ツアー・オブ・ジャパン7日目は日本CSCでの獲得標高3,000mオーバーの難ステージ。ラスト600mから飛び出した新城幸也が優勝し、大腿骨骨折の怪我からの完全復活を証明した。オスカル・プジョル(チーム右京)はリーダージャージを死守した。



スタートラインに揃った4賞ジャージの選手たちスタートラインに揃った4賞ジャージの選手たち photot:Satoru.Kato宇都宮ブリッツェンの大応援団宇都宮ブリッツェンの大応援団 photo:Makoto.AYANO


ツアー・オブ・ジャパンの総合上位を狙う選手たちにとっての最後の勝負所となる伊豆ステージ。コースはお馴染みの5㎞サーキットに敷地内の道路などを追加した12.2㎞を10周する。獲得標高は3,000mをゆうに超え、平坦が無く、アップダウンとテクニカルなコーナーが続くコース。走った海外選手の誰もが「ハードだ」と口にするほどの厳しさだ。

観客の詰めかけた日本CSC。 スタート直後からアタックがかかる観客の詰めかけた日本CSC。 スタート直後からアタックがかかる photo:Makoto.AYANO

前日の富士山ステージを終えて総合首位に立ったオスカル・プジョル(チーム右京)と、2位のマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)の差は1分5秒。3位ミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ)との差は1分14秒。

1周目完了時には早くも集団は分裂する1周目完了時には早くも集団は分裂する photo:Hideaki.Takagiベロドロームの前をレースが通過するベロドロームの前をレースが通過する photot:Satoru.Kato


6位までが2分以内のタイム差にあり、修善寺は一発逆転を狙うには最初で最後のチャンスになる。ステージ優勝狙いの選手の思惑も絡み、レースは序盤から勝負を決定づける動きで始まる。

スタート直後から続くアタック合戦により、ハイペースでレースは進行。1周目から集団が大きく二つに割れ、30名ほどが先行する。後方集団からは新城幸也(ランプレ・メリダ)らが追いかけて合流するが、後方集団がその後勝負に絡む事はなく、2周目にして先行する集団に勝負は絞られる。

2周目に形成された3人の逃げ集団2周目に形成された3人の逃げ集団 photot:Satoru.Kato3周目 先行する3人をリーダージャージのオスカル・プジョル(チーム右京)自ら追う3周目 先行する3人をリーダージャージのオスカル・プジョル(チーム右京)自ら追う photot:Satoru.Kato


その先行する集団からは、ミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ)、キャメロン・バイリー(アタッキ・チームグスト)、ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカー・サイクリングチーム)の3人が抜け出す。これを追って、オスカル・プジョル(チーム右京)、マルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)、ガーデル・ミズバニ・イラナグ(タブリーズ・シャハルダリ)ら総合上位勢を含む9人が追走するが、集団もこれを追いかけて9人と合流。この動きで27人まで絞られた。

6周目 逃げ集団の先頭は総合3位のミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ)6周目 逃げ集団の先頭は総合3位のミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ) photot:Satoru.Kato5周目 2位のマルコス・ガルシアを擁するキナンサイクリングチームが追走集団を牽引5周目 2位のマルコス・ガルシアを擁するキナンサイクリングチームが追走集団を牽引 photot:Satoru.Kato


逃げる3人と追走集団との差は、5周目に3分10秒まで広がる。この時点でポルセイエディゴラコールがバーチャルリーダーに。アシストがいなくなったプジョルと、前を追いたいマルコス・ガルシアの利害が一致し、キナンサイクリングチームが集団コントロールを始める。これをきっかけに集団の追走の意思がまとまり、タイム差が一気に縮まりはじめる。

8周目、追走集団をキナンサイクリングチームのジャイ・クロフォードが引く8周目、追走集団をキナンサイクリングチームのジャイ・クロフォードが引く photo:Hideaki.Takagi8周目、追走集団をリーダーのオスカル・プジョル(チーム右京)自ら引く8周目、追走集団をリーダーのオスカル・プジョル(チーム右京)自ら引く photo:Hideaki.Takagi


残り2周となる9周目、先行する3人と追走集団との差は1分を切る。さらにその後タイム差は縮まり続け、最終周回の残り9㎞で集団が吸収する。リーダージャージのプジョル自らアタックする場面もあったが決定打とならず、残り1㎞へ。

集団を引き離しホームストレートに帰ってきた新城幸也(ランプレ・メリダ)集団を引き離しホームストレートに帰ってきた新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Gakuto.Fujiwaraホームストレートに先頭で現れた新城幸也(ランプレ・メリダ)が後ろを振り返るホームストレートに先頭で現れた新城幸也(ランプレ・メリダ)が後ろを振り返る photot:Satoru.Kato


