昨シーズンの関西シクロクロス出場の10日後に第61次南極観測隊の一員として南極に向かった宮内佐季子さんが帰ってきた。元シクロクロスチャンプが見た南極とは、いったいどんなものだったのか。興味津々で話を聞いた。



第61次南極観測隊として昨冬11月27日から南極に渡った宮内佐季子(Club La.sista Offroad Team)第61次南極観測隊として昨冬11月27日から南極に渡った宮内佐季子(Club La.sista Offroad Team) photo:Kei Tsuji
2020年の3月下旬、元シクロクロス全日本チャンプの宮内さんが南極から帰ってきた。

2012年、2013年のシクロクロス全日本選手権で2年連続チャンピオンを獲得している宮内さんは、昨19-20シーズンも関西シクロクロスでは紀の川で女子エリート2位、マキノ大会では5位に。JCX第3戦飯山大会では3位に入賞、現役トップ選手として走り続けている。

その宮内さんがマキノラウンドから10日後の2019年11月27日より、第61次南極観測隊の一員として船で南極に向った。シクロクロスの女子選手が南極に行くなんて、これまで世界にも例のなかったことであろう。

ここが南極です。氷山の浮かぶ海ここが南極です。氷山の浮かぶ海 photo:sakiko.miyauchi
地球の最南端、南極とはどんなところなのか。そもそもどうやって行くのだろう。現在は静岡県の朝霧高原を拠点に、トレールに関わるイベントの安全管理などアウトドアの様々な仕事を行なう宮内さんに、南極での体験談を語ってもらった。

ー 今日はそんな「南極人」だなんて書いたTシャツを着てもらい、ありがとうございます。

みんないろんな南極の記念ものTシャツを作るんですよね。これは自衛隊さんがつくったもので、『しらせ』のビンゴ大会で当てました。せっかくなので着てきました。

南極記念のTシャツを着てインタビューに応じてくれた宮内佐季子さん 南極記念のTシャツを着てインタビューに応じてくれた宮内佐季子さん
ー そもそもなぜ南極に行くことに?

お世話になっている大学の教授がもともと南極に行くことになっていたんですが、南極行きには厳しい健康判定があって、今回その教授はこれに引っかかってしまって行けなくなり、代理で行くことになりました。

ー いつからいつまで?

2019年11月27日から帰国は3月20日まで、全部で約4ヶ月間ですね。

ー 出発の直前までシクロクロスレースに出ていたとか?

関西シクロクロスの紀ノ川大会(10月27日)で2位の表彰台に乗ったので、そこで南極行きを発表したんですよね。次の信州クロスの飯山大会でも3位になって。調子に乗って出発の10日前(11月17日)に出た関西クロス・マキノ大会では3回転んだんですよね。前の選手が転倒したのを避けられなくて1回、レース以外でも芝生の上で2回。あれは危なかった、出発前なのに。

エリート女子で3位の表彰台に乗ったエリート女子で3位の表彰台に乗った
ー 南極へはどんな行程で行きましたか?

11月27日に日本を飛行機で出発してオーストラリアに。そこで数日過ごして12月2日に極地研(国立極地研究所)が言うところの南極観測船、自衛隊で言うところの砕氷艦『しらせ』に乗って、南極に向かいました。

南極上陸は、昭和基地から20kmぐらい離れたところに1月5日着で、1月28日にまた『しらせ』に乗って、3月20日にオーストラリアから飛行機で帰国という感じです。全4ヶ月のうち南極にいたのは3週間ぐらい。あとはだいたい『しらせ』に乗っていた感じですね。

ー 第61次南極観測隊員は何名ほど?

全部で88名、しらせで一緒に行ったのが67名、うち女性は12名でした。(詳細はこちら> 「極地研「61次隊 隊員紹介」)

ー 南極はどんなところでした?

砂漠のようなところでした。岩、石、砂だらけなんです。チベットとかモロッコとかイスラエルで走ったことのある砂漠のイメージ、と言ったら少し違いますが、それでも砂漠そのものという印象でした。

1月の南極ではこんな光景もみられます。南極のイメージが覆されます1月の南極ではこんな光景もみられます。南極のイメージが覆されます photo:sakiko.miyauchi
もっと真っ白な氷の世界だと思っていて、実際そういうところも見ましたが、あちらは夏なんですよね。私が行った場所は山もあって、地形の起伏が豊かでした。でも木や草は全く生えておらず虫もいない。木がないぶん地層がよく見えましたね。

風のない日にはこの服装で行動することも。手にはシクロクロスでも使うグローブを愛用風のない日にはこの服装で行動することも。手にはシクロクロスでも使うグローブを愛用 photo:本人提供気温は思ったよりも寒くなかったです。晴れた日だと日中の気温はだいたい摂氏0度でしたが、暑い日には8度ぐらいにまで上がりました。朝霧高原より暑かった日もあったみたいです。

それに南極滞在前半は白夜で太陽が沈まず、陽の光が暑いんです。時間が夜になると寒くはなるんですが、テントを張ってた場所には午前2、3時になると日光が当たり始めて、テントの中はすごく暑くなる。それで夜中に暑さと明るさで目が覚めて、みたいなことは何度もありましたね。

ー 暑くて明るくて夜中に目が覚める真夏の南極って、すごいですね。さて今テントとおっしゃいましたが、南極ではどんな生活を?

