で逃げ切っての優勝という見事な展開でレースを沸かせた。2日目は生憎の雨。50.6kmという短さのレースは下位カテゴリーのアマチュアレースを廃した利点が活かせたものではなかったが、悪条件ながらクリテリウムならではのスリル溢れる展開と、ホストチームである宇都宮ブリッツェンの小野寺玲が制しての4連覇&ブリッツェン連勝で、地元・宇都宮が大いに沸いた。だから「魅力は半減しなかった」とも言えるかもしれない。

あいにくの雨となった2日目の宇都宮清原クリテリウムあいにくの雨となった2日目の宇都宮清原クリテリウム photo:MakotoAYANO小さなチアガールたちの演出が嬉しかった小さなチアガールたちの演出が嬉しかった photo:MakotoAYANO


集団は約半分に小さくなったがクリテの迫力はそれを感じさせない集団は約半分に小さくなったがクリテの迫力はそれを感じさせない photo:MakotoAYANO
無観客での開催が呼びかけられた2日間。現地でレースを観れない代わりに好評を博したのがYOUTUBEライブ配信だ。宇都宮市内ではパブリックビューイング会場も用意されたが、基本的にはファンは自宅で視聴したが、驚かされたのはその配信番組のクオリティーの高さだった。

実況・解説にはDAZNやGCNサイクルロードレース中継でお馴染みの木下貴道アナ(左)の姿も実況・解説にはDAZNやGCNサイクルロードレース中継でお馴染みの木下貴道アナ(左)の姿も photo:MakotoAYANO女性レポーターが路上でチーム監督などにインタビュー。現場の声を配信した女性レポーターが路上でチーム監督などにインタビュー。現場の声を配信した photo:MakotoAYANO


オートバイ随走によるカメラ、複数の定点カメラ、ドローンによる空撮を駆使し、アクションカメラをバイクに装着して走る選手も。それらの映像をミックスしてライブ配信された。走る選手たちを様々な角度から、風景を絡めながら巧みに撮影し、ストリーミングの画質も良好。実況アナウンサーには経験あるプロを起用し、解説には宇都宮ブリッツェン元選手の大久保陣氏を起用。沿道には女性レポーターが繰り出し、各チームの監督などにもマイクを向けて現場の声を届けた。

レース中にスマホでライブ配信を観るチームスタッフ。レース状況も手にとるようにわかるレース中にスマホでライブ配信を観るチームスタッフ。レース状況も手にとるようにわかる photo:MakotoAYANO視聴者の反応は上々。「海外ワールドツアーレースの放送番組と遜色ない」といった品質で、十分にレースを理解させてくれる解説が加えられ、その内容は非常に好評だった。実際、沿道のチームスタッフもスマホ等でレースの模様を視聴しながら選手たちのサポートを行いつつ、一般視聴者同様に興奮していた姿が印象的だった。

ちなみにこの映像制作陣には過去にDAZNのサイクルロードレース中継を手掛けた技術スタッフやYOUTUBE配信の専門業者や経験豊富なクリエイターらが招致され、チームを結成して業務にあたっていた。大きな予算がかけられたことは想像に難くないが、プロデューサー氏によれば「評価が問われる初回が大事だからと、予算以上にできることのすべてをやった」と言う。携帯電話回線の電波状況の良い現場だったことも成功の要因だということだった。

小野寺玲の宇都宮クリテ4連覇とブリッツェン2日連続勝利で締めくくられた小野寺玲の宇都宮クリテ4連覇とブリッツェン2日連続勝利で締めくくられた photo:MakotoAYANO
レース後に配信動画を観て歓喜する選手たち。レベルの高い映像ならではだレース後に配信動画を観て歓喜する選手たち。レベルの高い映像ならではだ photo:MakotoAYANO
新型コロナの影響で無観客での開催が前提となっている今、こうしたライブ配信の充実ぶりがイベント的には成功か否かの評価を分けてしまう面はあるだろうが、それでも今回の配信のレベルの高さが「今までに無いもの」として高く評価されるのは閲覧したファンたちの反響からうかがい知ることができる。「コンテンツとして魅力あるものへ」とは、世界のロードレースすべてが目指しているところだ。

