ちょうど先頭2名が残り1kmアーチを通過したとアナウンスがあったのと同時に、叩きつけるような雨が4級山岳モンテベリコに落ち始めました。疲れの色を隠せないプロトンを濡らす雨。ジルベールとコンタドールが成功を収めたジロ第12ステージを振り返ります。



スタートの準備が整ったトレックファクトリーレーシングスタートの準備が整ったトレックファクトリーレーシング photo:Kei Tsuji
濡れた靴は乾かせるときに乾かす濡れた靴は乾かせるときに乾かす photo:Kei Tsuji
セキュリティバイクのハンドルを握る元世界チャンピオンのイゴール・アスタルロアセキュリティバイクのハンドルを握る元世界チャンピオンのイゴール・アスタルロア photo:Kei Tsuji
ピンク色のグローブを使用するアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)ピンク色のグローブを使用するアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Kei Tsuji


ジロは消耗戦になりつつある。つまりサバイバルレース。別府史之(トレックファクトリーレーシング)の言葉を借りるとアドベンチャーレース。

まだ9ステージも残っているのに、ドロミティやアルプスが残っているというのに、ステージ間の移動が少なくてリカバリーの時間が例年よりも多めだと言うのに、選手たちは疲れ切っている。例年なら前半ステージは比較的緩やかなレース展開で、第12ステージの時点ではもう少しフレッシュな顔つきであったはずだ。

この日も一般的に「トランジション(移動)」のステージだと言われていたのだが、蓋を開けてみると大変厳しい展開となった。遮るもののないポー平原を北上するプロトンを押し戻すように北風が吹く。樹々を大きく揺らす風が吹いているのにレース最初の1時間の平均スピードが52.2km/hに達し、その後もスピードが弱まらなかった。

逃げるために「今朝は相当が気合い入っていた」という別府もこのハイスピードアタック合戦に加わった。「片道切符のつもりで全開でアタックを繰り返しました。でも何かの嫌がらせかと思うぐらい逃げが決まらなかった」。

コンディションの良さを自負する別府はその後ニッツォロとフェリーネをアシストし、雨が降ってスリッピーな路面と化した後半のアップダウン区間で後退。10分遅れで4級山岳モンテベリコにフィニッシュしている。



2分リードで逃げるニック・ファンデルライク(オランダ、ロットNLユンボ)ら2分リードで逃げるニック・ファンデルライク(オランダ、ロットNLユンボ)ら photo:Kei Tsuji
背中のポケットから覗くマトリョーシカ背中のポケットから覗くマトリョーシカ photo:Tim de Waele
行く先に待つのはドス黒い雲行く先に待つのはドス黒い雲 photo:Tim de Waele
4級山岳モンテベリコを登るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)4級山岳モンテベリコを登るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Kei Tsuji


カンパニョーロ社の本社があるヴェネト州ヴィチェンツァを見下ろす高台に、サントゥアリオ・モンテベリコがある。山の上に建つ教会に向かって、立派な回廊のある参道が続いている。ジロはその参道を駆け上がり、教会前の広場にフィニッシュする。

プロトンの到着が先か黒い雨雲の到着が先か。答えは「同時」。ばっちりのタイミングで降り始めた大粒の雨が参道に叩きつける。その中を、サングラスを外して真っ赤な目をした精鋭たちが登って行った。数分遅れの選手たちが到着する頃には、参道はウォータースライダーのような状態だった。

経験の少なさを指摘されていたファビオ・アル(イタリア、アスタナ)がこの日の敗北者。レース前半を盛り上げ続けた24歳のサルデーニャ出身選手がついにアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)から遅れた。前半ステージの勢いをもってすればマリアローザ獲得もあり得たステージで、アルは実に14秒も失っている。コンタドールの独走態勢が築かれつつある。

左肩を脱臼したのが第6ステージで、左腕を使ってマリアローザに袖を通したのが第9ステージ。そしてこの第12ステージで、1週間お預けだったアストリアのスプマンテ(シャンパン)を開けた。

コンタドールの左肩は完治しつつあるが、やはりまだ違和感はあるようで、タイムトライアルのポジションを修正する必要があるかもしれないとのこと。この第12ステージ終了後に専属メカニックとTTバイクのポジションを打ち合わせする。

「今晩メカニックとファウスティーノが部屋にTTバイクを持ってきて、快適に走れるポジションかどうかをチェックする。空力的にベストなポジションではなく、痛みが出ない快適なポジションにする。10〜15ワットのロスに繋がるかもしれないけど、良いタイムトライアルにしたい」とコンタドールは記者会見で語っている。コンタドールの言葉通り仮に15ワットもロスすれば結果は大きく変わってくるはずだ。



モンテベリコ教会に向かって登りスプリントモンテベリコ教会に向かって登りスプリント photo:Kei Tsuji
雨脚が強まり、川のように水が流れる4級山岳モンテベリコ雨脚が強まり、川のように水が流れる4級山岳モンテベリコ photo:Kei Tsuji
大雨の中、選手たちを待ち続けるチームスタッフ大雨の中、選手たちを待ち続けるチームスタッフ photo:Kei Tsuji
10分遅れでフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)10分遅れでフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji


コンタドールに優しい笑顔でマリアローザを渡したのはこの日ジロを訪れていたUCIのブライアン・クックソン会長だった。スタート前には設けられた短いインタビュー時間の中で最初にジャーナリストたち飛んだ質問は当然リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)の2分ペナルティーについて。以下はクックソン会長の返答。

「レースの判断はコミッセールに委ねられており、私が口を挟むことではない。彼らの判断は正しかったと思っている。リッチーにとってもチームにとっても不運な出来事だったが、何も新しいルールではない。自分がレースコミッセールの試験に合格した1986年の時点でそのルールは存在していた。ルールを知っていたので、最初に(ポートがクラークから前輪を受け取ったと)聞いたときは『ああやってしまったか』と思った。どんな結果になるかは目に見えていた。コミッセールがレース中の全ての出来事を把握するのは不可能だが、明白な違反にはルールを適用する他ない。プロ選手はルールを把握し、リスペクトするべきなんだ」。

クックソン会長がジロを訪れた理由は、フィニッシュ地点ヴィチェンツァが2020年のロード世界選手権の開催地に立候補しているため。レース後にクックソン会長は世界選手権の招致イベントに出席している。なお、開催地としては2015年リッチモンド(アメリカ)、2016年ドーハ(カタール)、2017年ベルゲン(ノルウェー)が決定済みで、2020年の開催地が決まるのは2017年。

コース案として提案されているのは、モンテベリコも通過する周回コース。5年後にはモンテベリコの参道で世界チャンピオンが決まるかもしれない。なお、エリート男子ロードレースのスタート地点はヴェネツィアのサンマルコ広場が予定されているという。街中が狭い路地や階段ばかりで、水上バスが主要な交通機関であるヴェネツィアでスタートするなんて、考えるだけで移動が大変そうだ。



ブライアン・クックソン会長からマリアローザを受け取ったアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)ブライアン・クックソン会長からマリアローザを受け取ったアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Kei Tsuji
フィニッシュ後すぐに下山するリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)フィニッシュ後すぐに下山するリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji



text&photo:Kei Tsuji in Vicenza, Italy