UCIワールドツアーでワールドチームはどんな一日を送っているのか。開幕戦として盛り上がるオーストラリアのツアー・ダウンアンダーで、ツアー・オブ・ジャパンにも毎年参戦しているイタリアの名門チーム、ランプレ・メリダの一日を追った。



マッサーのミルコ・レダエリさん(左)右はチームスポンサーの方マッサーのミルコ・レダエリさん(左)右はチームスポンサーの方 タトゥーの入った手で可愛いサンドイッチを作っていくタトゥーの入った手で可愛いサンドイッチを作っていく ツアー・ダウンアンダーの拠点となるビクトリアスクエア。ここに作られた特設テントの中で、各チームがレースの準備を進め始めたのは、レーススタートのフラッグが振られる3時間以上前。今回密着したランプレ・メリダの一日もすでに動き出していた。

この日のレースはアンレーからスターリングまでの132km、約3時間半。ここは真夏のオーストラリア。最高気温は35度まで上がり、消耗が激しくなることが予想される。まずスタッフが取り掛かったのは、レース中に選手のエネルギー源となる補給食の準備。ミネラルや塩分補給のためのスポーツドリンクや、水を入れるために用意されたボトルは80本以上。天候にもよるが、常に80本から100本、用意される。暑い日は飲むだけではなく、頭からかけたりすることもあるため、数も多くなる。

水分のほかには補給食も。ランプレ・メリダが用意した補給食は、市販の栄養バーなどではなく、手作りのもの。マッサーのミルコ・レダエリ氏のたくましい手で一つ一つ丁寧に包まれていくのは、小さなかわいいバターロール。真ん中で横ふたつにスライスされ、中にはカットされたバナナとラズベリージャムがたっぷり。

買い出しや補給食の準備は、マッサー2人の仕事だ。アデレード到着後最初の仕事は、スーパーへの買い出しだという。選手の補給食用のほかに、スタッフの昼食となるサンドイッチ用の材料も。レース中は片手で簡単に食べられるようなライトミールが中心となる。補給食を準備するそばでは、メカニック2人が自転車の準備。サポートカーに自転車や機材を詰め込む。

用意されたボトル。一人に5本以上が最初から充てがわれた用意されたボトル。一人に5本以上が最初から充てがわれた 冷蔵庫で冷されるサコッシュ冷蔵庫で冷されるサコッシュ

チームカーのルーフ上には7台のスペアバイクが搭載されるチームカーのルーフ上には7台のスペアバイクが搭載される フィリップ・モデュイ監督が無線機の調子をチェックするフィリップ・モデュイ監督が無線機の調子をチェックする


スタート1時間前には、チーム・選手がスタート地点に到着する。サポートカーから自転車が降ろされ、選手も車から下りてくる。スタートまでの過ごし方は、選手それぞれ。外に出て日焼け止めを念入りに塗る選手もいれば、サポートカーの助手席に座り、ヘッドフォンをしたまま全く出て来ない選手もいる。コーヒーを飲んだり、選手やスタッフと談笑したり、ファンのサインに応じたり。インタビューを受けたりするのもこの時間。レース前と言っても比較的リラックスした雰囲気だし、ファンにとっては選手と交流するにはこの時間がチャンスだ。アンレーの町にもたくさんのファンが詰めかけていた。

スタートが切られると、選手、チームカー、サポートカーの順でパレード走行に出る。ニュートラルが外れてほどなくすると、サポートカーはコースを逸れ、フィーディングゾーン(補給が認められている場所)を目指した。この日のフィーディングゾーンはフィニッシュアーチのすぐ先に置かれてあり、表彰式が行われるポディウムそばの、チーム用のパーキングに車を停める。この日はフィニッシュ地点を5周。つまり、フィードゾーンも5回通るので5回の補給のチャンスがある。

チーム関係者とファンで賑わうフィードゾーンチーム関係者とファンで賑わうフィードゾーン 集団でやってくる選手の中からチームメイトを探してサコッシュを手渡す集団でやってくる選手の中からチームメイトを探してサコッシュを手渡す

チームバンは大会から各チームに貸与されるチームバンは大会から各チームに貸与される 選手にかける氷水を用意するスタッフ選手にかける氷水を用意するスタッフ


選手への補給はマッサーの仕事だ。ランプレ・メリダのダウンアンダー陣容はマッサー2名、メカニック2名(1名はメリダ本社からのテクニカルサポート)、ドクター1名、監督1名に7名のライダーを加えた合計13名。ちなみにツアー・オブ・ジャパンでは、マッサー1名、メカニック1名、監督1名、ライダー6名の合計9名で、ドクターは含まれていない。

「プロチームでのドクター帯同はマスト」と言うのがランプレ・メリダのチームドクターであるマッテオ・ベルテマッチ氏。「選手を守り、ベストコンディションで走ってもらうのが僕たちの仕事。とても大切なことだと思っている。もちろん何もないのが一番いいれけど、万が一選手に何かあった時にすぐに駆け付けられるし、レースは旅が多い。体調の管理は基本的に選手に任せられているけれど、選手のことをよく知ったドクターがいることは、選手にとってもチームにとっても心強い。サッカーやテニスなどは、怪我をしたら基本的にそこでストップ。けれどロードレースは違う。たいていの場合はけがをしても病気をしても、レースが続く限り選手も走り続けるのだから」と語る。

フィニッシュが近づくとチームドクターのマッテオさん(左)もゴール付近で選手を待つフィニッシュが近づくとチームドクターのマッテオさん(左)もゴール付近で選手を待つ レースの様子をゴールに設置された大型モニターで見守るレースの様子をゴールに設置された大型モニターで見守る

ハンドルを投げ込むジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ)とディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)ハンドルを投げ込むジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ)とディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsujiモニターのリプレイで最終的なリザルトを確認するモニターのリプレイで最終的なリザルトを確認する 「よくやった、グッジョブ」と選手をねぎらうモデュイ監督「よくやった、グッジョブ」と選手をねぎらうモデュイ監督


「勝ちたかったから残念だったけど、悪くはない。選手はよくやってくれた。」と話すフィリップ監督。レースにたびたび帯同するラルフさんは語る。「ああやって選手をねぎらうのはとても大事なこと。今日は僅差で2位だった。1位を取りたかったから、選手たちは落ち込み、とても静かだった。才能のあるライダーはある意味とてもセンシティブ。あれだけのレースを闘うのだから、フィジカルはもちろんのこと、強いメンタリティが必須だ。耐える力、集中力、そして回復する力がものすごく必要。今日の結果を受け、レース後2時間はとても静かだった。一人ひとり、自分と向き合っていたのだと思う」

レースからホテルに戻ると、メカニックは自転車の洗車と整備で忙しく働く。マッサーは一人一時間のマッサージにとりかかる。選手は7名だから、マッサー二人でも3~4時間はかかる。夕食は20時過ぎ。ダウンアンダーは移動が少ないから楽だと言う。選手の今日の疲れをしっかり回復させ、明日へのパワーを充電させる。選手を支えるサポートは、今日も続く。



オーストラリアで活動中の目黒誠子さんオーストラリアで活動中の目黒誠子さん プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)


ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。

text:Seiko Meguro in Adelaide, Australia