9月24日から27日までの4日間、エリートカテゴリーに限定したロード世界選手権がイタリアのイモラで開催される。イモラサーキットを発着するロードレースは獲得標高差5,000m。急勾配の登りが組み込まれた周回コースをチェックしておきましょう。


スイス中止により急遽イタリアでの開催が決まった世界選手権

スクアドラアッズーラ(イタリアナショナルチーム)がコースを試走スクアドラアッズーラ(イタリアナショナルチーム)がコースを試走 photo:Massimo Fulgenzi
当初スイス・マルティニーでの開催が予定されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によってスイス政府が1,000人を超える大規模イベントの開催を禁止したことにより、UCI(国際自転車競技連盟)が大会の開催断念を発表したのは8月12日のこと。以降、代替開催地を模索するUCIはツール・ド・フランス第20ステージに登場したラ・プランシュ・デ・ベルフィーユを含む4都市から招致を受け、最終的にイモラサーキット(正式名称アウトドローモ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ)での開催が決まった。

1ヶ月強という短い準備期間にもかかわらず開催にこぎつけたその裏には、UCIの現地実働スタッフの多くがイタリア人で、ジロ・デ・イタリアを主催するRCSスポルトの関係者も手を差し伸べたという事実も。さらにイモラサーキットには既にパドックやメディアセンターなど必要な施設が整っており、観客数管理の容易さもイモラに白羽の矢が立った理由と見られる。

なお、サーキット内で観戦可能なのはチケット(2日間100ユーロ)をオンラインで事前購入した上限2,246人の観客のみ。しかし周回コースは「密集を避けること」を条件に観戦は自由とされている。

レインボーカラーに彩られたイモラサーキットレインボーカラーに彩られたイモラサーキット photo:Kei Tsuji
開催されるのはジュニアやU23カテゴリーを除く男女エリート。チームタイムトライアルやミックスリレータイムトライアルも開催されず、男女エリートの個人タイムトライアルとロードレースのみとなる。

イモラサーキットは1953年完成の全長4.9kmのモータスポーツ用サーキットで、1980年にF1のイタリアGPが初開催され、翌年の1981年から2006年までサンマリノGPが開催。1994年にはローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナが事故死を遂げた場所としてモータースポーツファンの記憶に刻まれている。

F1が1国1開催の方針に舵を取ったため、2007年以降はモンツァサーキットでのイタリアGPがイタリア国内唯一のF1開催となったものの、2020年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴って大会中止が相次いだことにより、9月にモンツァでイタリアGPが、ムジェーロでトスカーナGPが開催され、さらに11月1日にイモラでエミリアロマーニャGPが開催される。

同サーキットがロード世界選手権を迎えるのは1968年以来52年ぶり2度目。当時はヴィットリオ・アドルニ(イタリア)が優勝を飾っている。2009年にはフィリッポ・ポッツァートが優勝したイタリア選手権を開催。近年ではジロ・デ・イタリアがたびたび訪れており、2015年第11ステージでイルヌル・ザカリン(ロシア)が逃げ切り、2018年の第12ステージでサム・ベネット(アイルランド)が集団スプリントでステージ優勝を飾っている。

2015年ジロ イモラサーキットにフィニッシュしたイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)2015年ジロ イモラサーキットにフィニッシュしたイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ) photo:Kei Tsuji2018年ジロ 片手を突き上げてフィニッシュするサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)2018年ジロ 片手を突き上げてフィニッシュするサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
周回コースにかかる虹周回コースにかかる虹 photo:Massimo Fulgenzi


獲得標高差5,000mのロードレースと、同200mのタイムトライアル

男女エリート共通のロードレース周回コース男女エリート共通のロードレース周回コース photo:UCIと、ここまで散々イモラサーキットの説明をしておきながら、ロード世界選手権においてはスタートとフィニッシュ地点にすぎず、レースが動くポイントではない。男子エリートのロードレースに獲得標高差5,000m(男子エリート)というたっぷりとした登りが登場することからも分かるように、イモラサーキットを発着する周回コースは起伏に富んでいる。

「スイス・マルティニーで予定されていた山岳コースと同等の難易度」をうたう周回コースは全長27.8kmで、男子エリートはここを9周する全長258.2km/5,000m、女子エリートは5周回の全長143km/2,800m。獲得標高差5,000mという数字は、2017年ベルゲン大会の3,400m、2018年インスブルック大会の4,670m、2019年ヨークシャー大会の4,000mをゆうに上回る。