以上は現場入りした筆者が感じたJCLレースの印象だ。

ステージ優勝賞金は20万円ステージ優勝賞金は20万円 photo:MakotoAYANOチームとレースを支援する土壌がある宇都宮だけに提供商品も豪華だったチームとレースを支援する土壌がある宇都宮だけに提供商品も豪華だった photo:MakotoAYANO


以下のパートでは現場で拾った関係者たちの声を紹介する。JCLレースの主催者側の人、参加チームの代表者等に現場で話を伺った。決まった質問事項は設けず、「JCLに対するスタンスを教えて欲しい」という方向で会話形式で伺ったものをまとめた。

加藤康則さん(ジャパンサイクルリーグ代表・KINANサイクリングチームGM)

ー 開幕にこぎつけたJCLレース。ここまでの経緯と初日のレースを観て何を思いましたか?
(※インタビューは1日目のレース終了時に行った)

加藤康則さん(ジャパンサイクルリーグ代表)加藤康則さん(ジャパンサイクルリーグ代表) photo:MakotoAYANOJCLとは「自分たちの舞台を自分たちで責任持ってつくる」ということなんです。今、ようやくスタートに立てました。今までとは違いますから、走ってくれた選手たちにまずは感謝したいですね。

選手たちは実際に今日のレースを走るまで不安だったはずです。まだ私のチーム(KINANサイクリングチーム)の選手なら、私が「新リーグの話は今ここまで進んでいるよ」といった情報を伝えることができるので、まだ精神的な安心もあったと思います。でも、他のチームの選手ではそうはいかない。自分の走る場、生活の場であるレースの先行きの不透明さに不安しか無かったはずですから。

いざ開幕してみるとガチンコ勝負の素晴らしいレースが展開されて、選手たちは勝ちたいからこそこうした展開になるんでしょうけれど、皆が高い意気込みでレースに臨んでくれたということに感謝しかありません。増田成幸選手やブリッツェンの選手たちには「宇都宮でのホームゲームだから自分たちが勝って盛り上げるんだ」という気迫やプライドを感じました。これから各地で行われるJCLレースでもそうなるといいですね。

JCLがスローガンに掲げる「地方創生、地域密着」について、スタッフ間でよく話します。地域に支えられて、応援されて、レースが、選手やチームが市民権を得ていく。そうしたエリアが増えていけばいいし、それを目指さなければいけない。

一般公道を使ったレースであることも地元開催ならではのメリットであり、難しさでもある一般公道を使ったレースであることも地元開催ならではのメリットであり、難しさでもある photo:Nobumichi Komori
「ホーム・アンド・アウェー」(対戦するチームがそれぞれの本拠地で試合を行う形式)が言われるサッカー等では、チームの地元にホームスタジアムがあって、ファンの集いなどで定期的に支援者たちとの交流がある。対して自転車レースの場合は年に何回もレースをやれるものじゃない。でも、ファンが地元のチームを応援しながらレースを観るという非日常感を味わえるようになスポーツになって欲しいんです。

今は「僕らが夢を見せられないで誰がやるんだ」という意気込みで、各チームとも連携をとりながら新リーグが国内で確立することを目指しています。選手強化という意味でもユキヤ(新城幸也選手)みたいな突然変異に頼るんじゃなくて、強い選手がレースから育つように、国内の土俵をしっかり固めて高めていかなきゃいけない。

まだ完成には程遠いですが、来年は日本の有力チームと選手がすべて揃って走ってくれることが理想です。そのための調整を進めていきます。

JCL冠スポンサー・三菱地所株式会社執行役員 大野郁夫さん

JCL冠スポンサー・三菱地所株式会社執行役員 大野郁夫さんJCL冠スポンサー・三菱地所株式会社執行役員 大野郁夫さん photo:MakotoAYANO全国で様々なレースを展開していくというJCLの方針に賛同しています。スローガンは「町そのものがスタジアム」。地元に感動と興奮を届けたいというのは、まさに三菱地所が日々の営業を行う上で掲げているスローガンと同じです。

弊社は全国各地でいろいろな不動産を運営することを通じて活動しています。この栃木県でもプレミアムアウトレットなどを展開しています。地域に感動や素晴らしい時間・体験を届けていきたいと願っています。同じようにジャパンサイクルリーグがサイクルスポーツによって日本全体を元気にしてくれることを願っています。(開会式挨拶より)

清水祐輔さん(宇都宮ブリッツェンゼネラルマネジャー)

