熟練の職人による優れた組立精度と高コストパフォーマンスで支持を集めるホイールブランド、ファストフォワード。今回は定番フルカーボンチューブラー「F4R」と、アルミカーボンハイブリッドクリンチャー「F4R-C」という45mmハイトのエアロモデル2種をテスト。2015モデルで価格改訂が実施され、より買い求め安くなったオランダ発のカーボンホイールが持つ魅力を再検証する。



ファストフォワード F4Rファストフォワード F4R (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
サイドウォール中央部分を内側に湾曲させ、リム表面の気流の剥離を防止したDARCエアロテクノロジーを採用サイドウォール中央部分を内側に湾曲させ、リム表面の気流の剥離を防止したDARCエアロテクノロジーを採用 オランダで熟練の職人が1本1本組み上げているオランダで熟練の職人が1本1本組み上げている


自転車競技大国の1つであるオランダに居を構えるレーシングホイールブランド、ファストフォワード(以下FFWD)。その創業は2006年のこと。当時はまだまだ高価だったカーボンホイールのみをラインナップし、速さ、軽さ、耐久性という基本性能に優れながらも手頃なプライスを実現したプロダクトで支持を集めてきた。

同社が何よりもこだわっているのが、熟練の職人による優れた組立精度。全てのホイールは「マスター」の称号を持つ職人の手によって組み上げられている。1本1本にシリアルナンバーが刻み込まれており、そこからは品質に対する自信を伺うことができる。

そんなFFWDのホイールラインナップで、中核を成しているのが45mmというリムハイトを持つ「F4R」シリーズ。その特徴はバリエーションの多さにあり、スペシャルハブを組み込んだ軽量モデルやフルカーボンクリンチャー、ディスクブレーキ対応モデルなど6種類が用意されている。その中から今回は「F4R」と「F4R-C」をインプレッションした。

フルカーボンチューブラーの「F4R」は、プロの使用頻度が最も高い定番モデル。軽さ、剛性、エアロダイナミクス、耐久性のバランスに優れたオールラウンドな乗り味が特徴だ。一方の「F4R-C」はカーボンカウルにアルミリムを組み合わせたクリンチャーモデル。数値的なスペックではやや重量があることから注目されにくいものの、日常使いにも耐えうる強度、ウェットコンディションにおける安定した制動力、パンク修理の容易さなど、フルカーボンモデルにはない数々のメリットを備えている。

FFWDとDTスイスが共同開発したオリジナルハブFFWDとDTスイスが共同開発したオリジナルハブ リアハブはオーソドックスなラチェット機構とすることで回転性能を維持しながら低コスト化リアハブはオーソドックスなラチェット機構とすることで回転性能を維持しながら低コスト化

バテッドタイプのエアロスポークを使用。Jベンドタイプのため破損時の交換が容易バテッドタイプのエアロスポークを使用。Jベンドタイプのため破損時の交換が容易 チタンシャフトのQRレバーなど付属品が充実していることもFFWDの特徴だチタンシャフトのQRレバーなど付属品が充実していることもFFWDの特徴だ


2モデルに共通する大きな特徴の1つが、リムに採用されているFFWD独自の「DARCエアロテクノロジー」にある。これはサイドウォールの中央部分を内側に湾曲させることで、リム表面の気流の剥離を防止し、空気抵抗の発生を抑えるというもの。直進方向のみならず、斜めからの風にも挙動が乱れにくいとのこと。また重量面や剛性面でもメリットがあり、湾曲した部分の肉厚を抑えることができるため、従来よりもリムハイトを高めながら軽量かつ硬く仕上げることが可能だという。

加えて素材にもこだわっており、硬質なTC-35カーボンを使用する。これをEcomと呼ばれる加工法によって成型することで内部の面精度を高め、優れた強度を実現。表層にのみ3Kカーボンを配すことで、リムに大きなダメージが加わった際の急激なカーボンの破断を防止している。

