福井県所属の選手が昨年の岩手国体でのドーピングコントロールで陽性となったが、仲裁申し立てに対して8月18日に日本スポーツ仲裁機構は、意図的なものでなく汚染製品からの侵入であることなどの理由により、4年間の資格停止処分を4カ月に短縮する判断を公表した。

8月18日、福井県立体育館で行われた記者会見。福井県体協と福井県車連が出席8月18日、福井県立体育館で行われた記者会見。福井県体協と福井県車連が出席 photo:Hideaki TAKAGI
4年間の資格停止処分は4カ月へ短縮され、活動を再開する

2016年12月26日付で福井県体育協会に勤務する寺崎浩平が申立人、日本アンチ・ドーピング機構が被申立人として仲裁申立てのなされた案件に対し、8月18日付で公益財団法人日本スポーツ仲裁機構はこれをおおむね認める判断を下した。よって申立人である寺崎の4年間の資格停止処分は4カ月へ短縮され、活動を再開する。10月の愛媛国体から公式レース参加を再開する予定だ。

8月18日の記者会見。テレビ局や各新聞社が参加8月18日の記者会見。テレビ局や各新聞社が参加 photo:Hideaki TAKAGI2016年岩手国体成年男子ケイリンで優勝した寺崎浩平2016年岩手国体成年男子ケイリンで優勝した寺崎浩平 photo:Hideaki TAKAGI

16年10月8日に行われた岩手での国民体育大会の成年男子ケイリン決勝で優勝した寺崎浩平(福井県自転車競技連盟)が、レース後のドーピング検査により禁止成分の代謝物が検出され、日本アンチ・ドーピング規律パネルは寺崎に4年間の資格停止処分を決定した。しかし寺崎は禁止物質を摂取した覚えがないため、この決定を不服とし決定の全部取り消し等を求めて日本スポーツ仲裁機構に申し立てを行った。同機構は8月18日に4年間の資格停止を取り消し4か月間の資格停止とする発表を行い、寺崎側の主張がおおむね認められることとなった。国民体育大会では03年からドーピング検査を実施しているが、全競技を通じて陽性反応が出たのは初となる。

寺崎は16年3月に大学を卒業するまでにもインカレ団体追抜きや全日本選手権マディソン連覇など活躍。卒業後の16年に福井県体育協会に就職し、実業団登録も行い、Eクラスタでは1km1分03秒のスピードを発揮しての優勝など活躍していた。地元福井県では18年に行われる国民体育大会に向けての中心的戦力として期待されていたが、陽性となった岩手国体以降はレース活動を行っていなかった。寺崎はこの決定により8月19日よりレース活動に復帰し、10月の愛媛国体が復帰後初の公式戦となる予定だ。

※実名を表記することについてのおことわり
日本スポーツ仲裁機構、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)、日本体育協会それぞれの資料において、資格回復している選手はプライバシー保護の観点から氏名を削除しています。しかしながらシクロワイアードは自転車スポーツ専門メディアであること、本人の了解を得たことから本記事では実名表記としています。

福井県体育協会/福井県自転車競技連盟の会見から

同機構の公表内容は18日17時30分に福井県体育協会を通しても発表された。

本件の経緯 一部は福井県資料から抜粋

2016年
10月6日 岩手国体 チームスプリント3位
10月8日 岩手国体 ケイリン優勝、競技後に尿(A・B検体)採取
10月28日 尿検査結果でA検体に禁止物質の代謝物に陽性反応、このため同日から暫定的資格停止
 (1-テストステロン、1-アンドロステンジオン)
11月14日 B検体検査で同じく陽性反応
12月26日 日本アンチ・ドーピング規律パネル聴聞会により10月28日から4年間の資格停止と10月8日から28日までの個人成績等はく奪がパネル決定
2017年
1月16日 日本スポーツ仲裁機構に仲裁申立書を提出 パネル決定の取り消しを求めて
1月30日 日本スポーツ仲裁機構に申立趣意書を提出 汚染製品であること、重大な過誤または過失がない、資格停止期間は2年以内であるべき
7月21日 サプリメントのアナバイトから1-アンドロステンジオン検出
 WADA認定機関のSMRTL(米国)での検査による
8月16日 日本スポーツ仲裁パネル審問の開催
8月17日18時ごろ 大手メディアに「国体で初のドーピング陽性」などと記事が掲載される
8月18日 日本スポーツ仲裁パネルの仲裁判断が仲裁機構から示される
   17時30分 福井市内で福井県体育協会と福井県自転車競技連盟が仲裁判断資料に基づき記者会見開催
   20時ごろ 日本スポーツ仲裁機構のHPに仲裁判断が公開される

なおケイリンの1位は抹消、2位以下が繰り上げに。ほか天皇杯得点やチームスプリントの成績については未定で、今後の日本体育協会の判断による。

仲裁判断の争点と結果(抜粋)

・アナバイトの摂取が意図的でなかったことの立証
 検出された禁止物質の代謝物は米国ガスパリ社のサプリメントである「アナバイト」(商品名)を摂取したことによるものであり、また国体の半年前の全日本選手権における検査で検出されなかったことなどから意図的でなかったことが証明された。(意図的にドーピングを行うものでないこと)

