6日間にわたって開催されるツアー・ダウンアンダー(UCIワールドツアー)が開幕。第1ステージを締めくくる大集団によるスプリントでサム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ)が移籍後初勝利を飾った。新城幸也(バーレーン・マクラーレン)は60位フィニッシュ。
逃げを見送ったメイン集団の先頭に新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
スタート地点でバイクを運ぶチームイネオスの宮島正典マッサー photo:Kei Tsuji
第1ステージを迎えた新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
売上金がブッシュファイヤーの被災者に寄付されるカスタムソックスを履くロット・スーダル photo:Kei Tsuji
仲良く話しながらスタートを待つアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)とカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Kei Tsuji
2020年のUCIワールドツアーが、例年通り、南オーストラリア州で開幕した。
ツアー・ダウンアンダー2020第1ステージ photo:Santos Tour Down Underヨーロッパから早めに現地入りした選手たちを待っていたのは暑すぎず寒すぎない快適な日々。オーストラリア各地でブッシュファイヤー(山火事)を引き起こした年末にかけての熱波は去り、連日最高25度、最低15度ほどの「アデレードらしくない」暑さが続いている。つまり、例年暑さに苦しむヨーロッパ選手を横目にむしろ暑さを楽しんでいた様子の新城幸也(バーレーン・マクラーレン)にとっては物足りない気温。
2020年の第22回大会には例年以上に豪華なスプリンターが揃った。これまでステージ通算18勝を飾り、2008年と2010年には総合優勝にも輝いているアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)が戦歴の上ではトップだが、2日前のシュワルベクラシックを圧倒的なスピードで制したステージ通算7勝のカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やステージ通算2勝のエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、コフィディス)、そして2019年シーズン13勝のサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)が集結。勢いのあるスプリンターたちが平坦基調の3ステージ(第1ステージ、第4ステージ、第5ステージ)でスピードを競い合う。
第1ステージは全長30kmの「バロッササーキット」を5周する150km。ワインの一大産地であるバロッサバレーの中心地であり、ペンフォールズ社やジェイコブスクリーク社の本社が近いタヌンダの街を発着する。山岳賞ジャージ着用者を決めるために加えられたと言っていいKOM(キングオブマウンテン)が周回コース中盤に設定されているが、ステージ優勝に繋がるようなアタックが決まる難易度ではない。
放熱のためにメッシュ素材が多用されている夏用ジャージの下にたっぷりと日焼け止めを塗ってから、午後11時に140名の選手たちがスタートした。
周回の中盤にはKOMを含む丘のエリアを通過 photo:Kei Tsuji
KOMでスプリントするジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム) photo:Kei Tsuji
KOMを先頭通過するジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji
メイン集団を牽引するドゥクーニンク・クイックステップとロット・スーダル photo:Kei Tsuji
周回中盤のアップダウンをこなすメイン集団 photo:Kei Tsuji
ワインを生み出す広大な葡萄畑を走る photo:Kei Tsuji
最大4分のリードを得て逃げるディラン・サンダーランド(オーストラリア、NTTプロサイクリング)ら photo:Kei Tsuji
集団一つのまま差し掛かった第1中間スプリント(15km地点)では、ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)が持ち前のパンチ力を生かして集団先頭通過する。数秒差で総合争いが決まるダウンアンダーにおいてインピーは貴重な3秒のリードを獲得。史上初の大会3連覇に向けて布石を打った。
ボーナスタイム争いが落ち着いた集団からジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)、ディラン・サンダーランド(オーストラリア、NTTプロサイクリング)、マイケル・ストーラー(オーストラリア、サンウェブ)、ジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)の4名が逃げを開始すると、スプリンターチームが追撃を組織するまでにタイム差は4分まで拡大。1回目のKOMブレークネックヒル(46.9km地点)をドリズナーズが、2回目のKOM(106.9km地点)をロスコフが先頭通過していく。両者は同じ5ポイントで並んだものの、今季からハーゲンスベルマン・アクセオンに所属する20歳のドリズナーズ(ステージ29位)がロスコフ(ステージ39位)を退けて山岳賞ジャージ着用を決めている。
メイン集団を牽引するドゥクーニンク・クイックステップ、コフィディス、ロット・スーダル photo:Kei Tsuji
第1ステージを走る新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
集団前方で周回をこなすサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)ら photo:Kei Tsuji
タイム差が縮まりながらも逃げ続けるジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)ら photo:Kei Tsuji
ワイン畑を通過して最終周回に向かうサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
ステージ敢闘賞を獲得することになるロスコフの独走は最終周回突入を前に終わりを迎え、アタックを許さないハイペースを刻みながらメイン集団は猛進。周回コースには西から風が吹き付けたものの、新城幸也(バーレーン・マクラーレン)が「(横風区間の)距離が短いし、みんな分かっていたからあれでは集団は割れない」と語る通りメイン集団は大きな塊のままフィニッシュに向かった。
5周回のラップタイムと平均スピード
1周目:44分45秒 平均40.9km/h
2周目:42分08秒 平均42.8km/h
3周目:43分01秒 平均42.0km/h
4周目:42分55秒 平均42.0km/h
5周目:37分23秒 平均48.3km/h
ステージ全体の平均スピードは43.1km/h、残り10kmの平均スピードは54.9km/h、残り5kmの平均スピードは57.6km/h。スプリンターチームによるポジション争いの末に、ドゥクーニンク・クイックステップがトレインを組んで残り1kmを切る。発射台ロジャー・クルーゲ(ドイツ)を見失ったユアンがポジションを落とす中、シェーン・アーチボルド(ニュージーランド)から引き継いだミケル・モルコフ(デンマーク)が最終リードアウト。残り200m通過と同時に、まずは3番手のジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)が腰を上げた。
フィリプセンはスリップストリームに入るエリック・バシュカ(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)を振り切る加速を見せたものの、ほぼ踏み始めたベネットのスプリントが伸びる。それぞれの全開でもがくフィリプセンとベネット。ハンドルを投げたベネットが1.5mほどの差をつけて先着した。
スプリントで競り合うサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)やジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
先頭でハンドルを投げ込むサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)やジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
第1ステージを制したサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
60位で初日を終えた新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
ボーラ・ハンスグローエからドゥクーニンク・クイックステップに移籍し、(バイクは変わらずスペシャライズドだが)新しい環境で走るベネットがシーズン初勝利。アーチボルドやモルコフとの連携を勝利に結びつけた。
2019年シーズンに68勝を飾ったベルギーチームのエーススプリンターを担う29歳は「シーズン初戦の最初のステージ。移籍後初勝利へのプレッシャーがなかったかと言うと嘘になる」と打ち明ける。
「チームメイトたちは本当の本当にファンタスティックな仕事ぶりでポジションを守ってくれた。チームに新加入した11名のうち4名が今回のレースに出場しているけど、経験に溢れたチームは常勝ぶりを見せてくれた。メンバー全員がそれぞれの仕事を完璧にこなしてくれたんだ。彼らにはどれだけ感謝しても足りない」と語るベネットはアイルランド人として初めて手に入れたリーダージャージを着て第2ステージを迎える。
アルカンシェルを着るマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)を除いてビッグネームはタイムを失わずに集団フィニッシュ。エースのラファエル・バルス(スペイン、バーレーン・マクラーレン)を集団内でフィニッシュさせた新城は同タイムの60位で第1ステージを終えている。
リーダージャージを手にしたサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
敢闘賞はジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)の手に photo:Kei Tsuji
ステージ2位のジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)がヤングライダー賞ジャージ獲得 photo:Kei Tsuji
ポイント賞はもちろんサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)が獲得 photo:Kei Tsuji
山岳賞ジャージを手にしたジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji





2020年のUCIワールドツアーが、例年通り、南オーストラリア州で開幕した。

2020年の第22回大会には例年以上に豪華なスプリンターが揃った。これまでステージ通算18勝を飾り、2008年と2010年には総合優勝にも輝いているアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)が戦歴の上ではトップだが、2日前のシュワルベクラシックを圧倒的なスピードで制したステージ通算7勝のカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やステージ通算2勝のエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、コフィディス)、そして2019年シーズン13勝のサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)が集結。勢いのあるスプリンターたちが平坦基調の3ステージ(第1ステージ、第4ステージ、第5ステージ)でスピードを競い合う。
第1ステージは全長30kmの「バロッササーキット」を5周する150km。ワインの一大産地であるバロッサバレーの中心地であり、ペンフォールズ社やジェイコブスクリーク社の本社が近いタヌンダの街を発着する。山岳賞ジャージ着用者を決めるために加えられたと言っていいKOM(キングオブマウンテン)が周回コース中盤に設定されているが、ステージ優勝に繋がるようなアタックが決まる難易度ではない。
放熱のためにメッシュ素材が多用されている夏用ジャージの下にたっぷりと日焼け止めを塗ってから、午後11時に140名の選手たちがスタートした。







集団一つのまま差し掛かった第1中間スプリント(15km地点)では、ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)が持ち前のパンチ力を生かして集団先頭通過する。数秒差で総合争いが決まるダウンアンダーにおいてインピーは貴重な3秒のリードを獲得。史上初の大会3連覇に向けて布石を打った。
ボーナスタイム争いが落ち着いた集団からジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)、ディラン・サンダーランド(オーストラリア、NTTプロサイクリング)、マイケル・ストーラー(オーストラリア、サンウェブ)、ジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)の4名が逃げを開始すると、スプリンターチームが追撃を組織するまでにタイム差は4分まで拡大。1回目のKOMブレークネックヒル(46.9km地点)をドリズナーズが、2回目のKOM(106.9km地点)をロスコフが先頭通過していく。両者は同じ5ポイントで並んだものの、今季からハーゲンスベルマン・アクセオンに所属する20歳のドリズナーズ(ステージ29位)がロスコフ(ステージ39位)を退けて山岳賞ジャージ着用を決めている。