残り600m、先頭集団の最後尾に居た新城幸也(ランプレ・メリダ)がアタック。下りのスピードを利用して加速し、誰も寄せ付けないほどのパンチ力でロングスパートに入り、ホームストレートに続く登りを一気に駆け上がっていく。

ゴール前に待ち構える大勢の観客の前に先頭で現れた新城は、残り200mを過ぎて勝利を確信。歓声を催促するように何度もガッツポーズを繰り返しながらゴールラインを越えた。

大きく両手を広げてゴールする新城幸也(ランプレ・メリダ)  大きく両手を広げてゴールする新城幸也(ランプレ・メリダ)   photot:Satoru.Kato

新城のツアー・オブ・ジャパンでの優勝は2007年の東京ステージ以来の2勝目となる。日本人の優勝は2013年の西谷泰治(愛三工業)以来3年ぶり。
2月のツアー・オブ・カタールでの落車で大腿骨を骨折。4ヶ月のブランクを経ての復帰戦がこのツアー・オブ・ジャパンだった。リハビリのため直近までタイでトレーニング合宿を行い、ジロ・デ・イタリア期間にはジロ以上の距離を走りこんでいたという。このリザルトをもって怪我からの完全復活を証明したと言えそうだ。新城はすぐツール・ド・スイス出場に向かい、その結果次第でチームはツール・ド・フランスのセレクションメンバーを発表するという。

■新城幸也「ツール・ド・フランスに少し近づいた勝利」

新城幸也(ランプレ・メリダ)の歓喜のフィニッシュ新城幸也(ランプレ・メリダ)の歓喜のフィニッシュ photo:Makoto.AYANOレース中はずっと全開で休む暇がなく、とにかくキツかったですね。今日はゆっくりと後ろで見守りながらレースを進めようと考えていたのですが、1周目からアタックがかかってプロトンが分裂。単独で20〜30人のメイン集団に追いついたのですが、それが運命の分かれ道でしたね。僕よりあとからメイン集団に追いつけた選手はいませんでした。

優勝した新城幸也(ランプレ・メリダ)が復活を支えた飯島美和さんとタッチ優勝した新城幸也(ランプレ・メリダ)が復活を支えた飯島美和さんとタッチ photo:Hideaki.Takagi
その後は、逃げを捕まえるために、メイン集団はハイペースをキープ。アタック合戦にならなかったことが、僕に味方してくれましたね。もちろんアタックが掛かった瞬間はありましたが、その中でもある程度余裕を持ってついていくことができました。結局、僕自身は無駄足を使うこともなく、スプリンター系の選手がどんどんと脱落していきました。

ゴール直後、報道陣に囲まれる新城幸也(ランプレ・メリダ)ゴール直後、報道陣に囲まれる新城幸也(ランプレ・メリダ) photot:Satoru.Kato最終盤で集団にスプリンターが残っていなかったので集団勝負を狙っても良かったのですが、ふとゴール600m手前でチャンスが巡ってきた。だから勘を信じてロングスパートという策に打って出ることにしました。

1号橋の入り口前から一気に加速して、橋の出口で単独先頭に。「スピード差があったので誰も僕の後ろにつけないし、僕に反応したら却ってダメージを食らうので誰も追いたがらないはず」というのがアタックした時の心境です。それでも、最後は何も考えずにもがき続けました。勝利を確信したのは残り150mぐらい。今は少しホッとした気分ですね。

今回のツアー・オブ・ジャパンでチームはステージ2勝しましたし、いなべでも集団の先頭をチモライが獲るなど良い流れができています。東京ステージは2年連続でランプレが勝利していますし、明日もチモライに勝ってもらうしかないですね。今日はたくさんのファンの前で勝つことができました。レース中はずっと名前を呼んでもらえましたし、気持ち良かったし、嬉しかったですね。

ここまでしっかりと準備を重ね、狙い通りに調子を上げることができました。次のツール・ド・スイスで良い走りをすれば、ツール・ド・フランス出場が見えてくると思いますし、今日の勝利でも少し近づいたのではないしょうか。

伊豆CSCに集まった大勢のファンから祝福を受ける新城幸也(ランプレ・メリダ)伊豆CSCに集まった大勢のファンから祝福を受ける新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Makoto.AYANO

