国内ブランドとして日本人にマッチした製品開発を行うアンカー。レーシングモデルのRS8と同じく、PROFORMATを投入しフルモデルチェンジを果たしたロングライドモデル「RL8」をインプレッション。しなやかな乗り心地と耐久性をバランスさせたセカンドグレードの実力やいかに。



アンカー RL8アンカー RL8 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ブリヂストンサイクルが展開するスポーツバイクブランド、アンカー。埼玉県上尾市に拠点を構える国内ブランドとして日本人の体型にマッチしたバイク開発を行い、長きに渡り多くのサイクリストに愛用されてきた。またレースシーンにおいては、チームブリヂストンサイクリングが同社バイクを使用しており、2016年全日本選手権ロードの初山翔と西薗良太のワン・ツーフィニッシュは記憶に新しいことだろう。

そんなアンカーのロードバイクは、現在レーシングモデルの「RS」とロングライドモデルの「RL」という2シリーズにて展開。直線的で力強いフォルムを纏ったRSに対し、曲線を多用し艶めかしい細身のデザインに仕上がったRLシリーズは、より心地良く、より遠くへ進むラグジュアリーな走り心地を追求したモデルとなる。

薄く扁平形状となったシートステーが振動吸収性を高める薄く扁平形状となったシートステーが振動吸収性を高める 曲線を描きながら滑らかに接続するトップチューブとシートステー曲線を描きながら滑らかに接続するトップチューブとシートステー 緩やかにベンドした形状へと変更されたフロントフォーク緩やかにベンドした形状へと変更されたフロントフォーク

その中でも軽量コンフォートモデルRFX8の後継機として2013モデルよりデビューした「RL8」。ロングライドモデルのフラッグシップとして、走りに快適性を求めるライダーから長年好評を得てきたロングセラーバイクである。昨年上位グレードとなるRL9が登場したことでセカンドグレードモデルとなったものの、その姿を変えることなくラインアップされ続けてきた。

そしてRL8登場から6年目となる今年、RL9の開発テクノロジーを受け継ぎモデル名はそのままにフルモデルチェンジを果たした。新型RL8の目指したところは、決められたコスト内で可能な限りRL9の走行性能を再現すること。RLシリーズに特有の高い快適性はそのままに推進力をプラスし、より洗練された走り心地と高いコストパフォーマンスを実現している。

細身のダウンチューブがシャープなルックスを生み出す細身のダウンチューブがシャープなルックスを生み出す アンカーバイクの根幹を成すシステムである「PROFORMAT」のロゴが入るアンカーバイクの根幹を成すシステムである「PROFORMAT」のロゴが入る
BBはメンテナンスもしやすいねじ切りタイプBBはメンテナンスもしやすいねじ切りタイプ チェーンステーは左右非対称設計でパワー伝達を最適化するチェーンステーは左右非対称設計でパワー伝達を最適化する

開発のコアとなる技術といえばアンカー独自の「PROFORMAT」。推進力最大化解析技術と呼ばれるこのテクノロジーは、自転車としての根本的な性質である”進む”性能をより高め、従来よりも速く、心地よくといった乗り味を実現するもの。バイクの挙動や乗り手の動きをデータ化し、実走環境を再現する幾多のシミュレーションを重ね、さらに得られた結果を細密に分析。それらのデータを元にフレーム形状やカーボンレイアップを調整することで、開発陣が意図する性能をバイクへと付加している。

具体的に見ていくと、新しくなったRL8はトップモデルのRL9と同形状フレームへとモディファイ。しなりを活かして快適性を高めるため、細身のチューブを全面的に使用している。またトップチューブやシートステーは横方向に扁平させるとともに緩やかに弧を描く形状とすることで、振動吸収性を強化する狙いだ。

最大28Cまで対応するタイヤクリアランスを備える最大28Cまで対応するタイヤクリアランスを備える ダウンチューブ上部からシフトワイヤーが、トップチューブサイドからブレーキワイヤーがアクセスダウンチューブ上部からシフトワイヤーが、トップチューブサイドからブレーキワイヤーがアクセス

フロントフォークも新たにベンド形状が採用され、路面からの突き上げを緩和し追従性を高める設計に。全体的にシャープな印象を与えるデザインながら、各セクションに曲線を取り入れた滑らかな造形が柔らかな雰囲気も醸し出す、絶妙なバランスを実現しているところに国内ブランドとしての精巧さが見て取れるというもの。