ステージ敢闘賞を獲得することになるロスコフの独走は最終周回突入を前に終わりを迎え、アタックを許さないハイペースを刻みながらメイン集団は猛進。周回コースには西から風が吹き付けたものの、新城幸也(バーレーン・マクラーレン)が「(横風区間の)距離が短いし、みんな分かっていたからあれでは集団は割れない」と語る通りメイン集団は大きな塊のままフィニッシュに向かった。
5周回のラップタイムと平均スピード
1周目:44分45秒 平均40.9km/h
2周目:42分08秒 平均42.8km/h
3周目:43分01秒 平均42.0km/h
4周目:42分55秒 平均42.0km/h
5周目:37分23秒 平均48.3km/h
ステージ全体の平均スピードは43.1km/h、残り10kmの平均スピードは54.9km/h、残り5kmの平均スピードは57.6km/h。スプリンターチームによるポジション争いの末に、ドゥクーニンク・クイックステップがトレインを組んで残り1kmを切る。発射台ロジャー・クルーゲ(ドイツ)を見失ったユアンがポジションを落とす中、シェーン・アーチボルド(ニュージーランド)から引き継いだミケル・モルコフ(デンマーク)が最終リードアウト。残り200m通過と同時に、まずは3番手のジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)が腰を上げた。
フィリプセンはスリップストリームに入るエリック・バシュカ(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)を振り切る加速を見せたものの、ほぼ踏み始めたベネットのスプリントが伸びる。それぞれの全開でもがくフィリプセンとベネット。ハンドルを投げたベネットが1.5mほどの差をつけて先着した。




ボーラ・ハンスグローエからドゥクーニンク・クイックステップに移籍し、(バイクは変わらずスペシャライズドだが)新しい環境で走るベネットがシーズン初勝利。アーチボルドやモルコフとの連携を勝利に結びつけた。
2019年シーズンに68勝を飾ったベルギーチームのエーススプリンターを担う29歳は「シーズン初戦の最初のステージ。移籍後初勝利へのプレッシャーがなかったかと言うと嘘になる」と打ち明ける。
「チームメイトたちは本当の本当にファンタスティックな仕事ぶりでポジションを守ってくれた。チームに新加入した11名のうち4名が今回のレースに出場しているけど、経験に溢れたチームは常勝ぶりを見せてくれた。メンバー全員がそれぞれの仕事を完璧にこなしてくれたんだ。彼らにはどれだけ感謝しても足りない」と語るベネットはアイルランド人として初めて手に入れたリーダージャージを着て第2ステージを迎える。
アルカンシェルを着るマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)を除いてビッグネームはタイムを失わずに集団フィニッシュ。エースのラファエル・バルス(スペイン、バーレーン・マクラーレン)を集団内でフィニッシュさせた新城は同タイムの60位で第1ステージを終えている。





ツアー・ダウンアンダー2020第1ステージ結果
1位 | サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 3:28:54 |
2位 | ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) | |
3位 | エリック・バシュカ(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) | |
4位 | エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、コフィディス) | |
5位 | アンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション) | |
6位 | クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー、EFプロサイクリング) | |
7位 | カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) | |
8位 | マルク・サロー(フランス、グルパマFDJ) | |
9位 | サム・ウェルスフォード(オーストラリア、UniSAオーストラリア) | |
10位 | アルベルト・ダイネーゼ(イタリア、サンウェブ) | |
60位 | 新城幸也(日本、バーレーン・マクラーレン) |
個人総合成績
1位 | サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 3:28:44 |
2位 | ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) | 0:00:04 |
3位 | エリック・バシュカ(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) | 0:00:06 |
4位 | ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット) | 0:00:07 |
5位 | ジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) | |
6位 | クリストファー・ローレス(イギリス、チームイネオス) | 0:00:08 |
7位 | ディラン・サンダーランド(オーストラリア、NTTプロサイクリング) | |
8位 | ネイサン・ハース(オーストラリア、コフィディス) | 0:00:09 |
9位 | マイケル・ストーラー(オーストラリア、サンウェブ) | |
10位 | エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、コフィディス) | 0:00:10 |
62位 | 新城幸也(日本、バーレーン・マクラーレン) |
その他の特別賞
ポイント賞 | サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
山岳賞 | ジャラッド・ドリズナーズ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) |
ヤングライダー賞 | ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) |
チーム総合成績 | UAEチームエミレーツ |
ステージ敢闘賞 | ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム) |
text:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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