9月7日から9月14日までの8日間、イタリア中部を舞台に第55回ティレーノ〜アドリアティコ(UCIワールドツアー)が開催される。フルサン、トーマス、フルーム、Sイェーツ、ウッズ、ニバリ、ガビリア、アッカーマン、マシューズ、ファンデルポールなど、有力勢が揃う「二つの海のレース」をプレビューします。



例年春を告げるレースとして開催されるティレーノ。今年は半年遅れで開催にこぎつけた例年春を告げるレースとして開催されるティレーノ。今年は半年遅れで開催にこぎつけた photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari
ティレーノ〜アドリアティコ2020ティレーノ〜アドリアティコ2020 (c)RCS Sport1966年に初開催され、ジロ・デ・イタリアと同じRCSスポルト(エッレチーエッセ・スポルト)が主催するティレーノ〜アドリアティコが5ヶ月遅れで開幕する。レース名の通り、ティレニア海沿岸をスタートし、イタリア半島を横断してアドリア海沿岸に至るステージレースであり、イタリア半島を囲む2つの海を結ぶその行程から「コルサ・デイ・ドゥエ・マーリ(二つの海のレース)」と呼ばれる。

通常であれば3月半ばにパリ〜ニースと同時開催されるが、今年は新型コロナウイルスによるレースカレンダー再編に伴い、10月3日に開幕するジロ・デ・イタリアの1ヶ月前というタイミングに移動した。ツール・ド・フランスと重複開催されるが、ジロに照準を合わせる有力選手たちが多数エントリーリストに名を連ねている。

開催55回目を迎えた2020年大会は、レーススケジュールを短縮することなく9月7日から14日までの合計8ステージで行われる。ティレニア海沿いのカマイオーレからアドリア海に面した港湾都市サン・ベネデット・デル・トロントを目指す8日間の総走行距離は1313kmだ。

ティレーノ〜アドリアティコ2020第1ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第1ステージ (c)RCS Sportティレーノ〜アドリアティコ2020第2ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第2ステージ (c)RCS Sport


初日はティレニア海に面したリード・ディ・カマイオーレが舞台だ。昨年は同じ場所でチームタイムトライアルが開催されたが、今年は133kmの短距離ロードレースが行われる。モンテピトーロの周回コース(26km)を3周し、その後は19kmの完全フラットコースを2周回。青いリーダージャージはスプリンターの手に渡るだろう。

カマイオーレからトスカーナ州を南下する第2ステージもスプリンター向けだが、フィニッシュまで残り11km地点に登場する「イモスティーノ」の登りが鍵となる。1.3kmと短くも急な登り、そしてダウンヒルをクリアするとフィニッシュまでは9km。抜け出しを図るパンチャーと、スプリンターチームの追走劇にも期待したい。

ティレーノ〜アドリアティコ2020第3ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第3ステージ (c)RCS Sportティレーノ〜アドリアティコ2020第4ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第4ステージ (c)RCS Sport

ティレーノ〜アドリアティコ2020第5ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第5ステージ (c)RCS Sport
第5ステージ 全長11.9kmにわたって平均7.1%/最大13%の勾配が続くサッソテット峠第5ステージ 全長11.9kmにわたって平均7.1%/最大13%の勾配が続くサッソテット峠 (c)RCS Sport今大会最長距離となる217kmの第3ステージで、マリアアッズーラの持ち主はスプリンターからパンチャーに代わるだろう。コース後半の短くも脚を削り取る登坂区間が特徴で、残り20kmを切ってから距離1.6km/平均勾配10%超のカテゴリー山岳をクリアしてから、フィニッシュラインが引かれた距離2.3kmで平均3.7%という緩斜面の登りに挑む。

シビッリーニ山脈の急峻な峠道が登場する第4ステージと第5ステージはピュアクライマーの主戦場だ。今大会最初の本格山岳ステージとなる第4ステージの序盤は平坦だが、後半に入ってから超級山岳グアルド峠が登場し、20kmに及ぶダウンヒルを経て2つ目の超級オスペダレット峠を超える。12kmの下りと緩斜面の登りを経てカッシアを目指す時、先頭集団内に生き残っているのは誰だろうか?

