日本が世界に誇る大企業、ブリヂストンのスポーツバイクブランド、アンカー。同社史上最も進むと謳い、昨年の全日本選手権ロード優勝も支えた旗艦モデル「RS9」をインプレッション。



アンカー RS9アンカー RS9 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
アンカーはレーシングバイクブランドである。という理念を体現するのが、今回紹介するフラッグシップロードレーシングモデル「RS9」である。その開発プロセスは従来のフラッグシップモデルとは異なり、アンカーの新たな基幹技術である「PROFOMAT(プロフォーマット)」を使用して開発された。

「PROFOMAT」は推進力最大化解析技術と呼ばれ、ライダーが感じた感覚を科学的数値に変換し、解析したデータをフレーム造形という感覚へ戻すことで、フレーム推進力の最大化を図るというテクノロジーだ。剛性バランスや素材、軽さ等、様々な要素を見直し、推進力を得るという命題に対して一直線に取り組む開発プロセスとなっている。この技術を投入して開発された「RS9」はアンカー史上最も軽く、最も進むフレームとして誕生したのだ。

リアトライアングルはシャープな造形で適度な剛性を持たせたリアトライアングルはシャープな造形で適度な剛性を持たせた シートチューブはトップチューブ~シートステーを突き抜けるような構造シートチューブはトップチューブ~シートステーを突き抜けるような構造 フロントフォークはストレートフォークを採用しシャープなハンドリングを追求フロントフォークはストレートフォークを採用しシャープなハンドリングを追求


推進力を高めることにこだわった同バイクだが、その開発の中で最も重視したのが、後輪の舵角変化をより少なくすることだ。一般的にフレームはペダルを踏んだ時に入力されたパワーによるBBの位置変化と、チェーンテンションのしなりにより、進もうとする方向に対する後輪方向のズレが生じる。これをライダーは「進まない」という感覚で受け取る。

このズレを剛性を高めることで無くし、解決するのも一つの手だが、過剛性は乗り心地を損ない、剛性バランスを崩壊させる要因と成りかねない。その最適なバランスを見つけ出し、ペダリングパワーを進行方向へ推進力として最大化して伝える車体として作り出されている。

ボリュームのあるダウンチューブに大きく描かれたブランドロゴボリュームのあるダウンチューブに大きく描かれたブランドロゴ ヘッドチューブは日本人の体形に合わせて短めに設定されるヘッドチューブは日本人の体形に合わせて短めに設定される

チェーンステーはボリュームある形状でパワー伝達率を向上させるチェーンステーはボリュームある形状でパワー伝達率を向上させる 剛性を強化するループエンド形状により後輪の舵角変化を抑えた剛性を強化するループエンド形状により後輪の舵角変化を抑えた


開発において大きなポイントはBBの動きをコントロールし、そのしなりを後輪に伝えないようにすることである。そのためにフロントトライアングルを高剛性化し、BBの動きを抑制させる働きを持たせ、リアトライアングルはBBの動きを後輪に伝えないようにしながらも、快適性などの要素を考慮し、適度な剛性を与えている。

素材であるカーボンも新たにウルトラハイモジュラスカーボンを採用。従来のハイエンドモデルに使用されていたカーボンに比べ1.5倍の弾性率を持つため、より薄いカーボンシートの積層でも、高い剛性値を得られるというもので、軽量化に絶大なる効果を発揮している。

BBはプレスフィットBB86を採用し、シェル幅の拡大により剛性強化を狙うBBはプレスフィットBB86を採用し、シェル幅の拡大により剛性強化を狙う ダウンチューブにはUCI認証のステッカーが貼られるダウンチューブにはUCI認証のステッカーが貼られる


リアエンドにはMTBでその性能が実証されたループエンド形状を採用。高剛性から後輪軸のブレを抑え、推進力を高める。またヘッドセットの下玉押し、フォークエンド、リアエンド部はカーボンで一体成型され、軽量化に貢献しているほか、ワイヤリングの角度まで細かく検証され、こだわっている。

こうした積み重ねの結果RS9は、従来品と比べ8秒間で4cm推進距離を延ばすことを実現している。また「レーススタイル」のカラーリングにも設計思想を反映させており、剛性の高いBBからダウンチューブ周りを黒に、フォークはしなやかな前側を白に、力強く支える後側を黒として表現している。ブリヂストンの伝統的を重んじた黒、白、赤を用いたレーシーなカラーリングだ。

ドライブ側にボリュームを持たせた左右非対称チェーンステーを採用するドライブ側にボリュームを持たせた左右非対称チェーンステーを採用する シートチューブのBB側は徐々にフレアしていく形状シートチューブのBB側は徐々にフレアしていく形状 ワイヤーの角度までも細かく検証しこだわっているワイヤーの角度までも細かく検証しこだわっている


ラインアップはコンポーネントにシマノ・新型デュラエースを搭載した「RS9」とアルテグラを搭載した「RS9 ELITE」の2種類。どちらもオーダーシステムに対応しているため、各種パーツとカラーを好みのものから選択できる。もちろんフレームセットも用意されているため、お気に入りのパーツをチョイスし、自分だけの1台を組み上げる事も可能だ。

今回インプレッションに使用されたバイクはコンポーネントにR9100デュラエースをアッセンブルし、ホイールに同WH-R9100-C24-CLを装備している。アンカー史上最も進むバイクとして開発された「RS9」。ライダーの目にはどう映るのであろうか、それではインプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「踏めば前に前に進むレーサー気質な乗り味」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

