エアロロードのOLTREと並び、ビアンキのレーシングラインを担う軽量クライミングバイク「SPECIALISSIMA」をインプレッション。無駄を省いたオーソドックスなフレーム形状により重量を抑えるとともに、同社独自のカウンターヴェイルにより高い快適性とコントロール性能も両立した1台だ。



ビアンキ SPECIALISSIMAビアンキ SPECIALISSIMA (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
チェレステカラーをアイコンとしシリアスレーサーからシティサイクリストまで幅広い人々に親しまれているイタリアの老舗ブランド、ビアンキ。1885年創業と現存する自転車メーカーとしては最古の歴史を有しており、世界を代表するブランドとして長きに渡りロードレースシーンを牽引してきた。100年以上もプロレーサーをサポートしてきた中で、ジロ・デ・イタリア総合優勝は実に12回、ミラノ~サンレモ19回、ジロ・ディ・ロンバルディア16回という勝利をビアンキバイクが挙げてきた。

そんなビアンキのレーシングマシンと言えば、ワールドチームのロットNLユンボがメインバイクとして使用している「OLTRE XR4」が真っ先に思い浮かぶところだが、そのOLTREシリーズと並んで同社のレーシングカテゴリーを支えているのが軽量クライミングモデルの「SPECIALISSIMA(スペシャリッシマ)」である。

カウンターヴェイル搭載で快適性を高めるシートステーカウンターヴェイル搭載で快適性を高めるシートステー シートチューブは丸型チューブを採用。ビアンキのイーグルデザインがあしらわれるシートチューブは丸型チューブを採用。ビアンキのイーグルデザインがあしらわれる 軽量バイクらしい機敏なハンドリングを生み出すストレート形状のフォーク軽量バイクらしい機敏なハンドリングを生み出すストレート形状のフォーク

その登場は2015年、同社130周年を記念したその名の通りスペシャルなモデルとしてビアンキが持てるテクノロジーの粋を集めて開発されたバイクとなる。当時ラインアップされていたハイエンドレーシングバイクが「OLTRE XR2」の1モデルのみだったところに、新たな選択肢を加えるフラッグシップマシンとしてデビューを果たした。

ビアンキのバイクラインアップ中、最軽量となるフレーム重量780gをマークしつつも高い重量剛性比を持たせることで優れた反応性を有した1台に仕上がる同バイク。無駄のないシンプルなフレーム形状の中にも、細かく造形を工夫することで重量を削ぎ落としつつも妥協のないレーシング性能を実現している。

トップチューブにはビアンキのコアテクノロジー「カウンターヴェイル」を表すCVの文字がトップチューブにはビアンキのコアテクノロジー「カウンターヴェイル」を表すCVの文字が フォークからヘッドチューブにかけては流れるように繋がった造形フォークからヘッドチューブにかけては流れるように繋がった造形
リアエンドに向かって薄く絞られたチェーンステーリアエンドに向かって薄く絞られたチェーンステー エッジを設けた多角形状のダウンチューブがねじれ剛性を高めるエッジを設けた多角形状のダウンチューブがねじれ剛性を高める

各チューブデザインを見ていくと、パワーラインを担うダウンチューブは大口径かつ多角形状のエッジを設けたねじれ剛性の高い造形に。BBも圧入式のPF86とすることでシェル幅を広げボリュームを持たせ、パワー伝達性を向上させている。対してチェーンステーはエンドに向かって薄く絞られたり、トップチューブを横方向に扁平させたりすることで快適性強化を狙っている。

シートチューブとシートポストはオーソドックスな丸型の27.2mm径を採用。340gとこちらも軽量に仕上がるフロントフォークは、ストレート形状により機敏なハンドリングを生み出すとともに、ヘッドチューブと流れるように繋がりを見せる美しい造形に仕上がっている。またヘッドチューブは同社TTバイクのAQUILA CVにインスパイアされたエアロプロファイルを盛り込んだ設計だ。

リアエンドまでカーボンの一体成型とすることで軽量化を図っているリアエンドまでカーボンの一体成型とすることで軽量化を図っている シートクランプはオーソドックスなスタイルで調整も容易シートクランプはオーソドックスなスタイルで調整も容易

もちろんSPECIALISSIMAを語る上で外せないのが、独自の振動除去素材「Countervail(カウンターヴェイル)」をフレームに使用している点だろう。2013年で登場したエンデュランスロード「INFINITO CV」への投入を皮切りに、2014年にはTTバイク「AQUILA CV」に、その翌年同社カウンターヴェイルファミリーの3モデル目として、このSPECIALISSIMAが登場した。