清水祐輔さん(宇都宮ブリッツェン ゼネラルマネジャー)清水祐輔さん(宇都宮ブリッツェン ゼネラルマネジャー) photo:MakotoAYANOこのコロナ禍のなかで、こうしてレースを開催していただけたことにまずは感謝しています。今後がかなり楽しみです。

いっぽうで、去年走っていたJBCFレースよりも参加チームが少ないということは残念です。ゆくゆくどういう形になるかはわからないけれども、日本のトップチームがすべて集まる形になればいいと思っています。それは皆が思っていることだと思います。一部でそれに向けた動きがあるとは聞いているので、そうなって欲しいと願っています。

ー 無観客開催ということで成功が見えにくい状況ですが、何をもって宇都宮ロードは成功と言えるのでしょうか?

今は報道数じゃないですか。集客や観客数ではなく、物販の売上でもない。興行収入でもない。メディアで取り上げてもらうことや配信による、その閲覧数。つまりどこまで人々にレースの模様が届いたか、リーチしたかではないでしょうか。自転車業界の人やサイクルスポーツが好きな方だけでなく、いかに一般の方に興味を持ってもらうことができるか。知らなかった人たちに届くことが増えること。それが成功につながっていくキーポイントではないかと思っています。

ー 「開幕が宇都宮で良かった。ジャパンカップとブリッツェンを成功に導いたサイクルマネージメント(ブリッツェン運営会社)ならうまくやるだろう」という声もありましたが。

上の人達が本当に頑張ったと思います。私自身はホッとしています。ただスタートラインに立てることに感謝です。

クリテでも脚の違いを見せつけた増田成幸(宇都宮ブリッツェン)クリテでも脚の違いを見せつけた増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:MakotoAYANO
ー 今回、無観客開催なのに宇都宮ブリッツェンのファンクラブが観覧スペースをもらえたということが一部で批判されていたようですが?

もともと各チームや大会にはVIP枠のスペースなどがあって、無観客とは違っているという話もあって。それをブリッツェンはファンクラブの人に割り当てたということだと思います。昨年も何も還元できなかったので、チームを応援してくださっているファンの方にそれを提供したということでそうした批判が出たんだと思います。発表の仕方を間違えたのもあると思います。どうしたって観に来る方は来る。しかし無観客を謳わなければレースを開催できません。スポーツイベントにとって難しい時代です。

佐藤信哉さん(VC福岡ゼネラルマネジャー)

佐藤信哉さん(VC福岡ゼネラルマネジャー)佐藤信哉さん(VC福岡ゼネラルマネジャー) photo:MakotoAYANOJBCFとJCL、どちらがいいとか、悪いとか。人々は興味を持っているとは思うけれど、私達にとっては確かに難しい選択肢ではあったのですが、JCLへの加盟を決めたのはチームのもともとのスタンスとJCLの方向性が合致したということが大きかったです。JCLは大きく舵を切りました。今回はこのスタートラインに並んだだけで感慨深いですね。

今までと違うのは、各チームの監督や運営者と主催者であるJCLの方々とがかなり細かいスパンで話し合うことができています。それは大きいですね。「少しでもいいものをつくり上げていこう」という対話が続いているのが、私自身チームのあり方を考えるいいきっかけにもなりました。

今まではレースを走ることしか考えていなかったんですが、少しでもレースが魅力的になるように、ルールづくりにも関わらせてもらって。与えられた場を利用するだけだったのが、JCLのやり方に合うようなチームづくりをしていかなくてはいけないなと思っています。

福岡に拠点を置くVC福岡福岡に拠点を置くVC福岡 photo:MakotoAYANOコロナの向かい風が吹く中での開幕だったので、期待よりも不安が大きいような状況でした。まだスタートしたばかり。この先も走り続けなくてはいけないので、魅力的なチーム作りをしていきたいですね。

リーグ全体が成功するには今よりもファンが増えること。これがいちばん大きなことだと思います。メジャースポーツになること。イコール、ファンを増やすこと。今回のライブ中継を観ていただいている人は興奮して観ているようですし、ボクもレース現場で配信を観ながら興奮しています。スタッフとしてこの場に居るだけで幸せな感じがしていますから、選手も楽しいと思いながら走っているはずです。(1日目のレース中にインタビュー)

