ジロ・デ・イタリアにドロミテは欠かせない。その中でもこのポルドイ、セッラ、ガルデーナ、カンポロンゴ、ジャウ、ヴァルパローラを繋いだドロミテステージは長年撮影しているフォトグラファー曰く「近年稀に見る美しさ」。雄大な山岳地帯を走ったジロ第14ステージの現地レポート。



1級山岳ポルドイ峠を登る37名の先頭グループ1級山岳ポルドイ峠を登る37名の先頭グループ photo:Kei Tsuji
ダミアーノ・クネゴ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)らを先頭に1級山岳ポルドイ峠を登るダミアーノ・クネゴ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)らを先頭に1級山岳ポルドイ峠を登る photo:Kei Tsuji


日本では一般的にドロミテと呼ばれる山岳地帯。原音になるべく忠実に呼ぶならばドロミーティ。その名前は、この山岳地帯でドロマイトと呼ばれる苦灰石を発見したフランスの地質学者デオダ・ドゥ・ドロミューに由来している。その山々はユネスコの世界遺産に登録されている。

空に突き刺さったように伸びる岩山が特徴で、最も高い山で標高3343m(マルモラーダ)。映像や写真に出てくる岩山はいずれも標高3000mクラス。その中腹に峠道が続いており、冬場は厚い雪に覆われる。夏はサイクリストを、冬はスキーヤーを魅了する。峠道だけでなくスキー用リフトも張り巡らされている。

あまりにもダイナミックすぎて遠近感がつかめず、現実のものと思えず、実はハリボテなんじゃないかと感じてしまう。何度来てもその感動は薄まらない。世界中くまなく探せば同じような地形は見つかるかもしれないが、インパクトの大きさとアクセスの良さのバランスを考えればドロミテは抜群の観光地。「イタリア観光でどこがオススメですか?」と聞かれた時には必ずドロミテを推している。



2級山岳セッラ峠をクリアしたメイン集団2級山岳セッラ峠をクリアしたメイン集団 photo:Kei Tsuji
モビスターを先頭にメイン集団が3級山岳ガルデーナ峠を登るモビスターを先頭にメイン集団が3級山岳ガルデーナ峠を登る photo:Kei Tsuji
グルペットから遅れたジャック・ボブリッジ(オーストラリア、トレック・セガフレード)グルペットから遅れたジャック・ボブリッジ(オーストラリア、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsujiグルペット内でフィニッシュを目指す山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)グルペット内でフィニッシュを目指す山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji


レース時間が6時間を超えるタッポーネ(クイーンステージ)。最終グルペットの選手たちは7時間近く走っている。前日に獲得標高差3400mを走った上での獲得標高差5400m。身体へのダメージは甚大だ。幸い翌日の個人タイムトライアル(またこれも登りっぱなし)を終えると休息日が待っている。

ガゼッタ紙の特集の中でヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)は「1日で6000kcalは消費する」と話している。レース中に食べるジェルやケーキなどで摂取できるのは2000〜2500kcalが限界。残りの4000kcalはレース前になんとか獲得するしかない。

しかも毎日レースが続くので、フィニッシュ後すぐに翌日のレースのために積極的にエネルギーを補給する。選手たちはレース後すぐにスタッフから渡されたリカバリードリンクを飲み干し、何か食べながらホテルに向かう。マッサージを受けてから炭水化物たっぷりの夕飯を食べ、起きてから朝食もしっかり食べる。それらを全てエネルギーに変換して走り続けなければならない。

グランツールを走りきるには強靭な胃袋が必要不可欠だ。そのため胃腸にトラブルを抱えてしまうと、どれだけ脚が回っていても途端に調子を落としてしまう。ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)は開幕前の胃腸トラブルから完全復活できずにリタイアしているし、ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)も胃腸をやられた。この日は総合14位につけていた2012年大会の総合優勝者ライダー・ヘシェダル(カナダ、トレック・セガフレード)が咽頭炎と気管炎の影響でレースを降りた。