ハブはDTスイス製で、予算や用途にあわせて240S、180、そして370をベースとしたFFWDオリジナルの3種類から選択することができる。なお、今回のインプレッションではF4RとF4R-Cの両方でFFWDオリジナルハブを使用。ラチェットはDTスイスが誇るスターラチェットに替わり3つ爪/24歯としてコストダウンを図りながらも、高品質ベアリングの採用などによって回転性能の低下を最小限に抑えたモデルだ。

ファストフォワード F4R-Cファストフォワード F4R-C (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
フルカーボンリムと同じくDARCエアロテクノロジーを取り入れているフルカーボンリムと同じくDARCエアロテクノロジーを取り入れている 近年流行の太めなタイヤとも相性よいワイドリムを採用近年流行の太めなタイヤとも相性よいワイドリムを採用


その他、スポークはDTスイス・エアロライトとサピム・CX-RAYを適材適所で配し、ニップルは整備性に優れ緩みにくい真鍮製のDTスイス・プロロックブラスとしている。スポーキングはフロントが20本のラジアル、リアが24本の3クロス。重量はF4Rが1,275g、F4R-Cが1,675gだ。それではインプレッションに移ろう。



ーF4Rインプレッション

「セオリー通りの造りによる高い信頼性が魅力 競技者から初心者まで幅広くすすめられる1本」
小畑郁(なるしまフレンド神宮店)


セオリー通りの造りでしっかりしている、というのが第一印象です。FFWD全体に共通しているのが、汎用品のハブとスポークで組み上げた、良い意味で普通な構造に由来する信頼性です。それは乗り味にも言えることで、リムの造りが堅実で、エアロモデルながらスポーク数が多いことから、安心感ある乗り味に仕上がっています。

F4Rが最も秀でているのは、平地巡航性能ですね。優れた空力性能とリムがやや重めであることによる相乗効果で、一度スピードを上げてしまえば、そのまま楽に速度を維持することができます。レースにおいては集団内で体力を温存させることができるでしょう。下りでの伸びも良好。横風でもハンドルを取られることなく、扱いやすいですね。

「セオリー通りの造りによる高い信頼性が魅力 競技者から初心者まで幅広くおすすめな1本」小畑郁(なるしまフレンド神宮店)「セオリー通りの造りによる高い信頼性が魅力 競技者から初心者まで幅広くおすすめな1本」小畑郁(なるしまフレンド神宮店)
ただ巡航性が高い反面、重量の割にスピードの上げ下げが若干苦手だと感じましたが、巡航性や剛性のパワーロスの少なさを考慮すると、何度ももがかなくてはならない様なクリテリウムにピッタリといえるでしょう。ブレーキについては、引っ掛かりの強さが印象に残りました。ただ、これはブレーキ面の平滑度ではなく、カーボンの地をむき出しとしたことに起因しており、意図的な仕上げなのでしょう。

ハブはDTスイスとFFWDが共同開発したオリジナルモデルということですが、回転性能の低下はほとんど感じられません。ラチェット音が甲高くなったことと、240Sを始めとした上位モデルの「スターラチェット」による微小な振動がなくなったことが大きな違いです。

2015モデルでは価格改訂が行われ、よりリーズナブルになり、他ブランドが値上がりしている中にあっては割安感があります。それでいて戦闘力も高い。価格的に耐久性を心配される方も少なくないでしょうが、一昔前のカーボンホイールの様な脆弱性は微塵も感じられません。昨今ではノーブランドのカーボンホイールも台頭してきていますが、FFWDの製品は同価格帯でも、より安心できる仕上がりになっています。

レースをしないという方であれば普段使いもできますし、競技者であってもレースを想定した練習からガンガン使っていけるのではないでしょうか。特に競技者にとってはレース中に巻き添えを食らったり、練習中に穴に落ちてしまったりと、ホイールの破損は付き物ですから、FFWDの様な良質かつリーズナブルなプロダクトの存在はありがたいですね。はじめてのカーボンホイールにもピッタリではないでしょうか。


ーF4R-Cインプレッション

「巡航性に特化したサーキットエンデューロ向きな1本 エアロホイールに憧れを持つ方にも」
山崎嘉貴(ブレアサイクリング)


