5時間弱に及んだ単調な平坦ステージを締めくくる波乱のフィナーレ。フランスチャンピオンの勝利が霞んでしまうほどの破壊力を持つ世界チャンピオンの失格処分にツール・ド・フランスが揺れた。


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ひまわり畑の広がるフランス北東部を走るひまわり畑の広がるフランス北東部を走る photo:Kei Tsuji / TDWsport
シュレク兄弟にインタビューするサッシャさんシュレク兄弟にインタビューするサッシャさん photo:Kei Tsuji / TDWsport
タトゥーが入ったシルヴァン・シャヴァネル(フランス、ディレクトエネルジー)の脚タトゥーが入ったシルヴァン・シャヴァネル(フランス、ディレクトエネルジー)の脚 photo:Kei Tsuji / TDWsport
大会関係者がルクセンブルクで真っ先に行うことといえば、名物料理のパテ・オ・リースリングを食べることではなく、ガソリンスタンドに直行すること。何と言ってもルクセンブルクはガソリンが安い。お隣フランスやベルギーで軽油が概ね1L=1.2ユーロ(約150円)であるのに対し、ルクセンブルクでは0.95ユーロ(約120円)しかしない(今回ディーゼル車なのでガソリン比較じゃなくてすいません)。

10年前より他国との価格差が小さくなったとは言え、隣国との約20%の差は大きい。ルクセンブルク国内で目一杯給油するために、いかにタンクを空の状態でたどり着くかを関係者の中で競い合っている感もある。

ガソリン税に限らず、ヨーロッパの中でルクセンブルクは税率の低い国として知られる。かつては重工業の分野でヨーロッパをリードし、現在はヨーロッパを代表する金融国家に。国民1人当たりのGDPは世界トップ。失業率は4%程度でヨーロッパ最低。フランス語とドイツ語、そしてルクセンブルク語が公用語として使われている。

ルクセンブルクと言えばシュレク兄弟の存在は忘れてはいけない。現在もそれぞれ自転車業界に携わる2人はこの日のスタート地点モンドルフ・レ・バン(カジノやスパで有名)で生まれ育ち、現在地も同じ。まさにシュレク兄弟の故郷でツール第4ステージがスタート。ヴィラージュ(スポンサーエリア)ではJsportsの取材でサッシャさんがシュレッキーズにインタビューを行っていた。

スタートラインに並んだゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)とアンディ・シュレク(ルクセンブルク)スタートラインに並んだゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)とアンディ・シュレク(ルクセンブルク) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ルクセンブルクからフランスに向かうプロトンルクセンブルクからフランスに向かうプロトン photo:Kei Tsuji / TDWsport
ロット・ソウダルやクイックステップフロアーズを先頭にメイン集団が進むロット・ソウダルやクイックステップフロアーズを先頭にメイン集団が進む photo:Kei Tsuji / TDWsport
シェンゲン協定(ヨーロッパの加入国間の自由な国境往来を許可する協定)が調印されたシェンゲンを通ってツールはフランスに入る。名前が長くていつもベルギー人に発音を指摘されてしまうギヨーム・ヴァンケイルスブルク(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)の単独逃げによって、お世辞にも刺激的なレースとは言えなかったが、ヴィッテルの街に入ったところで、フィニッシュまで距離にして1400m、時間にして2分たらずのところで、急激にレースは荒れた。

残り3km地点でエーススプリンターのソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が脱落したため、自分のスプリントのために位置取りしていた新城幸也(バーレーン・メリダ)は最初の落車に巻き込まれてしまう。新城はフルブレーキングして前走の選手に突っ込む形でストップ。「危なかった!」と落車を回避した安堵感を見せながらも、チャンスを生かせず勝負に絡めなかった悔しさを滲ませた。

隣を走るナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)を落車させかねない鋭い切り返し(進路変更とも言う)でアルノー・デマール(フランス、エフデジ)が勝った。前日の第3ステージの3級山岳フィニッシュで6位に入ったことから、平穏にやり過ごしたピュアスプリンターと比べて登り全開走行の疲労がスプリントに影響を及ぼすのではないかと見られたデマール。しかし前日の登りスプリント6位は単純に調子が良い証拠だった。毎年フランス人選手によるステージ優勝の欠如を嘆くフランスメディアも、このフランスチャンピオンの勝利に沸いている。

リードアウト役のチモライと喜ぶアルノー・デマール(フランス、エフデジ)リードアウト役のチモライと喜ぶアルノー・デマール(フランス、エフデジ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
フィニッシュ後のサッシャさんのインタビューで目の前で発生した落車について語る新城幸也(バーレーン・メリダ)フィニッシュ後のサッシャさんのインタビューで目の前で発生した落車について語る新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
本題に入ります。

暫定リザルトでペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)はステージ2位だったが、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)を転倒させたとして、レース終了から1時間ほどして30秒のタイムペナルティと集団最後尾(ステージ115位)への降格、そしてポイント賞ランキングにおけるポイント減点が伝えられた。そしてそこからさらに30分ほどして、UCIコミッセールパネル(審判団)がサガンの失格処分を発表した。

処分は、UCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏がプレスセンターにやってきて、山のように取り囲んだ報道陣に向かって明らかにされた。多くのビッグレースでチーフを務め、もはやコミッセールの顔とも言えるマーリアン氏は「一緒に走る選手に危険を及ぼす行為をしたサガンをレースから除外する」と、手短に決定を伝えた。