・アナバイトの摂取に重大な過誤又は過失がないことが立証されたこと
 アナバイトが汚染製品であることが認められること、ほか同上

・過誤の程度~資格停止期間の短縮
 重大な過誤又は過失がないことが立証されたため、JADA規程に基づき過誤の程度により譴責(0日)から最長2年間の範囲で短縮される。申立人が可能な限りの調査等を行ってアナバイトに禁止物質が含まれていない認識を有するに至ったこと、全日本選手権参加前も継続的にアナバイトを摂取していたが、そこでのドーピング検査で検出されていないこと、アナバイト摂取を申告していたこと、本人にとって初の違反であること、別案件で8カ月とした事案の事実から、本件の資格停止期間を4カ月とした。

要約すると、禁止物質の代謝物が検出された事実があり、選手自身による独自の調査という判断の危険性を指摘しつつも、結果として汚染製品と認められたアナバイトをドーピング目的で意図的に摂取したわけではなかったことと、摂取に重大な過誤又は過失がないと認められたことから、JADA規程などに基づく期間の判断により4年を4カ月へ短縮した、ということだ。

ガスパリ社のアナバイトは「汚染製品」

本仲裁の過程において、ガスパリ社のアナバイトは「汚染製品」と認められた。サプリメントはそのラベルを見ただけでは禁止物質を含有するかどうかはわからない。全24ページの仲裁判断中、スポーツ仲裁パネルの判断の項では「自らの調査による判断」に「過誤が認められる」とし、また「JADA認定商品(※)が存在することを認識しながら(中略)アナバイトを購入し」と言及し、「過誤の程度は軽視できない」としている。現状においてサプリメントはJADA認定商品から選ぶのが安全としか言いようがない。
※現時点で、大塚製薬、味の素、明治の3社のみの製品が認定を受けている(森永製菓は本年3月31日で契約期間満了で認証を終了)。

福井県体育協会 丹羽専務理事のコメント

今回は選手側の申し立てが認められたものと受けとめている。しかしながら以前よりアンチドーピングに取り組んでいる県としては、4カ月という短い資格停止期間とはいえ国民体育大会で初めての違反者が本県から出たことは誠に遺憾なことだ。来年の福井国体を前に大変重い事案と受け止めている。この処分を厳正に受け止め、二度と起こらぬよう競技団体と連携する。

また8月16日の日本スポーツ仲裁パネル審問において、禁止物質が含まれていることが確認されたサプリメントの情報を提供すること、サプリメントの摂取について具体的に選手が従うべきルールを示すこと、この2点を要請した。再発防止策として、スポーツファーマシストをすべての競技団体に張り付けている。そして国体候補選手に対し薬やサプリメントの使用状況の再調査と、少人数での指導講座を行っていく。

「いまは10月の愛媛国体に間に合うことができて嬉しい」と語る寺崎浩平「いまは10月の愛媛国体に間に合うことができて嬉しい」と語る寺崎浩平 photo:Hideaki TAKAGI寺崎浩平のコメント

まず皆さんにご心配をおかけしましたこと深くお詫びします。来年の福井国体出場に向けてスタートした仲裁でしたが、今年の愛媛国体に間に合うことができたので今は嬉しい気持ちです。岩手国体の時は自分にとって5回目のドーピング検査でしたし、サプリメントの内容も今までと変えていなかったので、どうして、どのサプリが引っ掛かったのかがわからなくて。とにかく頭の中が真っ白になりました。10月の段階でアナバイトが危険だったかどうかを判断するすべはそれ以上無かったことが残念でした。

10月の段階では1カ月くらい夜も眠れず、うつのような状態でご飯も食べれない。1回目の聴聞で4年と言われ、いったんは引退を考えましたが、仲裁機構に持ち込むということでそこから練習を再開した感じです。表に出たくない気持ちがやはりあって、春になってもローラーがメインでした。レースシーズンも始まって情報はチェックしていましたが、歯がゆかったです。そのようなときは兄(武郎さん)が同じ実家に住んでいるので相談相手になってくれ、心強かったです。

およそ半年間は先が見えない状態で練習していました。モチベーションをなかなか保てなくて。ただ、まず絶対に故意のドーピングではないので原因の究明をしたいことと、自分の潔白を証明したいという思いが強かったです。その当時から周囲の支援が心強かったです。今思うとよく耐えられたと自分でも思います。今回の件で気持ちが強くなりました。これからは自分の経験をチームメイトや後輩に伝えて再発を防ぎたいと思っています。



ドーピングコントロールで陽性と判断されれば、それが意図的であろうがなかろうが処分が下されるのは当然のことだ。今回の案件ではその侵入経路が特定され、意図的でなく重大な過誤又は過失がないことが立証されたため規程により処分が軽減されたが、このようなケースは稀であり通常は覆ることはないと考える。4年間の資格停止は選手生命の危機にもつながる。これを機に同種案件の再発防止のため選手と指導者は再度徹底確認して欲しい。

text&photo:高木秀彰

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