アルミリムとカーボンカウルの組み合わせということで、個人的な経験からたわみ感のある乗り味を予想していましたが、F4R-C非常に剛性の高いホイールですね。それでも、ただ多くのエアロホイールの様に縦に硬いだけでは無く、横剛性も高いため、バランスは良好でした。

やはりこのホイールの持ち味は、優れた平地巡航性にあります。硬い分ロスが無く、重量分布がリムによっているため、一度は速度を上げれば後ろから押されていると勘違いするほどに進んでくれます。加えて、ハブの回転性能が高いことが、転がりの軽さに繋がっていると感じました。おそらくDTとFFWDのオリジナルハブではなく、低グレードのハブを組み込んでいたら、もう少しだるい乗り味になっていたのではないでしょうか。下り性能も申し分なく、コーナリングでは入り口でフラつかず、バイクを倒した後は慣性で引っ張っていってくれる印象がありました。

「巡航性に特化したサーキットエンデューロ向きな1本 エアロホイールに憧れを持つ方にも」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「巡航性に特化したサーキットエンデューロ向きな1本 エアロホイールに憧れを持つ方にも」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
もちろんエアロダイナミクスも良好です。直進時の抵抗が少ないのはもちろんのこと、リムハイトがある割に横風に対する挙動の乱れが少ないですね。決して煽られないという訳では無いのですが、ハンドルを取られるまでには至りません。ブレーキ性能はアルミリムとしては標準ながら、剛性が高いためか制動時に起こりがちなディープリム特有のバイブレーションが発生しません。総じてエアロホイールとしては扱いやすい一品と言えます。

「廃番になっても補修部品が手に入りやすいため末永く使用できる」「廃番になっても補修部品が手に入りやすいため末永く使用できる」 そしてメンテナンス性の高さも評価できるポイントですね。ナメにくい真鍮製のニップルで、外出しとしているためフレ取りが容易です。入手性が高いJベンドスポークを採用しているため、万が一落車などでスポークが折れてしまった際にも補修に要す日数が少なく済みますね。専用パーツを多用した完組みホイールの場合、廃盤になると補修部品の入手性が低下しますが、Jベンドスポークであればいつでも手に入るため、末永く使用することが可能でしょう。

ただ、外周部が重いため同程度のロープロファイルモデルよりも登りは苦手な印象です。ただ、それはこのホイールの狙った所ではないですから、度外視しても良いでしょう。また、高剛性な一方で快適性はやや低いため、タイヤとチューブで衝撃をうまく逃してあげると良いでしょう。やはりエアボリュームが大きな25Cのタイヤがおすすめです。

総じて、F4R-Cはサーキットエンデューロでその真価を遺憾なく発揮してくるホイールですね。フルカーボンのクリンチャーが台頭してきている昨今ですが、雨天時のブレーキング性能などアドバンテージは少なくありません。また、エアロホイールに見た目に憧れているもののフルカーボンの扱いづらさが気になるという方にもおすすめですね。

ファストフォワード F4R-Cファストフォワード F4R-C (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
ファストフォワード F4R、F4R-C FFWDオリジナルハブモデル
素材:ユニディレクションレイヤードカーボンファイバー、3Kカーボンファイバーコート
リムハイト:45mm
ハブ:FFWDオリジナルハブモデル
スポーク:DT エアロライトまたは、サピム CX-RAY
スポークホール:20H(フロント)、24H(リア)
重量:1,275g(F4R)、1,675g(F4R-C)
対応カセット:シマノ11s/スラム、カンパニョーロ
付属品:ホイールバッグ(2本入り)、クイックレバー、エクステンションバルブ、スイスストップブレーキパッド(F4Rのみ)、リムフラップ(F4R-Cのみ)
カラー:レッド、ホワイト
価格:151,000円(税抜、F4R)、151,000円(税抜、F4R-C)



インプレライダーのプロフィール

小畑郁(なるしまフレンド)小畑郁(なるしまフレンド) 小畑郁(なるしまフレンド)

その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。

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なるしまフレンド


山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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ブレアサイクリング


ウェア協力:GRIDE

text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANAO