エミリア=ロマーニャ州の広大な平野を、しかも向かい風基調の平野を、初山翔とコヴィーリが逃げる。初山がさらにイタリア国内の注目度を上げることになったジロ・デ・イタリア第10ステージを振り返ります。


トロフェオ・センツァフィーネトロフェオ・センツァフィーネ photo:Kei Tsuji
マリアローザマリアローザ photo:Kei Tsuji
ニッツォーロに熱くサインをお願いするニッツォーロに熱くサインをお願いする photo:Kei Tsuji
逃げることを明かす初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)逃げることを明かす初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
第2チームカーを運転してスタート地点にやってきた水谷監督が「今日(逃げる役目を担うの)は(初山)翔だね」とポツリとこぼした通り、初山が逃げた。前日のインタビューで「チームから指示があれば逃げる」と言っていた初山が再び逃げた。

第10ステージは獲得標高差が今大会最も小さい200m未満で、しかも向かい風基調で、獲得できる山岳ポイントもない。最も逃げ切りに向かないステージであり、最も誰も逃げたがらないステージであるとも言える。それでもチームの仕事として逃げなければならない。イタリア国内で注目度を上げている初山が逃げに乗り、長時間テレビの映像を独占し、イタリアの中継解説でその存在を触れられることはチームにとってもスポンサーにとっても非常に大切なこと。

初山と一緒に逃げた、というよりも0km地点でファーストアタックを仕掛けて真っ先に逃げたルーカ・コヴィーリ(イタリア、バルディアーニCSF)はフィニッシュ地点モデナから山側に40kmほど入ったパヴッロ・ネル・フリニャーノ出身。ジロに出場するイタリア人選手の中で最年少(22歳)のコヴィーリが地元に最も近い地域を走るステージで逃げを作った。それでも、客観的に見て、逃げの最中、地元出身のコヴィーリよりも初山への声援が大きかった。

逃げ切ったわけでも、ステージ上位に入ったわけでも、何かを成し遂げたわけでもないので、「チームの指示通りに走れたことに"は"満足しています」と本人は冷静そのもの。ステージ順位はここまで143位〜171位で、総合成績は全体の最下位となる163位/1時間36分42秒遅れ。それでも今大会2回目の逃げにより中間スプリント賞3位、フーガ賞(逃げ賞)4位、総合敢闘賞10位に浮上している。

その注目度の高さから、他の選手たちよりもインタビュー対応時間が長い。日本にはなかなか伝わらないが、本人も「怖い」と感じるほど、初山はイタリアに足跡を残している。

観客が詰めかけた街中を逃げる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)観客が詰めかけた街中を逃げる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
観客が詰めかけた街中を逃げる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)観客が詰めかけた街中を逃げる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
コヴィーリとの2人逃げを試みる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)コヴィーリとの2人逃げを試みる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ほぼ0km地点から逃げた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)ほぼ0km地点から逃げた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
グルパマFDJを先頭に進むメイン集団グルパマFDJを先頭に進むメイン集団 photo:Kei Tsuji
日本にとっては「初山再びの逃げ」という大きなトピックに沸いたステージになったが、集団内で走った選手たちにとっては前日に続く休息日になったはず。多くの選手が平均出力150W以下という低い強度で145kmを走破している。

平均心拍が120bpmに満たない選手も続出しており、チャド・ハガ(アメリカ、サンウェブ)に至ってはステージ平均心拍が驚きの88bpm。公開している選手たちの中では、他にもベン・オコーナー(オーストラリア、ディメンションデータ)が95bpm、ルーカス・オウシアン(ポーランド、CCCチーム)が99bpmという低い数値を出している。

そんな平穏なスプリントステージの最後に、「コースが真っ直ぐで減速するコーナーがなく、フルスピードのスプリントは自分向きだった」というアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)が勝った。ここまで中間スプリントでコツコツと貯金し続けたデマールがポイント賞2位に。ラスト1kmで落車したパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は右肘と右膝に怪我を負ったものの、今のところ第11ステージをスタートする予定。落車に巻き込まれたマッテオ・モスケッティ(イタリア、トレック・セガフレード)は肩の脱臼によってリタイアを決めている。

真っ平らなコースを逃げ続ける初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)ら真っ平らなコースを逃げ続ける初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)ら photo:Kei Tsuji
マリアローザのヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)を含むメイン集団マリアローザのヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)を含むメイン集団 photo:Kei Tsuji
フィニッシュライン横のバーガーキングは大盛況フィニッシュライン横のバーガーキングは大盛況 photo:Kei Tsuji
接戦スプリントで先頭に立つアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)接戦スプリントで先頭に立つアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ) photo:Kei Tsuji
ステージ初優勝を飾ったアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)ステージ初優勝を飾ったアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ) photo:Kei Tsuji
ジロの会場をざわつかせているのが、ちょうど1週間後に迫った第16ステージのガヴィア峠の様子だ。何しろ標高2,618mの『チーマコッピ(大会最高地点)』ガヴィア峠は現在深い雪の中。頂上付近には4メートルの積雪があり、一旦は除雪されて通行可能となったものの、雪崩によって道が再び雪に埋まったため除雪作業中。

大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「ガヴィア峠を通行できる確率は60%ほど」とメディアに打ち明けている。このまま好天が続けば通過できる(ジロは何が何でも通過させる)見通しだが、今週末にかけて再び降雪の可能性が出ているため、ガヴィア峠通過には暗雲が立ち込める。仮にガヴィア峠が省かれても、後半に1級山岳モルティローロ峠を通過する獲得標高差4,700mの難関山岳ステージであることには変わりはない。ヴェーニ氏は改めてモルティローロ峠を2回通過する案を否定している。

大会2週目に入っても天候の不安定さは相変わらず。第10ステージは気温が25度に達する好天に恵まれたものの、レース終了とともに雨雲がモデナの空を覆い始め、表彰台が終わったところで雨に。やがて雷を伴う大雨となった。

ジロはもう一日だけ真っ平らなステージを堪能してから、いよいよ第12ステージから山へと入る。

落車し、膝から血を流したままマリアチクラミーノを受け取るパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)落車し、膝から血を流したままマリアチクラミーノを受け取るパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
今大会2度目の逃げを終えた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)今大会2度目の逃げを終えた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Modena, Italy