2019/09/29(日) - 03:41
フィニッシュまで105kmを残したロフトハウスの登りでアタックを仕掛け、単独でハロゲート周回コースを駆け抜けたアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が初のアルカンシェル獲得。落車の影響で遅れた與那嶺恵理(アレ・チポッリーニ)と金子広美(イナーメ信濃山形)は集団に復帰できずにDNFに終わっている。
ブラッドフォードから2つの大きな登りを越えて、107.9kmにわたるライン区間を走ってから14kmのハロゲート周回コースを3周する149.4kmで行われたロード世界選手権女子エリートロードレース。朝方まで降った雨は選手たちがスタート地点に到着する頃には上がり、空には暖かい太陽が昇った。気温は15度前後と相変わらず低いものの、路面が概ねドライという良好なコンディションの中で49カ国/152名の選手たちがスタートを切った。
序盤からレースの主導権を握ったのは大会3連覇がかかったオランダで、1つ目の難所であるノーウッドエッジ(登坂距離1.9km/平均勾配7.2%/最大勾配10.8%)でペースを上げるとメイン集団は2つに割れる。金子広美(イナーメ信濃山形)は後方集団に取り残される形となったが、その後の下り区間&平坦区間で集団が一つにまとまったため事なきを得ている。
しかし金子は2つ目の登りに向けてのワインディングロードで発生した落車に巻き込まれてしまい、再スタートしたもののハロゲート周回コースに入ることができずにリタイアに終わった。「去年は登りでオールアウトしてしまったので、今年は焦らずに淡々と登りをこなして、遅れても次の登りまでに追いつくから大丈夫だと言われていました。2つ目の登りに入るまでの区間で與那嶺さんをアシストするのが自分の役割だったのですが、集団に追いついたタイミングで落車してしまった。集団でハロゲートを目指したんですが周回に入れませんでした」と金子は語る。
「去年は何が何だかわからないまま終わってしまったんですが、今回は冷静に走れていました。序盤はずっと與那嶺さんの近くにいて、パンクなどがあったら待つように言われていたんですが、ここからだと思っていたタイミングでの落車だっただけに、脚を残したまま終わってしまったので悔しいです」。全日本選手権を2位で終えた金子は自身2回目の世界選手権をそう振り返った。
レースが動いたのは、大方の予想通り、前半に急勾配が続き後半に強い追い風が吹くロフトハウス(登坂距離3km/平均勾配4.3%/最大勾配13%)の登りだった。フィニッシュまで105kmを残したこのタイミングでアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)がアタック。このレース前半の飛び出しに反応する/反応できる選手は誰もいなかった。
追走グループを形成したのは地元ヨークシャー出身のリジー・ダイグナン(イギリス)、アンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ)、アマンダ・スプラット(オーストラリア)、クロエ・ダイガート(アメリカ)、エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)、ソラヤ・パラディン(イタリア)、クララ・コッペンブルク(ドイツ)、セシルウトラップ・ルドウィグ(デンマーク)の8名。しかしロフトハウスの頂上通過時点でファンフルーテンは1分ものリードを稼ぎ出すことに成功する。そこからファンフルーテンvs追走グループの長い戦いが始まった。
與那嶺恵理(アレ・チポッリーニ)は集団内でロフトハウスの急勾配区間をこなしたものの、緩斜面で前走者の進路変更を避けれずに落車。そこでリアディレイラーを破損して走行不可となったためシマノのニュートラルバイクで再スタートしたもののペダルが合わず。ロフトハウスの頂上で日本のチームカーからスペアバイクを受け取ったものの、集団の選手たちははるか先を走っていた。
「バッドラック(不運なこと)が起こったら終わり。そんなコースでした。いつもいるメンバーの中でロフトハウスの登りをこなしていたんですが、頂上まで500mのところで前のオランダの選手がいきなり斜行して前輪をすくわれる形で落車。ディレイラーが外れて(リアハンガーが折れて)再スタートできず『ペダルは違うから』と言われながらニュートラルバイクで走り出したんですがサイズも合わず。頂上まで200mぐらい歩いて、チームカーを待つしかありませんでした」と、当時の状況を與那嶺は説明する。
「そこからスペアバイクで走り続けたんですが、フィニッシュまで100kmあるのに復帰できなかった。1年間走っていると良い日も悪い日もある。今日は何もできませんでした。消化不良です」。自身7回目の世界選手権をDNFという形で終えた與那嶺は10月22日に中国で開催されるツアー・オブ・広西(UCIワールドツアー)でシーズンを締めくくる予定だ。
