静岡県伊豆市の日本サイクルスポーツセンターで開催されたツアー・オブ・ジャパン第7ステージは、残り1周半を独走したパブロ・トーレス・ムイノ(スペイン、インタープロサイクリングアカデミー)が優勝。リーダージャージを守ったクリス・ハーパー(オーストラリア、チーム・ブリッジレーン)が個人総合優勝に王手をかけた。石橋学(チームブリヂストンサイクリング)が個人総合7位に浮上。落車で遅れた増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は個人総合10位に後退した。



スタートラインに揃った4賞ジャージスタートラインに揃った4賞ジャージ photo:Satoru Kato
ツアー・オブ・ジャパン伊豆ステージのBBアートツアー・オブ・ジャパン伊豆ステージのBBアート photo:Satoru Kato2020東京オリンピックの会場となる伊豆ベロドローム前を通過する集団2020東京オリンピックの会場となる伊豆ベロドローム前を通過する集団 photo:Satoru Kato

ツアー・オブ・ジャパン最後の決戦の地となる伊豆。個人総合優勝争いはこのステージで事実上決まる。

コースは日本サイクルスポーツセンターの5kmサーキットと、競輪学校内の3kmコースや施設内道路などを組み合わせた1周12km。レース距離は10周120kmと比較的短いものの、獲得標高差は富士山の標高に迫る3750m。ツアー・オブ・ジャパンの中で最も厳しいコースであり、海外チームの選手からも毎年厳しいという声が聞かれるほどだ。

スタートラインでリラックスした表情を見せる増田成幸(宇都宮ブリッツェン)スタートラインでリラックスした表情を見せる増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:Satoru Kato前日の富士山ステージを終えて、個人総合首位はクリス・ハーパー(チーム・ブリッジレーン)。45秒差の2位にベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(チーム右京)、46秒差の3位にメトケル・イヨブ(トレンガヌ・INC・TSG・サイクリングチーム)、51秒差の4位に増田成幸(宇都宮ブリッツェン)がつける。2位から4位までの差はたった6秒。さらに5位ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)はトップから1分差、4位増田との差は9秒と、逆転可能な位置につける。

様々な思惑と期待が交錯する中、レースがスタートした。

2020東京オリンピックに向け工事中のスタンドを背にスタート2020東京オリンピックに向け工事中のスタンドを背にスタート photo:Satoru Kato
3周目に単独で飛び出したフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)3周目に単独で飛び出したフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) photo:Satoru Katoマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)を先頭にフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)を追う集団マルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)を先頭にフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)を追う集団 photo:Satoru Kato

スタート直後からアタックが繰り返され、3周目までに10人が先行する。メンバーは、フェデリコ・ズルロ、小林海(以上ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)、サム・クローム、小石祐馬(以上チーム右京)、伊藤雅和(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)、ベンジャミン・ヒル(リュブリャナ・グスト・サンティック)、パブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)、マルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)。オールイス・アルベルト・アウラール(マトリックスパワータグ)、木村圭佑(シマノレーシング)。その中から、ズルロが単独で飛び出し、9名が1分40秒差で追従する。

伊豆ステージも晴れて暑い1日 前日の決戦の舞台・富士山を望む伊豆ステージも晴れて暑い1日 前日の決戦の舞台・富士山を望む photo:Satoru Kato
レース前半はリーダーチームのチーム・ブリッジレーンがメイン集団をコントロールレース前半はリーダーチームのチーム・ブリッジレーンがメイン集団をコントロール photo:Satoru Kato6周目に落車した増田成幸(宇都宮ブリッツェン)を、チームメイトの岡篤志が集団復帰させる。ジャージの背中が痛々しい。6周目に落車した増田成幸(宇都宮ブリッツェン)を、チームメイトの岡篤志が集団復帰させる。ジャージの背中が痛々しい。 photo:Satoru Kato

先頭のズルロから2分40秒後方となったメイン集団は、チーム・ブリッジレーンがコントロール。その後ろに4位の増田を擁する宇都宮ブリッツェンがつけてレースが進行する。アップダウンの激しいコースはレース序盤から集団を切り刻み、5周目までにメイン集団は30名ほどまで絞られる。

6周目、メイン集団で事件が起きる。個人総合3位のイヨブが下りコーナーで落車。直後を走っていた増田と窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)が巻き込まれる。イヨブはその後リタイア。増田はチームメイトの岡篤志や鈴木龍の助けを借りて7周目にメイン集団に復帰する。

