ジュニアカテゴリーで敵なしの強さ。落車で遅れながらも終盤に独走に持ち込んだレムコ・イヴェネプール(ベルギー)がロード世界選手権ロードレースで二冠を達成した。相次ぐ落車にレースは荒れ、51位の小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン)が日本チーム唯一の完走者となった。


スタート後、緩やかにアップダウンを繰り返しながらインスブルックを目指すスタート後、緩やかにアップダウンを繰り返しながらインスブルックを目指す photo:CorVos
ジュニアカテゴリー最強を決めるロード世界選手権男子ジュニアロードレース。スタート地点は人口17,000人のクーフシュタインの街で、そこからイン渓谷に沿った平坦路をこなして「グナーデンヴァルト(距離2.6km/平均勾配10.5%/最大勾配14%)」に挑む。急勾配の登りをこなしてから一旦フィニッシュラインを通過し、そこから「イグルス(距離7.9km/平均勾配5.7%/最大勾配10%)」の登りを含む23.8km周回コースを回るレイアウトは男女エリートと男子U23レースと共通だ。

男子ジュニアは84.2kmのロード区間をこなしてから23.8km周回コースを2周する合計131.8km、獲得標高差1,905m。日本から参戦した5名を含む54カ国159名の選手たちが晴れ渡る気温22度のクーフシュタインをスタートした。

レース前半は落車が相次いだ。ニュートラル区間で発生した落車に日野泰静(松山城南高校)が巻き込まれ、その後も断続的に発生する落車によって遅れる選手が続出する。集団に最も大きなダメージを与えたのは、スタートから約1時間半経過後、フィニッシュまで72kmを残した地点で発生した大落車。集団前方で発生した落車に大勢の選手が巻き込まれ、その中にはタイムトライアルで圧勝したレムコ・イヴェネプール(ベルギー)の姿もあった。日本勢は香山飛龍(横浜高校)と馬越裕之(榛生昇陽高校)、福田圭晃(横浜高校)がこの時点で集団から脱落している。

後輪を交換したイヴェネプールは重要な勝負どころである「グナーデンヴァルト」を前に2分の遅れを被ってしまう。落車を免れたイタリアチームが登りで積極的に先頭集団のペースを作ると小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン)も脱落。イヴェネプールは「グナーデンヴァルト」で快調に遅れを挽回し、頂上通過時点で先頭から1分遅れまで追い上げた。

急勾配の「グナーデンヴァルト」でイタリアチームが先頭集団のペースを上げる急勾配の「グナーデンヴァルト」でイタリアチームが先頭集団のペースを上げる photo:Kei Tsuji
「グナーデンヴァルト」で集団から遅れた小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン)「グナーデンヴァルト」で集団から遅れた小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン) photo:Kei Tsuji「グナーデンヴァルト」で集団から遅れた福田圭晃(横浜高校)「グナーデンヴァルト」で集団から遅れた福田圭晃(横浜高校) photo:Kei Tsuji
落車で遅れたレムコ・イヴェネプール(ベルギー)がハイペースで集団復帰を目指す落車で遅れたレムコ・イヴェネプール(ベルギー)がハイペースで集団復帰を目指す photo:Kei Tsuji落車の影響で遅れた馬越裕之(榛生昇陽高校)落車の影響で遅れた馬越裕之(榛生昇陽高校) photo:Kei Tsuji
落車の影響で遅れた香山飛龍(横浜高校)落車の影響で遅れた香山飛龍(横浜高校) photo:Kei Tsuji落車の影響で遅れた日野泰静(松山城南高校)落車の影響で遅れた日野泰静(松山城南高校) photo:Kei Tsuji

その後もベルギーチームの追走によりタイム差は縮まり、先頭でアンドレア・ピッコロ(イタリア)とマリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)が逃げる展開でインスブルックの周回コースに入っていく。1分まで広がったピッコロとマイヤーホーファーのリードは縮小し、「イグルス」の登りでベルギーチームが作るハイペースによって先頭2名は吸収。そこから加速したイヴェネプールに対応できたのはカレル・ヴァチェク(チェコ)とマイヤーホーファーだけだった。

下り区間でヴァチェクが脱落したため先頭はイヴェネプールとマイヤーホーファーの2名に。イタリア勢が牽引する追走集団とのタイム差は広がり続け、1分以上のリードをもって最終周回の鐘を聞く。再び「イグルス」の登りが始まると、完全に付き位置で走り続けたマイヤーホーファーをイヴェネプールが振り切った。

フィニッシュまで20kmを残して独走に持ち込んだイヴェネプール。2番手を走るマイヤーホーファーと、3番手を走るアレッサンドロ・ファンチェル(イタリア)とアレクサンドル・バルマー(スイス)とのタイム差は広がるばかり。残り4kmを切って勝利を確信したイヴェネプールがカメラに向かってガッツポーズを見せ、観客の声援に応えながらウィニングランを楽しんだ。

