今年のビワセカップには、日本ナショナルチームからは上野みなみ、樫木祥子、吉川美穂、中井彩子、下山美寿々の5選手が、マースランドスターインターナショナルからは牧瀬翼が、そして昨年大会で総合優勝を果たした唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)は主催会社チームとして参加している。第1ステージから第5ステージまでの5日間の模様を、唐見実世子本人によるレポートで紹介します。



主催者チームのメンバーとして臨んだ、昨年覇者の唐見実世子(左、弱虫ペダルサイクリングチーム)主催者チームのメンバーとして臨んだ、昨年覇者の唐見実世子(左、弱虫ペダルサイクリングチーム) 上野みなみ、樫木祥子、吉川美穂、中井彩子、下山美寿々というメンバー構成の日本ナショナルチーム上野みなみ、樫木祥子、吉川美穂、中井彩子、下山美寿々というメンバー構成の日本ナショナルチーム (c)JCF


今年もいよいよビワセカップが始まった。今年は地元のチームから招待を受け、ホストチームであるビワセで走らせてもらう事になった。非常に名誉な事である反面、プレッシャーがずしりとのしかかる。例年日本チームが活躍し、若手選手が経験を積むのに適したビワセカップだが、今年は日本ナショナルチームはもちろんの事、オランダ、マースランドスターインターナショナル所属の牧瀬翼選手も参加している。レースのポイントとしては、日本勢とベトナム勢の総合争いにマースランドスターインターナショナルチームがどのくらい絡んでくるか、また、前回のアジア大会を制したスプリンターのジュタティップ・マネーファン(タイ)選手を始め、日本ナショナルチーム、吉川選手、地元タイチームのスプリント合戦も熾烈だ。

第1ステージ:落車発生のフラットステージ、タイの強豪スプリンターが完全勝利

第1ステージ:強豪スプリンターのジュタティップ・マネーファン(タイ)が優勝第1ステージ:強豪スプリンターのジュタティップ・マネーファン(タイ)が優勝
初日は22kmのフラットなコースを3周回、66kmで争われた。8時から恒例、椅子に腰掛けての長いセレモニーが行われ、その後慌ただしくスタートが切られた。第1ステージは毎周回ごとにスプリントポイントが設けられており、スプリンターの活躍する日だ。それに、逃げも決まりずらい。私の今日のミッションは落車をしない事、アジア特有の集団に慣れる事と据える。

1周目、やはり落車が発生する。集団の後方にいたので、まんまと巻き込まれそうになったが、足をついた程度で回避する事ができた。その後も危ない場面が何度もあったが、何とかゴールまでたどり着く。2回のスプリントポイントはどちらもタイナショナルチームのジュタティップ選手が獲り、そのままステージ優勝もさらってしまった。私たちのチームからは若手選手が3位に入りホワイトジャージ(ベストジュニアライダー)を獲得し、日本ナショナルチームの吉川は5位だった。

第2ステージ:登りで独走に持ち込むも、後続に追いつかれ撃沈

第2ステージ:ベトナムの強豪選手、グェンが勝利。唐見実世子は3位フィニッシュ第2ステージ:ベトナムの強豪選手、グェンが勝利。唐見実世子は3位フィニッシュ
第2ステージ:山岳賞首位に立つ第2ステージ:山岳賞首位に立つ いよいよ山岳ステージ。93kmと、距離こそ短いが、ラスト20km付近から約9kmの登りがあり、その後に13kmの平坦を超えてゴール。ここで上位に残れなかったら総合上位は狙えない。登りが始まるまでに2回のスプリントポイントがあるので、そこまでは前日に総合リーダーとなったタイチームが集団を牛耳るだろうと予想する。こちらとしては登りが始まったら私が全開で行くという非常にシンプルな作戦だった。

