トレックというとOCLVカーボンの「マドン」があまりにも有名だ。しかし、トレックはフルアルミバイクに関しても、相当なこだわりをもって製造している。今回インプレした「2.5」は、アルミの最上級モデルだ。

トレック 2.5トレック 2.5 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

トレックの2010モデルにおいて、フルアルミのロードバイクは「2シリーズ」と「1シリーズ」の2つのシリーズに大別することができる。

2シリーズはトレックのアルミ素材の中で最も重量剛性比の高い「Alphaブラックアルミニウム」を使用する。これは6000系アルミにハイドロフォーミングを施したチューブで、「軽さ」「強度」「美しさ」の3拍子を兼ね備えているのが特徴だ。スパルタンな乗り味仕上がっており、中級者だけでなく、レースをガンガン走るような上級者にも向いている。

一方、1シリーズはAlpha ホワイトアルミニウムを使用。これは6000系アルミのダブルバテッドチューブで、乗り味はブラックアルミと比べるとややマイルドで、振動吸収性の高さを重視している。そのため、ロングライドを快適に走りたい人に向いた仕上がりとなっている。街乗り用としても良いだろう。

ジオメトリーはマドンのパフォーマンスフィットと同一だジオメトリーはマドンのパフォーマンスフィットと同一だ Alphaブラックアルミニウムを使用していることを示すシートチューブのロゴAlphaブラックアルミニウムを使用していることを示すシートチューブのロゴ ストレートな形状のアルミシートステーストレートな形状のアルミシートステー


2シリーズ、1シリーズともマドンのパフォーマンスフィットと同じジオメトリーを採用しており、マドンの操作性、トータルバランス、走行性能を受け継いでいる。
カーボンのハイエンドモデルであるマドンは高価でなかなか手が出せないが、2シリーズと1シリーズならアルミフレームでありつつも、マドンの良いところを体感できるモデルとなっているのだ。マドンと同じポジションを取りながら、純粋に素材の違いによる乗り味の違いを楽しめるというのは、アルミファンにとってたまらない魅力だろう。

シャープなカラーリングが魅力だシャープなカラーリングが魅力だ チェーンステーは内側にややベントしているが極端ではないチェーンステーは内側にややベントしているが極端ではない


2009モデルの2シリーズ(2.3)ではカーボンのリヤステーを採用していたが、2010モデルではバックまでフルアルミとなった。これはアルミチューブの進化に伴うもので、トレックでのテストの結果、フルアルミでもカーボンリヤステーと同等の衝撃吸収性、乗り心地、走行性能が実現できているという。振動吸収性や乗り心地に関しては、カーボンシートポストも大きく貢献している。

今やカーボンフレーム全盛時代であるが、アルミにはアルミの良さがあり、今でもアルミフレームに乗りたがる上級者は多い。プロの中にもアルミを好む選手は多く、昨年のアスタナチームのメンバーの中にも、わざわざアルミをチョイスしている選手がいたほどだった。

右フォーク内側にサイクルコンピュータのセンサーを内蔵することができる右フォーク内側にサイクルコンピュータのセンサーを内蔵することができる ヘッドチューブ長はマドンのパフォーマンスフィットと同一ヘッドチューブ長はマドンのパフォーマンスフィットと同一 シートステーの根本部分はモノステーではなく、トラディショナルな2本バックだシートステーの根本部分はモノステーではなく、トラディショナルな2本バックだ


しかし最近、アルミは「廉価モデル用素材」という雰囲気が強く、多くのメーカーがエントリーモデルでのみアルミを使うようになってきた。そのため、上級者が満足できるような「ちょっと良いアルミフレーム」がほとんどない状態だ。そんな中で「2シリーズ」は、上級者をも満足させる高級な仕上がりとなっているのも魅力であると言えよう。

組み合わされるコンポーネントにも注目したい。ランスのために開発されたボントレガーの「VR」ベントのハンドルバー、医学的なアプローチで開発されたインフォームサドル、ツール・ド・フランス最多勝を誇るボントレガーのホイールなど、魅力満載の内容なのだ。

