平野を吹き抜ける強風により0km地点で集団が割れ、先頭集団に入ったナイロ・キンタナ(モビスター)が総合2位浮上を果たしたブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージ。フィリップ・ジルベール(ドゥクーニンク・クイックステップ)が平均スピード50.628km/hの猛烈な高速レースで2勝目を飾った。


そこは出走サインボードではありませんそこは出走サインボードではありません photo:Kei Tsuji
9月11日(水)第17ステージ アランダ・デ・デュエロ〜グアダラハラ 219.6km9月11日(水)第17ステージ アランダ・デ・デュエロ〜グアダラハラ 219.6km photo:Unipublic9月11日(水)第17ステージ アランダ・デ・デュエロ〜グアダラハラ 219.6km9月11日(水)第17ステージ アランダ・デ・デュエロ〜グアダラハラ 219.6km photo:Unipublic

朝晩の冷え込みが厳しい(最低気温7度)ブルゴスで最後の休息日を過ごした選手たちは首都マドリード近くまで一気に南下する。アランダ・デ・デュエロからグアダラハラまで、標高1,000m前後の高地を行く219.6kmのコースにはカテゴリー山岳が設定されていない。とは言え乾いた大地のアップダウンをこなすステージの獲得標高差は2,500mほどある。

この日の勝負を決定づけた要素は、登りではなく、北北東から強く吹き付ける風だった。ステージ前半にかけて南西に向かい、後半に南東に舵を取るコースは大部分が追い風。ざっくり言うと、ステージの前半2/3が横風基調の追い風で、後半1/3がほぼ真後ろからの追い風という『エシュロン警報』発令のステージとなった。

正式なスタートとともに横風分断作戦を実行に移したのはドゥクーニンク・クイックステップ。実にメンバー7名を先頭に送り込んだベルギーチームのペースアップによって、逃げ集団が生まれるというよりもメイン集団が割れる形で47名が先行を開始する。ここに総合6位/7分43秒遅れのナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)や総合8位/10分34秒遅れのウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)が入ったため、メイン集団はスピードを緩めることなく追撃した。

先頭集団を形成した主な選手たち
ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)総合6位/7分43秒遅れ
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)総合8位/10分34秒遅れ
ジェームス・ノックス(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)総合11位/13分26秒遅れ
ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・メリダ)総合18位/17分48秒遅れ
フィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)
ファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ)

ドゥクーニンク・クイックステップやモビスターが先頭集団を牽引した一方で、キンタナらに大きなタイムを与えるわけにはいかないユンボ・ヴィズマがメイン集団を牽引し、ここにエースの総合成績を守る立場のUAEチームエミレーツやアスタナが助太刀する。標高1,380mのカラスコサ峠に向けて徐々に標高を上げていく登り基調にもかかわらず平均スピードは常に50km/hオーバー。全くペースが緩むタイミングがないままタイム差は徐々に広がりを見せた。

スタート後すぐに形成されたドゥクーニンク・クイックステップ率いる先頭集団スタート後すぐに形成されたドゥクーニンク・クイックステップ率いる先頭集団 photo:Kei Tsuji
晴れ渡る強風のカスティーリャ地方を走る晴れ渡る強風のカスティーリャ地方を走る photo:Kei Tsuji
アップダウンが続く褐色の大地を行く先頭集団アップダウンが続く褐色の大地を行く先頭集団 photo:Kei Tsuji
エシュロンを形成しながら分裂していく集団エシュロンを形成しながら分裂していく集団 photo:Kei Tsuji
ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)が「キャリアの中で3本の指に入るほどハードな1日だった」と振り返るほどの横風&追い風の中での高速走行は、主催者が組んだ予定スケジュールが全くあてにならないものにした。

ステージ中盤に差し掛かったところで約30名に絞られた先頭集団のリードが5分を超えたため、暫定的にキンタナがチームメイトのアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)を抜いて総合2位に浮上する。レースは先頭集団をメイン集団が追いかけるというシンプルな展開ではなく、絶え間なく吹き付ける風によってそれぞれの集団は常に不安定な状態で、エシュロンの形成と中切れによって脱落者が続出。総合上位陣の中では総合7位ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)と総合10位ハーマン・ペーンシュタイナー(オーストリア、バーレーン・メリダ)がメイン集団からも遅れ、両者ともに総合トップ10圏外に脱落している。