先頭ファンフルーテンのリードはしばらく45秒前後で推移したものの、協調体制を築けずにダイグナンやダイガートがカウンターアタックする追走グループのペースは上がりきらない。ファンフルーテンはさらにリードを広げる走りでハロゲート周回コースに入っていく。ファンフルーテンから追走グループまで2分、その後ろの追走集団まで3分という状況で最後の3周回(残り42km)が始まった。
追走グループから飛び出して単独追走を仕掛けたのは個人タイムトライアルで圧勝したダイガート。残り2周回突入時(残り28km)でファンフルーテンからダイガートまで1分50秒、追走3名(ファンデルブレッヘン、スプラット、ロンゴボルギーニ)まで2分15秒。大声援を受けたダイグナンは後続集団に飲み込まれている。
ダイガートの追い上げが予想されたものの、先頭ファンフルーテンはギアを上げてむしろリードを広げる走りを見せた。最終周回に入ってもファンフルーテンのペースは落ちず、やがて2番手ダイガートにはファンデルブレッヘンとスプラットが合流。この追走グループからはダイガートが遅れ、銀メダルの座を確保するためにファンデルブレッヘンが登りでスプラットを切り離した。
105kmにわたる個人タイムトライアルを成功させたファンフルーテンが木漏れ日が照らす最終ストレートで両手を上げた。ファンデルブレッヘンが2位、スプラットが3位に入り、前日に苦汁を舐めたオランダがワンツー勝利を果たす結果となった。
「実は作戦通りの走りではなかった。ただハードな展開に持ち込みたくて登りでペースを上げると飛び出した形になった。とてもクレイジーな展開になったけど、このために積んできたトレーニングが力になった」と、驚異的な独走勝利を果たしたファンフルーテンは語る。
「様々な感情に包まれている。100km以上を単独で逃げ切ったなんて信じられない。アンナ(ファンデルブレッヘン)が追走グループに入ってくれたおかげで良い展開に持ち込むことができたし、彼女が表彰台に上ったことも最高。タイムトライアルではアルカンシェルを着る機会が少ないけど、ロードレースではもっといっぱい着ることができる。これは本当に大きな勝利だ」。
ファンフルーテンは2017年と2018年に個人タイムトライアルでアルカンシェルを獲得しているが、ロードレースではまだ表彰台に上ったことがなかった。オランダによる女子エリートの世界タイトル獲得は3年連続となる。
ブラッドフォードから2つの大きな登りを越えて、107.9kmにわたるライン区間を走ってから14kmのハロゲート周回コースを3周する149.4kmで行われたロード世界選手権女子エリートロードレース。朝方まで降った雨は選手たちがスタート地点に到着する頃には上がり、空には暖かい太陽が昇った。気温は15度前後と相変わらず低いものの、路面が概ねドライという良好なコンディションの中で49カ国/152名の選手たちがスタートを切った。
序盤からレースの主導権を握ったのは大会3連覇がかかったオランダで、1つ目の難所であるノーウッドエッジ(登坂距離1.9km/平均勾配7.2%/最大勾配10.8%)でペースを上げるとメイン集団は2つに割れる。金子広美(イナーメ信濃山形)は後方集団に取り残される形となったが、その後の下り区間&平坦区間で集団が一つにまとまったため事なきを得ている。
しかし金子は2つ目の登りに向けてのワインディングロードで発生した落車に巻き込まれてしまい、再スタートしたもののハロゲート周回コースに入ることができずにリタイアに終わった。「去年は登りでオールアウトしてしまったので、今年は焦らずに淡々と登りをこなして、遅れても次の登りまでに追いつくから大丈夫だと言われていました。2つ目の登りに入るまでの区間で與那嶺さんをアシストするのが自分の役割だったのですが、集団に追いついたタイミングで落車してしまった。集団でハロゲートを目指したんですが周回に入れませんでした」と金子は語る。
「去年は何が何だかわからないまま終わってしまったんですが、今回は冷静に走れていました。序盤はずっと與那嶺さんの近くにいて、パンクなどがあったら待つように言われていたんですが、ここからだと思っていたタイミングでの落車だっただけに、脚を残したまま終わってしまったので悔しいです」。全日本選手権を2位で終えた金子は自身2回目の世界選手権をそう振り返った。
レースが動いたのは、大方の予想通り、前半に急勾配が続き後半に強い追い風が吹くロフトハウス(登坂距離3km/平均勾配4.3%/最大勾配13%)の登りだった。フィニッシュまで105kmを残したこのタイミングでアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)がアタック。このレース前半の飛び出しに反応する/反応できる選手は誰もいなかった。
追走グループを形成したのは地元ヨークシャー出身のリジー・ダイグナン(イギリス)、アンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ)、アマンダ・スプラット(オーストラリア)、クロエ・ダイガート(アメリカ)、エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)、ソラヤ・パラディン(イタリア)、クララ・コッペンブルク(ドイツ)、セシルウトラップ・ルドウィグ(デンマーク)の8名。しかしロフトハウスの頂上通過時点でファンフルーテンは1分ものリードを稼ぎ出すことに成功する。そこからファンフルーテンvs追走グループの長い戦いが始まった。