サドルはボントレガー・インフォームR2サドルはボントレガー・インフォームR2 ステムはホワイトに塗装されたボントレガー・レースライトステムはホワイトに塗装されたボントレガー・レースライト


今回インプレしたのは、2シリーズの最高峰「2.5」。組み合わされるコンポはシマノ・アルテグラだ。さて、そんな魅力溢れるトレック 2.5をインプレライダー二氏はどう評価したのだろうか? さっそくインプレをお届けしよう。





―インプレッション

「クセのないナチュラルな乗り味のバイクだ」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


加速感が気持ちの良いバイクだ。剛性感の高いアルミフレームがペダルにかけた踏力をガッチリと受け止め、グングン加速していくフィーリングだ。大パワーを誇るライダーでも、十分に満足できる剛性感の高さだろう。

「クセのないナチュラルな乗り味のバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「クセのないナチュラルな乗り味のバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) ハンドリングはややクイック。低中速ではちょっと落ち着きのない印象を受けた。しかし、高速域になるとその落ち着きのなさがピタッと収まり、とても安定感のある挙動をみせる。そういった意味で、高速巡航をしたくなるバイクであるとも言える。

上りも良い感じで走れた。大パワーをかけてもフレームが負けないので、激坂を上るのにも最適だ。反面、疲れてきた時にはちょっとキツいかもしれない。基本的には回転で走るペダリングで上るバイクだろう。

アルミフレームだけでなく、カーボンフォークもガッチリとしているので、下りの高速コーナーなどでもとても安定して曲がれるし、フルブレーキングでもグッと止まることができた。なかなかレーシーなバイクだ。

アルミフレームなので振動吸収性についてはあまり期待していなかったが、意外と良く微振動を吸収してくれるのには驚かされた。逆にセットされているカーボンフォークは剛性が高めで路面からの突き上げが強い。そのため「後乗り」でフロントをアソばせるようなライディングに向いているだろう。

これはアルミフレーム全体に言えることだが、もし乗り味の硬さが気になるようなら、タイヤをしなやかなモノに履き替えると良い。そうやってバランスを取ることで、バイクの性能はグッとアップする。

全体の印象としては、とにかく「クセのないナチュラルな乗り味のバイク」という感じだ。誰が乗っても文句が出ないだろう。中級者向けのバイクとして、非常に完成されている。

私はマドンにも乗ったことがあるのだが、さすがにマドンと同じジオメトリーを採用しているというだけあって、マドンに共通する乗り味・操作感を持っている。両者にカーボンとアルミという違いはあるものの、その差は想像するほど大きくない。そういった点で2.5はお買い得感の高いバイクであるとも言える。

使用用途は選ばない。週末のロングライドで乗っても良いし、ツーリングや街乗りでも良いだろう。また、レースにも十分に対応するポテンシャルを持っている。重量的には最近の超軽量カーボンバイクにかなわないものの、乗って軽いバイクだから、重量ハンデのことはとくに気にしないでいいと思う。すべてのバランスが良いバイクだから用途を問わず勧めることができる。


「シャキシャキ感のある、洗練された乗り味が魅力のアルミバイクだ」
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)


昨年末にインプレしたマドンが驚くべき踏み出しの軽さと高性能だったので、このバイクにも大いに期待して乗ってみた。さすがにマドンほどの踏み出しの軽さは感じられなかったものの、おおかたのバイクを凌駕するほどの軽い挙動をみせた。
ペダルに力を加えた分だけスーッとスピードが伸びていく感覚は、実に気持ちが良い。

さらに踏み込むと、シャキシャキと加速していく。この「シャキシャキ感」こそ、アルミフレーム最大の美点だと言えるだろう。カーボンフレーム全盛時代になって、しばらくこのアルミのシャキシャキ感を忘れていたが、この2.5に乗って90年代にアルミフレームにわくわくして乗った記憶が蘇ってきた。