南極にはいろんな観測や研究を行いに、専門家や研究者たちが向かいます。私の役目は彼らの野外での動きを観察して、野外行動での安全、リスクマネージメントという観点からその人の行動やその行動の背景にある考えをデータとして取ってくるということでした。

そして研究者みなさんのいろんなお手伝いをするというのも役目の一つでしたので、南極にいる間はだいたい観測や研究に同行して、数日テントで生活する、というのが基本でした。

ー どんな研究に同行を?

南極に上陸してすぐに9泊10日で、南極にある池の底にある泥の調査に出かけました。池の下で手付かずで堆積している泥の層を調べて、大昔から氷床(南極大陸の上に載っているぶ厚い氷)や海面がどのように変化してきたのかを調べるんだそうです。

他には国土地理院の基準点を設置する、という作業に同行しましたね。これは地図を作る際の基準となる金属標を岩に埋め込み、その場所をGPSでものすごく正確に測位する。そして人工衛星からの写真でも良く分かるように、ペンキで大きく印をつけるというものでした。

宮内さんの任務では、写真のようにテントを張って生活することが多かったそうだ宮内さんの任務では、写真のようにテントを張って生活することが多かったそうだ photo:sakiko.miyauchi
ー 自転車で走りたい!と思うところはありました? 

昭和基地には未舗装ながら道路があって、トラックや重機が走っています。路面は綺麗で、シクロクロスバイクなら普通に走れると思います。道から外れたところはマウンテンバイクで走ったら楽しそうなところがたくさんありました。倒木も藪もないし、なだらかなところも多いので。

自転車も何台か見ました。個人で持ってきているもの、自衛隊のものなど。私もファットバイクを移動で一度借りたことがあります。

ー なにか南極ならではのルールってあるんですか?

国際的に南極の環境保護について取り組みがされていて、日本にも南極環境保護法というのがあります。具体的には、石や砂などを持ち帰ってはいけない、生きた生物を持ち込んではいけない、ペンギンに5m、アザラシに15m以上近づいてはいけない、などです。

キャンプ地の前を毎日1往復していたアデリーペンギンキャンプ地の前を毎日1往復していたアデリーペンギン photo:sakiko.miyauchi
ー ペンギンに近づくのは禁止なんですね! 近づきたい!

ペンギンは、うっかりしていると近づいてくるやつもいましたよ。一番よく見た動物はやっぱりペンギンで、種類で言えば『アデリーペンギン』。身長60センチぐらいで、もうペンギンのイメージ通りにヨチヨチ歩いていて、泳ぐのが上手でした。

そして、そのペンギンの卵やヒナを狙う鳥がいます。「オオトウゾクカモメ」っていいます。名前からしてすごいですが、これがペンギンの繁殖地の近くに巣を作って、ペンギンの卵やヒナを餌にする。見ましたよ、彼らがペンギンのヒナを食べるのを。

あと、アザラシはミイラで見ました。「3000年前ぐらいのかも」って聞きましたよ、本当のところは調べないと分かりませんが。

ー 南極での行動で気をつけていたことはなんですか?

まずは怪我をしないことですね。観測隊には医師もいるけど、医療設備が整っているわけではないので、何ということのないケガでも、南極では大ごとになることもある。

また、昭和基地に帰る移動手段はヘリしかない。天候が悪ければ飛べないし、そうでなくてもヘリの予定を変えるようなことがあれば、隊全体の計画に差し支える。だから転倒すらしないように気を付けてました。人生でこれだけ転ばなかった期間って、今までにないと思います(笑)。

そして南極に上陸する際に1人1台無線機を渡されるんですが、私たち野外チームには、個人の無線機以外にもう少し遠くても通信できる無線機を渡されるんですね。1日1回、これで昭和基地と通信して大切な情報を交換します。この通信ができないと、レスキューの準備が始まってしまうんです。

しらせ船内で過ごした元旦にはおせちが振舞われたそう。「おいしかったー」しらせ船内で過ごした元旦にはおせちが振舞われたそう。「おいしかったー」
ー 通信と言えば、南極でのネット環境ってどうなってるんですか?

昭和基地には、ネット環境はありました。Facebookも見られましたね。まあそれなりの速度ですけれど。

でも『しらせ』の中、海の上ではメールしか使えない。それも容量が決まっていて、1ヶ月に10MB、ギガじゃなくてメガです。一通のメールは1MBまで。節約して使って、月末に余裕があったら撮った写真とかを小さくして送ってました。

ー それでも南極から写真を送るなんて贅沢かもしれませんね。食事はどうでした?