チームの献身的なサポートによって、無事登り口まで辿り着き、その後先頭から堂々と登った。向かい風で、私が昨年の総合優勝者という事もあってか、誰も前に出てこない。しばらくして一列棒状になり、その後あっさりと単独になったが、登りは道幅も広くダラダラと続いているので、追走集団から私の姿が見えている事も容易に想像できた。

早々に単独となり、しかも向かい風がキツいというまずい状況だ。しかし後方集団との差が40秒と伝えられていたので、とにかく進むしかない。しばらくして追走4名という事が伝えられ、登りの頂上で後方との差が1分。勝利へのプレッシャーも高まってくる。

下り基調のアップダウンが続くが、もう脚は終了していたし、風がきつくて進まない。とうとうラスト4km辺りで追走集団に追い付かれてしまい、そこからはチームメイトと日本ナショナルチームの樫木選手を含む5名でゴールを目指した。結局スプリントは全くかからず、3位。チームメイトが5位と完敗。期待に沿える走りができず悔しさだけが残る。

第3ステージ:一瞬の躊躇で全てを失ってしまう。牧瀬選手が嬉しい独走勝利

112km。100kmを超えた辺りから約7kmのダラダラ登りがあり、山岳賞を超えて2km下ってゴールとなる。ここが正念場なので、チームと綿密に作戦を練ってスタート地点へ。今日の登りは第2ステージよりさらに緩いので、登り口までは脚を貯めて、登り口はチームメイトに手伝ってもらってアタックを開始するという流れ。今日こそは絶対に勝たなければならない。

レースがスタートして、アップダウンを繰り返しながら距離を重ねていく。リーダーチームがコントロールし、私の後ろにはイエロージャージとホワイトジャージがピッタリくっついて離れない。細かな逃げがあるが、どれも決まらずレース後半へと差し掛かる。

サポートのオートバイ。第3ステージでは日本チームの機材モトが壊れ情報が錯綜したサポートのオートバイ。第3ステージでは日本チームの機材モトが壊れ情報が錯綜した 山岳リーダージャージを着用して走る唐見実世子山岳リーダージャージを着用して走る唐見実世子

第3ステージ:牧瀬翼(マースランドスターインターナショナル)が独走勝利第3ステージ:牧瀬翼(マースランドスターインターナショナル)が独走勝利 第3ステージ:総合リーダーや樫木祥子と共に後方でフィニッシュ第3ステージ:総合リーダーや樫木祥子と共に後方でフィニッシュ


2回目のスプリント賞の手前でまとまった逃げが決まる。まずいと思ったが、イエロージャージにマークされている事、自分のチームも乗っている事、またチームが守ってくれていると信じていた事で思い切り躊躇してしまった。その後、差は縮まらず、先頭を引くチームも前を追う雰囲気ではない。私のチームはもう前に3人行ったので、これでレースは終わりだと告げられる。全く理解できなくて頭が真っ白になった。日本チームも吉川選手が逃げたものの、サポートバイクがエンジン不調でストップというアジアらしいトラブルで情報が錯乱して、うまく展開に乗れていなかった。

昨年、一昨年もたくさんのトラブルを回避しながら活躍を続けてきた日本チームだったが、今回は回避できなかったようだった。峠の中腹でもう行ってもいい(展開に影響がない)かとペースアップして、4人でゴールした。今日の結果でチームとしては、シンプルに戦えるはずだったレースもより難しくなってしまった。私自身は山岳ジャージを始め個人総合も5位まで落とし、たった数秒の躊躇のために全てを失ったのだ。