與那嶺恵理(アレ・チポッリーニ)は集団内でロフトハウスの急勾配区間をこなしたものの、緩斜面で前走者の進路変更を避けれずに落車。そこでリアディレイラーを破損して走行不可となったためシマノのニュートラルバイクで再スタートしたもののペダルが合わず。ロフトハウスの頂上で日本のチームカーからスペアバイクを受け取ったものの、集団の選手たちははるか先を走っていた。
「バッドラック(不運なこと)が起こったら終わり。そんなコースでした。いつもいるメンバーの中でロフトハウスの登りをこなしていたんですが、頂上まで500mのところで前のオランダの選手がいきなり斜行して前輪をすくわれる形で落車。ディレイラーが外れて(リアハンガーが折れて)再スタートできず『ペダルは違うから』と言われながらニュートラルバイクで走り出したんですがサイズも合わず。頂上まで200mぐらい歩いて、チームカーを待つしかありませんでした」と、当時の状況を與那嶺は説明する。
「そこからスペアバイクで走り続けたんですが、フィニッシュまで100kmあるのに復帰できなかった。1年間走っていると良い日も悪い日もある。今日は何もできませんでした。消化不良です」。自身7回目の世界選手権をDNFという形で終えた與那嶺は10月22日に中国で開催されるツアー・オブ・広西(UCIワールドツアー)でシーズンを締めくくる予定だ。
先頭ファンフルーテンのリードはしばらく45秒前後で推移したものの、協調体制を築けずにダイグナンやダイガートがカウンターアタックする追走グループのペースは上がりきらない。ファンフルーテンはさらにリードを広げる走りでハロゲート周回コースに入っていく。ファンフルーテンから追走グループまで2分、その後ろの追走集団まで3分という状況で最後の3周回(残り42km)が始まった。
追走グループから飛び出して単独追走を仕掛けたのは個人タイムトライアルで圧勝したダイガート。残り2周回突入時(残り28km)でファンフルーテンからダイガートまで1分50秒、追走3名(ファンデルブレッヘン、スプラット、ロンゴボルギーニ)まで2分15秒。大声援を受けたダイグナンは後続集団に飲み込まれている。
ダイガートの追い上げが予想されたものの、先頭ファンフルーテンはギアを上げてむしろリードを広げる走りを見せた。最終周回に入ってもファンフルーテンのペースは落ちず、やがて2番手ダイガートにはファンデルブレッヘンとスプラットが合流。この追走グループからはダイガートが遅れ、銀メダルの座を確保するためにファンデルブレッヘンが登りでスプラットを切り離した。
105kmにわたる個人タイムトライアルを成功させたファンフルーテンが木漏れ日が照らす最終ストレートで両手を上げた。ファンデルブレッヘンが2位、スプラットが3位に入り、前日に苦汁を舐めたオランダがワンツー勝利を果たす結果となった。
「実は作戦通りの走りではなかった。ただハードな展開に持ち込みたくて登りでペースを上げると飛び出した形になった。とてもクレイジーな展開になったけど、このために積んできたトレーニングが力になった」と、驚異的な独走勝利を果たしたファンフルーテンは語る。
「様々な感情に包まれている。100km以上を単独で逃げ切ったなんて信じられない。アンナ(ファンデルブレッヘン)が追走グループに入ってくれたおかげで良い展開に持ち込むことができたし、彼女が表彰台に上ったことも最高。タイムトライアルではアルカンシェルを着る機会が少ないけど、ロードレースではもっといっぱい着ることができる。これは本当に大きな勝利だ」。
ファンフルーテンは2017年と2018年に個人タイムトライアルでアルカンシェルを獲得しているが、ロードレースではまだ表彰台に上ったことがなかった。オランダによる女子エリートの世界タイトル獲得は3年連続となる。
ロード世界選手権2019女子エリートロードレース結果
1位 | アネミエク・ファンフルーテン(オランダ) | 4:06:05 |
2位 | アンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ) | 0:02:15 |
3位 | アマンダ・スプラット(オーストラリア) | 0:02:38 |
4位 | クロエ・ダイガート(アメリカ) | 0:03:24 |
5位 | エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア) | 0:04:45 |
6位 | マリアンヌ・フォス(オランダ) | 0:05:20 |
7位 | マルタ・バスティアネッリ(イタリア) | |
8位 | アシュリー・モールマン(南アフリカ) | |
9位 | リサ・ブレナウアー(ドイツ) | |
10位 | コリン・リヴェラ(アメリカ) | |
DNF | 與那嶺恵理(アレ・チポッリーニ) | |
DNF | 金子広美(イナーメ信濃山形) |
text&photo:Kei Tsuji in Harrogate, United Kingdom