桑原忠彦さん(チーム右京 相模原ゼネラルマネジャー)

桑原忠彦さん(チーム右京 相模原ゼネラルマネジャー)桑原忠彦さん(チーム右京 相模原ゼネラルマネジャー) photo:MakotoAYANOJCLは「地方創生」「地域密着」を運営のスローガンに挙げていますが、もはや「それしかない」と言えると思います。新幹線の駅を降りてポスターが貼ってあれば地元の人にも分かるんです。レースはお祭りです。地元の理解がなければ開催できない。そして開催する地元の人たちに喜んでもらうこと。ファンに喜んでもらって、まず、「競輪ではなくロードレースだ」という認知度にまで高めないと。日本全国でサイクルロードレースを知ってもらうには、それ以外の方法はないです。

ロードレースは観ればハマります。面白いから観れば誰でも必ず好きになってくれるんです。スポンサーになってくれた三菱地所の方々も、今回多くの方々がレースを初めて直に観て、感じて「ロードレースの面白さを知ることができた」「いいもの観せてもらいました」と言ってくれたのが本当に嬉しかった。

チームとレースを支援する土壌がある宇都宮だけに提供商品も豪華だったチームとレースを支援する土壌がある宇都宮だけに提供商品も豪華だった photo:MakotoAYANO自転車を知らない人々に喜んでもらう、感動してもらう。地元の人たちに「自転車レースを誘致して良かった」とならない限りは続かない。「呼びたくなる」リーグにならなければ。それがこの取組がうまくいくキーです。

費用対効果とともに、スポンサーさんにも喜んでもらうことが必要です。価値を感じてもらうこと。そうすればチームにも予算が増えて、運営も良くなっていくでしょう。地域にも人にも多く観てもらう。それらはみんな繋がっているんです。そうすれば選手の給料も上がるし、選手になってみようという人も増える。スタッフも増えるし、チームも強くなる。強い選手が出てくるようになる。全部つながっているんです。時間はかかると思うし、簡単じゃない。チームを運営してきたから私にも分かります。「自転車レースを盛んにすること」私はそれしか考えてないです。

中山卓士さん(ヴィクトワール広島ゼネラルマネジャー)

中山卓士さん(ヴィクトワール広島ゼネラルマネジャー)中山卓士さん(ヴィクトワール広島ゼネラルマネジャー) photo:MakotoAYANOJCLの方針には全面的に賛成しています。自分の場合は宇都宮ブリッツェンにいた事で地域密着型チームの成功体験を肌で知っています。最近はスパークルおおいたの皆さんとも連絡を取りあっていますし、JCL代表の加藤康則さんとも連絡を取りあっています。

新リーグになってからチームと主催者のコミュニケーションが親密になり、いい方向に向いているように感じています。広島の大会もありますから、なんとしても成功させたい。今までもヴィクトワール主催でクリテリウムなどを開催していましたが、地域密着型イベントということでマスコミに取り上げられて当時は8,000人もの集客がありました。この時代コロナ対策も必要ですが、それを上回る1万人を目指しています。大会自体を成功させたい。

各チームのもとを訪ねて会話を絶やさない片山右京JCLチェアマン各チームのもとを訪ねて会話を絶やさない片山右京JCLチェアマン photo:MakotoAYANOー 成功のために必要なことは何でしょう?

ロードレースを知らない人に広めていくことがもっとも重要です。そのうえで地域密着型のレースやチーム運営はひとつのモデルケースとして最適な形態だと思います。広島にはカープがあります。広島では「カープはスポーツでなく文化だ」とまで言われています。ヴィクトワールもそういう地元に応援されるチームになりたい。

ー 無観客開催もあり、大会の成功ということが目に見えにくいですが?

観客の動員数も大事ですが、自転車ロードレースの現時点での成功は、大会自体が赤字にならないで成り立つことです。「何人来てくれた」などと数字として出さなければいけないものはありますが、今はまだマイナー競技としてのロードレースですから、そうした認識が変わるまではレースもチームもまずは赤字にならないように運営していくことが大事だと思います。幸いJCLにはスポンサーもついている。これを追い風にしてイベントを開催したり、もっとスポンサーを集めたりして、基盤を固めることですね。