■オスカル・プジョル「地獄のようなレースだった」

追走集団内で走るオスカル・プジョル(チーム右京)追走集団内で走るオスカル・プジョル(チーム右京) photo:Makoto.AYANO僕の競技人生のなかで最もハードなレースだったのは間違いなく、とにかく地獄のようだった。リーダージャージを着ていなかったらリタイアしていたかもしれない。

スタート前は、自らコントロールしてレースを進めようと考えていたが、序盤から単独で走らざるを得ない状況になってしまった。それが大きな誤算だった。

最終周回 オスカル・プジョル(チーム右京)とキナンサイクリングチームが追走で協調最終周回 オスカル・プジョル(チーム右京)とキナンサイクリングチームが追走で協調 photot:Satoru.Katoそこから、5周目でアタックを仕掛けようかとも考えたが、結局は実行できず。しかし、幸いなことに、総合2位を守りたいマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)と利害が一致。彼のチームメイトも協力してくれて、一緒にイラン勢を追うことができた。明日のステージに向けて力を残しておく必要はないので、最後は全力で走ったよ。残念ながら、チームメイトが残り1人という厳しい状況ではあるけども、残りは東京ステージだけなので頑張りたい。

リーダージャージはオスカル・プジョルが死守リーダージャージはオスカル・プジョルが死守 photot:Satoru.Kato最終日は東京の中心街にある日比谷公園前をスタートし、大井埠頭の周回コースでのレース。平坦コースでのスプリンターズステージだ。

今大会序盤に活躍したスプリンター達が、最後の勝利を狙ってくる。ポイント賞争いも熾烈になるだろう。1位アンソニー・ジャコッポ(アヴァンティ・アイソウェイスポーツ)と、2位ピエールパオロ・デネグリ(NIPOヴィーニファンティーニ)との差はたった1ポイント。中間スプリントでの争いにも注目だ。

総合優勝争いに変動は無いと思われるが、チーム右京はプジョルを含めて2人しか残っておらず、レースをコントロールすることはかなり難しい。「あるいは」という展開があるのか?

4賞ジャージとステージ優勝の新城幸也(ランプレ・メリダ)4賞ジャージとステージ優勝の新城幸也(ランプレ・メリダ) photot:Satoru.Kato

■ツアー・オブ・ジャパン第7ステージ 伊豆(122㎞)結果
1位 新城幸也(ランプレ・メリダ) 3時間27分00秒 35.3km/h
2位 キャメロン・バイリー(アタッキ・チームグスト) +2秒
3位 ダニエルアレクサンデル・ハラミリョ(ユナイテッドヘルスケア) +5秒
4位 ロビー・ハッカー(アヴァンティ・アイソウェイスポーツ)
5位 トマ・ルバ(ブリヂストンアンカー・サイクリングチーム)
6位 マルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム) 8秒
7位 アミール・コラドゥーズバグ(ピシュガマン・サイクリングチーム)
8位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
9位 ミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ)
10位 ラヒーム・エマミ(ピシュガマン・サイクリングチーム)

■個人総合順位 第7ステージ終了時点
1位 オスカル・プジョル(チーム右京) 17時間04 分49秒
2位 マルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム) +1分05秒
3位 ミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ) +1分8秒
4位 ダニエル・ホワイトハウス(トレンガヌ・サイクリングチーム) +1分23秒
5位 ラヒーム・エマミ(ピシュガマン・サイクリングチーム) +1分24秒
6位 ガーデル・ミズバニ・イラナグ(タブリーズ・シャハルダリ) +1分43秒
7位 キャメロン・バイリー(アタッキ・チームグスト) +2分00秒
8位 アミール・コラドゥーズバグ +2分27秒
9位 トマ・ルバ(ブリヂストンアンカー・サイクリングチーム) +2分52秒
10位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +2分58秒

■個人総合ポイント順位
1位 アンソニー・ジャコッポ(アヴァンティ・アイソウェイスポーツ) 67p
2位 ピエールパオロ・デネグリ(NIPPOヴィーニファンティーニ) 66p
3位 ダニエルアレクサンデル・ハラミリョ(ユナイテッドヘルスケア) 58p

■山岳賞総合順位 
1位 ミルサマ・ポルセイエディゴラコール(タブリーズ・シャハルダリ) 23p
2位 ラヒーム・エマミ(ピシュガマン・サイクリングチーム) 20p
3位 オスカル・プジョル(チーム右京)

■チーム総合順位
1位 タブリーズ・シャハルダリ 51時間22分37秒
2位 ピシュガマン・サイクリングチーム +3分42秒
3位 ブリヂストンアンカー・サイクリングチーム +4分43秒


photo&text:Satoru.Kato
photo:Hideaki.Takagi

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