アンカー史上最も進むバイクということですが、その通りのレースバイクらしい走りを見せてくれます。走行時の速度が最低でも35km/hから40km/hくらいのレーススピードで、その速度域からのアタックや、さらにそこから巡航をしていくというシーンで活躍してくるでしょう。完全にレーサーが求めるレースバイクそのものですね。

「踏めば前に前に進むレーサー気質な乗り味」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「踏めば前に前に進むレーサー気質な乗り味」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
登りはトルクをかけて重いギアを踏むと軽快に進みます。軽いギアを回しても地に足が着かないような浮遊感があり、進みづらいと感じました。トルクをかけて踏み込むとヘッドチューブを中心に前に引っ張っていくような感覚があるため、少しサドルの前に腰かけ、前乗りで乗ると良いと思います。

ハンドリングは非常にクイックなため、ある程度の慣れが必要だと感じました。コーナリングでは一定の切り角からグッと切り込むところがあり、乗り手のスキルが問われますが、それを操る楽しさもあります。ピーキーなレーシングバイクといった印象ですね。

ホイールはフレーム自体が非常に硬いため、軽量なアルミホイールでもカーボンディープリムホイールでも相性は良いと思います。許容範囲は広いですね。ですが、強いて言えばディープリムホイールの重く加速していく感覚の方が合うかもしれません。サーキットエンデューロのような速度のレンジが下がらないシュチュエ―ションで、ディープリムホイールを履かせることで、このバイクの特性が活きる巡航性能を発揮できると思います。

ワイヤリングは流石、日本のメーカーといったところで、ステムを短くしてもワイヤーの逃げ場が出来るように設計されています。リアブレーキワイヤーの取り回しも、外国のメーカーですと小さいフレームサイズは窮屈になるバイクが多いですが、このフレームは絶妙な位置にホールがあるため何の問題もありません。

また、外国メーカーのフレームだとヘッドチューブが長くなってしまってポジションが出ないケースもありますが、このバイクはフレームサイズが小さくなってもヘッドチューブが長くなり過ぎないため、落差のあるポジションを出すことが可能です。こういった細かな気遣いは日本のメーカーならではの特長だと思いますね。実際に乗る170cm弱の選手たちがしっかりテストしたということの表れだと思います。

プロ選手とともに開発した真のレーシングバイクといった乗り味なので、一般ホビーレーサーでもある程度の脚力が求められるフレームかもしれません。それだけ高性能なバイクですので、上手く走らせてあげればオールラウンドに気持ちよく進む1台です。

「日本人に合った高性能レーシングバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

「日本人に合った高性能レーシングバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「日本人に合った高性能レーシングバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) アンカーのフラッグシップモデルということで、まさにレーシングバイクといった乗り味です。「PROFORMAT」により、シンプルに進むという推進力をバイクから感じることができました。全日本選手権で優勝しているバイクですから、日本人が一番速く走ることができるバイクとも言えますね。乗ってみるとその理由が分かる気がします。

登りではトルクをかけて踏んでいっても、ペダルを回転させて走っても、どちらでもスイスイ登ってくれました。このフレームはどんな踏み方でも進んでくれる剛性バランスの良さがありますね。向かい風の時でも小さい力で踏むだけで、しっかり進み、スピードが出てくれるバイクです。レース中に集団のスピードが緩むような時は、それこそ力を入れなくても勝手に進んでいくような感覚になるかもしれません。ライバルに対して大きなアドバンテージが得られるのではないでしょうか。

レーシングフレームというとプロ選手志向で高剛性なフレームが多い中、このフレームはそこまで硬さを感じず反発も少ないので、脚を消耗せずに長時間走れると思います。体力を温存できるためスプリントや逃げなど、レースの最終局面において大いに武器となる機材になるでしょう。

ただ、やはりレーシングバイクという位置付けですので、乗り心地に関しては快適性や振動吸収性はあまりありません。ですのでロングライドを行いたい方には他の選択肢があるかもしれません。

この性能でフレームセット35万円というプライスですが、間違いなくそれ以上の価値があると思います。更に、カラーが選べたり名前を入れることも可能ですから、むしろ安すぎると感じました。カラーオーダーができるブランドは他にもありますが、やはり価格が上がってしまいますので、コストパフォーマンスは非常に高いですね。完成車の場合であれば、コンポーネントは全てのパーツをシマノで統一して組み上げてくれますし、標準で付いてくるタイヤも同社の高性能なものなので、そのままレースに出場できる程の安心感があります。

ツール・ド・おきなわのような長距離の市民レースやクリテリウムレース、実業団ロードレースに本気でチャレンジしたい方、取り組んでる方には購入する価値のあるフレームだと思います。アンカーブランドのジオメトリーは日本人にマッチしますし、ロードレースをやっている方であれば間違いなく満足できる性能を持ち合わせている1台です。

アンカー RS9アンカー RS9 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
アンカー RS9
フレーム:PROFORMAT UHMカーボン
フォーク:UHMカーボン カーボンコラム アルミインサートクラウンレース一体成型
サイズ:430、460、490、520、550mm
シートポスト径:31.6mm
BB規格:BB86
価格:
RS9 780,000円(税抜)
RS9 ELITE 520,000円(税抜)
RS9 フレームセット 350,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にあるブレアサイクリング店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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ブレアサイクリングHP

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむ、バリバリの走れる系店長。スポーツバイク歴は18年にもなり、2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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ウェア協力:rh+

text:Kosuke.Kamata
photo:Makoto.AYANO
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