ドゥクーニンク・クイックステップとモビスター、サンウェブが牽引する先頭集団と、ユンボ・ヴィズマ、アスタナ、UAEチームエミレーツ、ボーラ・ハンスグローエが牽引するメイン集団の力比べ。一時的に6分を超えたタイム差はメイン集団の懸命の追撃によって5分前後の状態でステージ後半の追い風区間に入る。短いアップダウン区間でスプリンターのヤコブセンが先頭集団から脱落したが、ノックスの総合ジャンプアップを狙うドゥクーニンク・クイックステップは構わずペースを上げ続けた。

ユンボ・ヴィズマが牽引するメイン集団ユンボ・ヴィズマが牽引するメイン集団 photo:Kei Tsuji
メイン集団に食らいつく新城幸也(バーレーン・メリダ)メイン集団に食らいつく新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji
ドゥクーニンク・クイックステップやサンウェブが牽引する先頭集団ドゥクーニンク・クイックステップやサンウェブが牽引する先頭集団 photo:CorVos
残り45km地点で仕掛けたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)にライバルたちが反応残り45km地点で仕掛けたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)にライバルたちが反応 photo:Kei Tsuji
残り45km地点に登場した短い登りでモビスターがメイン集団のペースを上げると、それまで追撃に力を使っていたユンボ・ヴィズマやUAEチームエミレーツのアシスト陣は脱落してしまう。孤立したマイヨロホのプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)に対してモビスターは攻撃の手を緩めず、マルク・ソレル(スペイン、モビスター)を先頭に立たせてペースを上げ続けた。追い風に続くこの登りペースアップによって、メイン集団はログリッチェやバルベルデら総合上位陣6名に絞られた。

やがて遅れた選手たちがログリッチェらに合流してメイン集団は20名ほどに。最も多くの人数を残したアスタナがメイン集団を牽引したが、先頭集団とのタイム差が劇的に縮まることはなかった。ステージ優勝と総合ジャンプアップの思惑が交錯する先頭集団は、5分以上のタイム差をもってマドリード近郊のグアダラハラの街に突入した。

ここまでステージ2勝を飾っている好調スプリンターのベネットに対して組織的に攻撃を仕掛けたのは、1日中レースの主導権を握ったドゥクーニンク・クイックステップだった。残り2.5km地点でアタックしたゼネク・スティバル(チェコ、ドゥクーニンク・クイックステップ)が単独で数十メートル先行する。街中に向かう緩斜面を突き進んだスティバルを自ら追いかけたベネットが残り500mで先頭へ。

スティバル吸収のためにロングスパートを仕掛ける形となったベネットがそのまま先頭でスプリント体制に入ったが、その後方にはぴったりとジルベールがチェックに入っていた。やがて残り200mでジルベールが加速すると、先行していたベネットは失速。チームの作戦を完遂したジルベールが今大会ステージ2勝目を飾った。

総合成績に関係する選手の中では、ケルデルマンが2秒遅れのステージ5位、ノックスが6秒遅れのステージ10位、キンタナが10秒遅れのステージ14位でフィニッシュ。メイン集団が5分29秒遅れでフィニッシュしたため、ケルデルマンが総合8位から6位、ノックスが総合11位から8位、そして「『ナイロ向きじゃない』と言われる平坦で風の強いステージで良い走りができて嬉しい」と語るキンタナが総合6位から2位に浮上する結果に。最後までしっかりスプリントしたロペスはライバルたちよりも前でフィニッシュしたものの、横風区間走行時にヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)とハンドスリングを行なったとして10秒のペナルティ受けている。