登っては下り、ドロミテの峠を繋いでいく登っては下り、ドロミテの峠を繋いでいく photo:Kei Tsuji
2級山岳ヴァルパローラ峠の頂上でゆっくりレースを待つ2級山岳ヴァルパローラ峠の頂上でゆっくりレースを待つ photo:Kei Tsuji遅れた選手たちが2級山岳ヴァルパローラ峠を登る遅れた選手たちが2級山岳ヴァルパローラ峠を登る photo:Kei Tsuji
ハイペースで2級山岳ヴァルパローラ峠を登るエステバン・シャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)とステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)ハイペースで2級山岳ヴァルパローラ峠を登るエステバン・シャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)とステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Kei Tsuji


オランダ人の手に戻ったマリアローザ。ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)はこれが6回目のジロ出場で、2011年に総合8位、2015年に総合7位という成績を残している。オールラウンダーとして成績を重ねる28歳だが、ステージレースでリーダージャージを着るのは2014年のアークティックレース・オブ・ノルウェーに続く自身2度目。

オランダ人ジャーナリストに「クルイスウィクは総合優勝できる?」と聞くと、待ってましたとばかりに「昨年彼は最終週に最も調子が良かったからね」とウィンクされた。確かにクルイスウィクは2015年ジロは後半にかけてぐんぐんと総合順位を上げた。初日のチームTTを終えて総合86位だったが、そこから連日ステップアップし、最終週に入る時点で総合14位。山岳ステージでトップライダーと互角に渡り合って総合7位でフィニッシュしている。つまりヴァルパローラ峠で見せた登坂力は決して1日限りのものではなく3週間を通した安定感からくるものだ。イタリア人とスペイン人の戦いに注目が集まっていたマリアローザ争いは、クイーンステージでオランダ人とコロンビア人の戦いにひっくり返った。

そのクルイスウィクは親切にも連日STRAVAに走行ログをアップしている。第14ステージのログを見てみると、走行距離207.7km、走行時間6:05:30、獲得標高差5597m、加重平均パワー285W、合計運動量5382kJ、平均スピード34.1km/h、最高スピード92.2km/hという数字が並ぶ。

逃げてステージ3位に入ったゲオルグ・プレイドラー(オーストリア、ジャイアント・アルペシン)の第14ステージのログを見ると平均スピード33.9km/hで最高スピード95.4km/h。さらにグルペットで走ったグレガ・ボーレ(スロベニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)の第14ステージのログを見ると、平均スピード30.3km/hで最高スピード84.6km/h。

最後に、クルイスウィクをトップ選手の代表、プレイドラーを逃げの代表、ボーレをグルペット選手の代表として、登坂タイムと下り区間のタイムを比較してみる(STRAVAの計測による)。グルペットは下り区間が爆速と言われるが、この日は比較的タイムに余裕があったためそこまで飛ばしていないと思われる。

1級山岳ジャウ峠(登り/9.4km/平均9%)
クルイスウィク(トップ)33分32秒 平均16.9km/h 平均352W
プレイドラー(逃げ)  36分51秒 平均15.4km/h 平均332W
ボーレ(グルペット)  48分27秒 平均12.3km/h 平均255W

1級山岳ジャウ峠(下り/9.2km/平均7%)
クルイスウィク(トップ)10分38秒 平均51.5km/h 最高87.5km/h
プレイドラー(逃げ)  10分15秒 平均53.2km/h 最高88.6km/h
ボーレ(グルペット)  11分17秒 平均48.6km/h 最高84.6km/h

2級山岳ヴァルパローラ峠(登り/10.2km/平均5%)※頂上手前1kmをカットしたファルツァレーゴ峠
クルイスウィク(トップ)23分15秒 平均25.7km/h 平均363W
プレイドラー(逃げ)  26分50秒 平均22.3km/h 平均315W
ボーレ(グルペット)  34分32秒 平均17.5km/h 平均236W

2級山岳ヴァルパローラ峠(下り/13.1km/平均6%)
クルイスウィク(トップ)13分10秒 平均59.3km/h 最高89.3km/h
プレイドラー(逃げ)  13分10秒 平均59.5km/h 最高95.4km/h
ボーレ(グルペット)  14分02秒 平均56.2km/h 最高84.2km/h

コルヴァーラフィニッシュ(登り5.5km/平均2%)
クルイスウィク(トップ)9分22秒 平均35.0km/h 平均358W
プレイドラー(逃げ)  9分23秒 平均34.9km/h 平均348W
ボーレ(グルペット)  13分39秒 平均24.1km/h 平均193W

text&photo:Kei Tsuji in Ortisei, Italy

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