例年よりも過酷さを増したストラーデビアンケで、終盤の精鋭グループから飛び出したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が独走勝利。2年連続3位に入っていた元シクロクロス王者が、暑さと埃まみれのサバイバルレースを制した。



土煙舞う土煙舞う"白い道"。今年は例年以上に過酷なコンディションの中レースが展開された (c)CorVos
ストラーデビアンケ2020 コースプロフィールストラーデビアンケ2020 コースプロフィール photo: RCS Sport
開催14年目と歴史は浅いながらも、トスカーナ地方の険しい丘陵地帯に据え付けられた未舗装路を組み込むことで、唯一無二の地位を築いたストラーデビアンケが8月1日(土)に開催。コロナパンデミックによるレース休止期間を経て、様々な感染対策を施した上でUCIワールドツアーが再始動した。

シエナの丘を走る184kmコースは最初から最後までアップダウンの連続だ。標高500m以下を走り続けるにも関わらず獲得標高は3000mを超え、コース全体の約34%にのぼる合計11ヶ所・合計63kmの未舗装セクターが選手たちの脚力を削り取る。ずらり勢揃いした屈強なクラシックハンターたちが、シエナ中心部のカンポ広場での勝利を目指しスタートラインに並んだ。

スタートを待つワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)スタートを待つワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) (c)CorVos楽しそうなペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)やブルグハート、オス楽しそうなペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)やブルグハート、オス (c)CorVos

スタートから20km地点で逃げを打ったシモン・ペロー(スイス、アンドローニジョカトリ・シデルメク)らスタートから20km地点で逃げを打ったシモン・ペロー(スイス、アンドローニジョカトリ・シデルメク)ら (c)CorVos
厳格な感染対策が施される中、この日はAG2Rラモンディアールのシルヴァン・ディリエ(スイス)が新型コロナ陽性反応を示したため未出走に。ディリエの感染発覚はチームに合流する前であったため、オリバー・ナーセン(ベルギー)らAG2Rラモンディアールのメンバーはレース参加を許されている。

最高気温予報が36〜37℃を指し示す中、この日はスタートから20kmを経て、ファーストアタックを仕掛けたシモン・ペロー(スイス、アンドローニジョカトリ・シデルメク)とコルヌ・ファンケッセル(ベルギー、サーカス・ワンティゴベール)を含む6名が先行。人数を警戒したアスタナがメイン集団からのタイム差を1分差で留めたが、ペローが単独先行したことでリードは3分半に広がった。

この日、"白い道"の魔物に取り憑かれたのがヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)だった。2度のパンクに見舞われ落車したニバリは左手を痛めてDNF。暑さと息苦しい砂埃、チームカーによる玉突き衝突などカオスな状況下で、次第に強者が選り分けられていった。

トスカーナらしい風景の中、過酷なサバイバルレースが展開されたトスカーナらしい風景の中、過酷なサバイバルレースが展開された (c)CorVos
マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)はレースが動いたタイミングでのパンクにより脱落マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)はレースが動いたタイミングでのパンクにより脱落 (c)CorVos
第8セクター「モンテサンテマリエ」でヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)がアタック第8セクター「モンテサンテマリエ」でヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)がアタック (c)CorVos
レースが動いたのは、フィニッシュまで55kmを切ってから登場する最長11.5kmの第8セクター「モンテサンテマリエ(別名セットーレ・カンチェラーラ:ストラーデビアンケを過去3度制したファビアン・カンチェラーラの名)」を前にしたタイミング。サイモン・クラーク(オーストラリア、EFプロサイクリング)が先行し、ゴルカ・イサギレ(スペイン、アスタナ)ら4名が合流する。

モンテサンテマリエに入るとメイン集団から抜け出した屈強な選手たちが追いつき、昨年2位のヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)のアタックで本格的な勝負の火蓋が切って落とされる。この重要なタイミングで優勝候補のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)がパンク、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)もこの日5度目のパンクで集中力を切らし、勝負圏外に姿を消してしまった。

視界が霞む砂埃の中を逃げるフルサンを追走したのは、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)ら5名。20秒差から広がらないことを見たフルサンは一度ペースを緩め、これによって本命選手ばかり6名が入った先頭グループが生まれた。

先頭グループを形成した6名
ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)
アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング)
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)

終盤の精鋭グループを率いるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)終盤の精鋭グループを率いるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) (c)CorVos
6名は均等にローテーションを回し、追撃するゼネク・スティバル(チェコ、ドゥクーニンク・クイックステップ)とブレント・ブックウォルター(アメリカ、ミッチェルトン・スコット)、ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、NTTプロサイクリング)との間隔を保ちつつ距離を減らしていく。すると、フィニッシュまで23kmを残したセクター9「モンテアペルティ」を抜けた直後、「コンディションがとても良かったので何か仕掛けようと思っていた」と言うシャフマンがアタックした。