「ヴィッテルのフィニッシュで騒乱を引き起こすスプリントをしたペテル・サガンを2017年のツール・ド・フランスから除外することを決定した。彼のスプリントはマーク・カヴェンディッシュや数名の選手に危険を及ぼし、落車を引き起こした。UCI規約12.1.04のイレギュラースプリントを適用し、選手に失格処分を与えるとともに罰金を課することを決めた」。

UCI規約12.1.040/10.2.2によると、ステージレースでイレギュラースプリント(反則スプリント)を行った場合、集団最下位に降格+200スイスフランの罰金。2回目になると、ステージ最下位に降格+200スイスフランの罰金。3回目でレース除外と200スイスフランの罰金。また、重大な違反は1回目でもレース除外と200スイスフランの罰金を課すことができる。

ちなみに、競技者間の暴力は違反1回につき200のスイスフランの罰金+1分のペナルティで、重大な違反の場合はレースから除外(UCI規約12.1.040/30.1)や、重大な違反を犯したライセンス保持者はコミッセールにより直ちに失格とされ得る(UCI規約12.1.039)など、とにかく危険行為に対してUCIコミッセールは厳しい判断を下すことができる。

アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)を先頭に最終ストレートに姿を現すアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)を先頭に最終ストレートに姿を現す photo:Kei Tsuji / TDWsport
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の肘と接触しながらマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)が転倒ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の肘と接触しながらマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)が転倒 photo:Kei Tsuji / TDWsport
右手を負傷したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)がフィニッシュ右手を負傷したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)がフィニッシュ photo:Kei Tsuji / TDWsport
サガンの失格をメディアに伝えるUCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏サガンの失格をメディアに伝えるUCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏 photo:Kei Tsuji / TDWsport
今回サガンは異例の一発退場。言わばレッドカード。UCIの決定に対し、ボーラ・ハンスグローエは正式に抗議すると発表した。「サガンは(カヴェンディッシュを)故意に落車させたことを否定している。彼は自分のラインを守って走り、カヴェンディッシュのことは見えていなかった」。なお、これは異議申し立てではなく抗議。罰金が200スイスフランを超えない場合、UCI規則で異議申し立ては認められていない。

サガンはプレスリリースの中で「スプリント中、マーク・カヴェンディッシュが後ろにいることには気がつかなかった。アレクサンドル・クリストフの後輪に食らいついてスプリントしていると、マークが右側から上がってきた。かなりのスピードでポジションを上げたので、反応することも左に進路をとることもできなかった。彼が最初に自分に接触して、そしてフェンスに突っ込んだんだ。マークが落車したと知って、フィニッシュ後すぐに彼の様子を知るためにチームバスに向かった。もちろん落車は歓迎できないものだけど、彼は友人であり同僚。マークの早期回復を願っている」とのコメントを出している。

写真や映像を精査すると、サガンがカヴェンディッシュにひじ打ちを食らわせているように見えるが、逆に、サガンがバランスを取るために肘を出し、その肘が接触する前にカヴェンディッシュがバランスを崩しているようにも見える。そもそも肘が直撃しているのかどうかもわからない。カヴェンディッシュがサガンを押して無理やり進路を開けようとしているようにも見える。

故意だったのか接触があったのか、その真実は本人たちのみが知る(もしくは本能的に動いたので本人にもわからない)ところであり、サガンの失格処分が妥当なのかどうかは意見が分かれている。パッと見はカヴェンディッシュが被害者だが、サガンを擁護する意見も多い。スプリントに絡んでいたアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)は「映像を見て確認した。(失格という)審判の判断は厳しすぎる」とツイート。かつてスプリント中にライバルにヘッドバッドを何度もお見舞いしたロビー・マキュアン(オーストラリア)は「サガン除外という判断には同意できない。ステージの失格ならまだしも、レースからの除外はあり得ない」と同じくツイッターに書き込んでいる。

カヴェンディッシュはフィニッシュ地点の医療トラックで受けたX線検査で骨折は認められなかったが、その後ナンシーの病院でのMRIによって右の肩甲骨骨折が判明。第5ステージをスタートしないことを決めた。EBウィルスによる伝染性単核球症からようやく復活したばかりのカヴェンディッシュが再び戦線を離脱する。

間違いないのはカヴェンディッシュが落車して負傷し、ステージ通算30勝から数字を伸ばせないままレースを去るということ。そして、現実的にUCIコミッセールの判断が覆ることはないため、サガンの6年連続マイヨヴェールがなくなったということ。つまり2人のスター選手がツールを去る。

ほぼサガンのためだけにツールに帯同しているようなスロバキアのテレビ局のスタッフは明日からどうするのだろう。果たしてパリまで行くのだろうか。彼らに聞くと「本国からの指示待ちでどうなるかわからないけど、もう何がどうなってるのかわからない」という返事。誰も得しない、後味の悪いヴィッテル決戦となった。

フランスチャンピオンのステージ初優勝が完全にかすんでしまうほどの混乱ぶりだが、第5ステージは今大会最初のマウンテンフィニッシュ。残り1kmを切ってから最大勾配20%の激坂区間が登場する1級山岳ラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユが待っている。

text&photo:Kei Tsuji in Vittel, France
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