今シーズンより新たに国内ロードレース界に参戦するBLITZEN宇都宮プロレーシングチーム(以下、宇都宮ブリッツェン)の設立記念パーティーが1月10日、チームのホームタウンである栃木県・宇都宮市で開催された。

宇都宮ブリッツェンのフルメンバー宇都宮ブリッツェンのフルメンバー (c)Makoto.AYANO/www.cyclowired.jp宇都宮ブリッツェンは、選手兼ヘッドコーチを務める廣瀬佳正が自ら発起人となって立ち上げたプロチームだ。宇都宮市といえば、かつて世界選手権自転車競技大会を開催し、毎年10月にはジャパンカップを行うことで自転車ファンにはおなじみの土地だ。

宇都宮市にプロチームを作りたい。地元出身の廣瀬の願いからはじまったその計画は、宇都宮市民を中心に多くの人々の支援を受けて、ついに国内初となる地域密着型プロチームとして動き出した。パーティー当日はその多くの期待をそのまま表したかのような賑わいとなり、ファンや関係者など400人を超す人々が集まった。

チームプレゼンテーションでは、9人の選手全員とチームジャージがお披露目となった。チームには前述の廣瀬のほか、足利市出身の柿沼章監督(選手兼任)、都賀町出身の針谷千紗子と栃木県勢が3選手所属する。

宇都宮ブリッツェン監督 柿沼章(左)と馬場隆司社長宇都宮ブリッツェン監督 柿沼章(左)と馬場隆司社長 まず宇都宮ブリッツェンの運営法人、サイクルスポーツマネージメント株式会社の馬場隆司社長が「まだ選手に馴染みはないと思うが、顔と名前を憶えていただき、レース会場で名前を呼んでほしい。それがチームの喜びになる。みなさまのご声援が我々の走る力になる」と挨拶。

企業が母体となるこれまでの国内プロチームと違い、宇都宮ブリッツェンは地域に根付くことを目的としたプロチームだ。レース活動はもちろん、自転車教室の普及活動や社会貢献活動も積極的に行っていく。
柿沼監督は「ブリッツェンは毎日トレーニングで宇都宮市内、栃木県内を走っている。見かけた際には一声かけてもらえると嬉しい」とさっそく”身近さ”をアピールする。

さらに「私を含めて、イケメンがそろっております! べっぴんもいます!」と会場の笑いを誘うことも忘れない。だが昨年のジャパンカップ後は、チーム設立のために馬場社長や廣瀬と共に営業活動に奔走した柿沼監督。ようやく故郷の栃木県でプロチームを立ち上げられたことに感極まり、言葉に詰まって涙をこらえる場面も見られた。
柿沼監督は競技者としての向上心も持ち続けており、自身の走りが若手中心のチームに貢献できるよう選手兼任で今シーズンもバイクを駆る。

チームの発起人である廣瀬は「7年以上前から、宇都宮にいつかはプロチームを作りたいと思っていた。柿沼さんに先に泣かれてしまったので、日本一になったときに涙を取っておきたい」と熱く語る。

昨年まではスキル・シマノでアシスト選手としてエースを支えたが、今年はアシストはもちろん、時には自分でも勝ちを狙うという。平地も山岳もこなせるオールラウンダーだ。「チーム名はいろいろな案が出た。ボクは『シモツカーレ宇都宮』を推していたが却下された」とローカルな裏話で会場を笑わせてくれた。シモツカーレとは、栃木県など北関東地方の郷土料理のひとつ「しもつかれ」が由来だ。

宇都宮市出身の廣瀬佳正。ヘッドコーチも兼ねる宇都宮市出身の廣瀬佳正。ヘッドコーチも兼ねる 紅一点、地元栃木県出身の針谷千紗子紅一点、地元栃木県出身の針谷千紗子 清水良行とチームカーのスバル・レガシイツーリングワゴン清水良行とチームカーのスバル・レガシイツーリングワゴン

紅一点の針谷千紗子。昨シーズン3勝を挙げ、ジャパンカップ女子オープンレースでも3位表彰台となり今シーズンのさらなる活躍が期待されている。栃木県民だけに餃子好きで 「(1日に)焼き餃子2人前、水餃子が3人前くらい食べられる」とパワーの秘訣を語る。緊張のせいか控え目に「がんばります」と答えていたが、日本一のタイトルも十分考えられる逸材だけにファンの声援は大きかった。男子選手と共に練習することでさらなる飛躍が望めそうだ。

チームのエース格としてレースに臨むのは清水良行だ。これまでNIPPOコーポレーション・梅丹本舗、NIPPO・エンデカとチームを渡り歩き、ヨーロッパで走ってきた。
「海外で3シーズン闘った経験をJツアーで出したい。年齢的にも結果を出さないといけないし、チームを引っ張って行きたい。Jツアーで総合を狙うには平地だけでは駄目なので、上りも走れるようにして開幕戦を迎えたい」とやる気十分だ。

ヒルクライマーの長沼隆行ヒルクライマーの長沼隆行 ヒルクライムレースで期待されるのは長沼隆行。昨シーズンは個人TTロード選手権(栂池)、富士山国際の2大ヒルクライム大会で国内屈指のヒルクライマー、狩野智也(シマノレーシング)にあと一歩およばず2位の男とされた。だが「今年はやります。練習量がちがう。まだ若いので、伸びしろがあると思う。日本一のクライマーが目標」と打倒狩野に意欲を見せる。昨年はJツアーリーダージャージにもソデを通しており、総合面でも期待が持てる。