対してダウンチューブやチェーンステーはペダリング時の推進力を高めるよう、パワー伝達性に優れた形状に最適化されている。もちろん形状変更とともにカーボン積層もアップデートされており、華奢な見た目ながら前作と比較して前三角横剛性は8%、後三角横剛性は11%向上を実現している。

フレームの素材は高弾性カーボンを使用したRL9に対し、RL8では標準弾性カーボンを採用。剛性を確保するために上位モデルと比較すると重量は増してしまうが、その分高い強度を実現しているのが特徴だ。ロングライドモデルとしてより気軽に遠出を楽しめるよう、輪行を使ったライドでも安心して使える高い耐久性が与えられている。

リアエンドまでカーボンの一体成型とされるリアエンドまでカーボンの一体成型とされる モノステー形状を採用したシートステー上部モノステー形状を採用したシートステー上部 ヘッドチューブにはブリヂストンの”B”ロゴが光るヘッドチューブにはブリヂストンの”B”ロゴが光る

より楽なポジションで長い距離を走れるよう、トップチューブが長めのアップライトなジオメトリーが用いられる。加えてフレームサイズも小さめな390からラインアップしており、小柄な日本人向けの展開となるのはアンカーならではのこだわり。もちろん小さいサイズでも乗りやすいよう、ジオメトリーや剛性も細かく調整されている。

フレームセットとともに、シマノ105完成車、ULTEGRA完成車がラインアップ。フレームカラーもエッジスタイルは2色、シンプルスタイルなら全38色から選べる仕様だ。今回はシマノULTEGRAをフルセットで搭載し、ホイールは同WH-RS500をアセンブルした完成車にてテスト。それではインプレッションへ移ろう。



― インプレッション

「快適性と反応性が上手く両立されたPROFORMATの恩恵が光る1台」錦織大祐(フォーチュンバイク)


フレームセット18万円というバリューモデルではありますが、この価格帯のロードバイクの走行性能を優に超えています。今回、RL8としては初めてPROFORMATを導入して設計されたわけですが、反応性や加速性の部分と、振動吸収性や快適性といった本来であれば相反する性能が上手く両立されていますね。非常に完成度の高いバイクとなっています。

PROFORMATによって、力をかけた時のリア三角の反応性が非常に高く、軽快で俊敏な加速性能を獲得しています。設計コンセプトとしてはロングライドやサイクリングを楽しむためのエンデュランスモデルではありますが、走りの軽さや反応性はレーシングモデルと遜色ない仕上がりです。

「快適性と反応性が上手く両立されたPROFORMATの恩恵が光る1台」錦織大祐(フォーチュンバイク)「快適性と反応性が上手く両立されたPROFORMATの恩恵が光る1台」錦織大祐(フォーチュンバイク)
その上で、大きい振動から小さい振動までしっかりといなしてくれる優れた振動吸収性はRLシリーズが得意とするところ。路面からの振動が上手くフレーム内で消化されることで乗り手まで伝わってこず、非常にストレスのない乗り心地です。バイク自体が柔らかく振動をいなすということではなく、剛性感のある踏み味なのになぜか体への疲労が少ないという新しい感覚ですね。これこそPROFORMATの真髄なのだと感じさせられました。

ジオメトリーはエンデュランスロードとして、ヘッドチューブが長くアップライトなポジションを取りやすい設計になっています。サイズ展開も日本人に合わせたラインアップで欧米のブランドに比べ、最適なサイズが見つかりやすいのもポイントでしょう。ですがもう少しレベルアップした時に、ハンドルが全く下がりませんと言った極端に高いスタックを持っている訳ではないので、将来的にはレーシーなポジションに変更も可能な調整幅を持っていますね。

RL8は前作の時点でしっかりとしたコンセプトとそれを実現させた完成度を持っていましたが、今回のモデルチェンジでより一層パフォーマンスを向上させてきたと感じますし、それを確実に乗り手も感じ取れる程の進化を遂げています。これこそアンカーの乗り味であると、しっかり認識出来るオリジナリティが出てきているように感じますね。

そのアンカーの乗り味の中でもPROFORMATに関しては、このRL8が歴代モデルの中で1番その効果を感じ取る事ができると思います。そもそもPROFORMATと言うのはアンカーの考える進むバイクということだと思うのですが、このバイクは振動は吸収するけど、進むことは二の次と言うようなバイクではなく、進むという事に対して筋が通った状況で振動も吸収している。本当は相反する性能なのにどちらも妥協していません。