一方、この日優勝を掴んだのは牧瀬選手だった。坂の麓から飛び出して単独でタイム差をつけて、念願の移籍後初優勝。強い勝ち方に、同じ日本人として誇りに思う。

第4ステージ:平坦ステージで巻き返しに賭けるも…

第4ステージ:ジュタティップ・マネーファン(タイ)が2勝目を飾る第4ステージ:ジュタティップ・マネーファン(タイ)が2勝目を飾る
第4ステージ:吉川美穂(日本ナショナルチーム)が3位入賞第4ステージ:吉川美穂(日本ナショナルチーム)が3位入賞 (c)JCF今日は湖畔の周りの5kmの周回コースを10周回、50kmで争われた。例年集団ゴールとなるので、休養日として捉えていたが、平地なので逃してくれるのではないかという期待もあり、レース後半のワンチャンスに賭けていた。3周回目のスプリント賞手前で吉川選手、中井選手が落車に巻き込まれ、私はどうにか免れる。彼女達も1周のニュートラル後、何とか復帰。ひどい怪我にならず私も一安心。

その後、上野選手を含む10人程度の逃げができ、リーダーチームもまだ余裕がありそうだったので、逃げを見送った。2回目のスプリント賞を過ぎて韓国選手がアタックしたので追従。2人で前の集団にブリッジしようとしたが協調できず、また後ろから追ってきているのもわかったので諦める。その後半周して逃げ集団が捕まる。今日は逃げは決まらないな、と思いつつも楽しくなってきて、ついつい前で展開を作ろうとしてしまうが残念ながら逃げは決まらずゴールスプリントへ。吉川選手が3位入賞、優勝はまたしてもタイナショナルチームのジュタティップ選手だった。

第5ステージ:総合タイムを1分挽回するも、結果には繋がらず

今日が最後の山岳ステージ。距離も125kmととても長い。私へのオーダーはスタートしてすぐのKOMでアシスト役を務めること。レース後半の登りは自由に登ってOKという限りなくフリーな状況だったので、とにかく自分の力を出し切ろうと心に決める。

山岳が続くロングコースの第5ステージ山岳が続くロングコースの第5ステージ
2kmほどの登りでは山岳リーダーの選手がアタック。私は常にチェックに周り、チームメイトが苦しまないようペースを保つことに専念する。その甲斐あってか無事にチームメイトがKOMで1位通過できたので任務完了だ。その後の平坦区間では総合に関係のない選手達がアタック合戦を開始し、逃げグループが形成された。私はもはや山岳賞圏外だが、集団をバラバラにしたかったので思い切りアタック。振り返ると後ろでチームメイトが追ってきている…!なぜ逃してくれないのか…?

結局ビワセチーム2名やリーダージャージを含む10名程度の集団に追いつかれてペースダウン。3回目のKOMで再び独走に持ち込み、日本の中井、私のチームメイト1人、韓国1人という逃げグループに追いつくことに成功し、更にチームメイトもう一人が追いついてきてくれた。5人中3人がチームメンバーという最高の展開で逃げ切りを狙うが、ペースが上がらない。

先導を務める大型バイク先導を務める大型バイク 第5ステージの最終局面。ラスト5kmから唐見実世子がアタック第5ステージの最終局面。ラスト5kmから唐見実世子がアタック


その後後続集団に追いつかれ、人数が膨れ上がった中から中井選手、私のチームメイト1人、ヤングライダー賞、韓国1人の飛び出しが生まれた。私は集団の様子を伺いつつ、ラスト5kmにあった橋のちょっとした登りアタック。数名追随した選手がいたがローテーションの要求を呑んでくれることもなく、一人で牽き続けた末に残り2kmでようやく逃げ集団をキャッチできた。しかし完全に脚が終わっていたのでゴール勝負に絡めず5位に終わってしまった。

積極的にレースを展開できレースとしては良かったが、上位との差を1分ちょっと詰めただけで、チームや自分自身の結果には繋がらなかった。牧瀬選手は今日の結果で個人総合を2位に上げ、1位の選手との差を2秒まで縮めた。こうなってくると、第3ステージのミスが悔やんでも悔やみきれない。

レース中盤を過ぎ、大まかな流れが見えてきてはいるが、まだまだ道のり長く、第9ステージのフィニッシュまでは何が起こるのか誰も分からない。まだまだレースは始まったばかりだ。

text:Miyoko.Karami

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