我らの広島は特殊な土地で、市が助成金を出してくれているんです。だから市民が「やって良かった」と感じるレースを開催すること、そして「広島にヴィクトワールがあってよかったね」と言われるようなチームになることが必要で、成功の一歩なんです。やはり成功例としてのブリッツェンの存在は偉大です。ブリッツェンがあるからヴィクトワールやスパークルおおいたも今があるんです。(1日目のレース前にインタビュー)

黒枝美樹さん(スパークルおおいたGM、OITAアーバンクラシック、OHITAサイクルフェス仕掛け人)

黒枝美樹さん(スパークルおおいたGM)黒枝美樹さん(スパークルおおいたGM) photo:MakotoAYANOこのレースになんとか間に合い、チームはスタートできました。チームカーが完成したのも昨日のこと。スパークルおおいたは地域密着型チームをもともと謳っていますので、地域創生・活性化を旗印に動いているJCLの方針とはもとから合致しています。新リーグの誕生でロードレース界が広がることを願っています。

ー OITA URBAN CLASSIC、 OHITAサイクルフェスの開催と、最近はサイクルツーリズムも盛ん。大分はサイクルスポーツにおいて非常に先進的ですね。

ありがとうございます。地域や行政が関わってきたレース、自転車イベントがあって、そこに今回は地元にチームができるということで、一段と熱が入ることを期待しています。そうなれば自転車を文化としてまで高められるんじゃないかな、と思ってチーム結成に踏み切りました。

うちのチームは選手たちがつくっていくチーム。黒枝兄弟が選手であり役員。それに賛同した選手たちが集まっている。チームに来てくれた選手たち自身が変えていくチームですから、選手に期待しています。私はつなぎの監督です(笑)。

新チーム「スパークルおおいた」のデビューとなったJCL宇都宮第1戦新チーム「スパークルおおいた」のデビューとなったJCL宇都宮第1戦 photo:MakotoAYANO
初日のレースで感じたのはライブ配信の映像が素晴らしかったこと。話題にもなっているし、ファンにとってはレースを実際に観て感じるか、今の状況なら映像を観て感じてもらわないとレースの魅力は伝わらないですね。品質の高いライブ配信はとても重要だと思います。私たちチームもプロモーションムービーの製作などにクリエイターを起用して魅力的な発信を心がけていきます。

ー 新リーグは今後どうなっていけば良いでしょう?

JCLはひとまず開幕を迎えました。今後は各自治体でホームレースが増えていくと思うので、そうしたときに地域が応援する、チームを応援する、自転車業界だけでなく、それを支える企業や団体、個人が増えていくことが大事です。自転車レースって楽しいですよね。魅力がある。そこにビジネスもある。それらがうまくつながることで世界が広がっていけばいいと思います。

実際に知っているわけではないですが、自転車レースの本場ヨーロッパがモデルになるでしょうね。観客も桁違いに多いし、レースやチームを支援する企業スポンサーも多い。そこを目指さなければいけないですね。日本ではまだまだマイナーですので、まず自転車競技そのものが世間に浸透していく仕組みをつくらなければいけないと思います。

自転車レースはチーム戦であり、駆け引きやドラマがあって日本人が好きなストーリーが詰まっています。盛り上がる要素はあるから悲観的にならなくていいと思います。

宇都宮レースの2日間を終えてオールスターキャストが登壇宇都宮レースの2日間を終えてオールスターキャストが登壇 photo:MakotoAYANO

以上が現場で集めた声だ。このレースに出場しているということはJCLの方針に賛同しているという前提のため、おのずと否定的な声は入りようがない。そのため本稿ではとくに結論づけることはしないが、スタートを切ったJCLの目指すところや温度感を知る一助にはなるだろう。

JBCFと二分裂したことに対して依然として批判はある。コロナの影響で中止となったがJCLもホビーレース開催を計画している。ならばJBCFと似た形態となり、果たしてリーグを分割する必要があったのかという話にもなる。ここには書けない段階ながら、JBCF側との対話や、参加チームや選手数を増やす働きかけが進んでいるとの話は伺うことができた。

次戦のJCLレースは6月のツール・ド・熊野まで待たなくてはならない。コロナ禍においてツール・ド・熊野自体が(海外からチームを招待できない状況の)UCIレースとしての本来の運営が難しい状況であるものの、現在の9チーム以上のチームと実力ある選手たちが揃って走ることができるようになることを願いたい。

text:綾野 真 (シクロワイアード編集部)

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