今年プロ選手として11年目のシーズンを迎えたルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)は、キャリアに足りない何かを求め続けている。それはビッグレースでの勝利だ。フランコ・バッレリーニ伊代表監督に大金星を捧げたいと願うパオリーニに、グレゴー・ブラウンが訊いた。

2009年ロード世界選手権 イタリア代表として走るルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)2009年ロード世界選手権 イタリア代表として走るルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Cor Vos「これまでのキャリアの中で、表彰台には何度も上っているんだ。でもいつもあと一歩届かない。今となっては表彰台の感動も薄れてしまった。今年こそワンディクラシックで優勝したい」。

真っすぐ見つめるその眼から、パオリーニの誠実な性格を感じることが出来る。しかしその眼は少し充血している。フランコ・バッレリーニ氏の死去で、涙に暮れていたことは容易に想像出来る。

トロフェオ・ライグエリアでシーズンインしたルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)トロフェオ・ライグエリアでシーズンインしたルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Gregor Brownパオリーニは2001年以降、バッレリーニ監督の指揮のもと、イタリア代表選手として何度もロード世界選手権に出場。イタリア・ヴェローナで開催された2004年大会で、パオリーニは銅メダルを獲得した。

今年33歳のパオリーニは「今シーズンの初勝利は、間違いなく彼に捧げるよ」と、亡き師への想いを語る。「イタリア代表メンバーは、彼のことを親しみを込めて“イル・フィデーレ”と呼んでいたんだ。彼は選手たちと親密な関係を築いていた。今は大きな空虚感を感じている」。

バッレリーニ監督は今月初旬、イタリア・トスカーナ州ラルチャーノで行なわれたラリーカーレースで、45年の生涯にピリオドを打った。バッレリーニ氏はアレッサンドロ・チャルディ氏が運転するラリーカーにナビゲーターとして同乗。しかし、レース中にラリーカーは道を逸れ、壁に激突してしまう。チャルディ氏は何とか命を取り留めたが、バッレリーニ氏は帰らぬ人となった。

パオリーニは2月10日、バッレリーニ氏の故郷カザルグイディで行なわれた葬儀に参列した。「彼のことは一生忘れないだろう。今でも彼が僕の傍にいる錯覚に陥ることがある。彼の死をまだしっかりと受け入れることが出来ていないのかも知れない。とにかくイタリア人選手にとって、フランコの死は大きな喪失だ」。

2003年ミラノ〜サンレモ ベッティーニを引き連れてアタックするルーカ・パオリーニ(イタリア、当時クイックステップ)2003年ミラノ〜サンレモ ベッティーニを引き連れてアタックするルーカ・パオリーニ(イタリア、当時クイックステップ) photo:Cor Vosパオリーニは当初ツール・メディテラネアンでシーズンインする予定だったが、バッレリーニ氏の訃報を受けて予定を変更。2年前に優勝を飾ったトロフェオ・ライグエリアでシーズンをスタートさせ、6位でフィニッシュした。

2006年のミラノ〜サンレモで3位、2007年のロンド・ファン・フラーンデレン(フランドル)で3位に入っているパオリーニは、立ち止まることなく前を見て走り続ける。

2003年ミラノ〜サンレモ 優勝したベッティーニの後方で、ルーカ・パオリーニ(イタリア、当時クイックステップ)も手を挙げる2003年ミラノ〜サンレモ 優勝したベッティーニの後方で、ルーカ・パオリーニ(イタリア、当時クイックステップ)も手を挙げる photo:Cor Vos「今年はアックア・エ・サポーネのメンバーとしてベルギーに向かう。特に注目しているのが、E3プライス・フラーンデレンやヘント〜ウェベルヘム、デパンヌ3日間レースなど、ミラノ〜サンレモ後に開催されるレース。チームが招待されれば、フランドルでも勝利を狙う」。

「フランドルで100%の力を発揮するためには、サンレモの時点で99%のコンディションでなければならない。いすれにしても、サンレモでの結果は必須条件だ」。

2003年ミラノ〜サンレモ 表彰台でベッティーニに抱き上げられるルーカ・パオリーニ(イタリア、当時クイックステップ)2003年ミラノ〜サンレモ 表彰台でベッティーニに抱き上げられるルーカ・パオリーニ(イタリア、当時クイックステップ) photo:Cor Vos2003年のミラノ〜サンレモ、パオリーニはチームリーダーのパオロ・ベッティーニ(イタリア)とともにレース終盤の逃げに乗った。パオリーニは逃げグループを献身的に牽き続け、ベッティーニの勝利をお膳立て。更にパオリーニ自身も3位に入った。

パオリーニはベッティーニのような逃げ切り勝利にチャンスがあると見る。「今年を含め、近年のミラノ〜サンレモで勝つための方法はただ一つ、スプリンターの追撃を振り切って、小さなグループでゴール勝負に持ち込むこと。待っていてはチャンスは回ってこない。サンレモの街に入るまでにアタックを仕掛け、大集団でのスプリント勝負を避けるんだ」。

シーズン後半の目標は、最高のコンディションでロード世界選手権に挑むこと。オーストラリア・ジーロングで開催される世界選では、新監督(ベッティーニの可能性大)がイタリアチームの采配をとる。しかしパオリーニは旧友バッレリーニにその走りを捧げる所存だ。

「毎年、彼に『世界選に向けて準備万端であること』を見せるためにシーズン終盤まで闘い続けて来た。今年もその姿勢に変わりはない。フランコの精神は、いつまでもイタリアチームに生き続ける。でも、こう言いたくはないけど、人生とロードレースはそれでも前に進んで行くんだ」。


text:Gregor Brown in Laigueglia, Italy
photo:Gregor Brown, Cor Vos
translation:Kei Tsuji




Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。