父にシクロクロス界の強豪選手、正則氏を持つのは小坂光。ロードレース暦は浅いが、昨シーズンはBR-2クラスでランキング1位を獲得。
「まだ明確な目標は定まっていないが、素晴らしい環境の中でロードレースを根付かせられるように頑張りたい。シクロクロスも続けていきたい」と語る。今季シクロクロスはU23クラスでの世界選手権出場が決まっており(父・正則氏もエリートクラスで出場)、ロードとの両刀使いが楽しみだ。

長年クラブチームで走ってきた苦労人が中里聡史。このプレゼンテーションでMCを務めた栗村修氏が監督していたチームに、かつてアプローチを試みたことがあった。そのときは叶わなかったが、ついに念願のプロ入りとなった。
「(チームメンバーの中でも年長の1人なので)みんなをまとめて行きたい。これだけ有能な選手が集まれば優勝も難しくない。栗村さんのチームに弾かれた悔しさをバネにしたい」と意気込む。出身は埼玉だが、もう5年も栃木県に住んでいる。

チーム男子最年少、中山卓士チーム男子最年少、中山卓士 昨年末から清水と一緒に宇都宮市内に移り住み、練習に取り組んでいる中山卓士。男子の中では最年少だ。昨年はNIPPO・コルナゴで活動し、レースでも積極的な走りを見せた。「3月から5月はベルギーに(チームから唯一)海外遠征して修行をしてくる。全日本選手権を獲りに行きたい」と甘いマスクに闘志を燃やす。

昨年はクラブチーム所属ながらサイクルロードレースin加東では7位と健闘した斉藤祥太。「初めてのプロ入りで緊張している。エースのアシストをしながらレースを作っていきたい」と、平地のスピードマンとしてチームを牽引するのが期待される。埼玉出身だが、春からは宇都宮市に移り住む予定だ。

気になる宇都宮ブリッツェンの活動予定だが、今シーズンはJツアーを中心にレース参戦して行く。チームはすでに1月4日に開催されたツインリンクもてぎ100kmサイクルマラソンに清水、中山が招待選手として走ってはいるが、4月の東日本サイクルロードレースがレース開幕戦となる予定だ。Jツアー以外もツアー・オブ・ジャパン、全日本選手権、ツール・ド・北海道、そして地元宇都宮市で開催されるチーム最大の目標であるジャパンカップと国内主要レースに参加。ツール・ド・おきなわでシーズンを締めくくる計画だ。


宇都宮ブリッツェンのフルメンバーとスタッフ宇都宮ブリッツェンのフルメンバーとスタッフ

会場には宇都宮ブリッツェンのスペシャルアドバイザーも来場した。インターマックス代表・今中大介、S級S班競輪選手・神山雄一郎、元F1ドライバー・片山右京がチームに協力している。テクニカル・アドバイザーの今中は「宇都宮とは縁が深い。みなさんと一緒に盛り上げて行きたい」と語る。ジャパンカップで現役引退し、今は会場でライブ解説を担当している今中にとって宇都宮は特別な地だと言う。
スプリント・アドバイザーの神山は「(自分が作新学院にいたころにチームがあったら)もしかしたら自分もロードの世界に入ったかもしれない」と同じ栃木県出身として喜びを見せる。メンタル・アドバイザーの片山は会場には来られなかったが、ビデオメッセージで「ブリッツェンと共に自転車の素晴らしさを伝えて行きたい」とエールを送った。

また地元の船田元衆議院議員、福田富一県知事、佐藤栄一宇都宮市長も駆けつけ、宇都宮ブリッツェン設立の祝辞を送った。さらに会場にはギョーザ、イチゴ、ローストビーフ、カクテル、ジャズなど栃木県や宇都宮市の名物が支援者から用意され、来場者を賑わせた。官民一体となって、宇都宮ブリッツェンを応援していこうという姿勢が見て取れた。プレゼンテーション後は交流会となり、早速選手たちはファンと接することを楽しんだ。

パーティーの最後に「1年間、全国でレースを転戦して一回りも二周りも大きくなって、宇都宮のジャパンカップに凱旋したい」と柿沼監督は来場者に約束した。まだ歩み始めたばかりの新チーム。初年度からジャパンカップ優勝を目標に掲げることはしていないが、そこで活躍することは宇都宮市のチームである以上、使命といえる。年々観客数が増加するジャパンカップは、宇都宮ブリッツェンによってさらに注目を集めることになるだろう。「何よりも皆様からのあたたかい応援、ご支援が必要です。今後とも宇都宮ブリッツェンをよろしくお願いいたします」と締めくくり、会場は盛大な拍手に包まれた。

会場には400人を超える人が集まった会場には400人を超える人が集まった

企業チームではない、国内初の地域密着型プロチームとして活動を始めた宇都宮ブリッツェン。将来、他の地域で新たに同様のプロチームが発足される時のためにも、レースでの活躍はもちろんだが運営面でもチームを成功させることが必要だ。国内の自転車ロードレースがより発展するために、良きパイオニアとなるよう今後とも注目したい。

text:茂木ゆうき
photo:綾野 真

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