そして今大会のクイーンステージである第5ステージはさらに難易度が高い。スタート直後から平均勾配6.5%の登坂が登場し、超級山岳サンタマルゲリータをクリアした後は、遅れの挽回を阻む短いアップダウンが連続。1日の最後には全長11.9kmにわたって平均7.1%/最大13%の勾配が続くサッソテット峠でトップレーサーたちが登坂力を競い合う。


ティレーノ〜アドリアティコ2020第7ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第7ステージ (c)RCS Sportティレーノ〜アドリアティコ2020第8ステージティレーノ〜アドリアティコ2020第8ステージ (c)RCS Sport


アドリア海に到達する第6ステージはピュアスプリンター向けで、続く第7ステージはMuri(短く急勾配の登り坂)の一日。2.6km平均勾配4.5%のカテゴリー山岳を含む周回コースを3周し、ラストは10%の勾配が待ち受ける。パンチャー向けのコースだが、総合上位勢もステージ上位に食い込んでくるはずだ。

最終日は恒例となったサンベネデット・デル・トロントを舞台にした真っ平らな個人タイムトライアル。全長10km、時間にして11分前後のハイスピード走行で8日間の戦いは締めくくられる。8日間の総獲得標高は15000mだ。
ティレーノ〜アドリアティコ2020ステージリスト
9月7日(月) 第1ステージ リード・ディ・カマイオーレ 133km
9月8日(火) 第2ステージ カマイオーレ〜フォッローニカ 201km
9月9日(水) 第3ステージ フォッローニカ〜サトゥルニア 217km
9月10日(木) 第4ステージ テルニ〜カーシア 194km
9月11日(金) 第5ステージ ノルチャ〜サッソテット 202km
9月12日(土) 第6ステージ カステルフィダルド〜セニガッリア 175km
9月13日(日) 第7ステージ ピエーヴェ・トリーナ〜ロレート 181km
9月14日(月) 第8ステージ サンベネデット・デル・トロント 10km(個人TT)
前述の通り今年の「コルサ・デイ・ドゥエ・マーリ」には、ジロ・デ・イタリアに向けて調整を続けるビッグネームたちが集結した。昨年の総合優勝者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)は現在ツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを着用中。

ロンバルディアを制したヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)ロンバルディアを制したヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ) photo:CorVos
絶好調売り出し中のアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ)絶好調売り出し中のアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ) (c)CorVosメモリアル・マルコパンターニを制したファビオ・フェリーネ(イタリア、アスタナ)メモリアル・マルコパンターニを制したファビオ・フェリーネ(イタリア、アスタナ) (c)CorVos


注目は昨年大会ステージ1勝利+総合3位に入ったヤコブ・フルサン(デンマーク)を主軸に据えたアスタナ。ストラーデビアンケ5位、ツール・ド・ポローニュ総合2位、ロンバルディア1位と好調を維持しているフルサンは、モンヴァントゥー チャレンジ&ジロ・デッレミリア優勝と波に乗るアレクサンドル・ウラソフ(ロシア)、メモリアル・マルコパンターニ優勝のファビオ・フェリーネ(イタリア)を引き連れての参戦だ。

ジロ・デ・イタリアを見据えるゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)ジロ・デ・イタリアを見据えるゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) (c)INEOS Grenadiers
サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) (c)CorVosヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード) (c)CorVos


イネオス・グレナディアーズの総合エースを務めるのはジロを目指すゲラント・トーマス(イギリス)。トーマスは2017年大会の第2ステージで逃げ切り勝利を飾って総合5位。さらに2018年には総合3位。昨年は途中リタイアに終わっているが、マリアローザを見据える"G"にはブエルタを目指すクリストファー・フルーム(共にイギリス)や、サンベネデットの最終TTで過去2勝しているTT世界王者ローハン・デニス(オーストラリア)、そしてテイオ・ゲイガンハート(イギリス)といった強力布陣が味方につく。ドーフィネで遅れを喫していたフルームのコンディションにも注目が集まるはずだ。

ツールでマイヨジョーヌを手放したアダムの双子の兄、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)は再開後初戦のブルゴス総合16位、1ヶ月前のポローニュ総合3位と徐々に調子を上げている。2013年、2016年に続く3度目のジロ制覇を夢見るヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)は弟アントニオやジュリアン・ベルナール(フランス)を従えての参戦だ。

フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) (c)CorVos
 パスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) パスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) (c)Turul Ciclist Al Sibiului/Focus Photo Agencyマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス) (c)CorVos

マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) (c)CorVosティム・メルリエ(ベルギー、アルペシン・フェニックス)ティム・メルリエ(ベルギー、アルペシン・フェニックス) (c)CorVos


平坦ステージで勝利を狙うのが、フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)やパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)、ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)、マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)といったスプリンターたち。ナショナル選手権で独走勝利を挙げるも、勝利まで僅かに手が届かないレースが続いているマチュー・ファンデルポール(オランダ)と、コンディションの良いベルギー王者ティム・メルリエを揃えるアルペシン・フェニックスも存在感は極めて大きい。

ミラノ〜サンレモ3位、ブルターニュクラシック優勝と波に乗るマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)は丘陵ステージの久賀入賞を狙う。フロリアン・セネシャル(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)やイヴァン・ガルシア(スペイン、バーレーン・マクラーレン)も上位に食い込んでくるだろう。

text:So.Isobe