行く前にテレビで「南極での食事」のような番組を見た、という友人の話を聞いたのですが、観測隊の調理隊員が作ってくれた食事を食べるチャンスはありませんでした。私たちは夏だけで帰る「夏隊」なので、昭和基地の中枢部ではなく、主に夏期間だけ使う宿(夏宿と書いて「なつしゅく」と呼ぶ)で生活し、食事は自衛隊の方たちが作ってくれていました。

越冬隊は、夏隊が帰った後に中枢部にある居住棟に移ります。なので、彼らはそこからテレビ番組のような南極ご飯が始まるということです。

金曜日に出てくる自衛隊の『海軍カレー』金曜日に出てくる自衛隊の『海軍カレー』
しらせでも夏宿でも、金曜日は必ず『海軍カレー』が出ました。他には、しらせでは9のつく日はステーキというのも決まってました。船の上なので残ったものがリメイクされて出されることも珍しくないですが、どれもおいしかったですし、料理の参考にもなりました。そしてこれ、お風呂の写真なんですが...。

ー なんとセクシーショット! (笑)。入浴もできるんですか。

南極観測船しらせのお風呂。海水を蒸気で温めて入る仕組み南極観測船しらせのお風呂。海水を蒸気で温めて入る仕組み photo:本人提供
お風呂は毎日入れるんです。バスタブの中に海水を入れて、蒸気で温めるというやり方のお風呂です。真水を作るのに1リットル300円ぐらいかかるそうなので、真水はほんと貴重です。なので湯船につかって海水で体を温めてから、一気に洗って一気に貴重な真水で流す! という入り方をしていました。

ー そして宮内さんが南極に行っている最中、コロナ禍で世界は大変なことに。

ギリギリだったんです。『しらせ』がオーストラリアに着いたのが3月19日でした。実はオーストラリアは3月20日の夜から外国人の入国規制を始めたので、滑り込みで入国できて、20日に日本への飛行機に乗れました。もちろん入国手続き後も出発までずっと『しらせ』の中にいて、そこから飛行場に向かいました。

規制が1日半早まっていたら、こんなにスムーズには帰ってこれなかったでしょうね。

ー さて、帰国したこれから、どんな風に過ごしていきますか?

帰ってきたらコロナウイルスの影響で、あるはずのイベントが延期や中止になって、仕事がほとんどなくなってました。ようやく少しずつ動く気配が見えてきてほっとしています。

ー 南極に行って、変わったことってありますか?

今は仕事で山に入るときにケガをしても、観測隊だったときほど周りにダメージを与えることもない。なので行動の制限がそれほど強くないというか、とにかく自由に行動できるなぁ、と感じられるようになりました。

ただ今は、山は藪が強いし、倒木が多かったり、蜘蛛の巣やダニも多かったりしてイヤになっちゃうこともあります。そんなとき、そういうものがなかった南極が懐かしいなぁ、なんて思うこともあります。

宮内さんが出した今年の年賀状は4月に届いた。消印には『2年1月1日 しらせ船内』とあった宮内さんが出した今年の年賀状は4月に届いた。消印には『2年1月1日 しらせ船内』とあった
12月中にしらせの中で彼女が出した年賀状は、4月上旬に静岡の宛先に届いたそう。消印には1月1日とあった。

「200万円あれば、遊びで南極に行けるそうですよ」と宮内さんは言った。シクロクロスのレース用自転車3、4台分ぐらいだ、と。

宮内さんに続く自転車界の人材となるべく南極行きに興味ある方は、まずはこの金額を用意するのがいいだろう。または下の南極観測隊に関する公式ウェブサイトにて、そのヒントを掴めるかもしれない。幸運を祈る。

おすすめ南極系公式ホームページ

【極地研】「第61次南極地域観測計画」のサイト
素人には難しいぐらい詳しく、南極観測の計画を伝えてくれている。湖底の泥のことも書いてある。
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/jare/outline61.html

【海上自衛隊】「第61次南極地域観測協力」のサイト
しらせがかっこよく砕氷している写真などあり。ヘリも飛ばしたり、まさに南極って感じの写真群はここで。
https://www.mod.go.jp/msdf/operation/antarctic/nankyoku61/

宮内佐季子さん Tシャツには南極観測船SHIRASE(しらせ)のネームが宮内佐季子さん Tシャツには南極観測船SHIRASE(しらせ)のネームが 宮内佐季子(みやうち・さきこ) プロフィール
Club La.sista所属。1998年よりアドベンチャーレースに参加、プロチームの一員として転戦し2000年までに世界大会で数々の好成績を残す。2004年には全日本オリエンテーリング大会女子、国体山岳縦走競技に優勝。2012年、2013年シクロクロス全日本チャンピオン。現在はトレイル関連イベントでの安全コンサルティングを中心に、静岡県の朝霧高原を拠点に活動する。活動を通して培った地図読み技術を伝える著書に『山歩きの地図読みドリル』(ナツメ社)『山岳地図の読み方・使い方』(エイ出版社)などがある。

photo&text:Koichiro.Nakamura
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