NASAでの採用実績を持つ素材メーカー、マテリアル・サイエンス社との共同開発により生み出されたこの特殊素材は、独自のカーボン繊維構造と粘弾性により優れた振動除去性能を有しているのが特徴。これをシート状にしカーボン積層に挟み込むことで、路面からの微振動をカットし、従来品に比べ最大80%もの振動を除去することが可能になるという。

シートステーは上部で一体化しシートチューブへと接続シートステーは上部で一体化しシートチューブへと接続 ボトルケージマウントのボルトまでチェレステカラーがあしらわれるボトルケージマウントのボルトまでチェレステカラーがあしらわれる ヘッドチューブはAQUILA CVに倣ったエアロプロファイルが盛り込まれるヘッドチューブはAQUILA CVに倣ったエアロプロファイルが盛り込まれる

カウンターヴェイルによって高い快適性が付加されるとともに、バイクの安定性が強化されることで優れた路面追従性とコントロール性能を実現している。軽い車重がクライミング性能を引き上げ、その後のダウンヒルでも高い制御性を発揮することで幅広いシーンでハイパフォーマンスを実現できる1台に仕上がっている。

フレームカラーには従来のチェレステカラーよりも鮮やかで発色の良いCK16と呼ばれるカラーを採用。フレームペイントはイタリアにて1台1台職人の手によって行われるこだわりようだ。マットブラックカラーを含めた3色で展開。フレームセットとともに、各社トップグレードコンポーネント搭載の完成車にて販売される。その中から今回はスラムRED e-Tap完成車の仕様でテストした。早速、インプレッションに移ろう。



― インプレッション

「癖になる高い加速性能とバイクの剛性に反した快適性が特徴」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

このバイクで一番印象的だったのは、どのように踏んでも加速していくという懐の広さですね。高ケイデンスで回していっても加速していきますし、トルクをかけて踏んでいっても反応してくれます。どちらの走らせ方をしてもかけたパワー以上に進んでくれる感じがして、乗っていて非常に楽しいバイクです。

走りのシーンで考えると、軽量モデルとあって登りでの反応性は特に良いですね。ルックス的には細めの造形ですが、この見た目以上に高い剛性を持っていて、踏んだ分だけリニアに加速していきます。脚への嫌な反発もなく、登っているのに軽やかに加速していく感覚は癖になりますね。ただ、楽しくなって踏み込みすぎには注意、硬さは十分にあるバイクなので脚を疲弊しないペース配分が重要です。

「癖になる高い加速性能とバイクの剛性に反した快適性が特徴」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)「癖になる高い加速性能とバイクの剛性に反した快適性が特徴」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)
基本的に剛性の高いバイクですが走りの快適性は高く、その点はやはりカウンターヴェイルが効いているように思います。大きな突き上げまではカットしないものの、地味にストレスとなってくる細かい衝撃はキレイに軽減されていますね。バイクの硬さの割りに身体への負担が少なく、そのギャップが不思議な感覚を抱かせるほどです。

ホイールは今回アセンブルされたフルクラムのレーシングゼロナイトのような、硬めのローハイトのものは相性が良いと思います。剛性の高さでフレームの加速性能をより一層実感させてくれますね。逆に平地を主に走る場合はディープリムホイールを組み合わせれば、登りだけでなくもっとオールラウンドに活躍してくれるバイクになると感じました。

もちろんビアンキのフラッグシップマシンですから、レース用途で光るハイパフォーマンスなバイクです。ただ、登坂性能も乗り心地も良いので、峠をいくつも越えるようなロングライドにもマッチするでしょう。乗っていて楽しくなるほどよく加速する走行性能なので、自転車に乗りたくなるモチベーションも高めてくれるバイクになってくれるのではないでしょうか。

フレーム形状はオーソドックスなスタイルですが、走行性能は最先端というのがこのバイクのポイントだと思います。フレームセットで50万円とハイエンドモデルらしい値段ではありますが、この気持ちの良い伸びる加速感を味わえばたちまち欲しくなること間違いなしのバイクです。それほど魅力的な性能を持った1台でした。

「嫌いな登りが好きになってしまうほど良く登るバイク」坂本聡(スポーツサイクル サカモト)

僕は基本的に登りが嫌いなんですが、このSPECIALISSIMAはそんな登りが楽しくなってしまうようなバイクです。登り坂でダンシングすると、ひと漕ぎ目からバネのようにバイクが加速していくので、踏むのが楽しくなってきますね。その上、カウンターヴェイルが路面からの振動を和らげてくれるのか、乗り心地も良いです。プロがレースで使用するバイクですが、ホビーレーサーが乗っても楽しめる扱いやすさがありますね。