ベネットを確認するフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)ベネットを確認するフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
今大会ステージ2勝目を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)今大会ステージ2勝目を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
5分以上のタイムを挽回したナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)5分以上のタイムを挽回したナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:Kei Tsuji
集団先頭でフィニッシュに向かうミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)集団先頭でフィニッシュに向かうミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) photo:Kei Tsuji
表彰台でステージ2勝目を示すVサインを見せたジルベールは「とてもスペシャルな勝利だ。スタートから超高速のレース展開で、歴史に刻まれるステージになったと思う。ドゥクーニンク・クイックステップは8名のうち7名を先行させることに成功。チームメイトたちと互いを高め合いながら走ったんだ」とコメント。219.6kmという距離を4時間20分15秒で駆け抜けたジルベールの平均スピードは50.628km/hに達している。

「平坦路でも75km/hは出ていたと思う。54x11Tというギアを用意してたけど、ずっと回りっぱなしだった。17年のキャリアの中で初めての経験。とてもクレイジーなレースだった。チームのDNAでもある横風とエシュロンのステージで成績を残すことができて本当に良かった」と、グランツールにおけるステージ11勝目を飾ったジルベールは語っている。

キンタナに総合タイム差を2分24秒まで詰められたログリッチェは「ミスを犯してしまった。スタートの時点から常に集団の前方に位置しておくべきだったんだ」とハードな1日を振り返る。「チームは前半から全開でサポートしてくれて、後半にかけて他のチームの協力を得ることができた。今日は誰にとっても厳しい1日だったと思う。今日は負けたけど、ブエルタを失ったわけじゃない。まだ総合リードを得ている状態。ブエルタは予測不可能なことが多いけど、まだ状況はとても良い」とマイヨロホ着用7日目を終えたログリッチェは語った。

ドゥクーニンク・クイックステップの攻撃によってベネットはステージ2位に甘んじたが、スプリントポイントの4ポイントとフィニッシュ地点での20ポイントによりポイント賞2位に浮上。仮にポイント賞トップのログリッチェがこの先のステージでポイントを獲得せず、ベネットがマドリードの最終ステージで優勝すれば逆転が可能なポイント差にまで詰めている。

ステージ2勝目を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)ステージ2勝目を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
キンタナにタイムを奪われたが、マイヨロホは守ったプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)キンタナにタイムを奪われたが、マイヨロホは守ったプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ) photo:Kei Tsuji
強風ステージを終えた新城幸也(バーレーン・メリダ)強風ステージを終えた新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji
ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第17ステージ結果
1位フィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)4:20:15
2位サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)0:00:02
3位レミ・カヴァニャ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)
4位ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・メリダ)
5位ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)
6位ヨナス・コッホ(ドイツ、CCCチーム)
7位ローソン・クラドック(アメリカ、EFエデュケーションファースト)
8位ティム・デクレルク(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
9位シルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼール)
10位ジェームス・ノックス(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)0:00:06
14位ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)0:00:10
28位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)0:05:29
29位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
30位プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)
31位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
32位ラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)
35位カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー、ロット・スーダル)0:05:32
77位ハーマン・ペーンシュタイナー(オーストリア、バーレーン・メリダ)0:18:56
79位ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)0:23:36
136位新城幸也(日本、バーレーン・メリダ)0:29:21
DNSヘスス・エラダ(スペイン、コフィディス)
個人総合成績
1位プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)66:43:36
2位ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)0:02:24
3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)0:02:48
4位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)0:03:42
5位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)0:04:09
6位ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)0:05:05
7位ラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)0:07:40
8位ジェームス・ノックス(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)0:08:03
9位カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー、ロット・スーダル)0:10:43
10位ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・メリダ)0:12:21
ポイント賞
1位プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)117pts
2位サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)94pts
3位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)92pts
山岳賞
1位ジョフリー・ブシャール(フランス、アージェードゥーゼール)50pts
2位アンヘル・マドラソ(スペイン、ブルゴスBH)44pts
3位タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームイネオス)29pts
ヤングライダー賞
1位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)62:21:34
2位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)0:00:27
3位ジェームス・ノックス(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)0:04:21
チーム総合成績
1位モビスター199:08:40
2位アスタナ0:32:14
3位ユンボ・ヴィズマ1:28:59
text&photo:Kei Tsuji in Guadalajara, Spain