本当にメーカーのやる気を感じる1台になっています。そんなバイクがアルテグラ組で34万円弱と言うのは破格と言っていいでしょう。人によっては最初の1台になるかもしれないし、最後の1台になる可能性もある。そんなとても長い間、相棒として付き合う事が出来るキャラクターを持ったバイクです。他の自転車を買ってもコイツだけは手元に残しておきたい。そんなバイクになってくれるのではないでしょうか。

「シルクの上を走っているかのような上質な乗り心地」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

剛性と快適性のバランスが非常に高く、私個人としても非常に好みな味付けのバイクでした。初心者がエンデューロレースなどを走るのには持ってこいの乗り味となっています。中でも特筆すべきは地面にシルクを敷いてその上を走っているかのような滑らかな乗り心地の良さですね。これなら丸一日のライドや、サーキットでの耐久レースでもストレスなく楽しめるでしょう。

この乗り心地の良さはフレーム全体の設計バランスの良さから来ていると思います。ダウンチューブやBBは剛性を高くしすぎず、リア三角は振動をより吸収するように調整し、フロントフォークはベンドさせることでハンドルからの振動を抑制するようデザインされています。どこか一部分に振動吸収性を偏らせるのではなく、全体で快適性を確保しているからこそ、滑らかな乗り心地を実現しているのでしょうね。

「シルクの上を走っているかのような上質な乗り心地」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)「シルクの上を走っているかのような上質な乗り心地」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)
進み方としても一踏み目で後ろからスッと押すように加速する感触があります。横剛性が高いおかげか踏んだ時はバネのように気持ちよく加速していきます。この反応性の良さはPROFORMATの実力を感じるところですね。ただ、振動吸収性を重視したためか縦剛性がやや低く、スプリントなど強く踏み込み過ぎると力が逃げる印象です。ですので回転数を意識してペダルを回していく走らせ方がマッチするでしょう。

ジオメトリーに関してはエンデュランスモデルということもあり、ハンドルを高めに設定でき、身体が起きた楽なポジションを取りやすいようになっています。上体が起きる事によって呼吸が楽になるので、ヒルクライムでもより多くの空気を吸えるという事になります。ロードバイクに乗り慣れていない人は、乗りやすいバイクに仕上がっていると思いますね。

ハンドリングに関してはベンドフォークということもあり、素早くハンドルを切ると一瞬反応が遅れる感じがします。ですがやはりベンドフォークによって走行時の安定性が高く、コーナーの入りこそアンダーステア気味なものの、コーナリング中は安定した挙動を見せてくれます。そういったハンドリングの味付けは初心者の方にとっては安心できる要素の1つだと言えるでしょう。

もしパーツ類を交換するのであれば、ハンドルやシートポストをカーボンのものに変えるとより振動吸収性が際立って良いと思います。ホイールも剛性を上げるようなディープリムのものではなく、セミハイトやローハイトの剛性感が丁度良いものを選ぶと良さそうです。個人的には振動吸収に舵を切ったパーツ選択をおすすめしたいですね。

バイクの特性を考えると、やはり長い距離を走るサイクリングやサーキットで行われる長時間のエンデューロレースに最適でしょう。今までサイクリングイベントに出ても最後疲れてしまって楽しめなかった、と言う人には非常にお勧め出来るバイクになっています。もちろんブルベなどの超長距離サイクリングでも大いに楽しめるバイクだと思いますね。

アンカー RL8
フレーム:PROFORMAT 3ピース カーボン
サイズ:390、420、450、480、510、540mm
シートポスト径:27.2mm
BB規格:JIS
価格:
RL8 ELITE(シマノULTEGRA完成車) 335,000円(税抜)
RL8 EQUIPE(シマノ105完成車) 255,000円(税抜)
RL8フレームセット 180,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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フォーチュンバイク HP

飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店) 飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

高校大学と自転車競技部に所属し、国体に通算4回出場した経歴を持つ競技派。国体ではロードと短距離トラック種目に出場しており、豊かな体格を活かしたスプリントを得意とする。過去にはメッセンジャーやスポーツジムでのパーソナルトレーナーなどの経験も持ち、自転車に対する多方面からの知見をユーザーに還元している。現在はメカニックや接客の他に、クラブチームでの走り方やトレーニング指導も行う。

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バイシクルセオ 新松戸店 HP

ウェア協力:マヴィック(今回着用モデルはこちら

text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
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