「嫌いな登りが好きになってしまうほど良く登るバイク」坂本聡(スポーツサイクル サカモト)「嫌いな登りが好きになってしまうほど良く登るバイク」坂本聡(スポーツサイクル サカモト) 登りではシッティングでペダルを回して進むというよりは、ダンシングでリズムよく踏み込んでいくと気持ちよく進んでいきます。踏み込むとチェーンステーの扁平した部分がバネのように動き、実際にかけたパワーよりも余計に進んでいるような感覚すらありますね。踏めば踏むほど前に進んでいくので、ペダルを漕ぐのが楽しくなるほどです。

また、非常に軽量なフレーム重量も優れた登坂性能に一役買っています。ですが軽量なヒルクライムバイクにありがちなヒラヒラとした不安定感はなく、フレームにしっかりと重心がある印象を受けますね。レーシングバイク然としたスパルタンな感じではないため、万人受けする乗り味に仕上がっていると思います。

快適性に関しては、わざと路面の荒れた部分を走っても嫌な振動を感じることはありませんでした。今回はホイールも剛性が高めのものでしたが、その剛性を感じさせない乗り心地の良さがありますね。普通のロードバイクなら避けて走りたくなるようなところでも、意識することなく走ることができるので、ストレスが少なく走っていて楽しい。そういった乗り味がカウンターヴェイルによるものなのでしょう。

登りに特化したバイクであることは間違いないのですが、平地でもバネ感のある加速は健在です。ですが、平地の巡航となるとローハイトホイールだと踏み続けなければならないので、少し重めのディープリムホイールを組み合わせて、慣性を上手く使いながら走りたいですね。そうすればロングライドにも対応できると思います。

性能を考えるとフレームセットで50万円という価格設定は決して高くはないと思います。他社のハイエンドモデルも似たような価格帯ですし、そういったハイパフォーマンスバイクを探している方にはぜひ選択肢に入れてほしいですね。

登りが好きな人や、ヒルクライムで自己ベストを更新したい人にはオススメです。特にダンシングを多用するライダーにマッチすると思います。今まで以上に登りが好きになることでしょう。また、レーシングバイクでありながらも乗り心地もいいので、年齢層高めのロードバイクをゆっくり楽しみたい方にも良いかもしれません。ビアンキというブランドも相まって所有欲を刺激してくれる納得の1台となるでしょう。

ジロ・デ・イタリア2016の第15ステージ、山岳TTコースでマリアローザを着用するステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)がチョイスしたのはSPECIALISSIMAジロ・デ・イタリア2016の第15ステージ、山岳TTコースでマリアローザを着用するステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)がチョイスしたのはSPECIALISSIMA (c)CorVos
ビアンキ SPECIALISSIMA
フレーム:Super light carbon w/CountervailPF86
フォーク:Full Carbon w/Countervail 1.1/8”-1.4”
サイズ:47、50、53、55、57、59、61
BB規格:PF86
価格:500,000円(税抜、フレームセット)
   1,500,000円(税抜、スラムRED e-Tap、フルクラムRacing Zero Nite完成車)
   1,250,000円(税抜、シマノDura Ace、フルクラムRacing Zero Nite完成車)
   1,550,000円(税抜、シマノDura Ace Di2、フルクラムRacing Zero Nite完成車)
   1,650,000円(税抜、カンパニョーロSuper Record、Bora Ultra 35完成車)
   1,950,000円(税抜、カンパニョーロSuper Record EPS、Bora Ultra 35完成車)



インプレッションライダーのプロフィール

高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)高木友明(アウトドアスペース風魔横浜) 高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

横浜駅から徒歩10分、ベイサイドエリアに店舗を構えるアウトドアスペース風魔横浜の店長。前職メッセンジャーの経験を活かし自転車業界へ。自身はロードバイクをメインに最近はレース活動にも力を入れる実走派だ。ショップはロード・MTBの2本柱で幅広い自転車遊びを提案している。物を売るだけでなくお客さんと一緒にスポーツサイクルを楽しむことを大事にし、イベント参加なども積極的に行っている。

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坂本聡(スポーツサイクル サカモト)坂本聡(スポーツサイクル サカモト) 坂本聡(スポーツサイクル サカモト)

60年以上続く新潟県三条市のプロショップ、スポーツサイクル サカモトの3代目代表を務める。ロードはゆったり楽しみたいロングライド派で、MTBやトライアスロン、小径車など幅広くスポーツサイクルを嗜む。お客さんにはむやみに安い製品は売らず、高くても良いものをオススメすることを重視。人との繋がりや家族との時間を大事にすることが自身のポリシー。

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ウェア協力:シマノ

text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
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