メイン集団ではリーダージャージのクリス・ハーパー(チーム・ブリッジレーン)をベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(チーム右京)がマーク。メイン集団ではリーダージャージのクリス・ハーパー(チーム・ブリッジレーン)をベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(チーム右京)がマーク。 photo:Satoru Kato8周目 中切れした集団と増田成幸を引いて前を追う岡篤志(宇都宮ブリッツェン)8周目 中切れした集団と増田成幸を引いて前を追う岡篤志(宇都宮ブリッツェン) photo:Satoru Kato

8周目、単独で逃げ続けるズルロと、木村圭佑が脱落し8名となった追走との差は20秒まで詰まり、山岳賞ポイントに向かう登りで吸収する。一方メイン集団もペースアップ。リーダージャージのハーパー、総合2位のプラデス、石橋学(チームブリヂストンサイクリング)らを含む10人が先行する集団との差を詰めていく。この動きに増田はついて行けず、遅れた集団に取り残される。岡が懸命に引くが、タイム差は1分以上に開いてしまう。

9周目 パブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)がアタック9周目 パブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)がアタック photo:Satoru Kato9周目 フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)を先頭に追走9周目 フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)を先頭に追走 photo:Satoru Kato

後続を引き離して最終周回へと入ったパブロ・トーレス・ムイノ(スペイン、インタープロサイクリングアカデミー)後続を引き離して最終周回へと入ったパブロ・トーレス・ムイノ(スペイン、インタープロサイクリングアカデミー) Photo: Yuichiro Hosoda
追走する10名の集団は、フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)や、サルバドール・グアルディオラ(キナンサイクリングチーム)らがペースアップしていき、9周目に先頭集団を吸収する。その後ムイノが単独アタック。これを誰も追わず、後続に30秒差をつけて最終周回に入る。

後方に追走集団が迫る中、2周を逃げ切ったパブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)後方に追走集団が迫る中、2周を逃げ切ったパブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー) photo:Satoru Kato
パブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)が伊豆ステージ優勝パブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)が伊豆ステージ優勝 photo:Satoru Kato
ムイノは残り1周半を逃げ切り、独走のままホームストレートに姿を現す。追走する集団が後方に迫ったものの、ウィニングポーズを決めるには十分すぎる差をつけてフィニッシュした。

ムイノは、「ツアー・オブ・ジャパンに向けてチームはとてもいい準備をしてきた。チームのホームとなる日本のレースで勝てたのは嬉しい。今日の夜は皆でお祝いになるだろう」と、コメント。伊豆ステージ優勝を喜んだ。

リーダージャージのクリス・ハーパー(チームブリッジレーン)は追走集団内でフィニッシュリーダージャージのクリス・ハーパー(チームブリッジレーン)は追走集団内でフィニッシュ photo:Satoru Kato石橋学(チームブリヂストンサイクリング)が9位でフィニッシュ。個人総合で日本人最上位となる7位に。石橋学(チームブリヂストンサイクリング)が9位でフィニッシュ。個人総合で日本人最上位となる7位に。 photo:Satoru Kato

序盤から逃げたフェデリコ・ズルロ(イタリア、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)は集団から切れるもこの日のポイント賞を確定序盤から逃げたフェデリコ・ズルロ(イタリア、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)は集団から切れるもこの日のポイント賞を確定 Photo: Yuichiro Hosodaフィリッポ・ザッカンティ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)は47位でゴール。総合山岳賞を確定させたフィリッポ・ザッカンティ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)は47位でゴール。総合山岳賞を確定させた Photo: Yuichiro Hosoda

リーダージャージのハーパーは16秒遅れの8位でフィニッシュ。総合2位のプラデスに7位を譲ったものの、個人総合優勝をほぼ確実にした。9位に石橋、10位に小林、11位に伊藤が続き、石橋が個人総合7位、小林が8位に浮上した。

ハーパーは、「個人総合首位を守るにはハードなコースだったが、チームメイトがいい仕事をしてくれた。感謝してもしきれない。総合トップ10に入っている選手は全て気にしていたが、特に2位のプラデスと3位のイヨブには気をつけていた。今日は調子が良く、周りの選手を見るとアタックについていける余裕があった」と、コメントした。