なお、スタート地点だけ離れた都市に置かれることが多いロード世界選手権において、周回コースで完結するのは2014年のスペイン・ポンフェラーダ大会以来となる。

男子エリートロードレース男子エリートロードレース photo:UCI
アペニン山脈の北側に位置するイモラサーキットとリオーロ・テルメをぐるっと往復する周回コースの両脇には、ワイン畑に覆われた丘が連なっている。スタート/フィニッシュ地点のイモラサーキットがいわば周回コースの底(最も低い部分)で、2つの大きな登り(小さな登りを合わせると3つ)が組み込まれた。

登場する山岳
ベルグッロ(距離3.2km・平均勾配3%)
マッツォラーノ(距離2.8km・平均勾配5.9%・最大勾配13%)
チーマ・ガッリステルナ(距離2.7km・平均勾配6.4%・最大勾配14%)

イモラサーキットを離れるとまず「ベルグッロ」の緩斜面が始まり、ピークを過ぎるとタイトなスイッチバックの下りを経て次の「マッツォラーノ」へ。登り前半に13%の急勾配区間が登場するこの「マッツォラーノ」を越えると、ハイスピードダウンヒル、リオーロ・テルメの街中、そして今大会唯一とも言える平坦路をこなす。

マッツォラーノ(距離2.8km・平均勾配5.9%・最大勾配13%)マッツォラーノ(距離2.8km・平均勾配5.9%・最大勾配13%) photo:UCIチーマ・ガッリステルナ(距離2.7km・平均勾配6.4%・最大勾配14%)チーマ・ガッリステルナ(距離2.7km・平均勾配6.4%・最大勾配14%) photo:UCI

最後に登場するのが最難関「チーマ・ガッリステルナ」の登り。いずれも平均勾配は6%前後と決して目立った数字ではないが、最大勾配14%、延々と12%の勾配が1.5kmにわたって続く登りはとにかく厳しい。この「チーマ・ガッリステルナ」はフィニッシュから12kmしか離れていないため最大の勝負どころになるのは間違いないが、フィニッシュに至る道は単純な下りではなく、登り返しを含むアップダウン路で、しかもチームカー同士の追い抜きも難しいほどの細い道が続いている。なお、コースの約半分は、大会開催が決まってから舗装された新しいアスファルトに覆われている。

マッツォラーノ(距離2.8km・平均勾配5.9%・最大勾配13%)マッツォラーノ(距離2.8km・平均勾配5.9%・最大勾配13%) photo:Kei Tsuji
チーマ・ガッリステルナ(距離2.7km・平均勾配6.4%・最大勾配14%)チーマ・ガッリステルナ(距離2.7km・平均勾配6.4%・最大勾配14%) photo:Kei Tsuji
チーマ・ガッリステルナ通過後、イモラサーキットに向かって下っていくチーマ・ガッリステルナ通過後、イモラサーキットに向かって下っていく photo:Kei Tsuji
登坂力必須の難関山岳コースであり、集団前方で走ることができればその先の下り区間や登り区間で力を温存することができるが、逆に集団後方に下がれば下りでも常に踏まなければいけないジェットコースター。スイス・マルティニーのコースと比べると、獲得標高差は同程度でも、長い登りがないためパンチャー系選手にもチャンスがあると見られる。

男女エリート共通の個人タイムトライアルコース男女エリート共通の個人タイムトライアルコース photo:UCI山がちなロードレースの周回コースとは異なり、個人タイムトライアルのコースは平坦基調。男女ともに距離31.7km/200mのコースが設定されており、ハイパワーで踏み続ける直線区間も長い。

近年男子エリート個人タイムトライアルの距離は50kmを超えていたため、31.7kmという距離はいつもよりずっと短め。イタリア代表のダヴィデ・カッサーニ監督は「平均スピードは50km/hを超えてくるだろう」と予想する通り、高速バトルが繰り広げられることになりそうだ。

男女エリート共通の個人タイムトライアルコース男女エリート共通の個人タイムトライアルコース photo:UCI
ロード世界選手権2020レーススケジュール
日付 カテゴリー 種目 距離 獲得標高差
9月24日(木) 女子エリート 個人タイムトライアル 31.7km 200m
9月25日(金) 男子エリート 個人タイムトライアル 31.7km 200m
9月26日(土) 女子エリート ロードレース 143km 2,800m
9月27日(日) 男子エリート ロードレース 258.2km 5,000m
text:Kei Tsuji in Imola, Italy