ドイツ王者シャフマンの動きにはにファンアールトががっちりと食いついたが、リードは10秒以上まで広がらない。グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)を除くメンバーは2人を引き戻し、続いてベッティオルもアタック。ノーガードの打ち合いが続く中、最大勾配が18%に達する最終セクター「レ・トルフェ」に入るとファンアールトが超強力な一手を放った。

フィニッシュを目指して独走するワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)フィニッシュを目指して独走するワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) (c)CorVos
「先頭グループの中で言えば、僕は最強じゃなかった。誰もが踏めていたけれど、自分自身を信じてずっと作戦を練っていたんだ。最終セクターではイチかバチかフルスロットルで踏んだ。僕のテクニックが生きた場面だった」と言うファンアールトが、平均595ワットで1分25秒を踏み得たリードは10秒弱。昨年フルサングとアラフィリップに振り落とされ、追走を強いられた元シクロクロス世界王者が、今年は自らの力で攻めのレースを作った。

逃げるファンアールトを追う力が残っていたのはフォルモロとシャフマンだった。クラシックハンター1人vsクライマー2人のシーソーゲームは一時フォルモロとシャフマンに傾いたかに思われたが、下りと平坦で踏むファンアールトが再びリードを積み重ねる。残り2.5kmでタイム差は18秒まで広がった。

ファンアールトの力強いペダリングは残り1kmアーチをくぐった先から始まる、最大勾配16%のサンタカテリーナ通りの石畳坂でも崩れない。一昨年足の痙攣に苦しんだ最後の急勾配も無事に登りきり、丘の上の街シエナの中心部、にその姿を現した。

独走でフィニッシュラインにやってきたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)独走でフィニッシュラインにやってきたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) (c)CorVos
2位争いを制したダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)2位争いを制したダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ) (c)CorVos「脚が無かった」と言うマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は3位「脚が無かった」と言うマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は3位 (c)CorVos


バンキ・ディ・ソット通りを先頭で駆け抜け、残り150mのタイトな右コーナーを抜けたファンアールトが、歓喜の表情でフィニッシュ。痙攣に苦しんだ一昨年の3位、追撃したものの振り切られた昨年の3位に続く、3度目のストラーデビアンケ出場で表彰台の頂点を手に入れた。

「完璧に出し切った。最後は賭けだったけれど上手くいったよ。このレースは例年、攻撃は最大の防御と言える展開で決まってきた。ここで勝つことはキャリア全体を通しての目標の一つだった。25歳で目標に到達できたことはとても誇りに思う。僕はこういうレースのために生きてきた。数え切れないほどのトレーニングをこなした後の勝利は格別だ」と語るファンアールト。シクロクロス上がりのテクニックを存分に発揮した25歳がキャリア通算勝利数を9に伸ばすことに成功した。

後続のシャフマンとフォルモロは肩を並べながら石畳登坂をクリアし、その先の緩斜面区間で先行したフォルモロが先着。今年ボーラ・ハンスグローエから中東チームに居場所を移した27歳は「今日はとても暑さに苦しめられた。およそ1ヶ月(涼しい)高地合宿を重ねていたこともその理由。美しい勝利を取りこぼしてしまったことは残念だけど、2位という結果は決して悪いものじゃない」と話している。フォルモロはミラノ〜サンレモへと出場予定だ。

ファンアールトにシャンパンを放つダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)ファンアールトにシャンパンを放つダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ) (c)CorVos
シャンパンを頭から被るワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)シャンパンを頭から被るワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) (c)CorVos
終盤積極的にアタックを繰り出したドイツ王者シャフマンが3位。「立ち上る土煙で何も見えず何度かクラッシュしかけたよ。最後のセクターでは安全に走っていたけれど多分それが間違いだった。ずっとファンアールトを追いかけていたので最後のスプリント勝負に負けてしまった。それでもシーズンのリスタートとしては上出来だと思う」と、満足げな表情で表彰台に上っている。

開催時期がずれ込んだことで例年よりも厳しいレースになった2020年ストラーデビアンケ。12位のミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、チームイネオス)以下は10分以上遅れ、21分16秒遅れのエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)が最終完走者となった。
ストラーデビアンケ2020結果
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 4:58:56
2位 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ) 0:30
3位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) 0:32
4位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング) 1:31
5位 ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ) 2:55
6位 ゼネク・スティバル(チェコ、ドゥクーニンク・クイックステップ) 3:59
7位 ブレント・ブックウォルター(アメリカ、ミッチェルトン・スコット) 4:25
8位 グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム) 4:27
9位 ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、NTTプロサイクリング) 6:47
10位 ディエゴ・ローザ(イタリア、UAEチームエミレーツ) 7:45
text:So.Isobe
photo:CorVos

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