チームメイトに引かれて先頭2名を追うレムコ・イヴェネプール(ベルギー)チームメイトに引かれて先頭2名を追うレムコ・イヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos
マリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)を連れて最終周回に入るレムコ・イヴェネプール(ベルギー)マリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)を連れて最終周回に入るレムコ・イヴェネプール(ベルギー) photo:Kei Tsuji
レムコ・イヴェネプール(ベルギー)の力走にファンが盛り上がるレムコ・イヴェネプール(ベルギー)の力走にファンが盛り上がる photo:Kei Tsuji
最終周回に入る小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン)最終周回に入る小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン) photo:Kei Tsuji降車を言い渡される福田圭晃(横浜高校)降車を言い渡される福田圭晃(横浜高校) photo:Kei Tsuji
バイクを掲げでフィニッシュするレムコ・イヴェネプール(ベルギー)バイクを掲げでフィニッシュするレムコ・イヴェネプール(ベルギー) photo:Kei Tsuji
「クールネ〜ブリュッセル〜クールネでそうしたように、シーズン最後のレースをバイクを掲げるポーズで締めくくりたかった」というイヴェネプールが、フィニッシュライン上で降車してバイクを持ち上げる。落車で2分の遅れを被りながらも挽回し、アタックを仕掛け、独走に持ち込んだイヴェネプールがタイムトライアルとの二冠を達成。「第2のエディ・メルクス」と称される18歳の新星が改めてその力を見せつけた。

「グナーデンヴァルトでベルギーチームがペースを上げて人数を絞り込む作戦だったものの、登りを前に落車してしまったので作戦変更を強いられた。あいにくチームのメカニックが自分の落車を見逃してしまったので、チームメイトから後輪を受け取って再スタート。2分の遅れを被ってしまったのでそこからは懸命に追走した。集団に追いついた時点では2名が逃げていたものの、まだ周回コースの登りが2回残っているので問題はなかった。最終的にドイツ人選手が付いてきたけど、彼は協力することができない状態だったので、いつでも振り切って勝てると思っていた」と、圧巻の独走勝利を飾ったイヴェネプールは語る。

クイックステップフロアーズでのプロ入りが決まっているイヴェネプールは「来年はプロの世界に飛び込む。自分はチャンピオンでも何でもなくてまだ1人のジュニア選手。自転車競技を始めて1年半しか経っていないので、まだまだ多くのことを学ぶ必要がある。クイックステップフロアーズは自分のキャリアの良いステップになるはず。チームの中で静かに成長を続けたい。互いに信頼している関係であり、明るい将来が待っていると思う。夢はグランツールで勝つことだけど、まだそこまでの道のりは長い。これからもトレーニングを続けて、いつの日かその夢を叶えたい」とコメントする。ベルギーの男子ジュニアロードレース制覇は2009年のジャスパー・ストゥイヴェン以来9年ぶり4度目だ。

落車によって荒れたレースの完走者は84名で、75名が最終周回に入ることができずにバイクを降りている。日本チームは51位の小野寺慶が唯一の完走者となった。以下は小野寺のコメント。

「集団の密度が高く、最初から前にいないといけないとわかっていた。中盤の登りで前にいられたが、強豪国のトレインに挟まれる形となり、転びかけて前にいた選手のホイールに手の指を挟んでしまった。そこで一瞬遅れていまい、急勾配のところで急いで戻ろうと脚を使ってしまった。追いついたが、そこからズルズルと後退してしまった。周回コースに入ってからは、指だけでなく、身体のバランスも崩れて腰も痛くて、うまく踏み込むことができず、力を出し切ることができなかった。一瞬の出来事で、レースを無駄にしてしまったのが悔しい。今シーズン通して登りを強化してきた。今回は力を出し切れなかったが、アンダーに上がる来年、再来年でさらに登りに強い選手になっていきたい。」

ベルギー国旗を手に観客の声援に応えるレムコ・イヴェネプール(ベルギー)ベルギー国旗を手に観客の声援に応えるレムコ・イヴェネプール(ベルギー) photo:Kei Tsuji
2位を守り抜いたマリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)2位を守り抜いたマリウス・マイヤーホーファー(ドイツ) photo:Kei Tsuji3位争いのスプリントを繰り広げたアレッサンドロ・ファンチェル(イタリア)とアレクサンドル・バルマー(スイス)3位争いのスプリントを繰り広げたアレッサンドロ・ファンチェル(イタリア)とアレクサンドル・バルマー(スイス) photo:Kei Tsuji
2位マリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)、1位レムコ・イヴェネプール(ベルギー)、3位アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア)2位マリウス・マイヤーホーファー(ドイツ)、1位レムコ・イヴェネプール(ベルギー)、3位アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア) photo:Kei Tsuji
圧倒的な力で二冠を達成したレムコ・イヴェネプール(ベルギー)圧倒的な力で二冠を達成したレムコ・イヴェネプール(ベルギー) photo:Kei Tsuji
ロード世界選手権2018男子ジュニアロードレース結果
1位 レムコ・イヴェネプール(ベルギー) 3:03:49
2位 マリウス・マイヤーホーファー(ドイツ) 0:01:25
3位 アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア) 0:01:38
4位 アレクサンドル・バルマー(スイス)
5位 フレデリック・ワンダール(デンマーク) 0:03:20
6位 ガブリエーレ・ベネデッティ(イタリア)
7位 アロワ・シャラン(フランス)
8位 ケヴィン・ヴェルマーク(アメリカ)
9位 アントニオ・ティベーリ(イタリア)
10位 ショーン・クイン(アメリカ) 0:03:25
51位 小野寺慶(ブラウ・ブリッツェン) 0:17:28
DNF 福田圭晃(横浜高校)
DNF 香山飛龍(横浜高校)
DNF 日野泰静(松山城南高校)
DNF 馬越裕之(榛生昇陽高校)

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