増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は3分26秒遅れでフィニッシュ。個人総合は10位に後退。増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は3分26秒遅れでフィニッシュ。個人総合は10位に後退。 photo:Satoru Kato遅れた増田は3分以上遅れてフィニッシュ。個人総合は10位に後退した。

宇都宮ブリッツェンの清水監督は「落車したイヨブは下りのテクニックに乏しく、気をつけるべき選手だと選手達は見ていた。個人総合の表彰台を争うタイミングで落車に巻き込まれるのは不運としか言いようがない。なんとか集団復帰させたけれど、終盤のペースアップは厳しかった」と、レースを振り返る。増田の状況については「怪我の状態は検査してみないとわからない。今は無理するところではないので、明日の出走は状況を見て判断する」と、説明した。

TOJキッズを肩車するポイント賞のフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)TOJキッズを肩車するポイント賞のフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) photo:Satoru Kato山岳賞 フィリッポ・ザッカンティ(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)山岳賞 フィリッポ・ザッカンティ(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Satoru Kato



最後はアシストを全て失いながらも個人総合首位を守ったハーパーの強さが目立った。明日の東京ステージを何事もなく終えれば個人総合優勝が決まる。

増田の落車は残念としか言いようがない。ハードレースを生き残った石橋、小林、伊藤の健闘がせめてもの救いか。

明日は最終日の東京ステージ。スプリンター達の競演が見られるステージとなるか。

第7ステージ:伊豆 結果(日本サイクルスポーツセンター周回コース 122.0km)
1位 パブロ・トーレス・ムイノ(スペイン、インタープロサイクリングアカデミー) 3時間10分24秒
2位 ベンジャミン・ヒル(オーストラリア、リュブリャナ・グスト・サンディック) +11秒
3位 ホセ・ヴィセンテ・トリビオ・アルコレア(スペイン、マトリックス・パワータグ)
4位 フランシスコ・マンセボ・ペレス(スペイン、マトリックス・パワータグ)
5位 アダム・トーパリック(チェコ、チーム・ザワーランド・NRW・P/B・SKS・ジャーマニー)
6位 サルバドール・グアルディオラ・トーラ(スペイン、キナンサイクリングチーム)
7位 ベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(スペイン、チーム右京)
8位 クリス・ハーパー(オーストラリア、チーム・ブリッジレーン) +16秒
9位 石橋学(日本、チームブリヂストンサイクリング) +22秒
10位 小林海(日本、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) +28秒
個人総合成績(第7ステージ:伊豆 終了時)
1位 クリス・ハーパー(オーストラリア、チーム・ブリッジレーン) 17時間26分56秒
2位 ベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(スペイン、チーム右京) +40秒
3位 ホセ・ビセンテ・トリビオ・アルコレア(スペイン、マトリックスパワータグ) +51秒
4位 フランシスコ・マンセボ・ペレス(スペイン、マトリックスパワータグ) +1分2秒
5位 ドリュー・モレ(オーストラリア、トレンガヌ・INC・TSG・サイクリングチーム) +1分29秒
6位 サム・クローム(オーストラリア、チーム右京) +2分3秒
7位 石橋学(日本、チームブリヂストンサイクリング) +2分16秒
8位 小林海(日本、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) 2分45秒
9位 アドリアン・ギロネット(フランス、インタープロサイクリングアカデミー) 3分25秒
10位 増田成幸(日本、宇都宮ブリッツェン) +4分1秒
ポイント賞(第7ステージ:伊豆 終了時)
1位 フェデリコ・ズルロ(イタリア、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) 67p
2位 レイモンド・クレダー(オランダ、チーム右京) 67p
3位 ベンジャミン・ヒル(オーストラリア、チーム右京) 59p
山岳賞(第7ステージ:伊豆 終了時)
1位 フィリッポ・ザッカンティ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) 33p
2位 クリス・ハーパー(オーストラリア、チーム・ブリッジレーン) 15p
3位 エミール・ディマ(ルーマニア、ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)
チーム総合(第7ステージ:伊豆 終了時)
1位 チーム右京 52時間28分50秒
2位 マトリックス・パワータグ +1分41秒
3位 インタープロサイクリングアカデミー 8分14秒
text:Satoru Kato, Yuichiro Hosoda
photo:Satoru Kato, Yuichiro Hosoda