とはいっても、さすがに最新モデルだけあり、かつてのアルミフレームよりもずっと洗練された乗り味だ。驚くべきなのは、振動吸収性の高さである。リヤステーはストレートな形状で、凝ったベント加工など施されていないのに、不思議と振動吸収性が高いのである。トレックは昨年までこのグレードのバイクにカーボンリアステイを用いてきたが、このフレームをあえてフルアルミ化するに当たり、ハイドロフォーミングによるチューブの形状やバテッドの具合などを相当研究したに違いない。

アルミのシャキシャキ感が最大限生かされている実戦バイク」仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)アルミのシャキシャキ感が最大限生かされている実戦バイク」仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

上りではBBのウィップのリズムに乗せて「踏む」というよりは、キレイに「回す」タイプのフレームであると言えるだろう。そういった点で、キレイに回すスキルが要求されるフレームであるとも言える。自分のペダリングスキルが上がっていくに従って、「あっ、このバイクは走るな」と思わせてくれるので、ロードバイク上達の手助けになってもくれるだろう。なかなか奥の深いバイクだ。

下りの安定感は抜群だ。フォークがしっかりとしているので、コーナリングでも思い通りのラインを描くことができる。ただ、荒れた路面はやや苦手か。アルミのリヤステーは良いのだが、カーボンのフォークはやや突き上げが強い。

かつては「硬いアルミフレームの乗り味を補うために振動吸収性の高いカーボンフォークを組み合わせる」という公式があったことを考えると、まさに隔世の感がある。まあ、日本にはパヴェ(石畳)などないし、路面はとてもキレイだから、これはこれで良い。

ハンドリングは少々クイックな印象である。アメリカではクリテリウムが盛んなので、どうしてもアメリカンロードはクイックな味付けになりがちだ。かつての「クリテリウムスケルトン」のアメリカンロードほど過激ではないものの、今でもその伝統が生きているのだろう。直進安定性重視のイタリアンロードとは、ちょっと違ったハンドリングである。まあ、この辺を楽しむのも、トレックを買う魅力ではある。

さすがにマドンと同じジオメトリーを採用しているだけのことはある。踏み出しの軽さや軽快な取り回しなど、全体の乗り味もどこかマドンを彷彿とさせるものがある。「高価なマドンには手が出ないけど、マドンの乗り味を楽しみたい」という人にとって、このバイクは相当魅力的なはずだ。

ちょっと気になったのが、フォークとリヤエンドにあるマッドガード用のダボだ。このグレードのバイクに乗る人で、このダボを使う人はまずいないだろう。思い切って省略してしまった方が、ずっとスマートでカッコイイのだが...。おそらくマッドガードやキャリアを取り付けるケースがあるアメリカでの需要にあわせてダボを捨て切れないのだろう。

使用用途であるが、ずばりホビーレース用としてオススメしたい。このスパルタンな乗り味は、距離の短いホビーレースに最適だ。万が一、落車でバイクを壊してしまった時も、マドンに比べればずっと経済的負担が少ない。おりしも超人気車種のマドンが日本でしばらく完成車のみのデリバリーとなり、価格的にもおいそれと手のでない状態だ。実戦バイクを選ぶにはある程度そういった覚悟や割り切りも必要だろう。





トレック 2.5トレック 2.5 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

トレック 2.5
フレーム Alpha ブラックアルミニウム
フォーク ボントレガー・レースカーボン、スピードトラップコンパーチブル
メインコンポ シマノ・アルテグラ
ホイール ボントレガー・レース
タイヤ ボントレガー・レースライト 700×23C
ハンドル ボントレガー・レース VR 31.8mm
ステム ボントレガー・レースライト 7° 31.8mm
サドル ボントレガー・インフォーム R2
カラー グロスホワイト×チリレッド
サイズ 50、52、54、56、58cm
希望小売価格(税込み) 250,000円(アルテグラ完成車)




インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。






text:Takashi.NAKAZAWA
photo:Makoto.AYANO